第17話 帝国軍が攻めてきたので、マグネシウムで「神の後光」を作って味方をバーサーカー化させた
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あらすじ
【悲報】魔法世界の住人、俺の「現代組織論」と「洗脳技術」になすすべなく堕ちていく。~インチキ宗教を立ち上げたら、知識が最強すぎて世界征服してしまった件~ - 第17話 帝国軍が攻めてきたので、マグネシウムで「神の後光」を作って味方をバーサーカー化させた
本文
「――遷都だ! 今すぐ陛下をお連れして、北の砦へ逃げるべきだ!」 「馬鹿な! 王都を捨てれば、民草は見殺しになるぞ!」 「しかし、奴らはあの『黒騎士団』だぞ!? 勝てるわけがない!」
王城の作戦会議室は、怒号と悲鳴で満たされていた。 無理もない。 隣国ガルディア帝国が、突如として不可侵条約を破棄し、国境を越えて侵攻してきたのだ。 彼らが誇る最強の精鋭部隊「黒騎士団」。全身を黒い魔装甲で固めたその軍団の前に、我が王国軍は紙屑のように蹴散らされ、開戦からわずか三日で王都近郊まで迫られていた。
王太子フレデリックは、広げられた地図の前で苦渋の表情を浮かべていた。
「……兵力の差は?」 「敵は五万。対する我が軍は、敗走兵を掻き集めても一万弱……。しかも、士気は最悪です」
将軍が絶望的な報告をする。 兵士たちは恐怖に震え、脱走者が後を絶たない。 戦う前から負けている。それが現状だった。
「殿下」
重苦しい空気を切り裂くように、私が声を上げた。 会議室の視線が、一介の「衛生局長」である私に集まる。
「発言を許可します。……この状況を覆す策があります」 「掃除係に何ができる! 戦場はバイ菌退治とは違うんだぞ!」
将軍が罵声を浴びせるが、フレデリックは手でそれを制した。
「言ってみろ、ルシアン」 「戦争において、最も重要なのは『数』ではありません。**『士気モラル』**です」
私は淡々と言った。
「現在の敗因は、兵士たちが『負ける』と信じ込んでいることにあります。ならば、その心理を逆転させればいい。……彼らに『絶対に勝てる』という狂信を植え付ければ、羊も狼を食い殺す猛獣に変わります」
「……具体的には?」 「私に一晩だけ、全軍の指揮権をください。そして――アリアを『聖女』として戦場に立たせる許可を」
◇
深夜。 王都を囲む城壁の上に、残存兵力が集められていた。 彼らの顔色は土気色で、歯の根が合わない音がそこかしこから聞こえる。
眼下には、地平線を埋め尽くす帝国軍の松明の海。 絶望的な光景だ。誰もが死を覚悟し、あるいは隙を見て逃げ出そうと考えている。
「……ルシアン。私、怖い」
城壁の塔の上。 白銀の甲冑に身を包んだアリアが、ガタガタと震えていた。 彼女の手には、公爵家から借り受けた巨大な軍旗が握られている。
「大丈夫だ、アリア。お前はただ、そこに立って、私の合図通りに叫べばいい」
私は彼女の足元に、いくつかの「仕掛け」を設置しながら囁いた。
「敵を倒すのはお前じゃない。……**『科学』**だ」
私が用意したのは、複数の壺。 中に入っているのは、粉末状にしたマグネシウムと、酸化剤(過マンガン酸カリウム)を混合したもの。 現代の花火や照明弾、あるいは旧式のカメラのフラッシュに使われる「閃光粉」だ。
「来るぞ……!」
帝国軍の陣太鼓が鳴り響いた。 闇の中から、黒い鎧の騎士たちが姿を現す。 投石機が唸りを上げ、城壁に岩塊が直撃する。
「ひぃぃぃッ! もう駄目だ!」 「逃げろぉぉ!」
味方の兵士たちがパニックを起こし、蜘蛛の子を散らすように逃げ出そうとする。 集団心理が崩壊しかけた、その瞬間。
「――今だ、アリア!」
私は導火線に火を点けた。 同時に、アリアが旗を掲げる。
カッッッッッッ!!!!!
真夜中の戦場に、太陽が落ちた。
誰もがそう錯覚しただろう。 私の仕掛けた壺から、直視できないほどの強烈な白い閃光が炸裂したのだ。 これは**《マグネシウムの燃焼反応》**。 燃焼時に発生する強烈な光と、大量の紫外線。 さらに、同時に発生した白い酸化マグネシウムの煙がスクリーンとなり、光を乱反射させる。
暗闇に慣れきっていた数万人の網膜を、純白の暴力が焼き尽くす。
「うぐあぁぁぁっ!?」 「め、目がぁぁぁ!」
城壁の下にいた帝国兵たちが、目を押さえてのたうち回る。 そして、もっと劇的な反応を見せたのは「馬」たちだ。 夜目が効く馬にとって、至近距離でのマグネシウム発光はパニックを引き起こすに十分すぎる刺激だ。
ヒヒィィィン!! いななきと共に、黒騎士団の馬たちが暴走し、乗り手を振り落として自軍に突っ込んでいく。
そして――光の発生源である城壁の上。 逆光バックライトの中に、白銀の甲冑を着た少女のシルエットが浮かび上がった。 白煙と閃光を背負い、まるで天から後光が射しているかのような、神々しくも恐ろしい姿。
私はアリアに合図を送る。(叫べ!)
「恐れるな、王国の戦士たちよ!!」
アリアの声が、魔法拡声器を通じて戦場に響き渡る。 彼女自身も、あまりの眩しさに目が眩んでいるが、それが逆に「神懸かり的なトランス状態」に見える。
「神は我らと共にあり! 見よ、この邪悪を払う聖なる光を! 正義は我らにあり!!」
その光景を見た王国兵たちの瞳から、恐怖の色が消えた。 代わりに宿ったのは、理解を超えた現象に対する畏怖と――熱狂だ。
「ひ、光だ……聖女様が、光を呼ばれた……!」 「奇跡だ! 神の奇跡だ!」 「俺たちは神に選ばれたんだぁぁぁ!!」
これが**《集団ヒステリー(Mass Hysteria)》**だ。 極限の恐怖状態にある人間は、救いを求めて思考停止する。 そこに「分かりやすい奇跡」と「絶対的な指導者」が現れれば、恐怖というエネルギーは一瞬にして「攻撃性」へと反転する。
さらに**《バンドワゴン効果》**が加速させる。 誰か一人が「勝てる!」と叫べば、周囲も同調し、巨大なうねりとなって個人の理性を押し流す。
「殺せぇぇぇぇッ!!」 「聖女様のために死ねぇぇぇ!!」
先ほどまで震えていた兵士たちが、涎を垂らし、目を血走らせた**バーサーカー(狂戦士)**へと変貌した。 彼らは命令も待たずに城門を開け放ち、雪崩のように敵軍へ突っ込んでいく。
一方、帝国軍は混乱の極みにあった。 目は眩み、馬は暴走し、そこへ死を恐れない狂信者集団が襲いかかってきたのだ。 最強の黒騎士団といえど、統制を失えばただの肉の塊だ。
「ひ、ひぃッ! こいつらイカれてやがる!」 「悪魔だ! 撤退! 撤退しろぉぉ!」
戦況は一変した。 一方的な虐殺ワンサイドゲームだった。
城壁の上で、私は燃え尽きたマグネシウムの壺を蹴り転がし、冷ややかにその光景を見下ろしていた。
「……劇薬だな、信仰というのは」
私の隣で、アリアがへたり込んだ。 彼女は、自分の一声で敵が切り刻まれ、友軍が笑いながら死んでいく地獄絵図を見て、顔面蒼白になっていた。
「ルシアン……私が、殺させているの……?」 「違うな」
私はアリアの肩を抱き、優しく、しかし残酷な事実を告げた。 「お前は『救った』んだ。……見ろ、彼らの顔を。あんなに幸せそうに戦っている」
眼下の兵士たちは、聖女の名を叫びながら、恍惚の表情で槍を振るっている。 麻薬だ。 「正義の側にいる」という確信は、人間を最も残酷な獣に変える最強の麻薬なのだ。
夜明け前。 帝国軍は壊滅し、王都には勝利の鐘が鳴り響いた。 兵士たちは血まみれのまま城壁を見上げ、新たな「軍神」の誕生を祝福していた。
アリアは震える手で歓声に応えながら、助けを求めるように私を見た。 私は小さく頷くだけだった。
もう戻れない。 彼女は今日、ただの公爵令嬢から、国を背負う「偶像アイドル」になった。 そして私は、その偶像を操る演出家として、この戦争を最後まで描き切らねばならない。
「さあ、笑えアリア。……これが勝利の味だ」
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