透明な境界線 第2話:監査官の訪問
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
「これは、誰の声ですか」――AI時代の創作者が問われる、透明な一日の物語 【あらすじ】 2026年、AIと共に創作する28歳のクリエイター・堂本日向のもとに、AI倫理監査官・黒柳佳明が訪れる。法的問題はないと告げられた日向だが、黒柳は静かに問いかける。「この物語の"声"は、誰のものですか」。AIが生成した言葉と自分の感覚の境界が曖昧になる中で、日向は創作における責任と意志の所在を見つめ直す。対話を通じて芽生える小さな気づき。それは、AI時代の創作者が歩むべき新しい道への、静かな一歩だった。 【作品紹介】 本作は、AI支援による創作が一般化した2026年初頭の東京を舞台に、一人のクリエイターと倫理監査官の出会いを描いた近未来小説です。 主人公の堂本日向は、AIツールを活用して短編作品を発表するクリエイター。しかし完成した作品を見るたび、「これは本当に自分の作品なのか」という疑問に苦しんでいました。そんな彼のもとを訪れたのが、AI倫理監査官の黒柳佳明。黒柳は強制ではなく対話を通じて、日向に本質的な問いを投げかけます。 「あなたはこの物語の"声"が、誰のものだと考えていますか」 AI技術の進化により、誰もが「創作者」になれる時代となった今、多くのクリエイターが抱えている「これは誰の作品なのか」という問いをテーマにした作品です。
本文
午前十時を少し過ぎた頃、インターホンが鳴った。
日向は椅子から立ち上がり、玄関へと向かう。
テレビモニターを確認すると、黒いコートを着た男が立っていた。
眼鏡をかけ、落ち着いた表情をしている、年齢は40歳くらいの男だった。
「誰だろう」
心当たりがなかった日向は、一瞬ドアを開けるのを躊躇するが、ここまで来て引き下がるまいと丁寧にゆっくりと玄関ドアを開けた。
「おはようございます。堂本日向(どうもと ひゅうが)さんですね」
男は穏やかな声で名前を確認した。
「はい」
「私、黒柳佳明(くろやなぎ よしあき)と申します。AI倫理監査局からまいりました」
男はIDカードを提示した。
AI倫理監査局――2026年の年明けに施行されたばかりの新しい法律に基づいて設置された機関だ。AIを使った創作活動が急速に広がる中で、その利用が倫理的に適切かどうかを監督する役割を担っている。
「あの……何か問題でも?」
日向の声はわずかに震えていた。
倫理に反することをしているつもりはなかったが、ミスや勘違いをしていることもあるかもしれない、といつも不安に思っていたのだった。
そんな日向の様子を安心させるように
「いえ、問題があるわけではないのです。驚かせてしまい、ごめんなさいね」
黒柳は柔らかな笑顔を見せて、そう言った。
「私たちの仕事は、AIを利用されているクリエイターの方々と対話をし、適切な利用がなされているかを確認することです。強制力を持つものではなく、あくまで”対話”です。少しお時間をいただけますか」
日向は一瞬迷ったが、断る理由も見つからない。
黒柳を部屋に招き入れることにした。
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