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第百七十八話:箱舟「希望号」の発進

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あらすじ

🏆【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~裏切られた天才軍師は愛の和音で成り上がる - 第百七十八話:箱舟「希望号」の発進

本文

王都の地下深く、かつて魔王軍の残骸を解析していた巨大ドック。

 そこには今、人類と竜族、エルフ、ドワーフの技術を結集させた希望の箱舟――超弩級飛行戦艦『希望号』が鎮座していた。

「動力炉、臨界点まであと5分! 冷却水循環、急げ!」

「魔力伝導率、98%で安定。エルフの術式班、結界のレイヤーを最終確認して!」

 怒号と魔力の輝きが交錯する中、陣頭指揮を執るのは、学術院長のオーディンと、知識の側妃イリス。そして、ドワーフ族の技術者たちを束ねるのは、技術の側妃ボルタと、その父であり族長のジオ・アイアンハンドだ。

「おい若造ども! 手を休めるな! この船はただの鉄の塊じゃねえ! 王(ヒカル)を迎えに行き、神の元へ殴り込む『家族の絆』そのものだ! ネジ一本の緩みも許さねえぞ!」

 ジオが巨大なハンマーを担いで檄を飛ばせば、娘のボルタも油まみれの顔で叫ぶ。

「親父の言う通りだよ! アイラ(妹)たちが外で命懸けで時間を稼いでくれてるんだ! テラナやソルニアたちに後を託された私たちが、ここで遅れるわけにはいかないんだよ!」

 一方、イリスは手元の魔導書を見つめ、冷静ながらも焦りを滲ませていた。

「論理的に見て、現存する技術の限界値です。ですが……神の領域である成層圏への突入には、まだ『推進力』に不安が残ります。大気圏を突破し、神の防御網を瞬発力で振り切るための爆発的な加速力。……計算上、あと一歩足りません」

「推進剤の配合を変えるか? いや、爆発のリスクが高すぎる……」

 オーディンも苦渋の表情を浮かべる。

 その時だった。

 ドックの搬入ゲートが開き、一陣の鋭い風と共に、天狗族の使者たちが現れた。

 先頭に立つのは、かつてセフィラと対立し、後に和解した天狗の長老だ。彼の背後には、巨大な翼のような形状をした、青白く輝く古代の魔導装置が運ばれてくる。

「長老殿……!? なぜここに?」

 出迎えに出たジオが目を丸くする。

「フン。バグの王(ヒカル)に貸しを作るのは癪だが、世界の終わりを指をくわえて見ているほど、我らは老いぼれておらんわ! これは我ら天狗族が代々守り続けてきた『風神の翼ガルダ・ウィング』。空の理(ことわり)を操り、風そのものとなって翔けるための古代遺産だ」

 長老は、その巨大な翼を『希望号』の船尾に取り付けるよう指示した。

「貴様らが空の彼方へ、王を迎えに行くというのなら、風の民として見送らぬわけにはいかん。……持って行け! これが我らからの、最後の手向けだ!」

「へっ……! 粋なことしやがるじゃねえか、空飛びジジイ!」

 ジオがニカっと笑う。

「感謝します、長老。これで理論値に到達しました!」

 イリスが目を輝かせ、ドワーフたちが手早く『風神の翼』を接続していく。

 技術と魔法、そして種族の誇りが一つの船に宿った瞬間だった。

 ◇◆◇◆◇

 出撃の準備が整い、乗員たちが次々とタラップを駆け上がっていく。

 六龍姫、そして次世代の子供たち。

 さらに、爆炎龍将軍フレア、深海の戦術師シエル、空虚の斥候王ゼファー、漆黒の工作師シェイドといった六天将の主力メンバーたち。

 近接護衛のリリアや、フェンリア、アクアリーヌといった王室メイド隊の面々も乗り込む。

 これは、王不在のまま挑む、王を取り戻すための決死の航海だ。

 地上に残るのは、総司令のガイアと、王都防衛の要となる新六天将のテラナとソルニア、そして人類側摂政のレオナルドたちだ。

「ガイア殿。……後は頼みます」

 タラップの上で、アクアがガイアに頭を下げる。

 ガイアは、岩のような顔に力強い笑みを浮かべ、胸を叩いた。

「ご安心を。この地上は、我々が死守します。王が戻られるべき場所を、傷一つ付けさせはしません」

「頼んだぞ、ガイア!」

 フレアが叫ぶ。

「おう! お前たちこそ、王を……そして王妃様とお子様方を頼んだぞ!」

 ハッチが閉まり、艦橋に緊張が走る。

 代理指揮を執るのは、最高戦略官のアクアだ。

「総員、配置につけ! メインエンジン、点火! 『風神の翼』、接続!」

 エンジンが唸りを上げ、船体が浮上を始める。

 艦橋の窓際で、小さな影が空を指差した。ルーナの娘、アルテミスだ。

 彼女は、母親であるルーナの服の裾をギュッと掴み、大きな瞳で虚空を見上げていた。

「ママ……。見えるよ」

「え?」

「光の……道。パパがいる場所。神様がいる場所」

 アルテミスは、閉ざされたドックの天井の向こう、遥か彼方の空を指差した。

 彼女の瞳には、常人には見えない「導きの光」が映っているようだった。

 先日の「祈りのユニゾン」でヒカルと精神が繋がった彼女は、今やヒカルの居場所を示す唯一の「羅針盤」となっていた。

「あそこに行けば……パパに会える?」

 不安げに震える娘を、ルーナは優しく抱きしめた。

「ええ。……必ず会えます。アルテミスの声は、パパに届いていますから」

 ルーナの温もりに、アルテミスの表情が和らぐ。

 アクアもまた、二人のそばに歩み寄り、アルテミスの頭を撫でた。

「アルテミス。貴女の目は、私たちの論理を超えた真実を映しています。案内してちょうだい、小さな女神様。……一緒に、パパを迎えに行きましょう」

「うん! 任せて!」

 アルテミスが力強く頷く。

 アクアは深呼吸をし、マイクを握った。

 全艦、そして地上で見送る全ての人々へ向けて、決意の演説を行う。

「これより、我々は空へ向かう! 神と呼ばれるシステムから、私たちの『王』を取り戻すために!」

「この船には、地上の全ての希望が詰まっている。ドワーフの技術、エルフの知恵、天狗の風、獣人の誇り、そして人類の祈り……。全ての種族の想いを乗せて、俺たちは飛ぶ!」

「総員、発進準備!!」

「「「アイ・アイ・サー!!!」」」

 ズゴゴゴゴゴゴ……!!

 ドックの天井ゲートが開放され、空が見えた。

 そこには、無数の天竜族が待ち構えている。だが、もはや誰も恐れはしない。

「ゲート・オープン! 『希望号』、発進!!」

 ズドオオオオオオオオッ!!

『風神の翼』が爆発的な推進力を生み出し、鉄の巨塊が弾丸のように空へと打ち上げられた。

 重力を振り切り、音速を超え、雲を突き抜け、蒼穹の彼方へ。

「行けぇぇぇぇッ!!」

 地上では、ガイアやジオ、リヒターの遺志を継ぐ兵士たちが、涙を流しながら叫んでいる。

「王を……頼んだぞーーッ!!」

 上昇する艦橋から、アルテミスが指差す先。

 成層圏の彼方に、神々しくも冷たい光を放つ、巨大な構造要塞が姿を現した。神の居城、『天上の御座セレスティアル・スローン』だ。

 その輝きの中に、微かだが、懐かしく温かい魔力の波動を感じる。

 それは、虚数空間の狭間から、まさに今、帰還しようとしているヒカルの魂の光だった。

「待っていなさい、夫よ!」

 レヴィアが叫ぶ。

「今、迎えに行くわ!」

 大気圏を突破し、星の海へと躍り出る『希望号』。

 最終決戦の舞台は、地上から天空へ。

 王との再会、そして神殺しの戦いが、今、始まる。

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ざつ

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