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第百八話:魅惑の温泉イベント(後編)

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あらすじ

🏆【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~裏切られた天才軍師は愛の和音で成り上がる - 第百八話:魅惑の温泉イベント(後編)

本文

 秘湯の宿『龍の湯』の大広間では、魔王軍撃退の祝勝会を兼ねた大宴会が催されていた。

 湯上がりの血色の良い肌に、浴衣を纏った六龍姫たちが、それぞれの方法で勝利の美酒に酔いしれている。

「飲めや歌えや! 今日の酒は格別よ!」

 紅蓮の激情竜姫レヴィアが、一升瓶を片手に豪快に笑う。

「おー! さっすが、レヴィア姉さん、飲みっぷりいいね!」

 疾風の遊撃竜姫セフィラが、おつまみの唐揚げを口に放り込みながら囃し立てる。

「……はしたないですよ、二人とも」

 蒼玉の理性竜姫アクアは、お猪口で上品に冷酒を楽しみながらも、その頬はほんのりと赤い。

「ですが、論理的に考えて、この解放感は脳のパフォーマンス向上に寄与します」

 磐石の守護龍テラは、甲斐甲斐しくヒカルの膳に料理を運び続けている。

「主よ、こちらの煮物も召し上がってください。精がつきますよ」

「ありがとう、テラ。……でも、もうお腹いっぱいだよ」

 その喧騒の傍らでは、王を支える六天将たちもまた、それぞれの流儀で宴を楽しんでいた。

「なぁガイアぁ……。聞いてくれよぉ……」

 爆炎龍将軍フレアが、顔を真っ赤にして巨漢の同僚に絡んでいる。戦場での猛々しさはどこへやら、意外なことに彼は酒にめっぽう弱かった。

「シエルのやつ、俺が身体を張って戦ったのに、『計算外の無茶です』って……。もっとこう、愛のある言葉があってもいいと思わんか……?」

「ふむ。それも、シエル殿なりの愛だろう。ほら、飲め」

 不動の防衛将ガイアは、岩のような無表情のまま、ぐいぐいとフレアの猪口に酒を注ぎ足しては、愚痴の聞き役に徹している。

 その横では、空虚の斥候王ゼファーが、誰とも会話せず、手酌で黙々と杯を傾けていた。その瞳は据わっているが、飲むペースは一向に衰えない。どうやら、かなりの酒豪のようだ。

「あいつらも、張り詰めていたからな」

 ヒカルは苦笑しながら、その光景を眺める。ここにはいない、後発組の顔ぶれを思い浮かべた。

 現在、留守を預かり警戒任務に就いているアウラやシェイド、そして人類軍のレオナルド摂政やリヒター総帥たちは、明日交代でこちらへ来る予定だ。

 いくら湯治とはいえ、指揮官クラス全員が前線を離れるわけにはいかない。彼ら人類側の協力のおかげで、竜族の休息が成り立っているのだ。彼らにも、後でたっぷり労いの酒を用意せねばなるまい。

 宴が始まってから、一時間ほどが経った頃だろうか。

 そんな喧騒から少し離れた縁側で、ヒカルは夜風に当たっていた。

 湯冷めしないようにとリリアがかけてくれた羽織を直し、月を見上げる。

「ヒカル様。お隣、よろしいでしょうか?」

 声をかけてきたのは、元聖女候補シルヴィアだった。

 湯上がりの濡れた銀髪が月の光を浴びて輝き、湯気で上気した肌が艶めかしい。だが、その瞳にあるのは純粋な感謝の色だった。

「シルヴィアか。ああ、構わないよ」

 シルヴィアはヒカルの隣に座ると、静かに頭を下げた。

「先日は、過分なお褒めの言葉をいただき、ありがとうございました。……私などがMVPだなんて、未だに信じられません」

「謙遜することはない。あそこで皆の心を繋ぎ止めたのは、間違いなくお前の祈りだ」

 ヒカルは優しく微笑む。

「お前はもう、『誰かの代わり』じゃない。この国の、立派な聖女だ」

「……はい!」

 シルヴィアは感極まったように瞳を潤ませ、そっとヒカルの手に自分の手を重ねた。

「この命ある限り、ヒカル様と皆様のために祈り続けます」

「私も、失礼します、王よ」

 もう一人、静かな足取りで現れたのはレオーネ皇女だった。

 彼女もまた、浴衣姿でリラックスした様子だが、その手にはしっかりとタブレット端末(魔導書)が握られている。

「レオーネか。仕事熱心だな」

「ええ。湯治中とはいえ、情報の整理は怠れません。まぁ、これは私の生きがいみたいなものですわ、ふふふ」

 レオーネは苦笑しながら、ヒカルの反対側に座った。

「……今回の戦いで、人類と竜族の壁がまた一つ壊れた気がします。私の兄、レオナルドも『竜族の背中は頼もしい』と申しておりました」

「そうか。……嬉しい報告だ」

 ヒカルは目を細める。かつて敵対していた者同士が、背中を預け合って戦い、今は同じ湯に浸かり、酒を酌み交わしている。それが何よりの勝利の証だった。

「ヒカル様。……少しだけ、甘えてもよろしいですか?」

 シルヴィアが、ヒカルの肩に頭を預ける。

「私も……今夜だけは、皇女の仮面を外させてください」

 レオーネもまた、反対側の肩に寄り添う。

 ヒカルは、二人の人間の女性の温もりを感じながら、静かに目を閉じた。

 竜姫たちの激しい愛も心地よいが、彼女たちの静かで、どこか儚げな愛もまた、ヒカルの心を癒やす得難い安らぎだった。

 ◇◆◇◆◇

 宴もたけなわとなった頃。

 ヒカルは、宿の奥にある遊技場――卓球場へと足を運んだ。

 そこには、既に数人のメンバーが集まっていた。

「さあ、勝負よ! 負けた方は一週間の兵站管理当番だからね!」

「望むところだ。私の計算に狂いはない」

 ラケットを構えて対峙するのは、ユグドラとシエル。

 その周りには、ギルティアとレオーネが審判兼記録係として控えている。

 ヒカルから見ても、なんとも意外な顔ぶれだった。

「楽しそうだな」

 ヒカルが声をかけると、全員が動きを止めて敬礼した。

「王よ! これはその、戦後のストレス解消と反射神経の維持を兼ねた訓練でして……」

 ユグドラが慌てて言い訳をするが、ヒカルは笑って手を振った。

「構わないさ。……それより、少し話せるか?」

 ヒカルの言葉に、場の空気が引き締まる。

 遊びの時間は終わりだ。ここからは、未来の話をする時間だ。

 卓球台を囲み、即席の軍議が始まった。

「まずは、今回の損害状況の再確認だ」

 ヒカルの問いに、ユグドラが答える。

「物理的な被害は想定内ですが、魔力資源の消費が激しい。特に、王の形態発動を維持するための触媒が不足しつつあります」

「それについては、解決策があります。半年前から水面下で進めていた、北方ドワーフ族との高純度魔力結晶の輸入交渉……ようやく、実を結びそうです」

 ギルティアが眼鏡を押し上げる。

「彼らは閉鎖的で、職人気質の強い種族。交渉は難航していましたが、今回の魔王軍撃退の実績が、彼らの心を動かしたようです」

「ドワーフか……。長かったな」

 ヒカルは顎に手を当てて、これまでの経緯を思い返すように頷く。

「だが、まだ正式な調印には至っていない。最後の一押しが必要というわけか」

「はい。そこで、テラ様の出番です」

 シエルが補足する。

「ドワーフ族は『大地』と『技術』を尊びます。土の竜姫であるテラ様と、技術統括のアウラを派遣すれば、交渉の余地は十分にあります」

「なるほど。……テラなら、彼らの頑固な心も溶かせるかもしれないな」

 ヒカルは頷いた。

「よし。湯治が終わり次第、ドワーフ族への使節団を編成する。テラを団長とし、アウラ、そして……」

 ヒカルは少し考え、レオーネを見た。

「レオーネ、お前も付いてきてくれ。人類の外交術が必要になる場面があるはずだ」

「御意。必ずや、良き返事を持ち帰って見せます」

 レオーネが、満面の笑みをたたえ、力強く答える。

「それと……」

 ヒカルは、窓の外の闇を見つめた。

「今回の戦いで、敵の戦力の一端が見えた。四天王残り二体、いや三体か。そして魔王。奴らは必ず、こちらの想像を超えてくる」

「ええ。特に逃げた『忘却の策士オブリビオン・ストラテジスト』は厄介です」

 シエルが表情を曇らせる。

「奴は情報を持ち帰った。こちらのBPI強化やユニゾンの手の内は、既に解析されていると考えるべきです」

「だからこそ、我々も進化し続けなければならない」

 ヒカルは全員を見回した。

「ドワーフの技術、エルフの知識、人類の信仰、そして竜族の力。全ての種族の力を結集し、この国を『誰も手出しできない聖域』にする。……頼んだぞ、皆」

「「「はっ!!」」」

 力強い返事が返ってくる。

 この頼もしい仲間たちがいれば、どんな困難も乗り越えられる。

 ヒカルはそう確信した。

「さて、と。……難しい話はおしまいだ。ユグドラ、さっきの勝負の続きをやろうじゃないか」

 ヒカルがラケットを手に取ると、ユグドラがニヤリと笑った。

「望むところです、王よ。手加減はしませんぞ!」

 カコン、カコン、と軽快な音が響く。

 その音は、平和な夜を彩るリズムのようでもあり、来るべき激戦へのカウントダウンのようでもあった。

 宴の夜は更けていく。

 明日からはまた、戦いの日々が始まる。

 だが、今夜だけは、愛する者たちと笑い合い、英気を養う。

 それが、王の、そして戦士たちの特権だった。

【第109話につづく】

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ざつ

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