第23話 狂信者
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
200cmのくーちゃんと135cmのしーちゃん、配信者デビュー! - 第23話 狂信者
本文
「私が此処に居る理由……白音様に謝罪をしたかったのです」
「白音、様……?」
シロさんの本名は白音と言うのですね、とか。
そういえばクロさんに向かって黒羽様と言っていましたね、とか。
そんな疑問が過ぎつつ、はやり白音に様付けしている事に青藍は違和感を覚えた。
当のシロの口振りでは明らかに見下していた。
クロの事を崇拝しているのは分かったが、その狂信的な瞳をクロだけではなくシロにも向けている。
己の間違いに気付き罪悪感に駆られて……だけではあの態度は説明出来ない。
「……説明しなさい」
「仰せのままに、黒羽様」
久留島は、んん……と軽く咳払いをして口を開く。
「まず大前提として……私は黒羽様を御慕いしております。
黒羽様程に完璧な、そして完成された存在は居りませんもの」
久留島がクロを見つめるその目は、恋する乙女のように熱っぽい。
しかし、その目の奥は……ただの崇拝と言うにはあまりに暗く、それでいて爛々と輝いていた。
けれどその気持ちも分からなくはない、と青藍は思った。
きっとクロさんは小学生の頃から強く賢く大きく、そして美しかったのでしょうね、と。
その上男子との決闘(建前上では虐められてという設定)では常に圧倒していた様なので、彼女に憧れる女生徒は多かっただろう。
クロがシロという一個人に執着しているから良かったものの、もし彼女が他人を手玉に取る事に抵抗感の無い人物であったなら……多くの人間が虜にされ、そして不幸な結末を迎えていたかもしれない。
「黒羽様をお支え、お仕えするのは相応に優秀な存在でなければなりません。
そして、それは私こそが相応しいと思っていました。
なのに黒羽様の隣に居るのは……黒羽様の御寵愛を賜っているのは弱く小さな白音様でした」
「あぅ……」
シロが、か細く鳴いた。
「私は黒羽様の隣に立つ為に努力して参りました。
しかし依然として黒羽様の視線は白音様にしか向かず……
白音様にはきっと特別な何かがあるのだと、黒羽様の御寵愛を賜るに足る理由があるのだと無理矢理に自分を納得させていました。ですが……」
久留島がシロに視線を向ける。
以前ならばそこには敵意が込められていたのだろうが……
「黒羽様が引っ越して私達の元から居なくなり、白音様の“何か”が見られると思っていました。
黒羽様の隣に居たから隠れてしまっているだけなのだと。
しかし、そうではありませんでした。
白音様は変わらず小さく弱いまま……
故に私は告げたのです。
貴女に黒羽様の隣は相応しくない、と。
その後、白音様は不登校になり接する機会も失われましたが……」
「あ、ちなみに不登校の原因になったペンダント壊しは八木さんがやった事だからね?」
シロがちょろっと補足した。
「その時を最後にしーちゃんと会っていないのなら、何故今になって謝罪しようと思ったの?」
「配信を見たのです」
久留島は狂気的な笑みを浮かべる。
「黒羽様はとても生き生きとしておられました。
大人の、そして成功者の力を持って全力で白音様を甘やかし、肯定し、愛しておりました。
そこに至り、やっと気付いたのです。
黒羽様に必要なのは優秀な部下などでは無いと。
小さく弱く愚かな庇護対象こそ、黒羽様を最も輝かせる存在だったのだと……!
故に……私は白音様に謝罪し、許しを請わなければいけません。
私が間違っていたと。黒羽様の隣に居るのは貴女こそが相応しいのだと!
正に運命! ベストパートナー……!!」
久留島は跪き、神を崇めるかのようにクロとシロに向かい両手を掲げる。
青藍はチラッとシロに目を向ける。
久留島は謝罪と口にしているが、シロの事を弱い存在として看做している事は一貫して変わっていないのだ。
「えー……えへへぇ♪」
その当のシロはと言うと、恥ずかしそうにフワフワの白髪を搔き寄せて照れていた。
クロの方も、分かってるじゃないと言いたげに鼻をフンッと鳴らしている。
あぁ、クロさんのパートナーとして相応しいと言われたのが嬉しかったのですね、と青藍は察する。
元々自分に自信が無い人だから、能力が低いと言われても「え、はい……」ぐらいの感覚なのだろうか。
そのシロが喜んでいるのなら、クロも怒る必要は無いという事か。
「久留島さんはソレを言う為にスタッフさんに……?」
「正しく。白音様にアポを取っても怖がらせてしまう。
黒羽様にアポを取っても、白音様に確認されては過去の所業がバレて会ってはくれないでしょう。
なので黒羽様達がこの大会に出ると聞きつけ、父の伝手でスタッフとして参加しました。
……思わず黒羽様の名前を叫んでしまい、それで白音様を怖がらせてしまった事は申し訳なく思います」
「……あっ!」
そこまで言われてシロはハッと目を見開いた。
「ご、ごめんなさい! シロがあぁなっちゃったから試合負けちゃったよね!?」
「気にすんな、見せ場は作れたし。つーかプロも参加してんならどの道優勝は無理だったしな。
それより……もう大丈夫なんだな?」
「うん。少なくとも久留島さんは、もう怖くない」
「……ありがたきお言葉。私はこれで失礼致します。
私の方から会う事はありませんが、何か力になれそうな事があれば遠慮せずご連絡ください。では……」
久留島は恭しく礼をした後、踵を返して立ち去った。
こうして、波乱のゆるさきCUPは幕を閉じたのだった。
◇◇◇◇◇
「かんぱーい」
「かんぱい、です」
あの後、事が事だけに打ち上げはまた後日……という事になった。
時間と距離的にあかみこ宅に泊まるのが楽だが、シロクロは二人きりにした方が良いだろうと言う事で二人はタクシーで帰宅。
結果、青藍だけがあかみこ宅に泊まる事に。
「……そういえば審査の方はどうなったんですか?」
「あぁ、今日のはイレギュラーだったし、見せ場も作ったってんで……変わらず誘って貰えてる」
「では……」
「いや、断ったよ。正式に」
「……何故ですか?」
「アイツ等放っとけねーって思ったから。
シロもまだメンタル弱いし、クロもシロの事になると頭に血が上るしな」
「そう、ですか……」
青藍はポツリと呟いて……形の良い瞳から涙の雫を零す。
あかみこがギョッとした表情を見せた。
「な、なんで泣くんだよ!? 別にお前等のせいとかじゃ……」
「違うんです! ボク、あかみこさんの事、ダシにしようとしてて……!」
「んぇ? なに……?」
予想外過ぎる言葉にあかみこが聞き返す。
青藍はぽろぽろと大粒の涙を零しながら気持ちを吐露する。
「ボク、実は紫苑に誘われてたんです。私の元に来ないかって……」
「それってシルバー・フックに誘われたって事か!? すげーじゃん!」
「……断りました」
「何でっ!? アイドルになりたかったんだろ!?」
「仲間を裏切ったって思われるのが怖かったんです……
でもあかみこさんがプロに誘われてるって知って、それならクロス・カラーズを抜けるのもボク一人じゃなくなるから……!」
「だからヤケにプロ入りの背中押してたのか……ん? でもウチが断ったの知る前に青藍の方も断り入れたんだろ?」
「はい。理由もあかみこさんと同じです。
あの二人を放っておけませんし……クロス・カラーズは居心地が良いですから。
でも、少し前まであかみこさんをダシにしようとしてたのは事実なので……っ」
「あーもう! 気にしてないから泣くな謝るな!」
あかみこか青藍を抱き寄せて頭を撫でる。
「ごめんなさい、ごめんなさい……っ」
「……お前さ、アイドル断ったの後悔してるだろ?」
「……はい」
「にひひ、やっぱり。ウチだってプロ断ったの後悔してんもん。
でもさ、クロス・カラーズを去ってもきっと後悔した。
どっちも夢で好きだから、どっちに転んでも後悔するって。
だから、選んだ道を無理矢理にでも思いっきり楽しんじまおうぜ」
「ボクに、出来るでしょうか……?」
青藍は上目遣いであかみこの服に縋り付く。
頭を抱く手に少し力が入った気がした。
「……アイドルに成らなくて良かったって理由、一個作ってやれる」
「え? なにを……っ」
アゴに手を当てられて上を向かされて……あかみこの顔が視界を覆う。
次いで訪れたのは唇への柔らかい感触。
あかみことキスしてると理解した瞬間……青藍の脳は沸騰したかのように熱を持ち、心臓が早鐘を打ち始める。
「ぷはっ」
唇が離れて、互いの間に銀糸が伝う。
あかみこは親指でそれを拭い取りながら、悪戯っぽく笑った。
「アイドルに成ったら恋愛禁止だもんな?」
「……あかみこさん、顔真っ赤ですよ」
「言うなよ……いや、その、いきなりごめん。
マジでいきなりキスするのは頭おかしいよな……!? グーで殴ってくれ……!」
「……良いですよ、あかみこさんになら」
「青藍……んっ」
青藍はあかみこの首に腕を巻き付け、その少し濡れた唇を奪い去る。
数秒して離れると……あかみこは真っ赤な顔で固まっていた。
「どっちが良いですか?」
「……年上の威厳見せさせてくれ」
「はぁい」
普段ではまず出ない甘い声に自分自身驚きつつも青藍は仰向けに倒れ、無防備に腕を広げる。
その身体にあかみこが覆い被さり……やがて、一つに重なった。
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