第10話 私達の未来(終)
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
あの子が野球選手のお嫁さんになりたいって言ったから - 第10話 私達の未来(終)
本文
「今後のお話をしましょう」
「はい」
シャワーを浴びて、朝食を取って、テーブルを挟んで向かい合う。
「飛鳥ちゃんはどうするつもり?」
「プロでは無くなったけど、とにかく野球は続けようと思う。
何処かしらのクラブチームに入れたら良いんだけど……」
「うん、飛鳥ちゃんには是非野球を続けて欲しいな。
私は私で女子プロ野球復興の道を探っていくね」
「何か考えはあるの?」
「一つね」
あ、聞いて欲しそう。
「聞かせてくれる?」
「ふふん、それはね……Vtuberによる女子プロ野球リーグの発足ですっ!」
「……え?」
何を言っているのだろうかこの子は。
「あ、疑ってるでしょ? でも私は真剣に考えたんだよ。
今までの女子プロリーグは皆真剣にプレーしてた。本気で試合してた。
でも結局は採算も取れず、選手の数が減って休止してしまった。
野球というのは残酷なまでに男女差による違いを受けやすい競技なの。
現在のNPBで当たり前のように150キロの球が投げられる中、女子プロの最高球速は飛鳥ちゃんの投げた135キロ……一球投げる毎にハッキリとした数字の違いを突き付けられる」
「まぁ……それだけじゃなくてホームランの飛距離もね。そこは発足当初からネットでも指摘されてたよ」
「うん。だから私はもっとエンタメに振り切った野球をするべきだと思ったの」
「それがVTuber野球?」
「そう! 私は女子プロリーグが発足した日からずっと盛り上げる手段が無いか考えてきたの。
展望への不安視は当初からされてたからね」
「発足した日って……10年ぐらい前だよね?
あれ、確かその頃から華恋はアニメとかゲームとか色々な趣味に手を出すようになったけど……まさかその為に?」
「そうなの! でも、どれもしっくり来なくてぇ〜……」
ぐでっとテーブルに突っ伏す華恋。可愛い。
「例えば漫画。実際に女子野球を扱って、アニメ化する程ヒットした作品もあるけど、女子野球の普及には然程寄与出来なかった。
ドラマも考えたけど……昔、男子シンクロを扱ったドラマがあったんだって」
「シンクロ……シンクロナイズドスイミング? 男子が?」
「うん。シンクロって言えば女子のイメージだよね。
女子だとメジャーだけど男子だとマイナーな競技。野球も男女逆で同じ状況でしょ?」
「うん」
「それで調べてみたの。その作品は大ヒットして、実際それから数年は男子シンクロの競技人口は増えた。
でも、維持は出来なかった。それでは駄目なの。
他にも舞台やライトノベルも模索してみたけど私にはそれで女子野球を普及させるヴィジョンは見えなかった。そして最終的に辿り付いたのが……」
「VTuber野球、と」
「そう!そもそも女子プロ野球リーグが休止に至ってしまったのは何故?」
「選手の数が減ってリーグの体裁を維持出来なくなったから」
「では何故選手が減り続けてしまったのか? それはプロになるメリットが薄過ぎるから」
「それは……そうだけどさ」
「年俸が少ないからアルバイト等の副業は必須。注目度も低いから承認欲求も満たされないしモチベーションも保ち辛い。
野球さえ出来れば何も要らない! って人も居るだろうけど、そうじゃない人だって居るからね。
飛鳥ちゃんだって、根底には野球愛じゃなくて私への愛で野球を続けてくれてた訳だもんね?」
「そうやって面と向かって言われると恥ずかしいな……それで、VTuberを兼任すればそれが解消出来ると?」
「完璧に、とは行かないけどね。
例えば配布したアバターでのVTuber業を許可したりね。
勿論それだけで食べていける程稼ぐのは簡単じゃないけど、やらなきゃいけない副業の中に“肉体を過度に酷使せず”に“ある程度時間の融通が効く”VTuberが選択肢に入れられるのは大きい筈」
「注目度は……発表されたらそれなりに話題にはなりそうだね」
「良くも悪くもね。でも、少なくとも現実の女子プロリーグよりは人の目に触れると思う」
ちょっと複雑だけどね、と苦笑いする華恋。
「だけど野球選手でVTuberになってくれる人がそんな沢山居るかな?」
「少ないだろうね。野球に真剣に向き合って、厳しいトレーニングに耐えて……その先に顔や本名を隠してプレーしてください。
試合と練習以外にも、空いた時間はVTuberとして活動してください……それを受け入れてくれる人は滅多にいないと思う」
でもね、と続ける。
「話題になってる企業所属のVtuberになる為なら野球でも何でもやってやる! って人ならきっと大勢居るよ。
そして、私が求めているのはそういう人材なの。
歌、雑談、ゲーム、そして野球のプレー……それ等を通じて、観戦料を払いグッズを購入し、熱の込もった応援をしてくれる……そんなファンを獲得してくれる人こそが黎明期には必要なの」
「それだと基準に満たない人もプロとして活動する事になりかねない。
競技レベルの低下に繋がるんじゃ……」
「そこは仕方ないね。どの道生まれたての競技や団体は得てして未熟だから。
競技レベルの向上と維持には競技人口の増加はどうしても必要になる。
最初はメリットを提示して、とにかく女子プロ野球人口を増やさなきゃ。
選手の数が増えればスタメンとベンチに分かれ、一軍と二軍に分かれ、そしてプロに成れる人と成れない人に分かれる。そうやって少しずつ円熟させていくしかないよ」
「じゃあ仮にVTuber女子プロ野球リーグが発足したとして、技術的な問題はどうするの?
トラッキングはボールやスイングスピードに対応出来る?
発足当初は2チームで進めるにしても合計で40人は必要になるけど、その数だけ3Dモデルは用意出来る?
そもそも野球が出来るぐらい広い3Dスタジオなんて何処にあるの?」
「……飛鳥ちゃん」
「なに?」
「それは、これから頑張る!」
「……そっか。まぁ華恋の事だからきっと考えがあって、とっくにもう動いてるんだろうね。
だったら私は華恋を信じる。私は私で野球選手としてレベルアップして、その日に備えるよ」
「……! 飛鳥ちゃんっ!!」
「わっ」
そう言って立ち上がった華恋に勢いよく抱き着かれた。
口では自信満々だったけど、心の底では不安だったのかな。
そっと抱き返して頭をポンポンと撫でると、甘えるようにグリグリしてきた。
「信じてくれてありがとう」
「うん」
「必ず5年以内に実現させてみせる。絶対に飛鳥ちゃんを再びプロ野球選手にしてみせる」
「華恋……」
「だからね、飛鳥ちゃん。その時は……私の夢も叶えてほしいな?」
「……! うんっ!」
華恋の夢……思えばそれが全ての出発点だった。
私では叶えられはしないと諦観の思いを抱えながら野球を続けて、プロリーグが休止になって縋り付く先を失って。
でも華恋は女子プロ野球の為に考えて、動いて、私に再び道と可能性を示してくれた。
私に、夢を託してくれた。
だったら……今まで以上に頑張らないとね。
※※※※※
『さぁ遂に始まりましたVirtual・Venus・Baseball……通称VVBの開幕です!
実況は私、野球大好きVTuber子球 塁が担当させて頂きます!
そして解説は……なんと、東京スカイファルコンズの森田 淳選手に来て頂きましたっ!
森田選手、シーズン中にも関わらずお越し頂いて本当にありがとうございます!』
『いえいえ。僕も女子野球の普及に貢献出来ればと思っていたので。今日という日に呼んで頂けて光栄です』
『はい、ありがとうございます! VVBはブラックフェアリーズ、ホワイトベアーズの2チームで構成されております。
本日の先行はブラックフェアリーズ。ホワイトベアーズの先発は黒点・エスカルゴちゃん。
選手の中で唯一自前の3Dモデルを引っ提げてトライアウトに参加し、ホワイトベアーズから15位指名。
その後頭角を表し、見事開幕投手の座を射止めました!』
意外と凄い人だった黒点・エスカルゴちゃん先輩。
エスカルゴ食べてるだけの人じゃなかった。
『対するブラックフェアリーズの1番は月園 飛恋!
ブラックフェアリーズに1位指名され、前評判通りの実力を見せ付けて1番打者としての出場です!』
「ふぅ〜……」
一つ深呼吸。
心臓が煩い。
何しろ月園 飛恋として初めての実戦。
環境もかつて経験した野球とは違う。
だけど怯んではいられない。
華恋が心血注いで準備してきたVVBがこうして幕を開けたのだから。
約束通りこんなに素敵な舞台を用意してくれたんだから。
だから本気で、全力で、思いっ切り振り抜く!
『打ったーーーーーッ!! ライナー性の打球がライトスタンドへ突き刺さった!
VVBの記念すべき一球目は月園による先頭打者ホームラン!
VVBの未来を暗示するかの様な見事な1発を打ち上げました!!』
痺れる手をギュッと握りしめて、一歩一歩踏み締めるようにダイヤモンドを1周する。
チラッと巨大モニターに映る配信画面に目を向けると、チャット欄には目で追い切れない程のスピードでコメントが流れている。
姿は見えない。声も聞こえない。
でも確かに、この人達はネットを介して見に来てくれた人達だ。
月額料金を払い、アイコンや選手のグッズを買い、リアルタイムで声援を送ってくれる人達だ。
そこに確かな“熱”を感じて、不意に込み上げてきて。
三塁を回った直後に華恋と目が合って、涙を誤魔化すように笑ってホームイン。
私の名前は如月 飛鳥……兼、月園 飛恋。
年齢、25歳。
職業、プロ野球選手……兼、VTuber。
1番の自慢は……世界一可愛いお嫁さんが居る事だ。
Fin
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