第58話 新たなリーダー
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あらすじ
ガールズ・バント・フライ 〜打ち上げてんじゃねーよバカヤロー! と怒られるバント下手な野球少女。異世界転移し『バットに触れた物を少し浮かせる』スキルで空から落ちて来るのじゃロリ王女を助け従者になる〜 - 第58話 新たなリーダー
本文
「けぷっ」
「お拭きしますね」
「お口に合いましたか? 胃に優しいものを用意しましたが……」
「うむ! 美味であったぞリディア!」
「動かないでください」
「むぐぐ」
出された食事を食べ終え、エステルの口を拭い……そこでようやく普段の調子を取り戻した事に伊織はホッと胸を撫で下した。
「随分と過保護になったわね……」
「む、テナシー。ふむ、前回会った時はまだイオリは世話係ではなかったからの!」
「ふぅん? 親子みたいね」
「妾を子供と申すのか! 妾とイオリは愛し合う仲じゃ! もう大人じゃ!」
「……シたんだ? この小っちゃい子と」
「……と、歳上ですよ?」
なのに何故か視線を逸らしてしまう伊織であった。
「……ま、良いわ。今更だけど改めて自己紹介するわ。
アタシはテナシー・リイタ。このローニカ砦の指揮官代理を務めているわ。
歓迎するわ、エステル・リア・ヴァルドハイム様」
「ふむ、イオリから聞いておったが……本当に妾を旗印として迎え入れるつもりか?
妾に権力は無く、混ざり者で、オマケに魔王軍と通じているという嘘の自白をしてしまった。
そんな者を旗印にしては分解してしまわぬか?」
「私達はアーヴァインの悪政に立ち向かう為に集まった。
そして、アーヴァインの一番の被害者は貴女よ。
そういう意味では私達は同じ苦しみを共有する同志と言えるわ。
それに、貴女とイオリがナオやブラックドラゴンを倒した事は皆知ってる。
私達異種族にも分け隔て無く接してくれていた事もね。
だから後は、同じ目的を共有出来れば貴女は立派なリーダーになり得るわ」
「ふむぅ……集まった者達は本当に命懸けで王国軍と戦うつもりなのじゃな?」
「えぇ。エルフ、ドワーフ、獣人、人魚、バードマン、リザードマン、ケンタウロス、ゴブリン、オーク……コナの町の人間達もこっちに付いてくれた。
もしエステルがリーダーになるのを拒否しても、貴女を助けた時点で宣戦布告した様なものよ。
私達はもう止まらない、止まれない」
「……分かった。妾も己の責務を全うするとしよう」
「決まりね。宜しく、リーダー」
「うむ」
エステルとテナシーは硬く握手を交わし、周囲の各種族の代表者やそれに近しい者達は拍手をもって新しいリーダーの誕生を称えた。
「では早速じゃが、戦況はどうなっておる?」
「この地図で説明するわね」
テナシーが地図を広げ、白く細い指を這わせながら口を開く。
「ついさっき宣戦布告したばかりだから流石に戦闘は起こってないわ。
現状の布陣は獣人とその協力者、及びその家族が居るコナの町を獣人が。
武具や兵器を製造しているドワーフの町ドヴェルグをドワーフが。
魚介類を産出するサラヴェール湖は人魚達を抑え込んでいた魔道具を撤去して、人魚とリザードマンで。
木の実や獣の肉が取れるリルヨの森はこのローニカ砦で守っているわ。
特にこの砦は王都と近い事もあって特に戦力を厚くしてる。
けれど一番の穀倉地帯であるコーンウォリス平原は向こうに抑えられてるわね……
後はゴブリンが商会の伝手を使って物資を提供してくれているわね」
「ふむぅ……ザフィアはどう見る?」
「短期決戦しか無いかと」
エステルの問い掛けにザフィアは迷う事なく即答した。
その確信めいた口振りにテナシーも少し戸惑っている様だ。
「その心は?」
「理由は二つ。一つはコーンウォリスを抑えられている事です。
これでは長期戦は不利です。
またリルヨの森やサラヴェール湖、コナの町はそれなりに距離があり、守る為に王国軍より少ない人員を更に分割している状態です。
ドヴェルグの守りは強固なので、そこは心配要らないと思いますが……」
「その分、向こうも食料の消費は多い筈。
それでも絶対にリソース勝負では勝ち目は無いと?」
「仮にそれで勝てたとしても、二つ目の問題が立ちはだかります。
……ジェラルド様の傷が癒え、戦線に復帰してしまいます。
そうなればこちらの勝算は著しく下がるでしょう」
「それは……マズイわね」
ザフィアの指摘に会議室と化した食堂は静まり返る。
相性の悪いナオにこそ敗れ重傷を負ったが、完治していない状態でブラックドラゴンに傷を負わせたのだ。
それが原因で傷口が開いて再び療養に戻ったが……そんな彼を見くびる者はこの場には一人も居なかった。
「ふぃ〜、良いお湯だったぁ。あ、カステラじゃん。食べて良い?」
「ナオ……」
入浴を終え、ラフな格好になったナオが食堂へ現れた。
返事も聞かずに置いてあったカステラを口に放り込んで地図を覗き見る。
「なになに作戦会議? そんなんしなくてもアタシが前に出てズババババー! って斬っちゃえば済む話じゃん?」
「ナオよ、もしまたジェラルドと相対した時……確実に勝てる保証はあるかの?」
「えー、そんなの無いよ。前やった時もギリギリだったし。でもぉ……」
ナオはエステルの問いに答えながら、ニヤッと笑い……伊織の首に腕を掛けてきた。
湯上がり直後の体温と石鹸の香り。そして柔らかい感触が伊織の五感をくすぐった。
「伊織ちゃんと一緒なら勝てるよ。伊織ちゃんが守ってアタシが攻める。完璧っ!」
「離して」
不敵に笑うナオとは対照的に、伊織は鬱陶しいという感情を隠しもせずにその腕を振りほどいた。
「今は味方だから我慢してるけど……私は貴女が嫌いだ。エステル様にした事も許してない」
「えーん! アタシはこんなに伊織ちゃんラブなのにっ!
じゃあさ、戦場でアタシがピンチになったら見捨てる?」
「……そんな事はしない」
「にひっ! じゃー平気だねー」
「当人同士が戦場で連携出来るなら問題は無い。
ともあれこちらにはこの二人……最強の剣と最強の盾が居ます。
ジェラルド様が復帰する前にケリを着ける事は可能かと」
「そうじゃな……うむ、妾はザフィアの短期決戦案に賛成する! 他の者は意見はあるかの?」
「異議無し!」
「異議無し」
「同じく!」
テナシーを始めとした各種族の代表者達も賛成の意を示した。
エステルはその様子に満足そうに頷き、ザフィアに次の指針を尋ねる。
「では先ずは何処を攻める?」
「此処です。城塞都市ビセット……此処を占拠すれば王都は目と鼻の先です。
王都からはビセットを迂回して南に進軍する事は難しく、此処を手中に納めれば他の場所を守っている兵員も呼び寄せられます」
「そして最大の兵力を持って王都を落とす、か」
「はい。戦乱の時代、ビセットは王都に近付く敵を尽く跳ね返してきました。
だからこそ手強く……だからこそ、王都は防衛に不得手。
ビセットを巡る戦いを制すれば我々の勝利は揺るぎないものとなるでしょう」
「うむ! 総員、準備を……」
「失礼します! お話中のところ申し訳ありませんっ!」
「どうしたの? そんなに慌てて……落ち着きなさい」
テナシーが血相を変えて飛び込んできた若いエルフを落ち着かせようと試みるが、それどころではないと彼は口を開いた。
「ビセット方面から王国軍の進軍を確認しました!」
「来たか。父上らしいせっかち具合じゃの」
報告を聞いたエステルはどこか呆れた様に溜め息を吐いた。
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