的中率、百パーセント

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/7 📝 2,372文字 ✅ 全年齢

あらすじ

出題予想AIの話。

本文

 期末テスト初日の朝、スマホの画面にそう出ていた。

 一時間目は数学Ⅱだった。配られた問題用紙を表に返した瞬間、わたしは声を出しそうになった。大問1は解と係数の関係、大問2は三角関数の合成。係数のマイナスの位置まで、ゆうべアプリで解いた予想問題と同じだった。

 出題予想AIの「サキヨミ」を教えてくれたのは、隣の席の汐見しおみ来実くるみだった。

「教科書の範囲と、先生の過去の小テストを読ませるとね、本番そっくりの問題を作ってくれるの。塾の子のあいだで噂なんだって」

 月額三百八十円。わたし、有沢ありさわ未知みちは、半信半疑で課金した。数学の小テストで、十点満点中四点をとった週だった。

 テスト一週間前の夜、サキヨミは数学の予想問題を十二問出した。わたしは解答を横に置いて、その十二問だけを三回ずつ解いた。教科書は一度も開かなかった。

 数学Ⅱ、九十四点。人生でいちばんいい点だった。

 二日目には、クラスの半分がサキヨミを入れていた。三日目には、ほぼ全員になった。

 化学基礎も、英語表現も、日本史も当たった。英語の長文は、登場する犬の名前まで同じだった。休み時間の教室は、答え合わせの声ではなく、「明日の予想、もう出た?」の声で埋まった。

「未知、これ当たりすぎじゃない?」

 来実が、配られたばかりの日本史の問題用紙と、スマホの画面を並べて見せた。二つの文章は、読点の位置まで一致していた。

「だって、的中率百パーセントって書いてあるし」

 わたしはそう答えた。当たるなら、それでいいと思っていた。

 おかしいと気づいたのは、四日目の放課後だった。

 数学の答案を受け取りに職員室へ行くと、小柴こしば先生の机の上でタブレットが光っていた。見覚えのある、薄い緑色の画面だった。

 〔作問支援 サキヨミ for School〕  〔数学Ⅱ・二学期期末 候補問題を十二問生成しました〕

 十二問。わたしが三回ずつ解いた数と同じだった。

 先生は答案の束をめくりながら、「最近のAIは便利でなあ」と笑った。「範囲を入れるだけで、ちょうどいい問題を作ってくれる。うちの学年、今回はほとんどの教科がこれなんだよ」

 わたしは「そうなんですね」とだけ言って、答案を受け取った。右上の九十四という赤い数字が、急に他人の点みたいに見えた。

 先生たちは、サキヨミに問題を作らせていた。わたしたちは、同じサキヨミに問題を予想させていた。当たるのは当然だった。サキヨミは毎晩、明日の自分の答えを、先回りして教えてくれていただけだった。

 その夜、来実から電話がかかってきた。

「学年の平均点、九十点を超えたんだって。職員会議になってるらしいよ。問題が漏れたんじゃないかって」

「漏れてはいないよ」

「え?」

「……ううん。なんでもない」

 漏れてはいない。同じところから出てきているだけだ。でも、それをうまく説明する言葉が見つからなかった。

 それに、もし来実に「数学の大問2、どうやって解くの」と聞かれたら、答えられる自信もなかった。手順は覚えている。なぜそうなるのかは、一度も考えたことがなかった。

 明日の最終日は、現代文だけだ。わたしはベッドの上でサキヨミを開いた。

 〔現代文・二学期期末 予想問題を生成しています〕

 読み込みの輪が、いつもより長く回った。それから、画面に一行だけ出た。

 〔この問題は、誰にも予想できません〕

 更新しても、同じだった。もう一度押すと、行が一つ増えた。

 〔出題者が、作問支援を利用していません〕

 わたしは、枕に顔をうずめて少しだけ笑った。それは、言ってはいけないことなんじゃないかと思った。

 翌朝の教室は、テスト初日とは反対の静けさだった。全員が、同じ二行を見ていた。

 現代文の鴨井かもい先生は、定年まであと二年の先生だ。黒板にはいつも縦書きで板書して、プリントも手書きで作る。職員室で、タブレットの電源の入れ方を若い先生に聞いているのを、見たことがある。

 配られた問題用紙は、わら半紙だった。鉛筆の文字が、そのまま印刷されていた。

 大問一は、教科書に載っていた随筆だった。予想問題には一度も出てこなかった文章だ。わたしは指で行をなぞりながら、繰り返し読んだ。わら半紙は指先の脂を吸って、かすかにざらついた。窓の外で、校庭の銀杏が一枚ずつ落ちていた。

 最後の問いは、こうだった。

 〈問五 筆者は「分かったつもり」を戒めている。あなた自身が「分かったつもり」だったことを一つ挙げ、八十字以内で説明しなさい〉

 教室のあちこちで、鉛筆が止まった。音はしないのに、止まったのが分かった。

 わたしは、十二問のことを書いた。同じ問題を三回ずつ解いて、九十四点をとって、なぜそうなるのかを一度も考えなかったこと。書き終えて数えたら、八十字を超えていた。二回消して、書き直した。消しゴムのかすが、わら半紙の上で灰色に丸まった。

 答案が返ってきたのは、翌週の月曜日だった。

 現代文、六十八点。期末テストの中で、いちばん低い点だった。

 問五の横に、鴨井先生の赤ペンで、小さな書き込みがあった。

 〈予想外の答えでした。よい意味で〉

 わたしはその一行を、しばらく指でなぞっていた。赤いインクは、鉛筆の字よりわずかに盛り上がっていた。

 帰りのホームで、サキヨミを開いた。画面の隅には、まだ〔的中率 100%〕と出ていた。わたしは予想の通知だけを切った。アプリは消さなかった。分からない問題の解き方を聞くのには、たぶん便利だ。

 それから、メモ帳を開いて一行だけ書いた。

 〈来週の数学の小テスト 予想 六点〉

 十点満点の六点。当たるかどうかは、分からない。

 電車が入ってきて、冷たい風が前髪を持ち上げた。分からないのが、少しだけうれしかった。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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