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第十話 リトルヴァルキリートーナメント

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/6 📚 シリーズ: Reincarnation -Record of memories- 📝 10,673文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

遺した記録、貴方の記憶、その手で全て解き明かして。

本文

────────試合、開始じゃ!

鐘の音が、フィールド全体に広がった。

試合開始。

その瞬間、ミアは迷わず前へ出た。

短槍を低く構え、草を蹴り、一直線にベイル側へ向かう。

「速攻か!」

観覧席の一部がざわめく。

だが、トーマはすぐに気づいた。

違う。

あれはただの突撃ではない。

ミアは前に出ている。

けれど、いつものように一人で飛び込みすぎてはいない。

三歩ごとにほんの少し速度を落とし、後ろの気配を確認している。

ユナとの距離。

ノアの魔法範囲。

敵の位置。

荒いが、ちゃんと見ている。

【トーマ】

「ミア、成長してるな」

トーマが呟くと、隣のロイドが小さく頷いた。

【ロイド】

「突撃衝動を完全には抑えられていませんが、合図を待つ意識はあります」

【トーマ】

「それ、褒めてるのか?」

【ロイド】

「褒めています」

【トーマ】

「厳しい褒め方だな」

レナは身を乗り出していた。

【レナ】

「いいぞミア!行け!でも行きすぎるな!」

【ロイド】

「応援は控えめに」

ロイドが言う。

【レナ】

「控えめだぞ!」

【ロイド】

「声量が控えめではありません」

フィールドの中で、ユナが左手を小さく上げた。

ミアがその合図に気づき、踏み込みを止める。

その直後。

地面が弾けた。

ミアの目の前に、細い金属針が数本飛び出す。

【ミア】

「うわっ!?」

ミアは反射で後ろへ跳んだ。

針は、さっきまで彼女の足があった場所を貫いている。

【ユナ】

「罠!」

ユナが叫ぶ。

森の入口付近。

木陰に立つキリカが、にやりと笑った。

【キリカ】

「へえ。止まったんだ」

その手には、小さな札のようなものが握られている。

魔力を込めた罠札。

地面に仕込んでおき、近づいた相手に反応して起動する仕掛けらしい。

【キリカ】

「突っ込んでくると思ったのに」

キリカは曲刀を抜く。

【キリカ】

「少しは考えるんだ、シェインの突撃娘」

ミアは頬を膨らませる。

【ミア】

「誰が突撃娘だ!」

ユナが横から言う。

【ユナ】

「事実」

【ミア】

「今は我慢しただろ!」

【ユナ】

「だから偉い」

【ミア】

「おお、褒められた!」

ユナは視線をキリカから逸らさない。

【ユナ】

「でも油断しないで。今ので位置を誘導された可能性がある」

【ミア】

「え?」

その瞬間、柔らかな声が響いた。

【メル】

「正解だよぉ」

ノアがはっとして後ろを向く。

三人の背後、少し離れた丘の上に、淡い桃色の光が浮かんでいた。

メルの補助魔法。

それは攻撃ではなかった。

光はふわりと広がり、周囲の草を揺らす。

次の瞬間、ミアたちの足元がぬかるんだ。

【ミア】

「なっ!?」

地面が柔らかくなり、足が沈む。

泥ではない。

魔力で地面の抵抗を変えられている。

動きが鈍る。

【キリカ】

「もらった!」

曲刀を両手に、低く駆ける。

狙いはミア。

いや、ミアを抜けた先にいるノア。

トーマの手に力が入った。

【トーマ】

「速い」

【ロイド】

「キリカは罠と奇襲に優れたタイプですね」

ロイドが記録しながら言う。

【ロイド】

「メルは地形干渉と補助。厄介な組み合わせです」

ソルは無言でフィールドを見ていた。

その目は、キリカではなくノアに向いている。

ノアがどう動くか。

そこを見ている。

フィールド内。

ノアは一瞬、固まった。

キリカが来る。

ミアは足を取られている。

ユナも動きにくい。

自分が防がなければ。

魔力が膨らむ。

強く。

大きく。

光の壁を張ろうとする。

だが、その出力は一気に高まりすぎた。

周囲の空気が震える。

ユナが叫ぶ。

【ユナ】

「ノア、強すぎる!」

その声で、ノアは息を呑んだ。

強すぎれば、壁は大きくなる。

だが、制御を失えば仲間の視界も塞ぐ。

最悪、ミアたちの動きまで妨げる。

訓練で何度も水晶を割った。

強く出せばいいわけじゃない。

ノアは唇を噛む。

怖い。

でも、逃げない。

【ノア】

「……小さく」

ノアは自分に言い聞かせる。

【ノア】

「小さく、薄く、必要なところだけ」

光が収束する。

巨大な壁ではない。

ミアとユナの前、キリカの進路上にだけ、斜めの防御膜が張られた。

キリカの曲刀がそこに当たる。

甲高い音。

防御膜は砕けない。

だが、完全には止めない。

刃の軌道を逸らす。

【キリカ】

「っ、何これ!」

キリカの体勢が崩れた。

その瞬間、ミアが足元のぬかるみを力任せに蹴った。

【ミア】

「今だ!」

短槍の柄がキリカの横腹へ向かう。

しかしキリカも速い。

体を捻り、曲刀の背で受ける。

衝撃で両者が弾かれた。

ミアは泥に足を取られながらも踏みとどまる。

キリカは後方へ跳び、木陰へ戻る。

【キリカ】

「へえ」

キリカはノアを見た。

【キリカ】

「今の防御、嫌な角度だった」

ノアは息を吐く。

手が震えている。

でも、失敗しなかった。

大きすぎない防御。

必要なところに、必要な分だけ。

トーマは思わず拳を握った。

【トーマ】

「今の、成功だよな」

ロイドの口元がわずかに緩む。

【ロイド】

「はい。訓練の成果です」

レナが小声で言う。

【レナ】

「ノア、すごいぞ……!」

【ロイド】

「声」

【レナ】

「小さく言った!」

【ロイド】

「まだ大きいです」

フィールドの中で、ユナがノアに短く言った。

【ユナ】

「良かった」

ノアは少し驚いた顔をする。

ユナが戦闘中に褒めるのは珍しい。

【ノア】

「ありがとう」

【ユナ】

「でも次が来る」

メルは丘の上でにこにこしたまま、杖を振った。

【メル】

「じゃあ、もうちょっと遊ぼうねぇ」

草むらのあちこちに淡い光が灯る。

地形干渉。

今度はぬかるみだけではない。

右側の地面が硬く盛り上がり、小さな壁になる。

左側の草が伸び、足を絡めようとする。

細い道が塞がれ、進路が限定される。

ベイル側は、最初から地形を支配するつもりだった。

キリカが前に出て、メルが場を変える。

二人なのに、フィールド全体がベイルの味方になっていく。

【ユナ】

「メル、思ったより厄介」

ミアが短槍を構え直す。

【ミア】

「なら、あのふわふわを先に叩く!」

【ユナ】

「たぶん罠」

【ミア】

「じゃあどうする?」

ユナは一瞬だけ考える。

その間にもキリカが木陰を移動している。

見えたり、消えたり。

【ユナ】

「こっちは三人」

ユナが言った。

【ユナ】

「それを使う」

【ミア】

「どう使う?」

【ユナ】

「ミアが派手に動く」

ミアの顔が輝く。

【ミア】

「得意!」

【ユナ】

「ただし、突っ込むんじゃなくて、敵の目を引く」

【ミア】

「それもたぶん得意!」

【ユナ】

「ノアはミアの周囲に小さい防御を細かく張って。大きい壁はいらない」

【ノア】

「うん」

【ユナ】

「私はメルの魔力の流れを見る」

ミアが首を傾げる。

【ミア】

「魔力の流れ?」

ユナはメルが立つ丘を見た。

【ユナ】

「地形を変える魔法には、必ず起点がある。全部を同時には動かせないはず。どこかに癖がある」

【ミア】

「つまり?」

【ユナ】

「メルの隙を探す」

【ミア】

「よし、分かった!」

【ユナ】

「本当に?」

【ミア】

「たぶん!」

ノアが少し笑った。

ユナもほんの少しだけ表情を緩める。

【ユナ】

「じゃあ行くよ」

ミアが前へ出た。

【ミア】

「おーい、キリカ!」

森の影へ叫ぶ。

【ミア】

「隠れてばっかりか!」

キリカの眉がぴくりと動く。

【キリカ】

「は?」

【ミア】

「正面から来い!」

ユナが小声で言う。

【ユナ】

「挑発が雑」

ミアは構わず続ける。

【ミア】

「ベイルは強いんだろ!ならこそこそするな!」

キリカの額に青筋が浮かぶ。

【キリカ】

「こそこそじゃない。戦術よ」

【ミア】

「こそこそ戦術!」

【キリカ】

「言ったわね!」

メルが丘の上で困ったように笑う。

【メル】

「キリカ、乗っちゃだめだよぉ」

【キリカ】

「乗ってない!」

【ユナ】

「乗ってる」

ユナが即座に呟く。

次の瞬間、キリカが飛び出した。

だが、完全に怒り任せではない。

右手の曲刀で牽制し、左手で罠札を投げる。

ミアの周囲に三つの罠札が突き刺さった。

【ノア】

「足元!」

ノアが叫ぶ。

三枚の札が同時に光る。

針、泥、風圧。

三種類の妨害がミアを襲う。

だが、ノアの防御が間に合った。

大きな壁ではない。

足元に薄い光の板。

横から来る針の前に小さな盾。

風圧を受け流す斜めの膜。

ミアは防御を踏み台にして跳んだ。

【ミア】

「おおっ!?」

自分でも驚きながら、ミアは空中へ出る。

キリカが目を見開く。

【キリカ】

「防御を足場にした!?」

トーマも驚いていた。

【トーマ】

「今の、狙ってやったのか?」

ロイドは記録を見ながら言う。

【ロイド】

「おそらく半分は偶然です」

レナが嬉しそうに言う。

【レナ】

「でもすごいぞ!」

【ソル】

「偶然を再現できればそれは技術だ」

ソルが静かに言った。

フィールドの中。

空中のミアは短槍を構える。

キリカは迎撃姿勢を取った。

だが、ミアの狙いはキリカではなかった。

【ミア】

「ユナ!」

【ユナ】

「分かってる」

ミアが派手に跳んだことで、メルの視線が一瞬だけ上に向いた。

その瞬間、ユナの魔力糸が地面を這った。

狙いはメル本人ではない。

丘の下。

メルが地形干渉に使っていた、小さな魔法具。

薄い桃色の石が、草むらに隠れていた。

【ユナ】

「そこ」

ユナの糸が石を絡め取る。

メルの目が少しだけ見開かれる。

【メル】

「あ」

糸が引かれ、魔法具が地面から外れた。

周囲の草の動きが止まる。

盛り上がった地面の一部が崩れる。

ぬかるみも少しずつ戻っていく。

【ミア】

「見つけた!」

ミアが着地しながら叫ぶ。

メルはぱちぱちと瞬きをする。

【メル】

「すごいねぇ。よく分かったねぇ」

ユナは魔法具を糸で引き寄せ、軽く掲げた。

【ユナ】

「魔力の流れが不自然だった」

キリカが歯噛みする。

【キリカ】

「メル!」

【メル】

「ごめんねぇ。隠し方、甘かったかもぉ」

【キリカ】

「のんびり言わない!」

だが、ベイル組は崩れない。

魔法具を一つ失っただけだ。

メルはまだ杖を持っているし、キリカの罠札も残っている。

【キリカ】

「なら、作戦変更」

キリカが低く言った。

その声で、メルの雰囲気が少し変わる。

ふわふわした笑みはそのまま。

けれど、目が細くなる。

【メル】

「うん。じゃあ、ちょっとだけ本気」

メルの杖から、淡い光が広がった。

今度の魔法は地形干渉ではない。

シェイン三人の周囲に、桃色の小さな光球がいくつも浮かぶ。

ミアが身構える。

【ミア】

「攻撃か!?」

ユナが即座に言う。

【ユナ】

「違う、これは……」

光球が弾ける。

音は小さい。

だが、次の瞬間、ミアの体がぐらついた。

【ミア】

「え、何だこれ……」

視界が揺れる。

足元の距離感が狂う。

ノアもふらつき、杖を支えにする。

【ノア】

「頭が……」

ユナだけが歯を食いしばり、片目を閉じた。

【ユナ】

「感覚妨害……!」

メルの補助魔法。

相手の視覚と平衡感覚をわずかにずらす魔法だった。

強烈ではない。

だが、戦闘中には十分すぎる。

一歩の距離が狂う。

攻撃の角度がずれる。

防御の位置が遅れる。

そこへキリカが走る。

【キリカ】

「今度こそ!」

狙いはノア。

ノアは防御を張ろうとする。

だが、視界が揺れて、キリカの位置を正確に掴めない。

光の膜が少し右へずれる。

キリカはその隙間を抜けた。

【トーマ】

「ノア!」

トーマが思わず声を上げかける。

だが、叫んでも届かない。

それに、外からの助言は禁止だ。

彼は歯を食いしばる。

見る。

今は見るしかない。

キリカの曲刀がノアへ迫る。

ミアは間に合わない。

ユナも感覚妨害で糸の精度が落ちている。

ノアは震える手で杖を握った。

怖い。

近い。

攻撃が来る。

防げないかもしれない。

大きく張れば止められる。

でも、強すぎればまた暴走する。

その一瞬の迷い。

キリカは見逃さなかった。

【キリカ】

「もらった!」

曲刀の背が、ノアの肩へ向かう。

戦闘不能判定を狙った一撃。

その瞬間。

ノアの中で、何かが静かに沈んだ。

怖い。

でも、逃げない。

トーマが言った。

怖いのに逃げていないから、大丈夫だと。

ミアがいる。

ユナがいる。

見てくれている人がいる。

だから。

【ノア】

「……見えなくても」

ノアは杖を握る手に力を込めた。

【ノア】

「守る場所は、分かる」

ノアは自分自身の周囲ではなく、キリカと自分の間に防御を張った。

視界に頼らない。

魔力の気配で位置を読む。

キリカの体から発せられる熱。

曲刀に流れる微かな魔力。

足音。

空気の揺れ。

それらを感じ取って、最小限の盾を作る。

キリカの曲刀が、防御膜に当たった。

今度は逸らすのではない。

止める。

小さく、硬い盾。

キリカの一撃が弾かれた。

【キリカ】

「なっ!?」

キリカの体勢が崩れる。

その瞬間、ノアは小さく叫んだ。

【ノア】

「ミア!」

【ミア】

「おう!」

ミアは感覚のズレた視界の中、声だけを頼りに動いた。

真っ直ぐではない。

一度、地面を蹴って横へ。

ユナがその動きに合わせ、魔力糸を伸ばす。

糸はミアの腰に軽く触れ、軌道を補正した。

【ユナ】

「行ける」

ユナの声。

ミアの短槍が、キリカの足元を払った。

キリカは跳ぼうとする。

だが、ノアの小さな防御膜が、今度はキリカの着地点に置かれていた。

足が弾かれる。

【キリカ】

「っ!」

バランスを崩したキリカの腕に、ユナの糸が絡む。

ミアが踏み込み、短槍の先をキリカの胸元で止めた。

判定魔法が光る。

キリカ、戦闘不能。

観覧席が大きくどよめいた。

【ミア】

「やった!」

ミアが叫ぶ。

だが、ユナはすぐに言った。

【ユナ】

「まだ終わってない!」

そう。

ベイルにはまだメルがいる。

しかも、メルはキリカが倒された瞬間も、笑っていた。

【メル】

「すごいねぇ」

丘の上で、メルは杖を掲げる。

【メル】

「じゃあ、こっちも頑張らないと」

彼女の足元に、二つ目の魔法具が光った。

ユナの表情が変わる。

【ユナ】

「まだあった……!」

メルの魔法が発動する。

今度はシェインの拠点方向。

遠く離れたシェイン側の拠点核の周囲に、桃色の光が灯った。

【ロイド】

「まずい」

ロイドが呟いた。

トーマは魔法映像盤を見る。

シェイン側の拠点核。

その周囲の地面が、ゆっくりと崩れ始めている。

直接攻撃ではない。

地形干渉で、拠点核を支える地面を沈ませているのだ。

【トーマ】

「メルは最初からキリカを前に出しつつ、裏で拠点を狙っていたのか」

トーマが言う。

ロイドは頷く。

【ロイド】

「ベイルらしからぬ、と言うと失礼ですが、非常に狡猾です」

【トーマ】

「ベイルは力押しの国じゃないのか?」

【ロイド】

「力押しが目立つだけです。勝つために必要なら、搦め手も使います」

リンが遠くで微笑んでいるのが見えた。

まるでこの展開を楽しんでいるようだった。

フィールド内。

キリカは戦闘不能判定で動けないが、悔しそうに叫ぶ。

【キリカ】

「メル!やっちゃえ!」

【メル】

「うん。任せてぇ」

メルは杖を振る。

シェイン拠点核の耐久値が減っていく。

しかもシェイン側は、例外処置のため拠点核の耐久値が通常より低い。

長くは持たない。

ミアが焦る。

【ミア】

「戻るか!?」

ユナが即座に判断する。

【ユナ】

「間に合わない。メルを止める方が早い」

【ミア】

「でも遠いぞ!」

【ユナ】

「ノア」

ユナがノアを見る。

ノアは息を切らしていた。

キリカを止めるため、かなり集中した。

でも、まだ立っている。

【ノア】

「私の防御、足場にできる?」

ミアが目を輝かせる。

【ミア】

「さっきのやつか!」

ノアは一瞬不安そうにした。

だが、すぐに頷く。

【ミア】

「やってみる!」

ユナが言う。

【ユナ】

「ノアが足場を作る。ミアがそこを使って最短で丘へ。私は糸で軌道を補正する」

【ミア】

「失敗したら?」

ミアが聞く。

ユナは短く答えた。

【ユナ】

「落ちる」

【ミア】

「分かりやすい!」

ノアは杖を構えた。

小さな防御膜を作る。

一枚。

二枚。

三枚。

宙に浮かぶ、淡い光の足場。

強すぎれば割れる。

弱すぎれば踏めない。

位置がズレればミアが落ちる。

手が震える。

でも、ノアは息を整えた。

【ノア】

「小さく。硬く。必要な場所に」

トーマは見ていた。

ノアの顔が、さっきまでと違う。

怖さは消えていない。

でも、その怖さに飲まれていない。

ミアが走る。

一枚目の足場を踏む。

光が揺れる。

だが、割れない。

二枚目。

ユナの糸がミアの腰を引き、角度を変える。

三枚目。

ミアは空中で短槍を構えた。

【ミア】

「届けぇぇぇっ!」

丘の上のメルへ向かって飛び込む。

メルは驚いたように目を丸くする。

【メル】

「わあ、すごい」

それでも、杖を構える。

桃色の光が盾のように広がる。

ミアの短槍とメルの魔法盾がぶつかった。

衝撃。

ミアの体が弾かれる。

だが、ユナの糸が彼女を空中で引き戻した。

同時にノアが最後の防御膜を、メルの背後に張る。

逃げ場を塞ぐ壁。

メルが初めて、少し困った顔をした。

【メル】

「あ、これは……」

ユナの糸がメルの杖に絡む。

ミアが着地と同時に踏み込み、短槍の石突きをメルの足元に打ち込んだ。

メルの体勢が崩れる。

ノアが叫ぶ。

いま──────!!!!!

ミアが短槍の先をメルの胸元で止めた。

判定魔法が光る。

メル、戦闘不能。

同時に、シェイン拠点核の耐久値低下が止まった。

沈黙。

一瞬、誰も声を出さなかった。

そして。

魔法陣が空に広がり、テリア女王の声が響く。

【テリア】

「勝者、シェイン王国!」

観覧席が大きく沸いた。

ミアは一瞬ぽかんとしていた。

それから、飛び上がる。

【ミア】

「勝ったぁぁぁ!」

ユナはその場に座り込む。

【ユナ】

「……ぎりぎり」

ノアは杖を握ったまま、呆然としていた。

【ノア】

「勝った……?」

ミアが駆け寄り、ノアの手を掴む。

【ミア】

「勝ったぞ、ノア!」

ユナも小さく頷いた。

【ユナ】

「ノアの防御がなかったら負けてた」

ノアの目が揺れる。

【ノア】

「私……ちゃんと、できた?」

ミアが即答する。

【ミア】

「できた!」

ユナも言う。

【ユナ】

「できた」

ノアは二人を見た。

そして、少しだけ泣きそうな顔で笑った。

【ノア】

「よかった……」

トーマは記録板を握りしめたまま、深く息を吐いた。

手に汗をかいていた。

ただ見ているだけなのに、戦っている時より緊張したかもしれない。

【ソル】

「勝ったな」

ソルが隣で言う。

【トーマ】

「ああ」

【ソル】

「何を見た」

トーマは少し考えた。

【トーマ】

「ノアは強い。でも、一人で強いんじゃない。ミアとユナがいたから、力をちゃんと使えた」

ソルは小さく頷く。

【ソル】

「いい見方だ」

【トーマ】

「それと」

トーマはフィールドの三人を見る。

【トーマ】

「守るって、ただ防ぐことじゃないんだな」

ソルの目がわずかに動く。

【ソル】

「どういう意味だ」

【トーマ】

「ノアの防御は、盾にもなった。足場にもなった。逃げ場を塞ぐ壁にもなった。守る力でも、攻めに繋がる」

ロイドが記録しながら言う。

【ロイド】

「その通りです。力の使い道は一つではありません」

レナは両手を上げていた。

【レナ】

「よくやったぞー!」

【ロイド】

「声が大きいです」

【レナ】

「今はいいだろ!」

【ロイド】

「まあ、今回は」

ロイドが珍しく止めなかった。

フィールドでは、キリカが悔しそうに座っていた。

メルがのんびりと笑っている。

【メル】

「負けちゃったねぇ」

【キリカ】

「分かってる!」

【メル】

「でも楽しかったねぇ」

【キリカ】

「……まあ、少しは」

キリカは立ち上がり、ミアたちの方へ歩いてきた。

ミアも身構える。

だが、キリカは曲刀を収め、手を差し出した。

【キリカ】

「負けた。悔しいけど、あんたたちは強かった」

ミアの顔が明るくなる。

【ミア】

「そっちも強かったぞ!」

二人は握手する。

メルはノアの方へ歩いてきた。

【メル】

「ノアちゃん」

【ノア】

「は、はい」

【メル】

「最後の足場、綺麗だったよぉ。あれ、すごく難しいでしょ?」

ノアは少し照れたように頷く。

【ノア】

「まだ、上手くできたか分からないけど」

【メル】

「上手だったよぉ。私の魔法具も見つけられちゃったし、シェインの三人組、面白いねぇ」

ユナが静かに言う。

【ユナ】

「メルの二つ目の魔法具は見落とした。次は先に潰す」

メルはにこっと笑う。

【メル】

「怖いこと言うねぇ」

キリカがミアを見た。

【キリカ】

「次は勝つから」

ミアは笑う。

【ミア】

「こっちもまた勝つ!」

勝負が終わった後の空気。

悔しさはある。

疲れもある。

でも、殺意はない。

これが大会なのだと、トーマは思った。

戦って、倒して、終わった後に手を差し出せる場所。

戻れる戦場。

その時だった。

腰の剣が、微かに震えた。

トーマの表情が変わる。

ソルも気づいた。

【ソル】

「どうした」

【トーマ】

「剣が……」

トーマは周囲を見る。

観覧席。

森。

丘。

レッドフラッグスか。

だが、剣の震えは強くない。

遠い。

見られている。

そんな感覚だけがあった。

同じ頃。

演習場から少し離れた森の奥。

紅い旗が、木々の陰で静かに揺れていた。

セイレンは魔法映像を小さく展開し、今の試合を見ていた。

隣ではルークが木の実を手に取っている。

【セイレン】

「それは食べられる」

セイレンが言う。

【ルーク】

「ほんと?」

【セイレン】

「たぶん」

ルークは口に入れ、少し考えた。

【ルーク】

「すっぱい」

【セイレン】

「でしょうね」

セイレンは映像の中のノアを見ていた。

淡い光の防御。

小さく、正確に制御された魔力。

【セイレン】

「伸びるわね、あの子」

ルークも映像を見る。

【ルーク】

「ノア」

【セイレン】

「ええ」

【ルーク】

「強い?」

【セイレン】

「まだ弱い。でも、危ういほどの器がある」

ルークは短く言う。

【ルーク】

「トーマと同じ?」

セイレンは少しだけ目を細めた。

【セイレン】

「似ている。でも違う」

彼女の視線は、今度はトーマへ向く。

観覧席で剣に手を置く記憶なき男。

【セイレン】

「トーマは空白の器。ノアは溢れそうな器」

ルークは少し考えた。

【ルーク】

「どっちも、こぼれる?」

【セイレン】

「ええ」

セイレンは紅い旗を握る。

【セイレン】

「だから、見ていて面白い」

【ルーク】

「助ける?」

セイレンは笑った。

冷たく、少し痛そうに。

【セイレン】

「助けないわ」

【ルーク】

「そっか」

【セイレン】

「でも、壊れるにはまだ早い」

ルークはこくりと頷いた。

【ルーク】

「じゃあ、待つ」

セイレンは遠くの演習場を見る。

【セイレン】

「大会はまだ始まったばかりよ」

紅い旗が、森の闇で静かに翻る。

一方、演習場では次の試合の準備が始まっていた。

テリア王国のルチアとフィナ。

彼女たちが静かにフィールドへ向かう。

次の相手は、ベイル王国。

大会形式は総当たりではなく、特殊な勝ち抜き形式だった。

初戦で勝ったシェインは一度待機。

次はテリアと、別条件で再編成されたベイル側の予備戦力による試合ではなく、テリア組の実力披露を兼ねた模擬戦が挟まれる。

テリア女王の声が響く。

【テリア】

「次戦は、テリア王国リトルヴァルキリーによる実戦演習を行う」

観覧席がざわつく。

トーマは眉を寄せた。

【トーマ】

「実戦演習?」

ロイドが説明する。

【ロイド】

「テリアの二人は前回、試合開始前に中断されました。調整のため、魔法自動兵を相手にした演習を行うようです」

フィールドに、青白い魔法陣がいくつも展開される。

そこから、人型の魔法兵が現れた。

木製の体に、魔力核を持つ訓練用の自動兵。

数は十体。

【トーマ】

「二人で十体か」

トーマが言う。

ソルは静かに答えた。

【ソル】

「侮るな」

【トーマ】

「テリアの二人をか?」

【ソル】

「両方だ」

フィールド内。

ルチアが魔法剣を抜く。

【ルチア】

「フィナ、後ろは任せたわ」

フィナはにこにこと杖を構える。

【フィナ】

「うん。お姉ちゃん、前でかっこよくしてて」

【ルチア】

「いつもかっこいいでしょ」

【フィナ】

「うんうん」

【ルチア】

「本当に思ってる?」

【フィナ】

「思ってるよぉ」

その会話だけなら微笑ましい姉妹だった。

だが、戦闘開始の鐘が鳴った瞬間。

トーマは理解した。

この二人は、可愛いだけではない。

ルチアが前へ出る。

魔法剣に蒼い炎が灯る。

一閃。

自動兵の一体が斜めに切り裂かれ、魔力核だけが正確に弾かれた。

破壊ではない。

戦闘不能判定を狙った精密な攻撃。

続いて二体目、三体目。

ルチアの動きは美しく、速い。

【ノア】

「すごい……」

ノアが戻ってきて、隣で呟いた。

その横でミアも目を輝かせる。

【ミア】

「強いな、あの姉!」

ユナは冷静に見る。

【ユナ】

「妹も見た方がいい」

フィナは後方で杖を振った。

すると、ルチアの足元に小さな魔法陣が次々と現れる。

加速。

防御。

視界補助。

敵位置表示。

フィナは直接攻撃していない。

だが、ルチアの動き全てを支えている。

さらに、ルチアを狙って横から迫った自動兵の足元に、小さな雷が落ちた。

自動兵が硬直する。

その隙にルチアが斬る。

【トーマ】

「えげつないな」

ユナが頷いた。

【ユナ】

「姉が前、妹が後ろ。でも妹の補助が細かすぎる」

ノアは少し緊張した顔でフィナを見た。

【ノア】

「フィナちゃん、ずっと笑ってる」

その笑顔が、少し怖かった。

フィナは人懐っこく笑いながら、敵の足を止め、視界を奪い、逃げ場を潰している。

妹の方が容赦ない。

それは、事前に聞いていた通りだった。

やがて十体の自動兵が全て停止した。

かかった時間は短い。

ルチアは剣を収め、誇らしげに胸を張る。

フィナはぱちぱちと手を叩いた。

【フィナ】

「お姉ちゃん、かっこよかったよ」

【ルチア】

「当然よ」

観覧席から拍手が起きる。

トーマは記録板に書き込んだ。

ルチア:前衛。魔法剣。精密。プライド高いが実力あり。

フィナ:後衛。補助・妨害。笑顔のまま敵を詰ませる。危険。

ロイドが覗き込む。

【ロイド】

「よく見ています」

【トーマ】

「フィナの方が厄介そうだ」

【ロイド】

「その評価は正しいと思います」

ノアが小さく呟く。

【ノア】

「私も、あんなふうに誰かを支えられるかな」

ミアが即答する。

【ミア】

「さっき支えてくれただろ!」

ユナも頷く。

【ユナ】

「足場、防御、進路封鎖。十分支えてた」

ノアは少しだけ照れた。

【ノア】

「……うん」

トーマはそんな三人を見て、胸の奥に小さな温かさを感じた。

シェインは勝った。

ノアは一歩進んだ。

大会は、確かに彼女たちを成長させている。

だが、その一方で。

森の奥にいる紅い旗が、ずっと消えない。

その存在が、まるでこの大会の外側に別の刃を置いているようだった。

テリア女王は主催席からフィールドを見下ろしていた。

その視線は一瞬、森の方角へ向く。

【テリア】

「……見ておるな、セイレン」

小さな声。

隣にいたアリスが聞き取った。

【アリス】

「やっぱりいるの?」

【テリア】

「おそらくな」

【アリス】

「捕まえる?」

テリア女王は首を振る。

【テリア】

「今は動かぬ。あの子もまだ見るだけじゃ」

【アリス】

「信じられるの?」

【テリア】

「信じるのではない。読むのじゃ」

テリア女王はトーマとノアを見る。

【テリア】

「今ここで壊すには、まだ早い。セイレンもそう思っておるはずじゃ」

アリスは不安そうに眉を寄せる。

【アリス】

「その読みが外れたら?」

テリア女王の目が細くなる。

【テリア】

「その時は、ワシが出る」

その声には、女王としての重みと、母としての痛みが混ざっていた。

大会は進む。

ルールある戦場の中で、小さな戦乙女たちは力を示していく。

そしてその外側で、ルールなき紅い旗が静かに揺れていた。

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