第4話 頼れる兄貴分、かー兄
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あらすじ
まるふく日和 - 第4話 頼れる兄貴分、かー兄
本文
「いらっしゃいませっ!」
「こんちは」
「来たでー」
今日も今日とて茂さんと徳さんが『まるふく』に来店。
「柚葉、これ」
「サイフ……!」
「俺が昔使ってた奴だけどな。金貰ってんなら必要だからな」
徳さんが懐から取り出したのは古びているけど、しっかりした革製のサイフ。
小さい女の子にはちょっと厳ついけど、すぐ物を無くしそうだし大きいに越したことは無いか。
「俺からはコレな」
「貯金箱……!」
「毎日200円分の駄菓子は食いきれんやろ?
食べる分だけ買って、残りは貯めると良え」
茂さんが渡して来たのは豚の貯金箱。
と言っても叩き割るタイプじゃなくて、お腹に穴と詮があって何時でも取り出せるプラスチックタイプで落としても安全な安心設計。
「ありがとう、徳さん茂さん。ごめんね。本来なら私が買い与えなきゃいけないんだけど」
「ガキんちょが何言ってやがる。もう使ってねぇ財布だ」
「俺んのも孫がもう使わんくなった奴だからな」
「私はもう28だっての。ほら、柚葉もお礼言いな」
「徳さん、茂さん、ありがとうっ! お婆ちゃん所に行ったらね、子供達がコマやってて!
柚葉も欲しかったけど200円じゃ買えなくて……!」
「おうおう。その貯金箱で貯めて買うと良えよ」
「ベーゴマかぁ。買ったら俺等が教えちゃるからな」
「……! うんっ」
「手加減してよー? 何年か前に強すぎて子供達泣かせちゃったじゃん」
「そんなんお前、勝負事に手加減は出来ねぇよ」
「昔は負けたらベーゴマ取られたんやで? そん時と比べたらお上品やろ」
「私が子供ん時はもうそんなアンティルール無かったけどね。ま、それはそれとして……ご注文は?」
「いつもの」
「同じく」
「はいよ。月見うどんときつねうどん天かす入りね」
昨日と同じく麺を茹でて、締めて。卵を割って。
「はい、柚葉」
「う、うん……!」
柚葉は今日もプルプル震えながら油揚げを乗せる。
天かすの方も変わらずじっくり交互を見比べながら入れていく。
スプーン用意して何杯分……とかってやった方が良いのかな。
過保護すぎ? ちょっと時間掛かったぐらいで怒る人達でも無いしなぁ。
「で、出来た……!」
「おおぅ、山盛りだね」
「え、あ、ダメだった……?」
「いや、今日はサービスって事で。ほら、渡してあげて」
「うん……! どうぞ……!」
「はいよ」
「頂きます、と」
徳さん茂さんはチュルっと啜って。
昨日と同じく美味い美味いと褒めてくれて、柚葉の肩の力がふっと抜ける。
「ちわーっす」
「いらっしゃいませっ!」
「うおっ⁉︎ え、バイト?」
「拾った」
「拾ったぁ? タマじゃあるまいし……家出娘を泊まらせるにもリスクあんだぞ」
「この子18。成人済み。本当ならね」
「マジかよ……いや、マジか? 詐称してね?」
「どうだろ。会ったの昨日だし調べようが無いし……ま、その時はその時」
「お前なぁ……」
この眼鏡を掛けた無駄にマッチョな男性……武安 克弘(たけやす かつひろ)。通称『かー兄』は私の5つ上の33歳。
同じこの町で育った兄貴分。
今はIT商社勤務のバリバリのサラリーマン。
お爺ちゃんがやってた頃から『まるふく』の常連で、今も尚時折電車に乗って昼食や夕食を食べに来てくれる。
「柚葉。この人はかー兄。自己紹介しな」
「ぇ、ぁ……こ、こんにちはっ! 椎名 柚葉ですっ!」
「おぉ、宜しく。武安 克弘……好きに呼んでくれて良い。
さっきはヤイヤイ言ったけど、椎名さんが『まるふく』の一員になったなら……歓迎する」
「ありがとうございますっ!」
「ふふ……で、かー兄。ご注文は?」
「いつもの」
「たぬきうどんとおにぎりセットね。了解」
うどんを茹でて、その間に作っておいたおにぎりを温める。
うどんが茹で上がったら水で締めて汁を入れて……
「柚葉、仕事。このかき揚げ乗っけて」
「わ、分かった……!」
柚葉はかき揚げを掴んで……あ、力入れ過ぎて割れた。
「あわ、あわわ……」
「いや良い良い。味変わらんし」
「は、はい……っ」
一瞬で泣きそうになって。でもかー兄が笑顔で返してくれて。
柚葉はホッと胸を撫で下ろしてかき揚げをセットした。
「ほい、かー兄。たぬきうどんとおにぎりセットね」
「あんがとさん。……んぐ」
柚葉が差し出したたぬきうどんを一啜り二啜り。
先に麺を食い尽くして、残った汁でおにぎりを食べるのがかー兄のスタイルだ。
「ひろ子、ビール」
「同じく! かー坊も飲むか?」
「俺はまだ勤務中だっての……」
「がっははは! 昼間っから飲む酒の美味さを知らんとは!」
「幾ら金持ってようがコレを味わえないたぁ、可哀想な奴じゃのぉ〜!」
「別に言う程金持ってねーって……」
「ふふ……じゃあ柚葉、冷蔵庫から缶ビール出して持ってってあげて」
「分かった!」
柚葉はトテトテと歩いて冷蔵庫の扉を開けて、二本の缶ビールを抱えてカウンターに回る。
「どうぞっ!」
「ありがとさん」
「大人になったら飲もうな。奢ったるで」
「美味しいの?」
「美味いぞぉ! 苦労人なら特にな」
「柚葉なら大層美味いやろな」
「おぉー……!」
「ちょっとちょっと、ウチの子に変な事吹き込まないで貰える?」
結構本気で注意したのに二人ガハハと笑うばかり。
まぁ、もし柚葉が未成年でお酒を飲もうとしたら全力で止めるんだろうけど。
「なぁ、千紘。実際の所椎名さんは何もんなんだ? 本当に家出娘なのか?」
「あー……ネグレクトされてて、成人したから放り出されたんだって。
だから一般常識とか栄養とか色々足りてなくて」
「ほーん……無駄に賢しい親だな。じゃあまだスマホ持ってないのか?」
「うん。連絡手段は要るってのは分かってるんだけどね」
「なら俺のお古のスマホやるよ。ゲームするにゃあ物足りないが、通話なら出来る。
今度の休みに付き合ってやるから、SIMカード契約しに行こう」
「え、悪いよ」
「お前こういうの慣れてないだろ? そこで手間取ってたらそれこそ椎名さんに良くないぞ」
「あー……それもそっか。じゃあお願い出来る? ご飯奢るから」
「妹分が生意気言うなって」
そう言って、反論は許さんとばかりにおにぎりをむしゃり。
この町の人達は皆優しくて、頼りになって……見栄っ張りばかりだ。
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