第14話 そっくりお返し致します
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
無垢な王女と貧民少女のスラム改革〜培った人脈で魔鉱石採掘労働者の職場環境を改善せよ!!〜 - 第14話 そっくりお返し致します
本文
「以上のように、労働環境の改善により我が第五東区鉱山は目覚ましい成果を挙げております」
「うむ」
王城会議にて、レオノーラは父ダールトンを初めとした大人達にも怯まず、堂々と成果報告を行っていた。
鉱山を開き、準備を調え、稼働してから一ヶ月後……実に三ヶ月ぶりの王城会議だ。
冷たい真実に打ちのめされた前回とは様相がまるで真逆だ。
「如何にして労働者の負担を軽減し、モチベーションを高く保たせるか……その重要性が如実に現れた結果かと」
「お待ちください! 王よ、どうか私に発言の許可をっ!!」
レオノーラの演説を遮り声を上げたのは第三西区鉱山の経営者、ゼニス・リューゼント。
彼の後ろには他にも三名の経営者が居るが、皆一様に苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「発言を許可する。申してみよ」
「はっ! では僭越ながら発言させて頂きます。
ハッキリと申し上げまして、レオノーラ様の手法は邪道と申し上げる他ございませぬ」
「邪道? 理由をお聞きしても宜しいでしょうか?」
「コストを掛け過ぎているのです。実に非合理。実に非効率。
それでは得られる利益などたかが知れているでしょう?」
「確かに皆様のような贅沢が出来る程の利益は出ていませんね」
「ですが贅沢な暮らしは出来るのです。レオノーラ様はヴェールバルドの姫君であらせられます。
稼がねば生きていけぬ我々と違い、レオノーラ様は利益を度外視しても問題無き身分なのです。
それを我等を比べるのはあまりに不公平ではございませぬか!?」
「そうですね。私は生活が保証されている、恵まれた立場にいると言えます。……それで、それが何だと言うのです?」
「な、なんですと……!?」
「国家にとって大事なのは魔鉱石の産出量であって経営者の財布の中身ではありません。
貴方達と私、どちらが国家に貢献しているかは一目瞭然では?」
「ぐぬ……っ!」
「それよりもご自身の事を心配した方が宜しいのでは? 他の鉱山は皆著しく産出量が低下しているようですが」
「それはレオノーラ様が法外な給金でスラムの連中を集めているからです!
そのおかげで私達の鉱山では人手が不足しているのです!」
「では貴方達も同じようにすれば良いでしょう」
「そんな事をすれば我々は破産です! レオノーラ様だからこそ可能な事なのです!」
レオノーラだからこそ可能。
それは確かに事実だが、レオノーラ本人とゼニスとでは思っている『だからこそ可能』な部分が異なる。
レオノーラの立場は『失敗しても立場が保証されている事』であり『成功させる事』には直接的には関与していない。
第五鉱山成功の要因。
それは防塵マスクやゴーグル。そして正しい金の使い先と栄養を与える為の干し肉と飴玉。
そしてそれらを揃えたのはレオノーラが幼い頃から城下町の住人と交流を重ね、信頼を築き上げていたからこそ実現したものだ。
逆に高給取りで庶民向けの店には見向きもしなかった鉱山経営者達が今更話を持ち掛けても、彼等は首を縦には振らないだろう。
いくら金を積まれようが労働力がすぐに増える訳ではない。
大量生産するにはどこかで無茶をするしかない。
レオノーラの頼みだからこそ、城下町の彼等は“無茶”をしてくれたのだ。
ミルラがその手腕で鉱山経営の準備を進め。
リアがスラム出身である事を活かし、警戒される事なくスラム中に情報を流して人を集め。
そしてレオノーラの積み重ねてきた人脈によって物資を揃えた。
それぞれが死力を尽くして勝ち取った結果だ。
「ゼニス殿」
「な、なんですかな?」
「以前の会議で私は言いましたよ? あまりに劣悪な労働環境を強要させ続けていてはいずれ成り手が居なくなる、と。
彼等労働者はより良い環境に移った……ただそれだけの事であり、それはごく当たり前の事なのです」
「ぐ……っ!」
「そして、以前ゼニス殿が言っていましたね?
如何なる者でも経営戦略に口出しする権利は無い、と。
その言葉、そのままそっくりお返し致します」
「ぬ、ぐぐぅ……っ!!」
「ふぅ……私からは以上になります」
「他の者に意見はあるか?」
「い、いえ……」
「うむ」
ゼニスを始め、経営者達は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべながら席に着く。
ダールトンがゆっくりと会議室を見渡し、頷いた。
「では、本日の会議はこれにて終了とする!」
「ふぅ〜……」
「お疲れ様です」
会議を終えて私室に戻ったレオノーラはリアに膝枕されながら溜め息を吐く。
その側にはミルラが佇んでいる。
「それで実際の所、経営は大丈夫なのでしょうか?」
「ふふ、リアは鋭いわね。……かなり危ういわ。
鉱夫の方達が干し肉や飴玉を全て買ってくれているからどうにか黒字になっているわね。
同行する魔法使い役をメイド達が無償でやってくれている上で、ね」
「それは……」
「元より労働者の環境改善にコストを掛ける以上、採掘作業で利益を求めるのは酷だわ。
だけど、スラムを変えるにはそれだけでは足りない。もっとお金が必要になる」
「当てはあるのですか?」
「考えはあるわ。その為には国内の鉱山全てを掌握したいところね」
「経営権を奪う、と?」
「奪うだなんて人聞きの悪い。ちゃんとに買い取るわよ。ミルラ」
「はっ」
「4人の鉱山経営者に手紙をしたためてちょうだい」
「内容は如何致しますか?」
「最初に売ってくれた人には相場の値段で買い取る。
次に売ってくれた人にはその半分。
その次は更に半分。そのまた次は更に半分の値段で買い取る、と」
「かしこまりました。しかしそれでは資金が底を尽きてしまうのでは?」
「その時は……お兄様にお金を借りるわ。それが駄目なら私の東区鉱山を担保にしてお金を借りて。
これはスピード勝負よ。他の鉱山では人が少なくなったからか魔物の発生率が上がっている。
中にはコボルトやオークが出てきた所もあるそうよ。
放っておいたら更に強い魔物が発生しかねない。
そうなったら稼働するのにお金も時間も余計に掛かってしまうもの」
「承知致しました」
ミルラは一礼し、部屋を退室する。
「レオノーラ様」
「なぁに、リア?」
「借金など……危険ではありませんか?」
「えぇ、お兄様相手ならともかく、それ以外の人に借金したとなると下手したら権威を傷付けたとして激しく叱責されるわね。うん、怖いわ、物凄く。
だから、ね? リアの勇気を分けてほしいの」
「私の物で良ければ、幾らでも」
リアはレオノーラの頬に手を置き、そっと唇を重ねる。
レオノーラが舌を入れると、驚いたのか噛まれてしまった。
「も、申し訳御座いませんレオノーラ様……!」
「い、良いの、気にしないで。私が悪いのだから……っ」
はしたなかったわね……とレオノーラは頬を赤らめた。
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