風狼戦記-Bullet of Queen-
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
経済が崩壊した近未来日本。 国家は形骸化し、企業が「株=デジタルポイント」を銃で奪い合う“合法戦場”が社会を支配していた。 弱小企業・繋士商事に入社した新人リオ・カザギは、亡き父の死の真相を追うため、 孤高の先輩・ナツ・オウガミとバディを組む。 風のように柔らかく、狼のように鋭く——正反対の二人が衝突しながらも、 次第に信頼と絆を築いていく。 だが、世界の裏を操る「元締」カムラギの陰謀が、二人を戦いの渦へと引きずり込む。 奪うか、守るか。 株と銃弾が飛び交う経済戦争の果てに、少女たちは“真の女王(クイーン)”となる。 現実と理想が撃ち合う近未来バディ戦記——『風狼戦記 -バレット・オブ・クィーン-』
本文
第11話 Four Seasons
機材ラックのファンが低くうなり、事務所の空気がほんの少し震えていた。
ここ数日の緊張がまだ抜けきらないのか、リオは背筋を伸ばして資料を抱えたまま固まっている。
その前でヤクモがホロスクリーンを展開し、淡い光が室内を照らした。
「今日はイベント戦の全体像を把握してもらう。決算期と並んで株価が大きく跳ねるタイミングだ。理解しないまま突っ込むと、数字に足をすくわれる」
ヤクモの声は冷静そのものだが、妙に生々しい緊張感があった。
ナツはいつもの無表情で端末を操作し、サナエはお茶を配りながら柔らかく微笑む。
「リオさん、気負わなくて大丈夫ですよ。順に説明しますから」
「ありがとうございます、サナエさん。……お願いします、ヤクモさん」
ヤクモはひとつ頷き、ホログラムを切り替えた。青いラインが複雑に絡み合う、戦場のマップとスケジュールだ。
「イベント戦は大きく四つに分類される。まずはトーナメント戦。単純だが、戦力の“格”が最も派手に可視化される形式だ」
ナツが静かに補足する。
「勝ち進むごとに株価は跳ね上がります。対戦相手が強ければ強いほど変動幅も大きくなる。逆に、格下に負ければ暴落します」
「……格下に負けると、そんなに?」
「“信用”が落ちるんです」
サナエが言葉を和らげるように言った。
「株主は強さを見ていますから」
ヤクモはホロ画面をひと撫でする。
次に浮かび上がったのは、要塞のような基地モデル。
「次は防衛戦。これは守り切れば大幅プラス、拠点を落とされれば大幅マイナス。分かりやすいが……仕掛けられる側は神経を削られる」
リオは先日のサイバージャックを思い出し、喉がわずかに鳴った。
ナツが静かに続ける。
「防衛戦は、戦闘班とサイバー班の連携が価値を左右します。どちらか片方が弱い企業は、イベント戦の度に苦しむことになる」
ヤクモも頷いた。
「実例を挙げると、去年の〈テトラリンク〉はサイバー班の侵入失敗が原因で株価が急落した。戦力を持っていても、穴があると市場は一瞬で反応する」
リオはごくりと唾を飲んだ。
「……怖いですね」
サナエがふんわり微笑む。
「怖いからこそ、面白いとも言えますよ。市場は生き物みたいに動きますから」
ヤクモは再度画面を切り替えた。
今度は広域のマップに、無数の敵アイコンが散らばっている。
「三つ目は総当たり戦――通称“デスマーチ”。時間内にどれだけ相手企業の戦力を“刈り取れる”かを競う形式だ」
ナツが淡々と説明する。
「討伐数と制圧ルートがそのまま株価に影響します。参加企業の実力差が露骨に出るため、弱い企業はこれを避けます」
「……避ける、ってできるんですか?」
「できる」
ヤクモが短く言う。
「ただし避ければ“逃げた”として株価は微減する。参加して負ければ暴落。勝てば跳ねる。選ぶのも戦略だ」
リオの眉がすっと寄る。
戦場より、株のほうがよほど鋭利だ。
「四つ目は合同戦。他企業とチームを組むやつです」
サナエが優しく言葉をつなぐ。
「企業同士の相性や、どんな連携を組むかで値動きが変わります」
「合同……つまり味方が増えるんですよね?」
「増えるが、単純に強くなるとは限らない」
ヤクモが画面に二社のロゴを並べた。
「たとえば戦闘班は強いけどサイバー班が弱い企業と組めば、相手に足を引っ張られることもある。組み合わせ次第で株価は大きく変わる」
ナツは手元でシミュレーションを走らせながら言った。
「合同戦では“相手企業の評価”も同時に動きます。こちらのミスが相手企業の株価を下げることもあるし、逆も起きる。市場がいちばん荒れるイベントです」
「……そんなに?」
「人間がすれ違うときは、株価もすれ違うんです」
サナエの柔らかい言い回しが、逆に緊張感を深める。
ヤクモが息をひとつつき、まとめにはいった。
「イベント戦の基本は以上だ。ただ、年によって特別戦が組まれる。“暗号資源争奪戦”や“疫病コード封鎖戦”。市場受けを狙った企画戦が追加されることもある」
ナツが視線だけでヤクモに合図し、補足を入れる。
「特別戦は不確定要素が多いため、株価が最も跳ねるイベントです。情報量が勝敗を左右するので……ヒロミツさんのようなタイプが重宝される場ですね」
ヒロミツのちゃらけた声が脳裏に浮かび、リオは思わず苦笑した。
けれど胸の奥では、もうひとつ別の感情がじりじりと熱くなる。
自分が“これに参加する側”になる――その実感だ。
「……イベント戦って、こんなにも市場に影響するとは思いませんでした」
リオの声は少し震えていた。
サナエがそっと隣に寄るように笑う。
「大丈夫。少しずつ慣れます。数字の世界も、戦場と同じように呼吸がありますから」
ナツは横目でリオを見た。
その視線は冷たくない。ただ、測っている。
この新人がどこまで踏み込むつもりなのか。
ヤクモはホロ画面を閉じ、話を締めくくった。
「イベント戦は戦力だけじゃなく、企業価値そのものを揺さぶる。お前の判断が“市場”に出る。覚悟しておけ」
リオは小さく息を整え、うなずいた。
戦場には銃声が鳴り、株には気配が走る。
どちらも命のやりとりだ。
イベント戦の季節は、すぐそこに迫っていた。
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