透明な境界線 第3話:対話という監査
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
「これは、誰の声ですか」――AI時代の創作者が問われる、透明な一日の物語 【あらすじ】 2026年、AIと共に創作する28歳のクリエイター・堂本日向のもとに、AI倫理監査官・黒柳佳明が訪れる。法的問題はないと告げられた日向だが、黒柳は静かに問いかける。「この物語の"声"は、誰のものですか」。AIが生成した言葉と自分の感覚の境界が曖昧になる中で、日向は創作における責任と意志の所在を見つめ直す。対話を通じて芽生える小さな気づき。それは、AI時代の創作者が歩むべき新しい道への、静かな一歩だった。 【作品紹介】 本作は、AI支援による創作が一般化した2026年初頭の東京を舞台に、一人のクリエイターと倫理監査官の出会いを描いた近未来小説です。 主人公の堂本日向は、AIツールを活用して短編作品を発表するクリエイター。しかし完成した作品を見るたび、「これは本当に自分の作品なのか」という疑問に苦しんでいました。そんな彼のもとを訪れたのが、AI倫理監査官の黒柳佳明。黒柳は強制ではなく対話を通じて、日向に本質的な問いを投げかけます。 「あなたはこの物語の"声"が、誰のものだと考えていますか」 AI技術の進化により、誰もが「創作者」になれる時代となった今、多くのクリエイターが抱えている「これは誰の作品なのか」という問いをテーマにした作品です。
本文
黒柳は部屋に入ると、ゆっくりと周囲を見渡した。
デスクの上のモニター、本棚に並んだ映像関連の書籍、壁に貼られた作品のメモ。
彼は何も言わず、ただ静かに観察をしていた。
「どうぞ、座ってください」
日向は黒柳に椅子をすすめる。
自分もデスクの椅子に座った。
黒柳がコートを脱ぎ、膝の上に置いた。
「堂本さん、まず確認したいのですが、あなたは現在、AIツールを使って創作活動をされていますね」
「はい」
「どのようなツールを使われていますか」
日向は少し緊張しながら答えた。
「主に、テキスト生成AIです。モデルはいくつか試していますが、最近はオープンソースのものをカスタマイズして使っています。あとは、自分でコードを書いて、プロンプトを自動生成する仕組みも作っています」
黒柳は頷いた。
「その過程について、もう少し詳しく教えていただけますか。たとえば、今朝はどのような作業をされていましたか?」
日向はモニターを指差しながら言う。
「短編を一本、仕上げているところでした。プロットは自分で考えて、AIにシーンごとの描写を依頼して、それを編集しながら全体を組み立てています」
「なるほど。加筆や削除はどの程度されますか」
「けっこうしてます。AIが出してきた文章をそのまま使うことはほとんどなくて、自分で書き直したり、言い回しを変えたり……。全体の半分くらいは、自分の手が入っていると思います」
黒柳は、うんうんとうなずく素振りを見せた。
「では、1つ質問させてください。堂本さんにとって、その作品は”あなたの作品”ですか」
日向は言葉に詰まった。
この質問は、彼自身が何度も自問してきたものだった。そして、今も明確な答えを出せずにいるものだ。
「……わかりません」
日向は正直に答えた。
「僕が考えたプロットで、僕が編集して、僕が完成させた。それは事実です。でも、文章の半分はAIが生成したものです。それを”僕の作品”と呼んでいいのか、僕自身もよくわからないんです」
黒柳は、穏やかな表情で、頷きながら聞いていた。
「その曖昧さが、今の時代の創作者が直面している問題なのかもしれませんね。同じ悩みをもっているのは、貴方だけではないと思いますよ」
彼は少し間を置いてから、続けた。
「堂本さん、一つお願いしてもよろしいですか。今、手がけている作品を見せていただけますか」
日向は一瞬ためらった。
しかし、拒む理由もなかった。
パソコンはすぐ目の前にあるし、何より自分は倫理に反しているつもりはないだから。
彼はモニターの画面を黒柳に向け、テキストエディタを開いた。
作品統計
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