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第百四十二話:武人の約束と、継承される盾

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あらすじ

🏆【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~裏切られた天才軍師は愛の和音で成り上がる - 第百四十二話:武人の約束と、継承される盾

本文

「王立・竜の子学園」での賑やかな日々から少し離れ、休日の昼下がり。

 王都の郊外にある静かな丘陵地帯に、二人の男の姿があった。

「……久しぶりだな、ここに来るのは」

 爆炎龍将軍フレアが、手にした酒瓶の蓋を開ける。

「ああ。平和ボケした身体には、この坂道すら堪える」

 不動の防衛将ガイアが、苦笑いしながら巨体を揺らす。

 二人の視線の先には、一本の巨木と、その根元に置かれた簡素な石碑があった。

 そこには、『古王軍編入部隊総司令官 ユグドラ・アースロード ここに眠る』と刻まれている。

 8年前の魔王軍との戦いで散った、かつての戦友であり、古王軍出身の武人の墓標だ。

 彼の犠牲がなければ、今の平和な世界はなかったかもしれない。

「よう、ユグドラ。……そっちはどうだ? 退屈してないか?」

 フレアが石碑に酒をかける。

「こっちは平和すぎて退屈だぜ。剣を握るより、子供のオムツを替える方が上手くなっちまった」

「違いない。私も最近は、テラ様の料理の味見役ばかりだ」

 ガイアも腰を下ろし、自分たちの猪口に酒を注ぐ。

 二人は酒を酌み交わしながら、かつての激戦の日々を語り合った。

 死と隣り合わせだった緊張感。背中を預け合った信頼。そして、失った仲間たちへの想い。

 平和は尊い。だが、戦いの中にしか見出せない「何か」があったことも、武人である彼らは否定できなかった。

「……俺たちは、錆び付いちまったのかな」

 フレアが空を見上げて呟く。

「平和な時代に、俺たちのような武力馬鹿は不要なのかもしれん」

「……そうかもな」

 ガイアが頷く。

「だが、それでいい。俺たちが錆び付くほど、世界が平和だということだ。……ユグドラも、それを望んでいたはずだ」

 その時、風に乗って柔らかな光の粒子が漂い、花の香りがふわりと鼻をくすぐった。

「あら、先客がいらしたのですね」

 木漏れ日の中から現れたのは、純白のドレスを纏った光の竜姫、ルーナだった。

 彼女の手には、白く輝く百合の花束が抱えられている。

「ルーナ様……!?」

 フレアとガイアが慌てて酒瓶を隠し、姿勢を正そうとする。

 だが、ルーナは聖母のような微笑みでそれを制した。

「楽になさってください。今日は私も、一人の追悼者として参りましたから」

 ルーナは静かに石碑の前へ歩み寄ると、膝をついて花を手向けた。

「ユグドラ殿……。あの日、貴方が命を賭してテラ姉さまと、そして魔力尽きて倒れていた私を護ってくださったから、今の光があります」

 あの日、魔王軍の奇襲を受けた際、ルーナは直前の戦闘(光土ユニゾン)の反動で動けなくなっていた。

 迫りくる絶望的な暴力に対し、テラの防御結界ごと彼女たちを守り抜いたのが、ユグドラの最後の「土の盾」だったのだ。

「貴方の献身が繋いでくれた命と未来、大切に育んでいます。……どうか、安らかに」

 ルーナは長い間、祈りを捧げていた。その背中は、かつてよりも少し小さく、けれど遥かに強く見えた。

 やがて立ち上がったルーナは、二人の将軍に向き直った。

「お邪魔してごめんなさいね。武人の方々の語らいに、私がいては無粋でしょう」

「め、滅相もございません!」

「いえ、良いのです」

 ルーナは、いたずらっぽく茂みの方へ視線を流した。

「それに……どうやら、可愛い『次のお客様』も控えているようですし」

「え?」

 フレアたちが振り返る前に、ルーナは光の粒子と共にふわりと姿を消した。

 後に残ったのは、清らかな空気と、供えられたばかりの花の香りだけ。

「……相変わらず、底知れないお方だ」

 フレアが溜息をつく。

「ああ。だが、あの方の祈りがあれば、ユグドラも浮かばれるだろう」

 しんみりとした空気が流れる中、ルーナが視線を送っていた茂みの奥から、ガサリと音がした。

「……誰だ?」

 フレアの目が鋭くなる。

「ひゃっ!」

「……見つかりましたね」

 茂みから出てきたのは、二人の子供だった。

 シリウス(炎・水/十歳)と、ソイル(土/七歳)。

 フレアとシエルの息子と、テラの娘だ。

「お前たち……。なぜここに?」

 フレアが驚く。ここは子供たちが遊びに来るような場所ではない。

「父上たちが、こっそり出かけていくのを見たから……気になって」

 シリウスがバツが悪そうに答える。

 ソイルは、小さな野花の花束を胸に抱えていた。二人はたまたま途中で一緒になったらしい。

「……ルーナ様も、いらしてたんですね」

 ソイルが、供えられたばかりの百合を見て呟く。

「ああ。……ユグドラは、なんだかんだで、みんなに愛されていたからな」

 ガイアが優しく答えると、ソイルはとことこと歩み寄り、百合の横に自分の花束を供えた。そして、小さな手を合わせて祈りを捧げる。

 その姿は、母であるテラによく似ていた。

「……ユグドラ様のこと、ママ(テラ)から聞いたことがあります」

 祈りを終えたソイルが振り返る。

「とっても強くて、優しくて……ママの『お師匠様』だったって」

「そうだ。テラ様の防御術は、実は、わしとユグドラが鍛え上げたものだ。……そして、あいつは最期まで、テラ様と王を護る『盾』であり続けた」

 ガイアが懐かしそうに目を細める。

「盾……」

 ソイルは自分の手を見つめた。

「私……もっと強くなりたい。ユグドラ様みたいに、みんなを守れる盾に」

 彼女の瞳には、幼さの中にも確かな意志が宿っていた。

 ユリウスを守りたい。家族を守りたい。その想いが、彼女を突き動かしている。

 シリウスもまた、フレアを見つめていた。

「父上。……父上たちは、錆び付いてなんかいません」

「シリウス?」

「僕には分かります。父上の背中は、いつだって大きくて、頼もしい。……僕も、いつか父上のような『王の剣』になりたいんです」

 シリウスの言葉に、フレアは目を見開いた。

「……ははっ。参ったな」

 フレアは頭をかいた。

「子供だと思ってたら、いつの間にかしっかり見てやがる」

「ああ。我々の意志は、ちゃんと継承されているようだ」

 ガイアも満足げに頷く。

「よし! ならば稽古をつけてやる!」

 フレアが立ち上がる。

「錆び付いたなんて弱音は撤回だ! 俺たちの技、全部お前たちに叩き込んでやるから覚悟しとけ!」

「えっ、今からですか!?」

 シリウスが驚くが、その顔は嬉しそうだ。

「私も! ガイアおじちゃん、教えて!」

 ソイルも身を乗り出す。

「うむ。ユグドラ直伝の『絶対防御』の極意、伝授しよう」

 夕暮れの丘に、剣戟の音と魔法の光が舞う。

 かつての英雄たちが、次世代の希望たちに、その魂を受け渡していく。

 石碑の前のユグドラも、きっと苦笑しながら見守ってくれているだろう。

「……悪くないな、こういうのも」

 フレアが汗を拭いながら笑う。

「ああ。平和も、捨てたもんじゃない」

 ガイアも同意する。

 武人たちの約束は、形を変えて守られていく。

 彼らが守った世界で、新しい芽が確かに育っていた。

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ざつ

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