第18話 復活と飛躍(終)
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
VVB(Virtual・Venus・Baseball)、Vtuberと女子野球が=になった世界で - 第18話 復活と飛躍(終)
本文
運命の日。
茹だるような暑さ……と言っても私達の会場はクーラーガンガン効いた屋内だけど……の中、ついに夏大会が幕を開けた。
第一回戦、華月学園対蔵鶴高校。
華月学園は後攻……投げるのは、私だ。
『ピッチャー、日向 火夏さん」
アナウンスが響くとスタジアムが揺れる程の大歓声が響いた。
アバターを通じて客席から見ている人達……スマホやPCに繋いでいるマイクからリアルタイムで伝わる彼等の熱量。
巨大モニターの下部にはリアルタイムで流れるチャット欄。
《お帰り!》
《待ってたぞ火の玉ガール!》
《華月のエースが帰ってきた!》
《頑張れ、負けるな火夏ちゃん!!》
そんな……応援のコメントで埋め尽くされたモニター。
「ありがとう、皆」
思わず涙が零れる。でもこれは悲しみじゃない……喜悦だ。
私はこの為に頑張ってきたんだと改めて実感したから。
アヤが構えるミットはド真ん中。
復活の第一球は派手じゃなくちゃね。
腕を構えて、腰を捻って、足をコンパクトに振り上げて……
想いを乗せたそのボールは何処までも速く、強く……重厚な音を立ててミットに突き刺さった。
※※※※※
「ふぅ……っ」
県大会、全国大会を終えて10月15日。
NPBと視聴者の取り合いを防ぐ為にVVBのドラフト会議は少し時期がズレる。
オマケにチーム数が多いので昼間から始まるから、指名候補の私は朝から結構バタバタだ。
「由香」
「ひゃっ!?」
セッティングする報道陣を椅子に座って眺めていたらアヤから声を掛けられた。
周りに聞こえないよう、背後から抱き締める様な姿勢で耳元で囁かれてゾワゾワして情けない悲鳴を上げてしまう。
「緊張してる?」
「そりゃ、まぁ……」
「由香は華月の……いえ、全国大会優勝チームのエースなんだから堂々としていなさい」
「うん……っ!」
とは言っても緊張するもんは緊張する。
「ふっ……」
「ひゃわあ!? アヤぁ! 耳に息吹きかけるなぁ!」
「だってガチガチなんだもの。ほら、テレビ見てみなさい。注目選手だって。由香が紹介されるかもよ?」
「え、どうだろ……」
そこまで言われて、私は周囲の音が聞こえない程緊張しているのだと気付かされた。
やっぱりアヤには適わないな……
『堂坂さんの注目選手は誰でしょうか?』
『そうですねー、やはり大学選抜のショートを務めた我露那。
高校生No.1スラッガーのベラドンナ。
そして……奪三振記録を更新した日向でしょうか』
『日向選手は去年大怪我を負ってプロ入りも危惧されていましたが……見事復活しましたね!』
『そうですね。投げられない期間は徹底的に走り込んだと聞きます。
それによって足腰が鍛えられてコントロールが非常に安定しました。
あのストレートをコーナーギリギリに投げられたら打てないですよ!』
「……だって」
「嬉しいけど照れるね」
「自信持ちなさいって」
アヤは呆れた様に微笑んで、少しだけ抱き締める腕に力を入れた。
「由香がプロになったらおいそれと由香とは呼べなくなるわね」
「まぁ、ね。注目度は段違いだし、どんな所からか漏れるか分からないからプライベートでも日向 火夏として過ごさなきゃ。
ファンの夢や幻想を守るのもプロ野球選手兼VTuberの仕事だもん。それはアヤも同じでしょ?」
「指名されたら、ね」
「されるよ」
「私の事になったら自信満々ね」
「誰よりもアヤの事見てきたしね」
「……そう」
「ねぇ、暫く言えなくなるから最後に呼び合おうよ」
「……恥ずかしいから先に言って」
「うん。今まで私の球を取り続けてくれてありがとう。
君は最高の親友でパートナーで……恋人だ。大好きだよ、アヤ」
「焚き付けるのが上手ね、由香」
「んん……!?」
アヤが更に顔を近付けたと思うと、後頭部をガシッと掴まれてキスされた。
さっきは恥ずかしいとか言ってたくせに……!
「ん、んんー!」
「ん……ぷはっ」
「なにするのっ!? 人が沢山居るのに……っ」
「由香」
私の抗議は耳元への囁きで掻き消される。
「私も同じ。最高の親友でパートナーで恋人で……でも、ライバル。
全国大会は涼宮 冷のリードありきだと言われないように気合い入れなさいよ、由香」
「アヤ……うん! 私もアヤが……いや、冷もプロになれると思ってる。
違うチームやリーグになるかもだけど、それでも火夏と冷は一番の理解者でライバルだよ」
「宜しい。じゃ、そろそろ始まるし私は下がるわね」
アヤが下がるとすぐに監督が隣の椅子に腰掛けた。
うん、指名候補って監督と2人で座ってるよね。
「お前等人前で……」
「スミマセン……」
怒られた。当たり前だけど。
そうこうしている内にドラフト会議が始まった。
『山形アリゲーターズ……ベラドンナ・ドラゴンハート。聖ミレア学園』
次々と1位指名が続く。
ベラは流石に複数のチームが指名してるな。
『横浜ベイトブレス……日向 火夏、華月学園』
「……あ」
「やったー!」
……ビックリした。この声はネリアちゃんかな?
ちらりと声の方を向くと両手を合わせてごめんなさいポーズ。可愛い。
……そっか、私指名されたんだ。
そうか
そうなんだ……!
私が、プロに……!
「日向」
「監督?」
「まだ指名をする球団もあるだろうが今の内に言っておく。おめでとう。
プロ野球選手、日向 火夏の誕生だな」
「……はいっ!」
※※※※※
「ふぅ、こんな物かな?」
「本当に全部確認した? もう今までみたいに気軽に貸したり出来ないのよ?」
「分かってるよぅ! ボクだってそこまでおっちょこちょいじゃないって!」
3月の卒業式を終えてそれぞれの球団の入寮準備中。
球団と契約を交わした日から、ケジメというかマナーというか……そんな感じでボク達はプライベートであっても日向 火夏、涼宮 冷として過ごそうと決めた。
ボクは6球団競合の末、新潟ナックルズが指名権を獲得。
冷は秋田ブラックバイソンズに5位指名。
奇しくも同一リーグなので正真正銘同期でライバルになった。
「よし、バッチリ!」
「良かった。私も持ってくるわね」
荷物を詰め込んだトランクを持って家を出る。
それから少しして冷も自分のトランクを持ってきた。
「由香……いえ、もう火夏ね」
「お母さん……」
「気張ってこいよ! 新潟は米美味いからたらふく食え!」
「お父さん……うん!」
「火夏」
「冷、そっちは挨拶終わった?」
「えぇ。火夏は?」
「だいじょーぶ!」
「そう。じゃあ、行きましょうか」
「うん。それじゃあお母さん、お父さん……行ってきます!」
ボクの名前は日向 火夏。
新潟ナックルズの新人選手兼VTuber。
ゆら先輩は途轍も無く高い壁で
プロの世界にはそのゆら先輩よりも凄い人が居て
それでも、ボクの目標はVVBでNo.1のピッチャーになる事だ。
「掴んでみせるよ。このストレートで!」
fin
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