※ 第59話 ローニカ砦防衛戦
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ガールズ・バント・フライ 〜打ち上げてんじゃねーよバカヤロー! と怒られるバント下手な野球少女。異世界転移し『バットに触れた物を少し浮かせる』スキルで空から落ちて来るのじゃロリ王女を助け従者になる〜 - ※ 第59話 ローニカ砦防衛戦
本文
「皆落ち着きなさい! 各自武器を点検し準備を整えなさい!」
ローニカ砦は騒然としていた。
大半は初めての実戦……しかも王国軍の方が数で勝っているのだ。
テナシーや各種族の部隊長がどうにか落ち着かせようと激を送る。
「エステル様は怖くないのですか?」
「守勢が有利だと理解しておるからの。 初めての実戦という訳でも無し。
少なくともこの戦では負けぬじゃろう。
それよりも……イオリはどうなのじゃ?」
「私ですか? もう戦う事に恐れはありません」
「そうでは無い。イオリは……王国を憎く思うか? 怒りをもって人を殺傷するか?」
「無い、とは言い切れません。エステル様に濡れ衣を着せた国王。
無理矢理に嘘の自白をさせた拷問官。
今までの功績を無視して責め立てる市民達……私は、彼等を許せません」
「それでも妾にとっては守るべき……守りたかった国民達じゃ。
イオリには怒りや憎しみではなく義の心で戦って欲しい。
妾のせいで修羅に落ちてはほしくないのじゃ」
「……努力します」
「うむ」
「そんな難しい事考えなくていーじゃん。
アタシは楽しいから斬ってるだけだし」
「一緒にしないで」
「あぁんいけずぅ」
伊織は寄り掛かるナオを振り解き、エステルを抱き抱えて屋上に向かう。
反乱軍のリーダーはエステルだが、本調子では無い事もあって現場の指揮は経験豊富なザフィアや部隊長が務める事になっている。
「多い、んでしょうか。ツスの丘の時よりも多い気がします」
「王都やビセットと近いからの。しかしこちらは籠城戦。戦力比で言えば負けておらぬ」
「攻撃側は三倍の兵力が要る、という話でしたか?」
「うむ。問題はジェラルドが来ているかじゃが……居らん様じゃの」
「まぁ、あの怪我ですので」
戦力的な意味か、家族と戦わずに済むからか、エステルは安堵の表情を浮かべる。
「大砲です! 奴等大砲を揃えて来ています!」
「落ち着きなさい! 私達エルフの弓ならば大砲よりも射程距離は長い! 撃つ前に仕留めれば良いのよ!」
「は、はいっ!」
動揺する兵士達をテナシーが鼓舞する。
ザフィアは城門前に陣取り、いざと言う時の切り込み役として待機している。
故に屋上の射出部隊はテナシーの領分だ。
「イオリ、箒は?」
「ありますが……その状態で出るおつもりですか?」
「妾とイオリの力が必要になろう。共に戦ってくれるか?」
「エステル様が望むのであれば」
「うむ、頼りにしておるぞ」
「来たぞ! 放て!!」
テナシーが叫ぶと、砦から無数の矢が放たれる。
しかし王国軍の盾に阻まれ、その殆どは届かない。
それでも何本かは盾を掻い潜り兵士を貫く。
「前進止まりません!」
「とにかく打ち続けなさい!」
テナシーの指示で更なる矢の雨が降り注ぐ。
しかし王国軍はジリジリと前進し続け、やがて大砲の射程距離に入った。
「イオリ」
「はい」
伊織とエステルは互いに頷き合い、鉄の棒と筒で作られた鉄箒をエステルに手渡す。
二人はそれに跨り、前に座るエステルが魔力を込める。
「『バン・ト!』『フライ!』」
「奴等砲手の前に土魔法で壁を!」
「撃ってきました! ……え!?」
後部の筒から白い炎を噴き出す箒は、その推進力で突風を巻き起こす。
二人を乗せた鉄箒は真っ直ぐに飛来する砲丸に向かい……
「バント!」
砲丸は伊織のバントスキルでふわりと浮き上がり、城壁に届く事なく落下した。
「大砲を防いだ!?」
「これなら……」
「いや……奴等一斉に撃ってきやがった!」
「行けるかの?」
「勿論。バン……トォ!!」
次はスキルの効果範囲を面に広げ、飛んで来る砲丸の全てを弾き落とす。
バットで直接防いだ訳では無いので魔力は多量に消耗するが、ブラックドラゴンの攻撃と比べれば遥かに組しやすい。
「曲射で真上から狙いなさい!」
「はっ!」
矢と砲丸が交差しお互いの陣地に降り注ぐ。
しかしどちらも決定打にはなり得ず、伊織の魔力が尽きるか向こうの砲丸が尽きるかの勝負になる……
「ふぅん?」
そんな空気が漂い始めた直後。
伊織とエステルは背後から発せられた声に振り向いた。
「ナオ……下でザフィアさんと突撃部隊に加わってる筈でしょ?」
「だってつまんないだもーん。ね、敵の大砲黙らせたら助かる?」
「それはまぁ……」
「黙らせたらチューしてくれる?」
「嫌だよ」
「あは♪ ざーんねん。じゃ、せめてご褒美ちょーだい?」
「何が欲しいの?」
「結果次第で決める。じゃねー」
「あ、ちょ……」
ナオは伊織との会話を一方的に打ち切って城壁の縁に立ち飛び降りた。
生成した剣を階段の様に使い、一段一段跳ね下りる。
「アイツは……!」
「ナオだ!」
「向こうに付いたのかよ⁉︎」
城壁から降りる姿は非常に目立ち、それ故にナオの姿は多くの王国軍兵が見る事となり……その結果、離れた場所からでも分かる程に恐慌状態に陥った。
一度は敗れたとは言え、ヴァルドハイムの兵士から見ればナオは未だに殺戮と恐怖の象徴なのだ。
「あははははははははははは!!」
刀剣を無数に生成し、射出する。
それだけで軽装の兵士は血を撒き散らしながら倒れていく。
「落ち着け! 盾持ちを前に出せ!」
王国軍の指揮官が指示を飛ばすと、盾を持った兵士達が最前線に出る。
しかし身の丈を越える大剣を降ろされ、ある者は力任せに叩き切られ、ある者は押し潰された。
砲手の前に作られた土壁も、前方の刀剣は防げてもそれ以外の方向から振り落とされる凶刃は防げない。
ナオの刀剣が王国軍の兵士を蹂躙する中、下方から重低音と喊声が響く。
ナオの特攻により、好機と見た野戦部隊が出撃した様だ。
ケンタウロスと獣人、バードマンの部隊が先行し、次いでリザードマンとオークの部隊が突撃する。
ここまで来れば最早砲弾も飛ばなくなり、戦の趨勢は誰が見ても明らかだった。
「もう心配は要らんな。ふぅ……」
「エステル様⁉︎」
屋上に戻って着地し、エステルはくたっと脱力する。
「すまぬ、少し疲れた……」
「どうかゆっくりお休みになられてください」
「う、む……」
緊張の糸が切れたのか、伊織の腕に抱かれてゆっくりと寝息を立て始めた。
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