第8話 大一番
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
VVB(Virtual・Venus・Baseball)、Vtuberと女子野球が=になった世界で - 第8話 大一番
本文
「投手陣、あと涼宮、ちょっとこっち来い」
「はい!」
「すぐに向かいます」
県大会決勝を明日に控えて、軽い練習とミーティングをやった後。
監督に投手陣一同とアヤが呼び止められた。
「いったいどうしたんですか? もしかして明日の先発がボクだったり……⁉︎」
「それに近いな」
「……え?」
まさか肯定されるとは思わなかった。
だって、ゆら先輩を差し置いて私が投げる理由なんて無いんだから。
「もしかして……ゆら先輩に何かあったんですか?」
「肘に違和感があるらしい」
「……!?」
ざわ……と、緊張感が急速に高まった。先輩達にも動揺が見られる。
当のゆら先輩はあまり深刻そうにはしてないけど……
「別にそんな重いもんじゃない、あくまで違和感だ。
だが万が一の事もあるからな。霧雨には何か異変が起きたらすぐに伝えるように言ってあるし、そうなったらすぐに交代する。
場合によっては早くから降板する可能性もあるから、その場合は投手陣をフル投入した総力戦になる。故に、総員覚悟と準備をしておくように」
「「はいっ!」」
「明日を切り抜けられれば暫くは安静にしていられる。
そうすれば肘も良くなるかもしれないけど……直前の報せになって申し訳ない」
「いえ、ゆら先輩は悪くありません! 野球選手として身体を労るのは当然ですし!」
「そうよ! それよりも将来の心配しなさい?
もしかしたら明日の登板で鵺ちゃんの評判が爆上がりしてドラフト1位の座を搔っさらっちゃうかもね?」
「私は鵺の実力を疑った事なんて一度も無いよ。頼りにしている」
「えぇ、頼りなさいな」
3年の黒露 鵺(くろつゆ ぬえ)先輩。
特待生では無いけれど、努力を重ねて今年初めてベンチ入りした人だ。
多彩な変化球を駆使する軟投派。
ゆら先輩の影に隠れがちで、大会でも特待生である私が優先的に登板してるけど……その技巧派っぷりはすでに各所で話題になっている。
鵺先輩が直前に投げてるおかげで私の直球が生きる場面もあるから、私もこの人には頭が上がらない。
なにはともあれ……明日は県大会決勝戦。
勝てば全国大会への切符が手に入る。ゆら先輩達にとって最後の大会だ。
私も不甲斐ない投球は出来ないな。
※※※※※
『さぁ、県大会決勝戦もいよいよ大詰めです!
3対1。聖ミレア学園が2点を追い掛ける展開のまま9回裏を迎えました。
この回からマウンドに立つのは火の玉ストレートの日向 火夏。
キャッチャーは相方の涼宮 冷に代わっています』
「ふぅ〜……っし!」
大きく息を吐いて、ゆっくりと深呼吸。
緊張はするけど、頭は冷静だ。大丈夫、私はいつも通りに投げられる。
相手は私のライバル、ベラが所属する聖ミレア学園。
紅蓮先輩の先制3ランでリードは奪ったものの、ゆら先輩が肘の違和感を訴え3回でマウンドを降りた。
その後を引き継いだ鵺先輩はランナーを出しながらも3回無失点の力投。
その後も先輩2人が1回ずつ投げ、1失点したものの2点リードで9回まで来た。
そして……私とアヤが、この場面を任された。
相手は9番から。上位打線に回るからこの打者は確実に取っておきたい。
「ふっ……!」
アヤが構えるアウトローにストレート。
バンッ、と音が鳴り響きストライクのコール。
「……よしっ」
大丈夫。私のピッチングはミレアにも通用する!
次は同じコースでチェンジアップ。完全にタイミングを外してこれも空振り。次はインハイに……!
『空振り三振! 華月学園優勝まであと2人!』
よし、まず1人。
次の打者は駿足巧打のクラーラ・ブルースター。
セオリー通り低めに……
「ファール!」
当てられた……だけど振り遅れてる。
甘い所に入らないように注意して……
「ボール!」
落ち着け、私。
まだカウントには余裕がある。丁寧に攻めるんだ……!
「ボール!」
……くそ!
落ち着け。深呼吸深呼吸……
アヤのミットは意表を突く為か高めに構えられている。
そこに向かって思いっきり……!
『叩き付けるような打球! サード送球するが……セーフ! セーフです! 記録は内野安打!!』
厄介なのを出しちゃったな……
大丈夫、クイックの練習だってしてきたんだ。
次の打者は技巧派の鈴村 愛理。
色んな変化球に上手く合わせてくるタイプでバントも得意。
この場面でバントはしないと思うけど、ランナーのブルースターは盗塁王の最有力。
アヤは盗塁対策に高めのサイン。
「ボール!」
ランナーは動かない。
……また高め? いや、迷うな。私はアヤのリードを信じる!
「ボール!」
また動かない。
3ボールは避けたい。今度は低めに……
『ランナー走った! 悠々セーフ!』
……落ち着け。落ち着け落ち着け落ち着け。
「ボール! フォアボール!」
結局鈴村に10球以上粘られた上にフォアボール。
ランナー12塁で迎えるはクリーンアップ。
3番打者のマリナ・アジャーニ。
広角に打ち分ける強打者だ。
「ふぅ……っ!」
『低めにストレート! これは外れました』
さっきからコントロールが定まらない。
アヤが構えるコーナーギリギリのコースが尽く外れてしまう。
……いや、大丈夫。私は冷静だ。落ち着け私。
2球目は見逃し取ったけど3球目のインローは外れてボール。
次は真ん中高めに……
『マリナ打った! しかしこれは切れてファールです!』
「……っ」
ドッと汗が噴き出る。
打球がもうちょっと内側に入ってたらサヨナラ3ランだった。
追い込んではいるけど怖い……アヤもそうなのかリードがまたコーナーギリギリだ。
「……ふっ!」
「ボール!」
3ボール2ストライク……満塁にはしたくないし、かと言って甘く入ったら最悪ホームラン。
アヤの要求は低めギリギリ。
「ふっ!」
「……ボール! フォアボール!」
『あーっとこれで二者連続フォアボール! 日向、満塁のピンチを迎えます!』
あああああああなんでだよぉぉぉ……! 今の入ってないのっ!?
『さぁ、この絶好の場面で出てきたのはベラドンナ・ドラゴンハート!
2年生ながら名門聖ミレア学園で4番を任せられた実力者です!』
ベラ……! 1年の頃から張り合っている私のライバルにして親友。
ただ戦績は私が勝ってるし、ベラは今大会では打率も2割切っていて絶不調。
ここでゲッツー取って終わらせる……!
『ピッチャー振りかぶって……投げました!』
「ストライク!」
よし……! まずは1ストライク。
次は高めに外れるボール球、と。
「あっ……!?」
「く……!?」
『あぁっとすっぽ抜けた!? 危うくキャッチャーの頭上を越える所でした』
あっぶな……アヤが捕球してくれなかったらランナー帰ってた。
落ち着け落ち着け……
次は低めの内角。ベラが最も苦手とするコース。
「ふっ!」
「あ……!?」
『あーっと!? 今度はキャッチャー後逸!? 三塁ランナーホームイン!
他のランナーも次の塁に進みましたっ!!』
「……ぐぅっ」
やっちゃった……
やっちゃったやっちゃったやっちゃった……!!
逆球になってアヤがボールを取り損ねた。
普段のアヤならそんなミスしないのに。
私がミスったから……私のせいで……!
試合は1点差になってランナー2、3塁。
ベラを敬遠しようにも、次の5番……魔犬・レトは今大会の打率4割越えで絶好調。
敬遠でレトに回したら犠牲フライで同点の場面になってしまう。
だからここは相性の良いベラで1アウトをもぎ取る必要がある。
アヤが構えるのは再びギリギリの内角。だけど、もう無理だ。
私は首を降って拒否の意思を伝える。
「……」
また内角……! 無理……っ
「……」
今度は外角低め。またゾーンギリギリだ。
違う、違うんだよアヤ。
今の私のメンタルじゃ細かいコースなんて投げられない……!
「……っ」
私の気持ちを汲んでくれたのか、アヤは苦い表情をしながらも中央寄りの低めに構え直してくれた。
球種はチェンジアップ……これでタイミングを崩して、次の渾身のストレートで抑えるプランだ。
うん、そうだよ! コースは甘くなるけど、私とアヤはこのコンビネーションで今までもベラに勝ってきたんだから……!
深呼吸して、肩の力を抜いて、アヤのミットをしっかり見据えて……
「ふっ!」
投げた。
悪くない球だった筈だ。
だけどボールとバットが接触する瞬間、妙に遅く感じて……それだけで、その後の運命が容易に想像出来た。
『打ったーーー!! 大きい、大きいっ!
これはもう打った瞬間! ベラドンナ・ドラゴンハート、逆転サヨナラ3ランホームランっ!
3ランで始まり3ランで終わったこの試合は聖ミレア学園が逆転勝利!
見事全国大会への切符を手にしました!!』
「あ……」
終わった。
「あぁ……っ」
いや、違う。
私が終わらせたんだ。
「あああ……あああ……っ」
華月学園の夏を
ゆら先輩達の最後の大会を
私が全部……ぶち壊した。
「ああああああぁぁぁ……っ!!」
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