怒りを喰らう獣

作者: 中野ポン太 | 作品数: 5作品 | ✅ 完結

黙らされた怒りは、死なない。 あなたの怒りは、今どこにありますか。 誰かの怒りを、見て見ぬふりしたことがありますか。 昭和三十三年、朽葉村。 民俗学者の与一は、祖父の四十九日に故郷へ戻った。祖父の遺品の中に、一冊の手記があった。最後の一行だけ、字が違った。 村では三日前、寡婦の小夜が死んでいた。暴力を受け続けた十年の末に。村は知っていた。誰も言わなかった。 山の方から、夜ごと音が来る。 祓い女の清子は言う。「怒りは溜まる。溜まり続けたら、かたちを持つ」 与一は夜の山へ単独で踏み込んだ。赤い目が三つ、闇の奥にあった。それは獣ではなかった。黙らされ、蚊帳の外に置かれ、誰にも届かなかった怒りが、形を持ったものだった。 祖父が黙ったものを、与一は書いた。 令和。ことのは大学の資料室で、その手記は眠っていた。

エピソード一覧

第1話: 第1話『山の闇は血の匂い』 (2026/3/24)
第2話: 第2話『忘れ去られた帰郷』 (2026/3/25)
第3話: 第3話『赤い目と蚊帳の外』 (2026/3/26)
第4話: 第4話『怒りを喰わせる夜』 (2026/3/27)
第5話: 第5話『眠りには終わりがある』 (2026/3/28)