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第6話:つまみ食いの口づけと、遠のくゴール

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あらすじ

地味子に擬態して童貞紳士を狙ったら、彼の理性が鉄壁すぎてご飯(精気)が食べられません! ~誘惑したい初心者サキュバス vs 守りたい最強の紳士~ - 第6話:つまみ食いの口づけと、遠のくゴール

本文

あたりはすっかり暗くなっていた。

 駅前の公園。ここが今日のデートの解散場所だ。

 私の手には、ケンジさんに買ってもらった「鉄壁の防具(厚手の服)」が入った紙袋がある。

「今日は付き合わせてごめんね。でも、リリさんにはそういう服の方が絶対に似合うから」

「あ、はい……ありがとうございます……」

 ケンジさんは最後まで爽やかで優しかった。

 ……でも、私の状況は絶望的だ。

 露出作戦も透け透け作戦も失敗し、私の胃袋は限界を超えて悲鳴を上げている。

 このまま帰れば、空腹で気絶して、孤独死するかもしれない。

(せめて……せめて、「一口」だけでも……!)

 フルコース(セックス)は無理でも、試食(キス)くらいなら、お礼という名目で許されるのではないか?

 サキュバスにとって、粘膜の接触は精気摂取の基本。

 キスだけでも、今日一日を生き延びるくらいのカロリーにはなるはずだ。

「あ、あの! ケンジさん!」

「ん? どうしたの?」

 私は彼の上着の袖を、ちょこんと掴んだ。

 心臓が破裂しそうだ。

 食事のためとはいえ、男性に自分からキスをねだるなんて、恥ずかしすぎる!

「きょ、今日は、服のお礼を……させてくださいっ」

「えっ? いや、いいよそんなの」

「だ、ダメです! 私の気が済みません!」

 私は勇気を振り絞り、目をぎゅっと閉じて、背伸びをした。

 彼の胸元に飛び込む。

「んっ……!」

 私の唇が、ケンジさんの唇に触れた。

 柔らかくて、温かい。

 その瞬間、じんわりとした甘い熱――精気が、口元から流れ込んでくる。

(あ、おいしい……っ)

 空っぽの胃袋に、甘い蜜が染み渡るようだ。

 ただの精気じゃない。ケンジさんの優しさが溶け込んだ、極上の味。

 もっと欲しい。もっと深く、舌を絡めて吸い尽くしたい……!

 ――いや、ダメだ!

 ここで貪ったら「飢えた獣」だとバレてしまう!

 私は名残惜しさを断ち切り、パッと体を離した。

「ぷはっ……! ご、ごちそうさまでしたっ! ……あ、じゃなくて!」

 口走ってしまった失言を誤魔化すように、私は口元を両手で覆った。

 カァァァッ……と顔から火が出るのがわかる。

 たかがキス。されどキス。

 こんなにドキドキするなんて聞いてない。

 恥ずかしい。顔を見られない。

「あ、あの、それじゃあ私、これで失礼しますぅぅぅっ!」

 私は脱兎のごとく、その場から逃げ出した。

 少しだけ満たされたお腹と、爆発しそうな胸の鼓動を抱えて。

 ***

 一人残されたケンジは、呆然と唇に触れていた。

「……キス、された……」

 柔らかい感触が残っている。

 そして、最後に見た彼女の顔。

 耳まで真っ赤に染めて、涙目で、逃げるように去っていった後ろ姿。

(……なんて、純粋な子なんだ)

 俺の胸に、愛おしさがこみ上げてくる。

 今の時代、キスひとつであんなに動揺する子がいただろうか?

 いや、いない。彼女は絶滅危惧種の「大和撫子」だ。

 きっと、ものすごい勇気を出してくれたに違いない。

「……危なかった」

 もし今日、ホテルで無理やり手を出していたら、彼女のあの純真な心を傷つけていたかもしれない。

 俺は深く反省し、そして誓った。

「焦っちゃダメだ。彼女は、時間をかけて、少しずつ歩み寄らなきゃいけない相手なんだ。……まずは手を繋ぐところから、順番を守ろう」

 俺の「童貞卒業」の目標は、皮肉にも俺自身の「紳士協定」によって、さらに遠のくことになったのだった。

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りくりな

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