第11話 公爵夫人が「娘になりなさい」と言うので、最高傑作の「聖女」として送り込んでみた

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あらすじ

【悲報】魔法世界の住人、俺の「現代組織論」と「洗脳技術」になすすべなく堕ちていく。~インチキ宗教を立ち上げたら、知識が最強すぎて世界征服してしまった件~ - 第11話 公爵夫人が「娘になりなさい」と言うので、最高傑作の「聖女」として送り込んでみた

本文

商業ギルドを裏から支配下に置いた数日後。  私とアリアは、王都の一等地にあるローゼンバーグ公爵邸に招かれていた。

 目の眩むような豪華さだ。  床は大理石、柱には金箔、壁には歴史的価値のある絵画。  スラムの廃屋から始まった我々の拠点が、ついにここまで到達したのだ。

「……よく来てくれたわね、私の可愛い聖女様」

 応接間のソファで、エリザベート・ローゼンバーグ公爵夫人が優雅に扇子を揺らした。  その肌は、私が調合した「特製クリーム(ただの乳化剤)」のおかげで、十歳は若返ったように艶めいている。  機嫌はすこぶる良いようだ。

「お招きいただき光栄です、夫人」

 アリアが、特訓したカーテシー(膝を折る礼)を披露する。まだ少しぎこちないが、それが逆に初々しさを醸し出している。

「単刀直入に言うわ」

 夫人は扇子を閉じ、アリアを熱っぽい瞳で見つめた。

「貴女、私の『養女』になりなさい」

 予想通りだ。  私は内心でニヤリと笑った。

 夫人の狙いは明白だ。  一つは、アリアという「歩く奇跡」を独占すること。  もう一つは、来週に迫った建国記念舞踏会で、若く美しい娘をデビューさせ、自分の派閥の権威を示すこと。  何より、アリアを身内にしてしまえば、あのクリームの供給が途絶えることはないという計算だ。

 だが、それは我々にとっても好都合(ウィンウィン)だ。  どれだけ金を稼いでも、所詮我々は「平民」。  貴族社会という強固な壁の中に入るには、「身分」という通行手形が不可欠なのだ。

「……私などが、よろしいのでしょうか?」

 アリアが戸惑ったように私を見る。  私は一歩前に出て、恭しく頭を下げた。

「アリア様にとっても、またとない名誉なお話です。……ただし、一つだけ条件がございます」 「あら? 何かしら」 「私を、アリア様の『専属従者』として雇っていただきたい」

 夫人は少し意外そうな顔をして、私を見た。

「貴方のような才能ある子供なら、私の支援で学校に通うこともできるのよ?」 「いいえ。私は影として、アリア様をお支えしたいのです」

 学校など行っている暇はない。  それに、表舞台に立って目立つのはリスクが高い。  「美しき聖女」と、それに付き従う「忠実な従者」。この構図の方が、裏で糸を引くには都合が良いのだ。

「……いいでしょう。貴方にはクリームの製造という重要な仕事もあるものね」 「感謝いたします、奥様」

 契約は成立した。  これでアリアは、名実ともに「公爵令嬢」となった。

          ◇

 その夜から、アリアへの地獄の特訓が始まった。  ダンス、テーブルマナー、言葉遣い、貴族の系譜の暗記。  公爵家が用意した家庭教師たちは優秀だが、容赦がなかった。

 深夜。  与えられた客室で、アリアがベッドに突っ伏していた。

「……無理だよ、ルシアン」

 弱音を吐く彼女の声は震えている。

「私なんて、ついこの間までゴミを漁ってた孤児だよ? ドレスを着たって、中身は変わらない……。きっと舞踏会で笑い者になるわ」

 アリアの瞳には、深い劣等感(コンプレックス)が巣食っていた。  無理もない。  環境は変わっても、十数年染み付いた「自分は無価値だ」という自己認識は、そう簡単には消えない。

 だが、それでは困る。  自信のない態度は、貴族という猛獣たちの前では格好の餌食になる。

 私は部屋の扉を閉め、鍵をかけた。  そして、ベッドの脇に跪き、アリアの手を取った。

「顔を上げてくれ、アリア」 「……ルシアン?」

 私は彼女の瞳を、至近距離から真っ直ぐに見つめた。  普段の「指図する側」としてではなく、彼女に仕える「従者」としての瞳で。

「いいか、よく聞け。……お前は、俺が作った『最高傑作』だ」

 私は静かに、しかし熱を込めて語りかける。

「お前の銀髪は月の光よりも美しく、その瞳はどんな宝石よりも価値がある。公爵夫人ですら、お前の前では霞んで見える」 「そ、そんなことない……」 「いいや、そうだ。俺がそう言っているんだ。俺の鑑定眼(め)を疑うのか?」

 アリアが首を横に振る。  彼女にとって、私の言葉は絶対だ。

 私はここで、心理学における**《ピグマリオン効果(Pygmalion Effect)》**を発動させる。

 教師が「この子は優秀だ」と期待して接すると、その生徒の成績が実際に向上するという心理現象。  人間は、他者からの期待を受けると、無意識にその期待に応えようとして行動や自己認識を変容させる。  ましてや、絶対的な信頼を寄せる相手からの言葉なら、それは「予言」となり、やがて「事実」となる。

「お前は孤児じゃない。この国を救うために舞い降りた聖女であり、誰からも愛される高貴な姫君だ」

 私は彼女の手に、恭しく口づけを落とした。

「演じる必要はない。ただ、俺の言葉を信じろ。……お前は、世界で一番美しい」

 暗示をかける。  深く、深く。

 アリアの瞳が揺らぎ、やがて熱を帯びていく。  「自分はダメだ」という自己否定が、「ルシアンがそう言うなら、私は美しいのかもしれない」という肯定へと書き換わっていく。

「……うん。私、頑張る。ルシアンの最高傑作として、恥ずかしくないように」 「ああ。その意気だ、お嬢様」

 アリアの背筋が、スッと伸びた。  表情から卑屈さが消え、凛とした強さが宿る。  中身(マインド)が変われば、外見も変わる。  教育とは、技術を教えることではない。自信を植え付けることだ。

          ◇

 そして一週間後。  建国記念舞踏会の当日。

 公爵邸のホールで、私はその瞬間を待っていた。  大階段の上から、ドレスアップを終えたアリアが降りてくる。

 コツ、コツ、とヒールの音が響く。  姿を現した瞬間、屋敷の使用人たちが息を呑んだ。

「……なんと」

 そこにいたのは、もはやスラムの少女ではなかった。

 純白のシルクで作られたドレス。  胸元と袖には繊細なレースがあしらわれ、スカートは無数のフリルでふわりと広がっている。  磨き上げられた銀髪は複雑に編み込まれ、小さなダイヤモンドのティアラが輝いている。

 だが、何よりも変わったのは、その表情だ。  少しの憂いを含みながらも、堂々と前を見据えるアメジストの瞳。  その佇まいは、生まれながらの王族と言われても疑わないほどの気品に満ちていた。

「……どうかしら、ルシアン?」

 アリアが階段の途中て立ち止まり、不安げに、しかし期待を込めて私を見た。

 私は一瞬、言葉を失った。  計算して作り上げたものだ。素材が良いのは知っていた。  だが、まさかこれほどとは。

 私は胸に手を当て、最敬礼をした。

「……言葉もありません。貴女が眩しすぎて、直視できないほどです」 「ふふっ、大げさね」

 アリアが花が咲くように微笑んだ。  その笑顔の破壊力たるや。  この笑顔一つで、国の一つや二つ、本当に傾きそうだ。

「素晴らしいわ!」

 奥から出てきた公爵夫人が、感嘆の声を上げて駆け寄った。

「完璧よ! これなら王太子殿下ですらダンスを申し込むでしょうね。……本当に、私の本当の娘にしたいくらいだわ」

 夫人の目は、高価な宝石を見る時のそれだった。  欲深いが、審美眼は確かだ。  これで「商品」としての価値は証明された。

「参りましょう、お母様。……そして、ルシアン」

 アリアが私の名を呼ぶ。  私は、公爵家の紋章が入った従者の制服(リバリー)を正し、彼女の手を取ってエスコートした。

「御意のままに、お嬢様」

 屋敷の外には、黒塗りの馬車が待機している。  行き先は王城。  この国の政治と欲望の中心地。

 馬車に乗り込む直前、私はアリアの耳元で小さく囁いた。

「さあ、行こうか。……世界を騙しに」

 アリアは強く頷いた。  その横顔には、もう迷いはない。  戦場へ向かう戦士の顔だった。

 馬車の車輪が回り出す。  スラムの泥道から始まった我々の旅路は、ついにレッドカーペットの上へと到達した。  今夜、社交界の歴史が変わる。  その引き金を引くのは、たった一人の少女と、一人の詐欺師だ。

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角煮カイザー小屋

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