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第百九十五話:天才の遺言と、次世代の恋のから騒ぎ

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あらすじ

🏆【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~裏切られた天才軍師は愛の和音で成り上がる - 第百九十五話:天才の遺言と、次世代の恋のから騒ぎ

本文

帝都の復興が進む中、ヒカルは久しぶりに王宮の地下倉庫を整理していた。

 魔力が失われた今、不要になった魔導具やアーティファクトを分類し、博物館行きか廃棄かを決める作業だ。

「……ん? これは」

 埃を被った木箱の隅に、見覚えのある古びた端末が転がっていた。

 かつてカインが愛用していた、旧時代の魔導演算機だ。

 神との決戦でカインの人格データは消滅したはずだ。だが、ヒカルがその端末に手を触れた瞬間、残っていた微弱な魔力の残滓(バッテリー)が反応し、ホログラムが明滅した。

『――よう。これが再生されているってことは、貴様、また貧乏くじを引いて泥臭い復興作業でもやってるんだろ?』

 懐かしい、人を食ったような声。

 カイン・グリムウッドの、予約されていたビデオメッセージだった。

「……カイン。お前、こんなものまで用意して……」

『勘違いするな。これはただの自動送信プログラムだ。……システムは破壊され、魔法も消える。俺というバグも消滅する。だが、貴様の記憶領域(メモリ)の隅っこくらいには、俺の席を残しておいてやってもいい』

 ホログラムのカインは、いつものように眼鏡を押し上げ、不敵に笑った。

『ヒカル。貴様の「愛」という名のバグは、論理的に見れば最悪の非効率だ。だが……種の存続と進化という観点においてのみ、システムすら凌駕する「最適解」だったと認めてやる』

 それは、天才軍師からの最大の賛辞だった。

『せっかく手に入れた不完全で不便な世界だ。せいぜい、貴様らしく、非効率に、無様に、そして幸せに足掻き続けろ。……あばよ、宿敵よ』

 プツン。

 映像が消え、端末は完全に沈黙した。二度と起動することはないだろう。

 ヒカルは静かに端末を撫で、倉庫の棚の一番見えやすい場所に戻した。

「……ああ。言われなくても、幸せになってやるさ」

 ◇◆◇◆◇

 その頃、王宮の裏庭にある秘密基地(かつての資材置き場)では、次世代を担う少年たちが集まっていた。

 復興作業の合間の休憩時間。話題は自然と、彼らの年頃らしい「色恋沙汰」へと流れていく。

「……で? どうなんだよ、ライオス。お前、シズクとはどこまで進んだんだ?」

 ニヤニヤしながら切り出したのは、セフィラの息子であり、自由奔放な性格のリオだ。

「はぁ!? ど、どこまでって何だよ!」

 ライオスが顔を真っ赤にしてジュースを噴き出す。

「とぼけるなよ。この前の復興作業の後、二人でいい雰囲気だったじゃないか。……まさか、チュウくらいしたのか?」

「し、してねーよ!! バカかお前!」

 ライオスが立ち上がって叫ぶ。その反応自体が怪しいと、全員の目が語っている。

「俺とあいつは、その……喧嘩仲間っていうか、ライバルっていうか……」

「素直じゃないですね、ライオス」

 冷静にツッコミを入れたのは、生徒会長のシリウスだ。彼は優雅に紅茶(ペットボトル)を飲みながら諭す。

「君が次期国王として即位するなら、シズクは王妃(クイーン)になる可能性が一番高い。最強の炎と理知的な水。政治的にも相性は抜群だ」

「うぐっ……シリウス兄貴まで……!」

 ライオスは頭を抱えた。

「わかったよ! 確かにあいつは……その、頼りになるし、たまに可愛いとことかあるけど……! まだ手も繋いでねーよ!」

「ヘタレだなー」

 ヴァルキリアの義理の息子、クロノスがボソッと言う。

「俺はリベルと剣の稽古中に3回くらいハプニングで抱き合ったぞ」

「それは事故だろ! ノーカウントだ!」

 ライオスは悔し紛れに、矛先をニヤニヤしているリオに向けた。

「そういうお前はどうなんだよ、リオ! 天狗族のフウガと仲良くやってるらしいじゃねーか。お前だって何も進んでないんだろ?」

 しかし、リオは涼しい顔で肩をすくめた。

「え? フウガ? ああ、この前グライダーの試運転中に、上空でちゅーしたぞ」

「「「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」

 ライオス、シリウス、クロノスの三人が同時に叫んだ。

「お、お前……! 抜け駆けかよ!?」

「驚きましたね……。セフィラ様の息子だけあって、手が早い」

「……風のように自由すぎるだろ」

「へへっ、風の中だと気分が高まるんだよなー。向こうも満更じゃなかったぜ?」

 リオが得意げに鼻をこする。どうやら、このメンバーの中で一番「大人」なのは、この自由人らしい。

 そんな色めき立つ少年たちの輪の中で、一人だけ会話から完全に取り残されている少年がいた。

 やや小太りなテラの息子、グラウンドだ。

 彼はポカーンと口を開け、眠そうな目をこすりながら首を傾げている。

「……ふあ。……ねえみんな、チュウって、美味しいおやつか何かの話?」

「「「お前は寝てろ!!」」」

 全員からのツッコミが炸裂した。

 少年たちは笑い合う。

 魔力のない世界で、彼らは剣や魔法の修行だけでなく、こうした「青春」の悩みも分かち合っていた。

 やがて彼らが大人になった時。

 ライオスが王として立ち、シリウスが軍を率いてそれを支える。

 そんな未来が、確かな予感としてそこにあった。

 ◇◆◇◆◇

 一方、王宮のテラスでは、少女たちによる華やかな「ガールズトーク」が繰り広げられていた。

「――でね、シリウス様が『君の淹れたお茶が一番落ち着く』って言ってくれたの!」

 ノアが頬を染めて報告すると、周囲から「キャーッ!」と歓声が上がる。

「やるじゃないノア。外堀から埋めていく作戦ね」

 シズクが冷めた紅茶を啜りながら評価する。

「そういうお姉ちゃんはどうなの? ライオス兄さんと」

「ぶふっ!?」

 シズクがむせる。

「な、何よ。あんな単細胞、ただの腐れ縁よ。……まぁ、重い荷物を持ってくれたり、私が計算ミスした時に慰めてくれたりはするけど……」

「はい、ごちそうさまー」

 リベルが呆れたように手を振る。

 そんな中、分厚い本を抱えたソイルが、珍しく口を開いた。

「……わたしは、ユリウス様と、新しいコンクリートの配合比率について語り合いました。……とても、ドキドキしました」

「そ、それは恋なの? それとも学術的な興奮なの?」

 全員がツッコミを入れるが、ソイルは幸せそうに微笑んでいる。将来、彼女が宰相や文官として国を支え、ユリウスと共に歩む姿が容易に想像できた。

 と、そこへ。

 テーブルをバンッ! と叩いて立ち上がった少女がいた。

 アクアの娘であり、シズクの双子の妹にあたるマリンだ。

「……解せぬ」

 マリンはギリギリと歯噛みしている。

「お兄ちゃんも、ノアも、シズクお姉ちゃんも、みんな春が来てるじゃない! なんで私だけ浮いた話がないのよ!」

 彼女は歌が得意で、明るく可愛い皇女だが、なぜか男運がなかった。

「あーあ。どこかにライオスお兄ちゃんよりカッコよくて、シリウス兄様より優しくて、将来有望な王子様いないかなー!」

「……ふふ。それなら、いい物件がありますよ」

 突然、背後の柱の陰から声がした。

「ひゃっ!? ミ、ミスティ!?」

 ヴァルキリアの娘、ミスティが音もなく現れ、一枚の写真をテーブルに置いた。

 そこに写っていたのは、帝国の制服を着た凛々しい少年の姿だった。

「これは……?」

「じゃっじゃ~ん! 皇帝レオナルド様の御子息、レオン皇子です」

 ミスティが得意げに眼鏡を光らせる。

「おばさま(シェイド)の隠密ネットワークからの極秘情報です。容姿端麗、頭脳明晰、性格は温厚篤実。現在、婚約者なし。……格的にも、竜の皇女の相手として申し分ありません」

 マリンが写真を食い入るように見つめる。

 そして、バッと顔を上げた。

「……決めた! 私、この人をオトす!」

 マリンの瞳に、母レヴィア譲りの情熱の炎が宿る。

「ライオスお兄ちゃんよりイイ男を捕まえて、絶対に見返してやるんだから! ミスティ、詳細データ頂戴! まずは胃袋から攻めるわよ!」

「了解です。……ふふ、面白くなってきましたね」

 盛り上がる少女たち。

 恋に、夢に、野望に。

 彼女たちのエネルギーは、魔力が消えた世界でも尽きることはない。

 少年たちも、少女たちも。

 親たちの背中を追いかけ、やがて追い越していく。

 その賑やかな声は、平和な王宮の空にいつまでも響き渡っていた。

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ざつ

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