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第18話 神環の名

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📅 公開日: 2026/1/2 📚 シリーズ: 神環ノ縁~和風ソシャゲのモブ神主に転生したので巫女たちと縁を繋いで穢れを祓います~ 📝 4,473文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

神環ノ縁~和風ソシャゲのモブ神主に転生したので巫女たちと縁を繋いで穢れを祓います~ - 第18話 神環の名

本文

──それは、異変の兆しだった。

「……この反応……ただの穢れじゃないわね」

 綾音の表情が、わずかに緊張を滲ませていた。

 神環の南方、霊気の流れが極端に乱れた谷──黒鳴渓こくめいけいと呼ばれるその地は、これまで幾度となく小規模な穢れを発することがあり、神職たちの巡回対象ではあった。だが、今の波形はそれとは異質だった。波長、密度、拡散速度……すべてが通常の霊災と桁違いの水準に達していた。

「これは……災というより、来るべきものの兆しかも」

 綾音の言葉に、八雲は頷く。

 この波形……見覚えがある。

 記憶の奥。それは、かつてのゲームにおいてプレイヤーたちを熱狂させた、ある大型イベントの開幕波形と酷似していた。

「……レイドイベントか」

 ぽつりと漏れた呟きに、レンが首を傾げた。

「八雲くん?」

「いや、なんでもない。……ただ、これは間違いなく通常の対応では間に合わない規模だ」

 思考を切り替える。この世界において、レイドバトルなどという概念は存在しない。

 かつて、ゲーム画面で何度も見た表示。世界ボスイベント発生中──というアナウンスとともに、多人数参加型の決戦が始まるときのあの演出。ゲームでは、多人数のプレイヤーが同時にボスを殴り合い、DPSや貢献度によって報酬が配分される。

 だが──多数の巫女、神職、軍勢を要する災厄対応という形式は、まさしくそれに近しい。

「都が軍を動かすのも当然だろうな」

「ええ。……既に、近衛軍だけでなく巫術院からも神技適性者が派遣されるそうですわ」

 綾音が差し出した巻状の通達書には、明確に巫術院・神環適格者四名の派遣と記されていた。

 八雲は無意識に眉を寄せる。

 巫術院から神技が使える人材……? それが、複数名?

 未だ登場していない巫女たちなのは、間違いないだろうが、一体、誰が来るのか。

 ──物語は、再び基盤そのものを揺るがす局面へと進もうとしていた。

 ◇ ◇ ◇

 ──翌朝、黎明の風は鋭かった。

 まだ陽も昇りきらぬ霊路を、五人の影が進んでいた。八雲を中心に、レン、綾音、玲、響。それぞれがすでに共に戦ってきた絆の中で、必要最小限の動きと息遣いで前進する。

 目的地は黒鳴渓──異常波動の発生源であり、現在は近衛軍・巫術師団・神環巫女部隊の合同展開地とされている。

「もう見えてきたな……あれが集陣拠点か」

 高地の尾根に立った八雲の視線の先、広がる霊場に仮設の霊符陣、重ねられた結界層、数十を超える神職や巫女たちの影が忙しなく動いていた。

「……本当に、軍勢だね……」

 レンの言葉には、どこか遠い感慨が混じっていた。

 巫女たちの戦いとは本来、神環との対話であり、同時に祈りであり、個の感応である。だが、今この空気にあるのは──圧倒的な数、組織された配置、指揮者の掛け声。あまりにも整いすぎた戦争の匂い。

 かつて、ゲーム内の期間限定イベントで経験した──全プレイヤーが共闘し、報酬と貢献を競った大型レイドイベント。

 ──しかし今は、あれとは違う。

 競うのではない。生きるために共闘する。

 ただ、それでも根底の設計思想に似た気配があることを、八雲は否応なく感じ取っていた。

 ◇ ◇ ◇

 陣営最奥、封域前線にて。

 八雲たちは合流と報告を済ませ、前線警戒の補助として配置されていた。

 その時だった。

「よろしくお願いします。巫術院から派遣されて来ました」

 ひときわ澄んだ少年の声が、背後からかけられる。

 振り向いた先、軍服に準ずる霊装を纏い、大太刀を背負った少年が、軽く手を上げてこちらに歩み寄ってきていた。

「──巫術院・派遣班、綾小路壮馬です」

 その声と名に、八雲の鼓膜が瞬時に反応する。

 ──綾小路壮馬。

 ──男だと……?

 その姿は、まさに違和感の結晶だった。華奢な体格に、年齢は恐らく十七、八。視線には曇りがなく、声の調子も滑らかに整っている。

 だが、八雲の驚きはそんなことではない。神技を使える男は、主人公、つまりプレイヤーの分身たるキャラクターの固有能力であり、性交渉を通じて巫女たちの神技を使えるようになる。それがこの世界の元となったソーシャルゲーム、神環ノ縁というゲームの根幹設定のはず。そして、この世界においては主人公とはレンであり、女性として異世界転移を果たしたせいで自分が媒介として神技を使っている。

 ──何がどうなっているんだ?

 声も出せないまま驚きを隠せない八雲に、考える暇を与えない状況がさらに続く。

「お兄ちゃん!」

 快活な女性の声が、続くように重なる。

 八雲の視界の端から、長い黒髪を後ろで結び、薙刀を背にした少女が姿を現す。

「神環壱香、巫術院・次席。お兄ちゃん、久しぶりっ」

 ──心臓が、跳ねた。

 ……壱香。

 それは間違いなく、八雲のこの世界における妹の名前。神技を使う巫女としての力はなく、おそらく自分同様にNPCどころか、ゲームにおけるフレーバーにすら存在しないものの、異世界としてのここには確かな人間として存在する一人。

 巫術院に二年前から留学していたのは八雲の知るこの世界の事実だが、八雲の知るゲーム知識の中には、神技を使う巫女にその名前は無い。

「やっほ、なんや随分お淑やかな再会しとるけど、そっちの巫女様方、ちょっと顔引きつってはりますえ」

 粘っこい関西弁と共に、柔らかな微笑を浮かべて現れたのは──黒髪を短く整えた、目元の鋭い少女。

「黒岩双葉、よろしゅう。どっかで聞いた名前ばっかやわ。ふふ」

 さらに、もう一人。

「──戦術展開は二分割で頼む。わたしたちは後衛から牽制に回る」

 静かに言ったその少女は、灰がかった髪に無表情のまま。

「風積散華。作戦時の連携は、最小言語で頼む。混線を嫌う」

 四人。

 綾小路壮馬と巫術院三巫女。

 八雲は、まだ言葉を返せずにいた。

「お兄ちゃん、元気そうでよかった。わたし、ずっと会いたかったんだよ?」

 ──神環壱香は、そう言って笑った。

 明るく、よく通る声。その響きに、八雲は反射的に胸の奥を揺らされた。

 妹が、目の前にいる。

 この世界における記憶のままの姿と声で、同じように無邪気に笑いながら。けれど──

 これは、俺が知っている物語じゃない。

 そんな八雲の困惑に気づかず、レンは隣で呟く。

「まさか、あの壱香ちゃんが八雲くんの妹だったなんて……」

 ──なんだと?

 聞き捨てならないレンの言葉に、八雲がめくばせをレンに送り、綾音たちと壮馬、壱香が談笑する中、二人で少し集団から離れる。

 なぜレンが会ったことがなく、自分も話したことがない壱香を知っているのか? そう問う八雲に対して、レンの答えはさらに驚きをもたらすものだった。

「えっ壱香ちゃんは、このゲーム…と今は言っていいのかわからないけど、神環ノ縁で最初に登場するキャラクターでこのゲームのえっちなことを最初にチュートリアルって言うのかな、で主人公としちゃう子だよ」

 八雲はそんなチュートリアルは記憶にない。神環神社の前に降り立ち、NPCである八雲に場所を聞いて、すぐに無料ガチャで最初の仲間を引く、という流れだったはず。その時にいわゆる保証最高レアキャラ──綾音が含まれる──を引いて、最初の寝室シーンという内容だった。

「少し詳しく聞かせてくれ。レンの知る話だと壱香は、最初に仲間になる巫女なのか?」

「ううん、壱香ちゃんは巫女の力が無いから主人公の冒険はサポートするけど戦闘は出来ないって子だった」

 ソーシャルゲームにおける、俗に言うナビゲーターキャラクターという立ち位置だったようだ。そういう意味では、八雲の知る巫女の力が無い壱香という立ち位置にズレはないが……今、目の前にいる壱香は巫女として来ている。

 そんな八雲を見ながら、レンはおずおずと語りだした。

「これ本当は言ったらダメって物凄く厳しく言われるんだけど、さすがにこの状況だからいいよね。私が担当する予定だった柊ユリって子はゲーム開始一周年記念キャラクターの一人だったの。そして、同時実装予定が、八雲くんの妹の神環壱香ちゃんだったの」

 ナビゲーターキャラクターのプレイアブル実装、ソーシャルゲームのアニバーサリーイベントでは定番と言って良いレベルの盛り上がる王道の手段だ。つまり、今の状況を見る限り、壱香が神技の巫女として存在するのはレンの知る神環ノ縁では、間違っていないということか。

 ──それに。

 今の今まで、思い至らなかった事実にぞくりとする感覚が走る。

 ──おかしいのは間違いなく俺のほうだ。

『神環壱香、巫術院・次席。お兄ちゃん、久しぶりっ。』

 妹の名はその通りだ。そして、俺の名は──神環八雲。

 神環神社の宮司、最初に出てくるだけの取るに足らないNPC。──そんなはずはないのだ。神環ノ縁と名付けられたゲームにおいて、神環の名を持つキャラクター。

 妹の壱香の場合、ナビゲーターキャラクター、そしてアニバーサリープレイアブル実装、その特別扱いに相応しい名。その兄として生を受けたこの俺は、本当に何者として転生したのか?

 いや、そもそも……

 ──俺は本当に転生した、現世では山本祐一と名乗った男だったのか?

 この異世界が確実な体感として刻まれていく一方で、反比例するかのように自らの存在感が薄れていく。俺は一体何をどうしたら……

「八雲くん?」

 不安そうな目でこちらを見るレンが視界に入る。

 ──そうだ、俺はこの子を元の世界に戻す、と約束したんだ。自分が何者かなんて、その後で考えれば済む話だ。

「すまない、戻ろう」

 レンを促して皆の元へ戻った。

 ◇ ◇ ◇

 ──沈黙を切ったのは、壮馬だった。

「神環八雲さんですね。お噂はかねがね」

 礼儀正しい口調。だが、その声色には年相応の若さと、妙な距離の詰め方のうまさがあった。

「僕たち、巫術院からの派遣ということで、短期間ですがご一緒させていただきます。後衛展開と神技支援の役割分担、調整しながらやれたらと思ってます」

「……こちらこそ、よろしく頼む」

 言葉を返しながらも、八雲の思考は止まっていなかった。

 噂とは何だ。俺はそんな立場か?

 巫女たちを通じて媒介者としての役割が都に伝わっていたとしても、この彼の口ぶりは──まるで……俺を主人公のように扱っている。

 ──だが、同時に。

 この場において、圧倒的に主役の風格を帯びていたのは──他でもない、この少年のほうだった。

 艶やかに結んだ長刀の柄。所作に迷いがない。一歩、踏み込むたびに重心がぶれない。

 ……剣士の型が、完成している。

 それだけじゃない。神環巫術に関わる気配が──まとわりついている。

 壮馬の肩越しに見えるのは、壱香、双葉、散華の三人。いずれも巫術院の制服を改良した戦闘装束を身に纏い、八雲たちの巫女装束とは一線を画す、より軍務的な規律と機能性を帯びていた。

 その様子を見ながら、八雲は改めて思う。

 八雲の知るゲームとしての話。双葉も散華も、初期配布低レアとして記憶には残っていた。しかし、そこに壮馬と名乗る彼はいなかったし、もはや別物と考えたほうがいいだろう。

 考えてもキリがない。神社に残していた転生前の記憶をまとめた資料も今となっては、すべてが怪しい。

 だが、まずは今回の大規模戦闘を無事に終わらせることを考えよう。大事な妹まで参加するとなると猶更だった。

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作者について

悠希

悠希

WEB小説投稿者 あいぺん、ノクターンノベルズ、ソリスピア、小説家になろう、カクヨム、pixiv、caitaにて作品投稿中

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