第32話 悪魔の暴走! 中央行政区に広がる黒い影!
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
内閣魔導院・魔法生活安全局、対魔法市民支援課の生真面目公務員と皮肉屋悪魔 - 第32話 悪魔の暴走! 中央行政区に広がる黒い影!
本文
ナナside
「おはようございます、ナナちゃん、スルナちゃん」
朝、いつものように澪が声をかけてくる。のっそりとした動作で掛けた眼鏡の奥の瞳には、どこか疲れの色が滲んでいた。
「昨日の不調は大丈夫ですか?」
「問題無い」
アタシは短く答えた。実際、昨日感じた違和感は今朝になったら綺麗さっぱり消えていた。体調そのものに問題はない。
「それよりご主人様は大丈夫ですか⁉︎」
スルナが心配そうに澪の顔を覗き込む。
※お前が言うな。
(※昨夜、クラネリアに嫉妬したのか、スルナの奴がただでさえ疲れている澪を吸精したせいで澪は更に疲れていた。
サキュバスってのはそういう種族だ、と言われたらそれまでだが)
「ええ、大丈夫ですよ。では、出勤しましょうか」
澪は穏やかに微笑んで、いつものように支度を始めた。
三人分の食事作りも手慣れてきたな。
◇◇◇◇◇
魔導駆動列車(リミテッド・ライン)はガタンゴトンと中央行政区(セントラム・ドーム)へと向かっていた。車窓から流れる景色を眺めながら、アタシは何か不快な気持ちが内側から湧き上がってきた。
「……ナナちゃん、やはり何か感じますか?」
「ああ。昨日より強くなってる」
中央行政区に近づくにつれて、その感覚は明確になっていく。
まるで空気そのものが重くなっているような、不快な圧迫感。
「スルナさんも……同じですね」
スルナが小さく頷く。澪が心配そうにアタシたちを見つめているが、アタシは「大丈夫だ」とだけ告げた。
列車を降りて市支課へ向かう途中、路地裏から奇妙な気配を感じた。
「澪」
「ナナちゃん? どうか……え?」
アタシが指差した方向へ澪が足を向けると、そこには小柄な悪魔――下級悪魔(インプ)が暴れていた。通行人に威嚇するように牙を剥き、意味のない咆哮を上げている。
澪に目配せすると、コクンと頷く。行け、という事だ。
「おい、インプ」
「あぁ⁉︎ ひぃ、中級悪魔……⁉︎」
「誰の命令でここにいる? 契約主は誰だ?」
インプはアタシを見て、一瞬怯んだ。当然だ。アタシとコイツとじゃ格が違う。
「答えろ。でなきゃ、お前を地獄の最下層に叩き落とすぞ」
幻術魔法で周囲の景色を歪ませながら脅しをかけると、インプは震え上がって地面に這いつくばった。
「わ、わからない……気づいたら、ここに……」
「契約主の記憶がない?」
「あ、あぁ……」
妙だ。昨日のクラネリアに続き、召喚された悪魔に契約者が居ないとは。普通は使役して何かをやらせる為に呼ぶ筈なんだが。
澪がインプに結界術を施して大人しくさせると、そのまま強制送還の魔法陣を展開した。
「ナナちゃん、これは……」
「わからん。だが、何かがおかしい」
◇◇◇◇◇
「おはようございま……」
「九重さん、中央行政区第三区画で悪魔が暴れているとの通報です!」
「え、あ……り、了解しました! すぐに向かいます!」
澪は踵を返してに現場に向かう。中央行政区という事は列車には乗らない。走るしかない。澪にはキツいな。
「うわー……」
現場では複数のインプが商店街で暴れ回っていた。澪の結界術とアタシの幻術、スルナの魅了魔法で何とか鎮圧したが、すぐさま携帯魔法波通信機が鳴り響く。
「九重です……はい、了解しました」
澪の表情が険しくなる。
「また悪魔絡みのトラブルです。第七区画で……」
「また中央行政区でか? 今までは西に行ったり東に行ったりしてたが、こんなに中央行政区に集中してた事なんて無かっただろうに」
「理由は分かりませんが……それでも困っている市民が居る以上は急がなければなりません!」
その日、アタシたちは午後いっぱい悪魔の暴走事件に追われ続けた。どれも同じような状況――どうやって日本に呼ばれたかが曖昧で、理由もなく暴れ出す下級悪魔たち。
「何かがおかしい……」
澪が呟いた言葉は、アタシの考えと完全に一致していた。
◇◇◇◇◇
夕方、澪が自宅でせっせと来客の準備をしていると、ラフな服装のセラがやってきた。
当然いけ好かない天使共も一緒だ。
「お疲れ様、澪。今日も忙しかったみたいね」
「セラちゃんも、お疲れ様です」
ふぃー、と勝手知ったる風にリビングに腰掛けるセラ。
もう何度も来てるし、泊まった事もあるから実にリラックスしている。
「実はね、MTBでも今日、悪魔絡みの事件が続出したのよ。しかも全部、似たような状況で」
「やっぱり……スルナちゃん、何かわかりませんか?」
「悪魔の数が増えています……。それは確かなんですが、どこから来ているのかまでは……」
「うぅん、この国には大勢の魔法使いがいますから……
※仕事の手伝いを召喚生物にさせることはよくあります。たまたま悪魔を呼んだ人が多かった可能性もあります」
(※こういった駒使いなどは下級悪魔がやらされる事かが多い。
人間の感覚では天使を使いっ走りにするのは抵抗があるらしい。
精霊は精霊で気まぐれだし、ふとした拍子に燃やしたり濡らしたりするからな)
「それにしては不自然よ。一日でこれだけ集中するなんて。
しかも昨日澪達が遭遇したサキュバスも同じ状況だったんでしょ?」
沈黙が部屋を支配する。誰もが同じことを考えていた。
「……政府の仕業である可能性も、捨てきれませんね。
ヒヒイロカネの素材に悪魔や天使が使われています。
政府が効率的に素材となる悪魔を集める何かを行ったとしたら……」
「だとしたら、許せないわね」
セラの声には怒りが滲んでいた。グラディエルも無言のまま僅かに頷く。
「どうしましょう?」
「私はMTBの特権を使って、中央行政区の施設を調べてみるわ。何か糸口が掴めるかもしれない。
澪は普段通り過ごしてて。悪魔トラブルに遭った市民達から情報を集めてほしいの」
「分かりました。くれぐれも気を付けてください」
「任せなさい。そっちこそ気を付けなさいよ? ナナもスルナも多少なりとも影響は受けてるみたいだし、決して深入りはしちゃ駄目よ?」
「はい」
「早い内にまたこうやって情報を共有しましょう。次は私の家に来てよ」
「い、良いんですか? あんな高級マンションに私が泊まっても」
「良いに決まってるじゃない。でもベッドは一つしか無いから一緒に寝る事になるけどね」
「あぅ……⁉︎」
「ふふ、じゃあね」
「は、はいっ」
何を想像したのか。
澪は普段よりも上擦った声でセラを見送る。
段々とセラに距離を詰められている。この調子じゃあ、抱いた抱かれたの関係になるのもすぐかもしれないな。
作品統計
📚 本を探すなら「よみどき」(あいぺんが運営する本の発見サイト)
130万冊を超えるコミック・小説・書籍の順位と値段を毎日みて、いま読むものを決められます。