第3話 運命の相手
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あらすじ
ガールズ・バント・フライ 〜打ち上げてんじゃねーよバカヤロー! と怒られるバント下手な野球少女。異世界転移し『バットに触れた物を少し浮かせる』スキルで空から落ちて来るのじゃロリ王女を助け従者になる〜 - 第3話 運命の相手
本文
伊織達は馬車を乗り継ぎ、数日掛けてエステルの故郷、ヴァルドハイム王国に到着。
そしてエステルの父親……アーヴァイン・ゴル・ヴァルドハイム王に謁見したのだが……この言い草だ。
「し、しかし父上! イオリは勇者で……」
「勇者とは有用だから価値があるのだ。
レオマーリのナオは知っているな? 数多の刀剣を生成し、射出し、一人で一騎当千の力を持つ勇者だ。
対してその者のスキルは何だ? バットとやらに触れた物を打ち上げる?
そんな者を我が国の勇者だと喧伝すれば我々は良い笑い者だ!」
「い、イオリは妾の命の恩人なのじゃ! せめて礼を持ってもてなしたいのじゃ!」
「お前の命を救う事が大義だとでも言うつもりか?」
「うぅ……っ」
(うぅん?)
自分のスキルがナオさんって人と比べると地味で弱そうなのは確かだ、と伊織は思った。
しかし娘であり王女であるエステルを助けたのが大義では無い、いう部分には引っ掛かった。
そもそもにして容姿が違う。
エステルは銀色の髪に紅と紺碧のオッドアイ。
背中にはコウモリの様な翼が生えていて、体格は小柄で痩せている。
しかし玉座に座るヴァルドハイム王は大柄で金髪碧眼で翼は無い。
更には脇に控えるエステルの弟と妹も背が高く、こちらも金髪碧眼だ。
エステルの見た目や言動から子供とばかり思っていたが、実は18歳で自分より年上だった事が伊織がこの世界に来て一番驚いた事だった。
そして兄と姉だと思っていたあの2人が、それぞれ17歳と16歳だと知って更に驚いた。
こう言っては何だが、見た目や所作の節々からエステルよりも大人びて見える。
「お願いじゃ! 妾の事は幾ら悪く言っても良い!
じゃがイオリは妾の命の恩人なのじゃ! 妾の頼みでスターシュからヴァルドハイムまで足を運んで貰ったのじゃ! せめてイオリには正当な報酬を……」
「くどい! そこまで言うのであればジェラルドと手合わせさせるか?
実力を示せば考えてやらぬ事も無い」
「そ、それは……っ」
「僕は何時でも良いですよ、姉上」
「え、エルメダ……!」
「ごめんなさいお姉様、私もお父様に同意見ですわ。
相応の報酬は相応の働きに与える。
それがこのヴァルドハイム王国の在り方ですわ。
こちらもわざわざ無駄金を使う理由はありませんもの。
目下の脅威がレオマーリのナオである以上、彼女に対抗出来る力があると示さねば支払いようがありませんわ」
「どうする、エステルよ。己の自己満足の為にその勇者をジェラルドと戦わせるか?」
「う、うぅ……っ、分かったのじゃ……もうこれ以上は何も言わない!
だからジェラルドは剣から手を離してくれ……!」
「命令されなければ抜きませんよ……」
エステルは威嚇するコアリクイの様なポーズで伊織とジェラルドの間に立ち塞がる。
対するジェラルドは呆れとも微笑ましいとも取れる笑みで剣から手を離した。
「話は終わりだ。その勇者を連れて即刻立ち去れ! 我々とて暇では無いのだ!」
◇◇◇◇◇
「すまぬ、すまぬ……!」
「あ、頭を上げてください……!」
謁見の間を追い出され、少し歩いた先の倉庫でエステルは深々と頭を下げる。
「妾の命を救ってくれた恩人にこの様な仕打ち……全ては妾の力不足故じゃ……!」
「私は大丈夫ですから……」
「どうにか出来る限りの事はする。ミレーヌ」
「はっ」
エステルが声を掛けると、ミレーヌが一つの皮袋を差し出した。
「これで一週間は暮らせるじゃろう。その間に妾は礼を用意する」
「駄目です」
「い、イオリ……?」
予想外に強い語気で否定されたからか、エステルは驚いた表情を見せる。
「気にするでない。これはお主が受け取るべき正当な……」
「エステルさんは自分を犠牲にしようとしています」
「な、何を……」
「私も以前、今のエステルさんと同じような目をしていた時があります」
「む、む……?」
伊織はエステルの両肩をがしっと掴み、目と目を合わせながら自身の思いを吐露する。
「私、全然打てなくて、バントも失敗して……だからわざと三振するのがチームの為だと思って、そうしていました。
でも監督に怒られて……それで救われた気分になるのは自分だけで、周りは全然救われないって言われて……」
「さ、さんしん? かんとく?」
「あ、すみません……えぇっと、三振と言うのは野球という競技において攻撃のチャンスを不意にするという事で、監督は……ボス、偉い人の事です」
「うむ……勇者より齎された球技というのは聞いた事があるが、生憎とこのヴァルドハイムではヤキューは浸透しておらぬからな……」
「そうですよね……自分本意な例えを出してしまってすみません」
「いや、良い。お主の言いたい事も分かった。
しかし、命の恩人に報いる為には持っている物を売って金に変えるしかないのじゃ」
「お金なんて要りません」
「受け取ってくれ、イオリよ。恩を返さねば妾に残った仮初のプライドすら崩れ去ってしまうのじゃ」
「だったら私を従者にしてください!」
「な、なんじゃと?」
「王様としては私を勇者として喧伝したり高給を支払うのが駄目なんですよね?
それなら一介の従者としてエステルさんに仕えるなら問題無いのでは……!?」
「それはそうかも知れぬが……父上が頑固なだけで本来勇者とは数多から求められる存在じゃ。
イオリの能力とて人や組織によっては活かせるやも知れぬし、好待遇で迎えてくれるところも……」
「私はエステルさんに仕えたいんです」
「何故じゃ……何故そこまで妾に拘る?」
「えっ」
そういえば、と伊織は考える。
何故自分はエステルにここまで拘っているのだろう、と。
確かに先程のやり取りで庇護欲だとか同情心は湧いているのは確かだ。
しかしそれだけでは理由として弱い様な気がする、何よりエステルが納得しないだろう。
「……あ」
「イオリ?」
「それは、エステルさんが運命の相手だからです」
「なっ、ななななななな……っ!? 何を言っておるのじゃ!?」
「エステルさんは空から落ちてきて、落下地点近くに偶然私が居て、そして私にエステルさんを救えるスキルがあった。
私の国では空から落ちてきた女の子は運命の相手なんです!」
ラピ○タ知識だけど……! と、伊織は内心で付け加えつつ。
それでも、ここまで彼女に入れ込むのはそういう事なのだろう、と納得もしていた。
「そ、それが礼になるのか?」
「なります!」
「妾の従者は忙しいぞ?」
「体力には自信があります!」
「給与は安いぞ?」
「生活出来れば良いです!」
「決して周りから称賛はされぬぞ?」
「エステルさんが認めてくれれば十分です!」
「……イオリは女同士でも運命の相手だと思っておるのか?」
「は、はい……!」
「う、うむぅ……」
少し頬を赤らめたエステルが困り顔でもじもじと顔を背ける。
「よ、良かろう……! その申し出、喜んで引き受けようぞ!
今よりイオリは妾の従者の1人じゃ。光栄に思うのじゃぞ!」
「ありがとうございますっ、エステルさん!」
「エステル様、じゃ」
「はい、エステル様!」
「……ありがとう。妾はお主の主人として恥じぬ生き方をすると誓おう」
それでも最後は上目遣いで見上げるエステルに、伊織は心臓を撃ち抜かれたのだった。
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