風狼戦記-Bullet of Queen-
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
経済が崩壊した近未来日本。 国家は形骸化し、企業が「株=デジタルポイント」を銃で奪い合う“合法戦場”が社会を支配していた。 弱小企業・繋士商事に入社した新人リオ・カザギは、亡き父の死の真相を追うため、 孤高の先輩・ナツ・オウガミとバディを組む。 風のように柔らかく、狼のように鋭く——正反対の二人が衝突しながらも、 次第に信頼と絆を築いていく。 だが、世界の裏を操る「元締」カムラギの陰謀が、二人を戦いの渦へと引きずり込む。 奪うか、守るか。 株と銃弾が飛び交う経済戦争の果てに、少女たちは“真の女王(クイーン)”となる。 現実と理想が撃ち合う近未来バディ戦記——『風狼戦記 -バレット・オブ・クィーン-』
本文
第8話 空白の時間
事務所の午後は、深呼吸みたいにゆっくりしていた。
戦闘の気配はひとかけらもなく、蛍光灯の光さえ眠たげに見える。
こういう時間が永遠に続けばいいのに、と誰かがこぼしそうなほど穏やかだった。
サナエが資料を抱え、ヒロミツのデスクへ近づくと、ヒロミツは椅子をくるっと回し、当然のように通せんぼした。
「ちょっと通してください」
「まぁええやないですか。俺と一息ついてからで」
「ヒロミツさん、またそういう……」
サナエは困った顔をしているけれど、本気で怒っているわけではない。
むしろ、あしらう技術が上手くなってしまったぶん、対応が妙に慣れてきている。
ヒロミツはサナエの優しさに付け込み、更に近付き両足で彼女の体をホールドした。
「ヒ、ヒロミツさん、椅子近いですってば!」
「そんなん、サナエが可愛らしい顔するから悪いねん」
「……そんなこと言っても誤魔化されませんよ!」
「誤魔化してへんで。素で言うてる」
息を呑んだサナエの耳が、ふっと赤く染まる。
軽口なのか、本音なのか。
彼の言葉は体温が読めないぶん、余計に心の深いところを揺らしてしまう。
給湯器のほうでコト、と小さな音がした。
リオが丁寧にカップに湯を注ぎ、その手元に湯気がふわりとのぼる。
ヤクモは横目でそれを確認しながら書類を閉じた。
「ヒロミツさん、今日も……賑やかですね」
リオの控えめな敬語に、ヤクモが口元だけで笑う。
「まぁ、あの二人は騒いでるくらいで丁度いいんだ」
「ふふ、確かに……そんな気がします」
リオはコーヒーを受け取ってもらうと、そっと笑みを落とした。
ヤクモはマグを受け取り、ひと口すする。
「お前の淹れるコーヒーは落ち着くな」
「ただのスティックコーヒーですよ?」
「いや、それでも味は変わる。人によって違うもんだ」
頬を緩めて呟くヤクモの言葉に、リオの頬が少し赤くなる。
ヤクモはその変化を見逃さず、静かに目を細める。
背中を預けられる相手というのは、こういう温度の人間なのだろう。
「おーおー、なんや? 二人でえぇ雰囲気出してますやん?」
すかさずヒロミツが割って入る。
サナエは「ああもう!」と声を上げ、書類で彼の肩をぽすっと叩いた。
「ヒロミツさんは黙っててください!」
「なんでや。俺だけのけもんか?」
「そうじゃなくて……ちょ、何してるんですか!?」
ヒロミツは甘えるようにサナエの腰に腕を回す。
「やっぱり意識してくれてるん?」
サナエの顔が一気に沸騰する。
どう反論しても、彼のペースに巻き込まれるが、その巻き込まれる感じが――嫌いじゃない自分がまた面倒くさい。
「……あの、お二人とも落ち着いてください」
リオが控えめに声を入れる。敬語が少しだけ震えていた。
ヤクモは横で静かに肩を揺らし、笑いをこぼす。
「まぁまぁ。こういう時間も悪くないだろ」
「はい……。すごく……いいと思います。こういう午後」
コーヒーの匂い、笑い声、くすぐるような空気。
戦場の殺気とは無関係の、ぜんぶがやわらかい時間だった。
この穏やかさがあるからこそ、次の戦いにも立ち向かっていける。
物語はこういう“余白”で深く息をする。
作品統計
📚 本を探すなら「よみどき」(あいぺんが運営する本の発見サイト)
130万冊を超えるコミック・小説・書籍の順位と値段を毎日みて、いま読むものを決められます。