3節 殺さない理由(終)
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ある刑事の叙事詩 《夜の王国 ~選択と調整の病理~》
本文
## 【第4章 法則の正体】
### 【3節 殺さない理由(終)】
残り時間――**一時間四十八分**。
小坂は、動画を何度も巻き戻していた。
背景。
壁の染み。
床の傷。
男の呼吸の癖。
「……音」
小坂が、低く言う。
「先輩?」
「反響が、
少し広い」
朝霧は、
すぐに理解しようとする。
「倉庫……?」
「いや、
**倉庫を改装した場所**だ」
小坂は、
メモを取りながら続ける。
「天井が高い。
だが、
反射音が柔らかい」
「壁に、
断熱材か何か……」
「あるいは、
**古いスタジオ**」
朝霧の目が、
僅かに見開かれる。
「……都内に、
そういう場所、
あります」
「しかも」
小坂は、
画面を一時停止する。
「**電源音がない**」
「え?」
「非常用電源だ。
——長くは、
持たせない」
犯人は、
**時間を制限することで、
判断を急がせている**。
「……先輩」
朝霧が、
覚悟を決めた声で言う。
「場所、
絞れます」
彼女は、
スマートフォンを操作する。
「個人で使われている、
都内の旧スタジオ。
水辺。
人目が少ない」
「……湾岸だな」
小坂は、
すぐに頷いた。
「豊洲、
辰巳、
東雲……」
**犯人は、
同じ“動線”を好む。**
——見せる場所。
——捨てられる場所。
「……行きます」
朝霧が、
立ち上がった。
「一人で?」
「はい」
彼女は、
迷わなかった。
「“公式”じゃない。
“個人”です」
小坂は、
一瞬だけ、
目を閉じる。
——彼女を止めれば、
十二年前の自分になる。
「……俺は、
**記録を続ける**」
小坂は、
はっきりと言った。
「通信は、
切るな」
「了解」
朝霧は、
振り返らなかった。
ドアが、
静かに閉まる。
残された小坂は、
タイマーを見る。
——**一時間三十二分**。
「……今度は、
逃げない」
その呟きは、
自分自身への誓いだった。
---
午後九時前。
湾岸エリア。
倉庫を改装した、
古い音楽スタジオ。
朝霧は、
遠くから建物を見つめていた。
「……当たり」
灯りは、
一室だけ。
彼女は、
深く息を吸い、
建物に近づく。
——鍵は、
**開いていた**。
「……誘ってる」
中に入ると、
音が、
異様に吸われる。
奥の部屋。
そこに——
**椅子に縛られた男**。
「——無事ですか!」
秘書の男が、
顔を上げる。
「た、助けて……」
その瞬間。
——カチ。
背後で、
**シャッター音**。
「……正解だ」
静かな声。
朝霧は、
振り返った。
帽子を被った男。
顔は、
まだ影の中。
「君は、
“選んだ”」
男は、
淡々と言う。
「……だから、
次は——」
朝霧は、
一歩、前に出た。
「**あなたを、
選びます**」
男が、
初めて言葉を止めた。
「裁く側でも、
裁かれる側でもない」
朝霧は、
震える声で、
だが確実に続ける。
「——止める側です」
数秒の沈黙。
そして。
男は、
ゆっくりと笑った。
「……想定外だ」
その言葉は、
**初めての“敗北宣言”**だった。
---
その頃。
非公式拠点。
小坂のスマートフォンが、
震えた。
『選択を、
確認した』
短いメッセージ。
小坂は、
静かに打ち返す。
『次は、
お前だ』
送信。
既読。
——裁判は、
**逆転を始めた**。
---
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