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第百四十一話:頑固オヤジ・ジオの涙

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あらすじ

🏆【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~裏切られた天才軍師は愛の和音で成り上がる - 第百四十一話:頑固オヤジ・ジオの涙

本文

演習グラウンドでの地獄の模擬戦を終え、視察団は校舎の奥にある「魔導工房」へと足を運んだ。

 そこは、ドワーフ族の技術側妃ボルタと、エルフ族の知識側妃イリスが共同で受け持つ特別授業の場である。

「……フン。さっきの模擬戦で、とびきりいいデータは取れたがな」

 ドワーフ族長ジオ・アイアンハンドは、懐のデータ記録結晶を満足げに撫でながらも、工房内を見渡して鼻を鳴らした。

「だが、戦いと『物作り』は別だ。竜と人の合いの子とはいえ、ガキどもにドワーフの繊細な技術が扱えるもんか」

 彼は生粋の職人であり、技術に対しては誰よりも厳しい。

 先ほどの模擬戦での子供たちの破壊力(ハイブリッドな身体能力)には目を見張ったが、「物作り」となれば話は別だというのが彼の持論だった。

「まあまあ、親父。そう言わずに見てやってよ」

 ボルタが苦笑いしながら工房の扉を開ける。

 ◇◆◇◆◇

 中では、子供たちがゴーグルをつけ、真剣な表情で作業台に向かっていた。

 あちこちで魔法の火花が散り、金属を打つ音が響く。

「今日は『生活に役立つ魔道具』の制作課題です」

 イリスが涼しい顔で解説する。

「戦闘用ではなく、日常の不便を解消するための道具を作ることで、魔力制御の繊細さを学びます」

「へぇ……。生活用品か」

 ジオは興味なさそうに呟きながら、作業台の間を歩き回る。

 最初に目に留まったのは、ライオス(炎)とシズク(水)の班だった。

「おい、そこの温度調整もっと下げろ! 爆発するぞ!」

「論理的に計算済みです。蒸気圧を動力に変換するには、この温度が最適解です」

 二人は喧嘩腰で作業しているが、その手元にあるのは奇妙な装置だった。

「なんだ、これは?」

 ジオが尋ねると、ライオスが得意げに答えた。

「『全自動・超高速・洗濯乾燥機』だ! 水流で洗って、蒸気で乾かす! これがあれば、母上(レヴィア)が洗濯物を焦がすこともなくなる!」

「……な、なるほど。水と熱の相反する属性を、回転運動で相殺しながら利用しているのか」

 ジオは内心で少し感心したが、口には出さなかった。

「ふん、うるさそうな機械だ」

 次に、ソイル(土)とユリウス(人)の班。

 ユリウスが設計図を引き、ソイルが土魔法でパーツを成形している。

「これは?」

「『自動追尾型・お掃除ゴーレム』です」

 ユリウスが説明する。

「ソイルの土魔法でゴミを感知して、内部に取り込んで肥料に変えます。庭の掃除が楽になるように」

「……ほう。循環システムを組み込んでいるのか」

 これも悪くない。だが、ジオを唸らせるほどではない。

 そうして工房を一周し、最後にたどり着いたのは、一番奥の作業台だった。

 そこには、リオ(風)とリベル(風)、そしてクロノス(闇)とミスティ(闇)という、珍しい組み合わせの四人が集まっていた。

 彼らの前にあるのは、一見するとガラクタの山に見える、歪な金属の塊だった。

「なんだこれは? スクラップか?」

 ジオが眉をひそめると、リオが元気よく答えた。

「違うよ! これは『究極・癒やしの肩たたきマシーン・改』だよ!」

「肩たたき……だと?」

 世界を救う英雄の子供たちが、肩たたき機を作る。

 そのギャップに、ジオは呆気に取られた。

「父上(ヒカル)も母上たちも、毎日忙しいでしょ? だから、疲れを取ってあげたいんだ」

 リベルが無邪気に笑う。

「風の魔法で優しく叩いて、闇の魔法で安眠効果をプラスするの!」

「……くだらん」

 ジオは吐き捨てるように言った。

「そんな子供騙し、手で揉んでやれば済む話だ。技術の無駄遣いだな」

 その言葉に、無口なクロノスがむっとした顔で反論した。

「……無駄じゃない。手だと、疲れて長く続けられない。王(父上)の疲れは深い。だから、ずっと癒やし続けられる機械が必要なんだ」

「へえ……。言うじゃねえか、小僧」

 ジオは葉巻を噛み砕き、その機械を指差した。

「なら、試してみろ。俺の肩は鉄より硬いぞ。生半可な機械じゃ、逆に壊れるぜ」

「望むところだ!」

 子供たちがスイッチを入れる。

 ガガガガッ……!

 不格好な機械が、不穏な音を立てて動き出す。風の魔力でアームが振動し、闇の魔力が周囲に漂い始める。

 ジオは椅子に座り、腕組みをして待ち構えた。

「来い!」

 バシュッ!!

 アームがジオの肩にヒットする。

「ぬおっ!?」

 ジオの目が飛び出そうになった。

 痛い。いや、気持ちいい。

 風の振動が筋肉の奥深くまで浸透し、凝り固まった鉄のようなコリを粉砕していく。

 そして、闇の魔力が神経に作用し、強制的にリラックス状態へと誘導する。

「こ、これは……!?」

 ただ叩くだけではない。風の「浸透圧」と、闇の「精神干渉」を組み合わせた、物理と魔法のハイブリッド施術。

 しかも、アームの先端にはドワーフの技術である「衝撃吸収合金」が使われており、打撃の反動を完全に殺している。

「う、うおおおお……! そ、そこだ……! 効くぅぅぅ……!」

 ジオの厳つい顔が、見る見るうちにとろけていく。

 長年の鍛冶仕事で蓄積された疲労が、嘘のように消えていく。

「ど、どう? おじちゃん」

 リベルが心配そうに覗き込む。

「……ああ。……ああ、最高だ」

 ジオは、震える声で呟いた。

 そして、目頭を押さえた。

「親父!?」

 ボルタが驚く。

「泣いてるの!? あの『鉄仮面』の親父が!?」

「うるせえ! 目にゴミが入っただけだ!」

 ジオは涙を拭い、子供たちに向き直った。

「……お前ら、これをどうやって思いついた?」

「えっとね、ボルタ先生が『道具は使う相手への愛だ』って言ってたから」

 リオが答える。

「イリス先生は『効率的なエネルギー伝達』って言ってたけど、僕たちは『気持ちいい』が一番大事だと思ったんだ」

「……そうか」

 ジオは、黒焦げの機械を、まるで宝物のように撫でた。

「愛、か。……忘れてたな。俺たちが鉄を叩くのは、誰かを守るため、誰かを助けるためだった」

 技術の極致を追い求めるあまり、いつしか忘れていた「原点」。

 それを、この小さな子供たちが教えてくれた。

「……合格だ」

 ジオは、ぶっきらぼうに言った。

「この機械、俺が買い取る。……いや、共同開発させろ。俺の技術を足せば、もっといいモンになる」

「えっ!? 本当!?」

 子供たちが歓声を上げる。

「ああ。……孫ができたみてえだ」

 ジオは小さく呟き、ボルタを見た。

「ボルタ。お前の教育、悪くねえな」

「……ふふん、当たり前でしょ!」

 ボルタは誇らしげに胸を張った。

 その様子を見ていたヒカルは、安堵の息を吐いた。

(よかった……。どうやら、一番の難関は突破できたみたいだ)

 ◇◆◇◆◇

 後日。

 ドワーフの里では、ジオが開発した「魔導肩たたき機」が大ヒット商品となり、彼がそれを孫(のような子供たち)との共同開発だと自慢して回る姿が目撃されたという。

 頑固オヤジの涙は、新たな技術交流と、世代を超えた絆の証となったのだった。

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ざつ

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