第16話 王様が「褒美に爵位をやる」と言ったので、辞退して「城の掃除係(スパイ組織)」の権限をもらった
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あらすじ
【悲報】魔法世界の住人、俺の「現代組織論」と「洗脳技術」になすすべなく堕ちていく。~インチキ宗教を立ち上げたら、知識が最強すぎて世界征服してしまった件~ - 第16話 王様が「褒美に爵位をやる」と言ったので、辞退して「城の掃除係(スパイ組織)」の権限をもらった
本文
国王の命を救った「水銀解毒」の一件から数日後。 私とアリアは、再び王城の謁見の間に呼び出されていた。
ただし、前回のような殺伐とした空気はない。 玉座には顔色を取り戻した国王が座り、その隣には王太子フレデリックが控えている。 周囲には大臣や高位貴族たちが並び、我々に称賛の視線を送っていた。
「面を上げよ、ルシアン、そして聖女アリア」
国王の厳かな声が響く。 私はアリアと共に顔を上げた。
「そなたたちの働き、見事であった。医師団が匙を投げた余の病を、あのような奇策で治してしまうとはな。……余の命の恩人である」 「勿体なきお言葉です、陛下」
私は殊勝な態度で頭を下げた。 さあ、ここからが本番だ。論功行賞の時間である。
「この功績に対し、余はそなたに『男爵位』を授け、新たな『宮廷医師長』に任命しようと思う。どうだ?」
会場がざわめいた。 平民がいきなり貴族、それも王の主治医という要職に就くのだ。異例中の異例である。 アリアが隣で息を呑むのが分かった。 だが、私は静かに首を横に振った。
「恐れながら、陛下。そのお申し出、謹んで辞退させていただきます」
「……なに?」
国王が目を丸くした。王太子だけが、面白そうに片眉を上げている。
「爵位などいただけば、私は貴族のしがらみに囚われ、自由に動けなくなります。それに、私は医師ではありません。ただの『知識ある商人』に過ぎません」 「ふむ……。では金か? それとも領地が望みか?」 「いいえ。私が頂きたいのは、地位でも名誉でもなく――**『権限』**です」
私は一歩前に進み出た。
「今回の毒殺未遂事件。原因は、王城内の管理体制の甘さにあります。毒物が容易に持ち込まれ、不衛生な環境が病を悪化させました」 「耳の痛い話だな。……で?」 「そこで提案がございます。城内の衛生管理と防疫を一元管理する新部署――**『公衆衛生局』**の設立と、私をその初代局長に任命していただきたい」
シン、と場が静まり返った。 大臣の一人が、呆れたように声を上げた。
「衛生局? 要するに、掃除係ということか? 便所掃除やゴミ拾いの親玉になりたいと?」
貴族たちから失笑が漏れる。 彼らにとって「掃除」など、下賤な召使いの仕事だ。英雄が求める報酬ではない。
だが、私は真剣な眼差しを崩さなかった。
「笑い事ではありません。城の『汚れ』を放置すれば、またいつ病魔や毒が陛下を襲うか分かりません。……私は、城中のあらゆる汚れを徹底的に洗い落としたいのです」
王太子フレデリックが、探るような目で私を見た。 彼は考えているのだろう。「こいつは何を企んでいる?」と。 だが、表向きの理由は正当だ。それに「掃除係」程度なら、政治的な脅威にはならないと判断したはずだ。
「……よかろう」
王太子が頷いた。
「好きにするがいい。城の掃除はお前に任せる。……精々、綺麗にしてくれよ?」 「ありがとうございます。……塵一つ残さず、綺麗にさせていただきます」
私は深く頭を下げた。 笑いを堪えるのに必死だった。 彼らは知らないのだ。 **「衛生を管理する」**ということが、組織の心臓部を握るのと同じ意味であることを。
◇
翌日から、私の**「城内大掃除計画」が始まった。 これは軍事作戦で言えば《トロイの木馬》**だ。
「さあ、みんな! 今日からここが僕たちの職場だよ!」
私が城門を開け放つと、白い制服とマスクに身を包んだ百人近い集団が雪崩れ込んできた。 彼らはプロの清掃員ではない。 スラム街のゴロツキ集団「赤サソリ団」の元メンバーや、路地裏の孤児たちだ。 私が私費で雇い入れ、訓練を施した私兵部隊である。
「アリア総裁、訓示を」 「は、はい! ……えっと、みなさん! 手を洗って、綺麗にしましょうね!」
名誉総裁に祭り上げられたアリアがニコニコと手を振る。 強面のゴロツキたちが「うおおお! 聖女様万歳! 消毒だァーッ!」と雄叫びを上げて散っていく。 傍目には微笑ましい光景だ。
だが、彼らが実行するのは単なる清掃ではない。 **《防疫セキュリティ・コントロール》**だ。
私は即座に三つの改革を実行した。
第一に、厨房と食料庫の完全管理。 「食中毒防止」を名目に、全ての食材の搬入ルートを衛生局が独占した。 農家から運ばれてくる野菜、肉、ワイン。全て私の部下が検品し、承認印がなければ厨房には入れない。 これは事実上の「兵糧攻め」の権限だ。私が止めれば、明日から王家の食卓にはパン一つ並ばなくなる。
第二に、リネンとゴミの管理。 「感染源の除去」を名目に、シーツ交換やゴミ回収も独占した。 これは情報の宝庫だ。 貴族が捨てた書き損じの手紙、密会に使ったシーツの痕跡、ポケットに入ったままのメモ。 部下たちはゴミを回収する際、それらを全てチェックし、私の元へ報告する。 城内の秘密は、全てゴミ箱の中にあるのだ。
第三に、移動制限ゾーニング。 「汚染区画と清潔区画の分離」を理由に、城内の要所に検問所を設置した。 誰が、いつ、どこを通ったか。 人の流れ(トラフィック)を完全に把握し、不審な動きがあれば即座に**《トリアージ(選別)》**して排除する。
「おや、そこの貴方。手が汚れていますね?」 「な、なんだ貴様は! 私は伯爵だぞ!」 「不潔なまま陛下に近づくことは許されません。……別室で『消毒』が必要です」
こうして、政敵や怪しい人物は「消毒室」という名の尋問部屋へ連行されていく。 公衆衛生とは、なんと便利な大義名分だろうか。
◇
一ヶ月後。 王城の地下、元々は掃除用具入れだった場所を改装した「公衆衛生局長室」。
私は山のように積み上がった書類の塔に埋もれていた。 これらは全て、部下たちが集めてきた「城内のゴミ(極秘情報)」だ。 誰と誰が不倫しているか。どの貴族が横領しているか。王の食事の好みから、近衛兵の勤務シフトまで、全てがここにある。
「……失礼する」
ノックと共に、王太子フレデリックが入ってきた。 護衛も連れず、お忍びだ。 彼は部屋を見渡し、鼻を鳴らした。
「随分と狭い場所を好むのだな、英雄殿」 「落ち着くのですよ。それに、埃一つなくて快適でしょう?」
私は椅子に座ったまま、笑顔で迎えた。 王太子は眉をひそめた。
「ああ、確かに。……最近、城の中が妙に静かだ。薄汚いネズミも見かけなくなったし、食事が運ばれてくるのも早くなった。……お前、一体何をした?」
王太子の鋭い勘が、違和感を察知しているのだ。 城の空気が変わったことに。 誰かの手によって、整然と管理された「人工的な空間」に変質していることに。
私は手元の書類を一枚、パラリとめくった。
「掃除をしただけですよ、殿下。……物理的なゴミも、**それ以外・ ・ ・ ・**のゴミもね」
王太子の目が細められた。 私はその書類を彼の方へ滑らせた。 そこには、ある大臣が隣国と内通している証拠の手紙(ゴミ箱から回収したもの)が貼り付けられていた。
「……!」 「ご安心ください。病原菌は既に『隔離』しました。陛下のお耳汚しには及びません」
王太子は書類を手に取り、震える手でそれを握り潰した。 そして、恐ろしいものを見る目で私を睨んだ。
「貴様……城中の情報を、全て掌握しているのか?」 「まさか。私はただの掃除係です」
私は立ち上がり、恭しく一礼した。
「ですが、殿下。清潔な環境を保つには、常に監視が必要です。……陛下の寝室から、厨房の裏口、そして殿下の執務室のゴミ箱まで」
王太子の背筋が凍りつくのが見えた。 彼は気づいたのだ。 自分が許可した「掃除係」が、城の全機能を掌握し、王族の首根っこを押さえる最強のスパイ組織に化けたことを。
今や、私の許可なくしては、王太子ですら新しい下着一枚手に入らないのだから。
「……化け物め」 「お褒めに預かり光栄です。これも全て、王家への忠誠ゆえですので」
私はニッコリと笑った。
王太子は、忌々しげに舌打ちをして部屋を出て行った。 だが、その背中には「もうコイツを切ることはできない」という諦めが漂っていた。 この城のインフラは、既に私の血管と繋がってしまったのだから。
「さて……」
私は地図を広げた。 王城ホワイトハウスは落ちた。 次は、この国の外――戦争を仕掛けてきている隣国へと目を向ける番だ。 衛生局長として、「国外からの病原菌」も排除しなければならないからな。
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