第10話 商業ギルドが「税金を払え」と脅してきたので、「これは商品ではなく『返礼品』です」と論破して脱税した
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あらすじ
【悲報】魔法世界の住人、俺の「現代組織論」と「洗脳技術」になすすべなく堕ちていく。~インチキ宗教を立ち上げたら、知識が最強すぎて世界征服してしまった件~ - 第10話 商業ギルドが「税金を払え」と脅してきたので、「これは商品ではなく『返礼品』です」と論破して脱税した
本文
「聖女の店」の裏にある隠し金庫室。 そこには、今や足の踏み場もないほどの「黄金」が積み上がっていた。
「す、凄い……。ルシアン様、今月の売上、過去最高です! 一生遊んで暮らせる額ですよ!」
元・落ちぶれ商人のトーマスが、金貨の山を前に恍惚とした表情で震えている。 公爵夫人の肌を若返らせたという実績と、教会によるデマ騒動を逆手に取った「悪魔祓いの店」という評判。 この二つが相乗効果を生み、石鹸はもはや単なる美容品ではなく、持っているだけでステータスとなる「聖遺物」へと昇華していた。
原価ほぼゼロの油脂と灰が、金貨に変わる。 笑いが止まらないとはこのことだ。
だが、光が強ければ影も濃くなる。 あるいは、甘い蜜には必ず「害虫」が群がるものだ。
「失礼するよ。随分と景気が良さそうじゃないか」
ノックもなしに、金庫室の扉が開かれた。 入ってきたのは、立派な髭を蓄えた、恰幅の良い初老の男。 王都の商業ギルドを束ねるギルド長、カルネだ。
その目は、積み上がった金貨の山に釘付けになっている。 欲望を隠そうともしない、粘着質な視線。 私はゆっくりと紅茶を置き、微笑んだ。
「これはギルド長。こんなどぶ板裏の店に、何の御用でしょうか?」 「挨拶に来たのさ。……と言いたいところだが、単刀直入に言おう」
カルネは私の前の椅子にふんぞり返り、羊皮紙の束をテーブルに叩きつけた。
「貴様らの商売は、商業ギルドの許可を得ていない『違法操業』だ。即刻、ギルドへの加盟と、これまでの売上の50%を『罰金』および『税』として納めろ。さもなくば、明日にも店を強制閉鎖させる」
50%。 半分を寄越せと言っているのだ。 トーマスが真っ青になって私を見る。 だが、私は眉一つ動かさなかった。
「50%とは大きく出ましたね。……根拠となる法律は?」 「王都商法第3条。『物品を販売し、利益を得る者は、ギルドに加盟し納税の義務を負う』。……貴様らが石鹸を売って莫大な利益を上げているのは明白だ」
カルネが勝ち誇ったように鼻を鳴らす。 正論だ。この国の法律では、商売をする以上、ギルドという既得権益に金を払わなければならない。 教会の司祭は公爵家の威光で追い払えたが、ギルドは「法律」を盾にしてくる。公爵家といえど、国の法を無視して私を庇うことは難しい。
そこを突いてきたわけだ。なかなかに狡賢い古狸だ。 普通の商人なら、ここで泣き寝入りして金を払うだろう。
――だが、相手が悪かった。
「ふふっ……」 「あ? 何がおかしい?」
私は肩を震わせて笑った。 そして、冷ややかな視線でカルネを見据える。
「勘違いなさらないでください、ギルド長。……我々は、何も『売って』などいませんよ?」 「はぁ? ふざけるな! 現に石鹸を客に渡して、金を受け取っているだろうが!」
「ええ。ですが、それは『商売』ではありません」
私は金貨を一枚手に取り、指先で弾いた。
「この金は『代金』ではない。迷える子羊たちが、神への感謝を示すために置いていった『お布施(寄付)』です」
「は……?」
カルネがポカンと口を開ける。 私は畳み掛けるように続けた。
「そして、我々が渡している石鹸。あれは『商品』ではありません。多額のお布施をいただいた信心深い方へ、感謝の印としてお渡ししている『返礼品(粗品)』に過ぎません」
これが、現代知識を用いた最強の詭弁――《実質的課税の原則の逆用》だ。
「金を出して物を買う」という行為は、外形的には同じに見える。 だが、「名目」を変えれば、法の適用範囲から逃れることができる。
例えば、前世の日本におけるパチンコ業界の「三店方式」。 客は玉を金に換えることはできない(賭博になるから)。だから「特殊景品」に交換し、それを別の店で買い取ってもらう。 あるいは、宗教法人のお守りやお札。あれは「商品」として売っているのではなく、「授与品」として頒布しているため、原則として非課税だ。
私は今、この店を「商店」から「宗教施設」へと定義し直したのだ。
「馬鹿な……! そんな屁理屈が通ると思っているのか! やっていることは商売そのものじゃないか!」
カルネが激昂して机を叩く。 私は涼しい顔で首を傾げた。
「屁理屈? 心外ですね。信教の自由を侵害するおつもりですか?」
私は懐から、一枚の書類を取り出した。 ローゼンバーグ公爵夫人のサインが入った「宗教活動許可証」だ。
「我々は公爵家の認定を受けた宗教団体です。……ギルド長、貴方は神への『寄付』に税金をかけるつもりですか? 神の恵みである『返礼品』を、汚らわしい商品と同一視するのですか?」
私の声色が、スッと低くなる。
「もしそんなことをすれば……信心深い公爵夫人や、街の数千人の信者たちが黙っていないでしょうね。『ギルドは神を冒涜した』と、暴動が起きるかもしれませんよ?」
「ぐ、ぐぬぅ……ッ!」
カルネの顔が赤黒く変色する。 論理ロジックでは勝てず、政治(公爵家)と暴力(暴動)をチラつかせられては、手も足も出ない。
ここで、私は仕上げにかかる。 心理学における交渉術ドア・イン・ザ・フェイス(譲歩的要請法)だ。
まず、相手が絶対に飲めないような過大な要求を突きつける。
「ギルド長。神への冒涜を償うために、今すぐ商業ギルドを解散してください。そして全財産を教会に寄付することを提案します」
「な、なんだと!? ふざけるな!」
「……それが無理なら」
私は一転して、柔らかな笑みを浮かべた。
「我々の活動には一切干渉しない。そして『非課税』であることを認める。……これだけで手を打ちましょう。どうです?」
本来なら「税金を払わない」というのは、ギルドにとって受け入れがたい要求だ。 だが、直前に「ギルド解散と全財産没収」という最悪の要求を見せられた後だと、この要求が「とても寛大で、常識的な妥協案」のように錯覚してしまう。
カルネの肩から力が抜けた。 彼は脂汗を拭いながら、力なく項垂れた。
「……分かった。……認める。貴様らは、商人じゃない。宗教家だ」 「賢明なご判断です」
私はニッコリと笑った。 これで完全勝利だ。 商法も税法も及ばない、治外法権の「宗教法人タックス・ヘイブン」がここに誕生した。
カルネは悔しそうに立ち上がり、出口へと向かう。 だが、私はその背中に声をかけた。
「お待ちください、ギルド長。……一つ、提案があるのですが」
カルネが怪訝な顔で振り返る。 私は手元の金貨の山を指差した。
「見ての通り、我々には金があり余っている。……逆に、貴方のギルドには『表に出せない金』もあるのでは?」
カルネの目がピクリと動いた。 ギルド長ともなれば、賄賂や横領など、汚い金の一つや二つあるはずだ。
「脱税? 人聞きが悪い。……これは適正な『節税』と『資産運用』ですよ」
私は悪魔の囁きを送る。
「我々はギルドの管轄外(非課税)だ。もし、貴方が個人的に我々の教団に『寄付』をし、我々がそれを『運用』して、数年後に『返礼品(利子)』をつけてお返ししたとしたら……。誰がその金の流れを追えるでしょう?」
カルネの目が大きく見開かれた。 彼は瞬時に理解したのだ。 私が提案しているのが、教団という枠組みを使った巨大な**「マネーロンダリング(資金洗浄)」**システムであることを。
敵対していたはずのカルネの顔に、下卑た笑みが浮かぶ。 それは、共犯者の顔だった。
「……ククッ、ハハハハ! 恐ろしい男だ! 聖女の皮を被った悪党め!」 「お互い様でしょう」
カルネは戻ってくると、私の手を固く握りしめた。
「いいだろう。一口乗らせてもらう。……これからは『ビジネスパートナー』として仲良くやろうじゃないか、教祖様」 「ええ。共にこの国を食い尽くしましょう」
カルネが去った後、私は金庫室の壁に貼られた王都の地図を見上げた。
スラム街のドブ川から始まった私の復讐劇。 武力(スラムの組織)を手に入れ。 経済(石鹸ビジネス)を確立し。 政治(公爵家)を取り込み。 そして今、金融ギルドすらも支配下に置いた。
もはや、この王都において私を止められる勢力は存在しない。 いや、正確にはあと一つだけ残っている。
私は地図の中央。 最も高く、強固な城壁に囲まれた場所――**「王城」**にナイフを突き立てた。
「……待っていろよ、国王。そして、私を殺した元凶たち」
第1章は終わりだ。 地盤は固まった。金も、人も、名声もある。 次はいよいよ、この国そのものを買い叩く番だ。
私はアリアを呼んだ。 彼女は、かつての怯えた少女の顔ではなく、自信に満ちた聖女の微笑みで私を見つめ返した。
「行くぞ、アリア。次は舞踏会だ。……この国の頂点へ、踊りに出かけよう」
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