イメージチェンジ
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
「先輩、好きです。付き合ってください!」 返ってきたのは、「わたしの好きな子は、まつ毛が長いんだよね」。 その日から、まつ毛、ネイル、ショートボブ、金髪――言われるたびに、私は少しずつ変わっていく。 でも先輩の「好きな子」って、見たことないんだけど……? 好きな人の好みに寄せていく後輩と、寄せられるたび笑う先輩の、百合短編。
本文
イメージチェンジは蜜の味
「先輩、好きです。付き合ってください!」
そう告白されたのが、もう1週間前。
「先輩……髪を切ってきたんです。どうですか? 付き合ってくれますか?」
「わたしの好きな子は金髪なんだよね」
彼女はわたしの好きな子に近づこうと努力してくれている。
そんな子いないのに。
「好きな子はまつ毛長いんだ」
「好きな子はネイルがキレイなんだ」
「好きな子は……」
なんでも言うことを聞いて、どんどん変わっていく。
(わたしも好きだよ)
たった一言、いつまで閉まっておけるかな。
恋と自分のあいだ
「先輩、好きです。付き合ってください!」
告白は確認作業だ、なんて話もあるけど、私はそうは思わない。
だってこんなに仲が良くてもすごく緊張する。
出会ったのはたった半年前でも、2人だけのサークルでほとんどずっと一緒にいる。
傍から見たらもう付き合ってると思われていても不思議ではないと思ってるくらいだ。
つまるところほとんど確定ではあると踏んでいる。……が、それでも緊張はする。
「実はわたし好きな人がいるんだけど……」
……?
「その子、まつ毛長くていいんだよね」
……??
「好みに近づいたら考えようかなあ」
……???
「えっと……振られたわけではない、ですか?」
「うん、振ってないよ。じゃあ頑張ってね」
そう言い残すと部屋を出て行ってしまった。
まつ毛がどうこう言ってたし、化粧は慣れないけど……先輩のためならやってみようかな。
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「先輩、どうですか? まつ毛勉強してきました」
「いいね、可愛くなったね」
さっき友達にも褒められたけど、先輩に可愛いと言われるのが嬉しい。
「他にはね、ネイルがキレイなんだよね。学校でも自然に見えるくらい」
「あの、先輩の好きな人って……」
この間は聞くタイミングなかったから聞きたかったのに、それだけ言うと行ってしまった。
次はネイル……自然なネイル? ってなんだろ。
そもそも校内では私以上に先輩と仲のいい人を見たことないのに。ってことは、たぶん違う学校の人。
でも少なくともまつ毛にネイル、なら恋愛対象は女の子だよね?
この間も頑張ってって言ったし、いまは近づくしかない。
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「先輩! 爪、見てください!」
「すごいねえ、めっちゃキレイ!」
やっぱり先輩に褒められるのは嬉しい。頑張った甲斐があったと思える。
「あとその子ね、ショートのボブヘアなんだ」
またそれだけ言って去ってしまった。一緒に喋るタイミングが、前よりもなくなった。
それよりも髪、切るの? こんなに長く伸ばした髪を?
……でも先輩と付き合えるなら。
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ボブにしたら案の定、友達にも心配されてしまった。
やっぱり失恋でもないのにばっさり切るの、変かな。
それでももう切っちゃったのは仕方ないよね。
でもこの髪型も似合ってると、自分では思う。
「先輩、どうですか……?」
「お、ショートも似合うね。ところで先週言い忘れたんだけど、金髪なんだよね、ホワイトブロンドだったかな」
やはり足早に立ち去ってしまった。
毎週この時間に集まるのは前からだけど……私が来ると帰るようになったのはどうしてだろう。
本当は私のことからかってるだけ……とか。
いいや、私はいま先輩の好きな人に、好みに近づいてるんだ。
それに髪まで切っちゃって……もう後戻りできないよね。
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「……すごい派手な色になったね」
開口一番、友達に言われる。
「最近マツエクとかネイルとか、前より可愛くなっていいと思ってたけど……ショートにするとかその金髪とか、やりすぎじゃない? あんたらしくないと言うか……」
「だってこれは……」
先輩と付き合うため、と言うのがなぜだか言い出せなかった。
「もしかしてサークルのあの先輩のせい、とか?」
言い淀んだのに当てられてビクッとする。
「ええと……なんで?」
「そりゃあ、あの先輩のこと好きなの見てれば分かるでしょ。友達だもん。でも……やっぱりやりすぎじゃないかなあ。心配だよ」
「でもこれは先輩の好みに近づくためで……」
「あれ、そう言えばあの先輩ってさ」
静かにしてたもう一人の友達が口を挟む。
「何年か前に友達亡くなったって聞かなかったっけ?」
え、何? その話。聞いた事、ない。
「そういえばあったかも。結構仲良かったんだよね。え、もしかしてこの子が代わりってこと?」
突然知った情報によって、雷が落ちたように硬直した。
私が、ただの代わり? 亡くなってる子の?
私の頭が真っ白になる。
なんか友達はまだ話してるけど、もう耳に入らない。
時間が来ると私は先輩の元に駆け出した。
「先輩」
「また言った通りに変わってきたね! 綺麗な金だ」
「先輩」
「……なんか様子変だよ。大丈夫?」
「私は……ただの身代わりですか? 先輩の好みになったんじゃなくて……亡くなった先輩の友人の代わりですか?!」
先輩は呆気に取られたような、ポカンとした表情をしたと思うと、真剣な顔つきになる。
「それ誰から聞いたの?」
「友達です。教えてください。私はただの、その子の代わりとしか見てないんじゃないですか?」
「友達を亡くしたのは本当だよ。ただわたしは、彼女のことは普通の友人として」
「嘘だ!!」
遮って叫んでしまう。
「だったらおかしいじゃないですか。まつ毛とかネイルとか……長かった髪もこんなに短くしたんですよ? 私は先輩のためだったのに……先輩は……私自身のこと見てなかったんですね……」
涙が止まらない。前も見えない。視界がぼやけてる。
「死んだ人間の思い出の姿なんて……越えられるわけないじゃないですか……」
震える声で絞り出す。先輩の顔も見たくなくなり、部屋から出ていくと、あてもなくがむしゃらに走った。
誰かが止まれだの言ってる気がするけど私の耳に入らない。
とにかく離れる――――。
前も見ずに走った当然の結果。何かにぶつかると、私は尻もちをついてこけた。
「あ、さっきぶり! ……どうした? 大丈夫?」
ぶつかったのは友達だった。その顔を見ると余計に涙があふれる。
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彼女の胸を借りてしばらく泣いた後、落ち着くと、
「何があったの? そんなに泣いてるってことは、あの先輩関連?」
「うん」
まだグズグズとする鼻を押さえて返事をする。
「先輩に聞いたらね、あの噂は本当だけど、その人のこと好きでもなくてただの友達だって……でも信じられなくて、ワーッと言って逃げてきちゃった。だから、それ以外聞いてない」
「そっかそっか」
特に何を言うわけでもなく、ただ頷いて抱きしめてくれる彼女が温かかった。
「私きっとからかわれてただけ、なんだよね。きっと」
彼女はうーん、と悩む素振りを見せた後、口を開く。
「そうかもね。でも……」
「でも?」
「逃げてきて、ちゃんと話してはいないんでしょ? だったら、ちゃんと話した方がいいんじゃないかな」
話す。ちゃんと……?
「話すのは、怖い。今度こそ本当に振られるんじゃないかって」
「ま、どっちにしても今日は帰って寝たら? 落ち着いて考えよ?」
丸められた気がしたけど、今日はもう何も考えたくないし、帰ることにした。
失敗した。
彼女を傷つけるつもりはなかったのに。
彼女の頑張ってる姿が見たかった、ただそれだけだったのに。
ただ一人の大切な後輩、本当に好きな人を傷つけるとこんなにも胸が痛いんだ……。
ふと気づいた。
いいや、わたしはただ頑張ってる姿が見たかっただけではなかったのではないか。
わたしは本当は怖かったんじゃないか。
関係がもっと親しくなることが、怖かったんじゃないか。
わたしは途方に暮れたが、そう思うと、足が駆けていた。
ただ、どこに行ったか分からない。
……探しながら適当にさまよっていると、見知った顔……いや、お互いにただ顔を知っているだけの……彼女の友人を見つけた。
向こうもわたしを見つけると、足音を立てて近づいてくる。
「あなたですね。あの子を泣かせたの」
声から感じる冷たさと目に宿る怒りが、わたしの心臓を縮み上がらせる。
「彼女に……会った? どこに行ったか知ってる?」
声が上ずる。自分でも情けないと思うが、罪悪感で胸が苦しい。
「あの子に用があるんですか? もう一度聞きますけど、泣いてたのあなたのせいですよね」
友人の声が一段と冷たくなる。
「それに関しては言い訳のしようもない。ごめん」
「謝るなら私じゃなくてあの子にです」
「もちろん彼女にも謝る。でも友人の君にも迷惑かけたのは事実だから、君にも謝る。本当にごめん」
深く深く、頭を下げる。
「……誠意は伝わったのでもういいです。頭あげてください」
大きなため息とともに彼女がそう言い、わたしが頭を上げると、さっきまでの怒気が少し冷めたかのように感じた。
「で、あの子と会ってどうするんですか? まだ傷つけるんですか」
「いいや、そんなつもりは、ない」
「何があったか、これからどうしたいか、私に言ってください。あの子と会わせるのはそれからです」
守るという覚悟が決まった彼女の表情を見て、わたしも真面目に話しだした。
「わたしの友人が亡くなってることは知ってるね? たぶん君から聞いたと」
「言ったのは私じゃないですが……まあはい、知ってます」
「その友人への恋愛感情がなかったのは事実だ。ただ……」
言葉を切り、自分を落ち着かせる。自分でもさっき気付いた、わたしの根底。
「本当のことを言うと……彼女を失うのが怖かったのだと、思う。友人を本当に突然、前触れもなく失って、大事な人がいつ居なくなるかわからないって思い知らされて。恋人になったら、もっと失った時が大きくなる。だから答えを考えたくなくて……先延ばしにしてしまった」
彼女は黙って頷き、話を聞いている。
「それで彼女は……それを嘘だ、信じられない、と。ただの身代わりなんじゃないかと。……否定したかったんだが、そのまま走っていってしまったんだ」
「事情は分かりました。それであなたの本心は、聞かせてもらえるんですか?」
「ここまで話したんだしね、全部言うよ」
一呼吸置いて、誰にも言ったことのなかった気持ちをさらけ出す。
「わたしは彼女のこと、ずっと好きだよ。心から」
ほっとした顔を見て、続ける。
「ただ、失うのが怖くて……恋人という関係になるのが怖くて……他に好きな人いると嘘をついて、架空のその人に近づくようなことを、あの子に言ってた。どこにいる人でもない、ただのわたしの趣味の押し付けだ」
「それがあのネイルとか金髪とか……ショートもですね?」
「うん、そう」
友人の顔が再び険しくなる。拳がわなわなと震えているのが見える。
「そんなことであの子の髪を切らせたんですか?」
友人の声が震えている。怒りで、悲しみで。
「知ってますか? すごく大切に手入れしてたんですよ。大変だけどそれが好きなんだって。それに最近も、すごく楽しそうに勉強してたんですよ。メイク得意じゃないのに」
パン、と乾いた音が響く。
わたしの頬に、はっきりと手形が浮かび上がるのを感じる。友人の手は震え、涙が見える。
わたしは何も言い返せず、口をつむぐ。この子は本当に怒っている。そして、彼女のことを心から大切に思っている。
自分が何をしたのか、改めて思い知らされる。彼女を傷つけただけでなく、こんなに大切に思ってくれる友人まで敵に回してしまった。
「ただ、あの子のことをちゃんと好きなのは分かったのでそこだけは安心しました。でも、髪を切らせたのは罪、重いですよ。私は絶対に許しません」
「深く反省するよ。彼女にも許してもらえるか分からないが……もし許しがあるのなら、もう泣かせないと約束する」
「守ってくださいね」
友人の声は再び静かになったが、その静けさがかえって恐ろしい。
「先輩なのに叩いてすみませんでした」
涙声だった。
「あの子は優しいから、きっと何があっても痛みの伴うことはしないでしょう。その代わりと思ってください」
「この痛みはわたしのせいだからね、受け入れるよ」
自分の声ではないと思うくらい、小さい声だった。普段の自信に満ちたわたしはもう、ない。
あの子は……と言いかけて、言葉を飲み込んだ彼女が、涙を拭って続ける。
「あの子はあなたのこと、本当に好きなんです。だから、今度こそ大切にしてください」
最後の言葉は、友人の本心からの願いだった。
「……知ってる。肝に銘じるよ。……ところで結局彼女はどこに?」
「落ち着かせるために家に帰らせましたよ。また明日、明日には伝えてくださいね。拗らせると大変ですよ」
「そうだね、必ず、明日」
ああ、本当にいい友人だ。
そして、わたしは本当にひどい人間だ。
通学路の、足取りが重い。
先輩に会うのが怖い。
でも昨日も帰ったあと友達から「絶対に明日先輩と話すんだよ」なんてメッセージ来てたから、行かない訳にもいかない。
そう考えていたら、
「おはよ!」
と声をかけられて、返事もできないまま半ば引きずられていく。
「たぶん行きづらいだろうなと思って、探してたんだ」
ずるずると引きずられて着いたのは……いつものサークルの部屋だった。
「あれ、どうしてここ?」
「まあまあいいから。ほら入って。先行ってるからねー!」
と言い残すと一人ポツンと残される。
恐る恐るドアを開けると……
「おはよう」
当然先輩の姿があった。
部屋に入る、たった一歩が重い。
ぶるぶると体が震える。
「そのままでいいよ。そのまま、聞いて。……まずはごめんなさい」
素直に謝る先輩に、私は少しだけ困惑する。
「無理にメイクをさせたこと、髪を切らせたこと。カラーも、ごめん」
ただフラれると思っていた私は更に困惑する。
「ええと、そこには怒ってないです。私は身代わりなんだ、と思っていたので……結局どうなんですか。昨日はその、ばーっと言って逃げてしまったので」
「身代わりだなんて全くそんなこと思ってないよ。あの子は本当に……そう、本当にただの友達だったんだ」
「そう、ですか」
先輩は少し遠い目をした気がした。けれどそれは一瞬で。
「それと、本当に一番謝らないといけないのは……他に好きな人がいるという嘘をついてたこと」
「……え?」
「あの子のことでもなくて、誰のことでもない。ただの、私の妄想の中の人物。私の言うことを聞いて、何でも変わってしまう君を見ているのが楽しくて。でもそれと並んで、君との関係が変わるのが恐ろしくて。君のことはすごくすごく大事なのに、嘘をついてしまった。……ごめんなさい!」
そこまで言うと、先輩は深く頭を下げる。
「信じていい……んですよね」
顔を上げた先輩は、今度はしっかりと私の目を見て、ふ、と優しい顔になる。
「信じてほしい、と言うだけよりも、伝えたいことがあるんだ。……君は、わたしの好きな人で……」
先輩は自分を確かめるようにうん、と頷き、続ける。
「誰かの身代わりなんかじゃない。一番好きな人、恋してる人、です」
真っ赤に染まった先輩の顔。いつも堂々として、自信に満ちているあの先輩が、目をキョロキョロとさせて、落ち着かない様子を見せている。そんな姿、初めて見る。
「……改めてわたしから。好きです、付き合ってください」
先輩が、今度は違う意味で私に頭を下げている。
こくはく? 私に? 本当に???
頭が混乱しちゃう。だけど、当然答えは――
「はい、よろしくお願いします」
2人して、安心で泣き出す。
「良かった、ごめんね、ごめんね」
「私こそ良かったです、好きでいてもらえて。……私も、あの日からずっと怖かったですから」
グズグズとした声で言うと、先輩はまたごめん、と謝るが、ふふ、となんとなく自然と笑い合う。
「あ! ところでこんな姿になったんですけど! さっきは怒ってないって言ったけどやっぱりこれには怒ってます! どうしてこんな長いまつ毛だのネイルだの金髪ボブだの……」
「それはただの、わたしの趣味だね。すごく可愛い」
とニコニコと笑顔をしたと思うと
「あ、でも……いままでの姿ももちろん好きだし、それが嫌だったら戻していいからね? ……髪は戻せないけど……」
なんてすぐにしゅんとした顔をする先輩。感情がジェットコースターしている。
「先輩の好みだって言うならしばらくこのままにします! それかこれを私らしさになるまで続けるのも、いいかも?」
このままでと聞いた瞬間にまた先輩が少し笑顔になる。
そのまま他愛のない話に繋がって……笑いながら話す先輩は完全にいつも通りだった。
ただ変わったのは、先輩後輩から、恋人になっただけ。
告白は確認作業? ううん、関係を変えるんだから本人も変われば周りも変わるし、それだけじゃないよね。
でも……告白しないと何も始まらないし、終わりよければすべてよし、なんてね?
なんだかんだこの髪型も案外気に入ったし。
新しい私の始まり、かもしれない。
イメージチェンジは味がしない
「先輩、好きです。付き合ってください!」
そう告白されたのが、もう1週間前。
「先輩……髪を切ってきたんです。どうですか? 付き合ってくれますか?」
「わたしの好きな子は金髪なんだよね」
彼女はわたしの好きな子に近づこうと努力してくれている。
そんな子いないのに。
「好きな子はまつ毛長いんだ」
(関係が変わるのが、怖いんだ)
「好きな子はネイルがキレイなんだ」
(恋人になるのが、怖いんだ)
「好きな子は……」
(置いていかれるのが、怖いんだ)
なんでも言うことを聞いて、どんどん変わっていく。
(わたしも好きだよ)
たった一言なのに、口になんてできない。
わたしはいつ、言えるだろう。