第33話 広がる暴走! 輝く若さ!
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あらすじ
内閣魔導院・魔法生活安全局、対魔法市民支援課の生真面目公務員と皮肉屋悪魔 - 第33話 広がる暴走! 輝く若さ!
本文
澪side
翌朝、魔導駆動列車に揺られながら私は窓の外を眺める。
「澪様……」
スルナちゃんの不安そうな声に視線を向けると、彼女は胸に手を当てて眉を寄せていた。
「やはり、感じますか?」
「はい。昨日より、もっと強く……」
「アタシもだ」
ナナちゃんが苛立たしげに舌打ちする。中央行政区(セントラル・ドーム)が近づくにつれて、二人の体調がどんどん悪くなっていく。
「無理はしないでくださいね」
「澪は自分の心配でもしてろ。また今日も走り回る事になるぞ」
「うぅ……」
ナナちゃんは皮肉げに笑って、そしてそれは正にその通りだった。
◇◇◇◇◇
市支課に到着して間もなく、通信が入った。
「九重さん、第五区画で悪魔の暴走です!」
「了解しました。すぐに向かいます」
今日もまた、悪魔絡みのトラブルだ。現場に急行すると、そこには昨日と同じように暴れ回る下級悪魔たちの姿があった。
「はっ、はひっはひっ……ごほっ……! ナナちゃん、スルナちゃん、お願いします!」
「任せろ」
ナナちゃんの幻術(+腕力)とスルナちゃんの魅了魔法で何とか鎮圧する。
やっぱり下級悪魔なら比較的手早く鎮圧出来る。
けれど、ホッと一息吐いたのも束の間……携帯魔法波通信機がまた鳴った。
「九重です……はい、すぐに」
第八区画でも同様の事件。私たちは慌ただしく移動を繰り返した。
そして午後――事態はさらに深刻になった。
「澪! こいつ、契約者がいるのに暴走してる!」
ナナちゃんの叫びに、 私は息を呑んだ。
目の前にいる中級悪魔は、確かに契約紋が刻まれている。
それなのに、契約者である魔法使いの制御を全く受け付けていない。
「そんな、契約が機能していないなんて……」
「すみません、すみません! 言うことを聞かなくて……!」
契約者の魔法使いが青ざめた顔で謝罪する。
私は結界術で悪魔を封じ込めながら、事態の異常性に冷や汗が流れる。
「野良悪魔だけでなく、使い魔までもが暴走するなんて……」
◇◇◇◇◇
その日の夕方、さらに衝撃的な報告が入った。
「九重さん、東湾区(イーストベイ)と北高原区(ノーザ・プレインズ)でも悪魔の暴走事件が発生しています!」
「東湾区と北高原区……幸いどちらも中央行政区と隣接している箇所ですね」
私は地図を広げて、事件の発生場所に印をつけていった。すると、ある傾向が見えてきた。
「スルナちゃん、悪魔が増えている範囲は広がっていますか?」
「はい、澪様。確実に……中央行政区を中心に、同心円状に広がっているように感じます」
「やはり……」
住民からの目撃情報も合わせて分析すると、結論は明らかだった。
悪魔が呼ばれる、そして暴走する範囲が、中央行政区から徐々に広まりつつある。
何かが中央行政区で起きている。それは間違いない。
◇◇◇◇◇
そんな慌ただしい日々を数日過ごした後、私はセラちゃんの自宅を訪れていた。
「いらっしゃい、澪」
セラちゃんの住む高級マンションの一室は、広々として洗練されていた。
一般職員の私の安アパートとは比べ物にならない豪奢さだ。
内装のセンスの違いも多分に関係しているのだろうけど。
「お邪魔します」
「グラディエル、お茶を」
「はっ」
無口なグラディエルさん静かに頷いてキッチンへ向かう。
紅茶を淹れる作業は見事に洗練されている。
「それで、調査の結果は?」
セラちゃんがソファに腰を下ろしながら、真剣な表情で尋ねてきた。
「はい。悪魔の暴走事件は確実に増加しています。しかも、中央行政区を中心に、その影響範囲が広がっているんです」
「やっぱりね。私も調べてみたんだけど、中央行政区のとある施設が怪しいわ。
表向きは魔法技術研究所となっているけれど、地下に大規模な施設があるみたいなの」
「地下施設……」
「しかも、そこへのアクセス記録がここ数週間で異常に増えている。確実に何かがあるわ」
スルナちゃんが小さく声を上げた。
「ご主人様、やはり悪魔の増加は顕著です。しかもその中心は……」
「中央行政区、ですね」
スルナちゃんの嗅覚が
悪魔の暴走が
セラちゃんの調査が
全ての情報が一つの結論を指し示していた。
「その施設に潜入しましょう」
「また夜に?」
「MTBとして捜査……なんてしても近付かせてもくれないでしょ。
これまで二回も政府を困らせてるんだから」
「ですよね……はぁ、夜間潜入もすっかり慣れてしまいました」
「良いじゃない。闇夜の女スパイ、カッコいいわよ?」
「私は真面目に、世の為人の為に働きたいですぅ……」
「だったら潜入しないとね……と。もう遅いわね。今日は泊まっていきなさい」
「え、でも……」
「いいから。ほら、お風呂入りなさい」
「は、はい……」
有無を言わさぬセラちゃんの圧力に押し切られてしまった。
若さなのかなぁ……
「ひゃああ広いぃ……!」
思わず声が出てしまう。案内された浴室は想像以上に広かった。
大理石のような床に、大きな浴槽。まるでホテルのスイートルームのようだ。
体を洗ってゆっくりと湯船に浸かって。
心地良くて思わず声を上げてしまって。
だけど、どうしても不安は拭えない。
悪魔の召喚と暴走が政府の仕業なら、ヒヒイロカネの量産計画は着々と進められている事になる。
今はまだ私達だけでも対処出来ていたけど、もし高純度のヒヒイロカネの量産に成功し、それを用いた武具を装備した軍隊が出てきたら……幾らセラちゃんと言えども荷が重すぎる。
「……はぁ」
と言っても、私に出来る事もそう多くないのだけど。
◇◇◇◇◇
入浴を終えて脱衣所に出ると、そこには下着とTシャツのみ。
「あ、あの! 着替えは……⁉︎」
「あぁ、これ着て」
「あの、シャツだけですか……? 下は……」
「私も普段そうだし。澪の身長ならワンピースみたいなもんじゃない」
確かにセラちゃんは背が高くてスタイルも良いから、そのセラちゃんサイズのシャツは私にはぶかぶかだ。
それにこのままではずっと裸のままなので……観念して袖を通す。
「普段はキッチリしたスーツ姿だから新鮮ね。こんなに脚出す事無いでしょ?」
「ひあぁ〜……っ」
裾は膝上まであるけれど……やはり落ち着かない。
オマケに撫でられて変な声もあげてしまい、二重の意味で顔が熱くなってしまう。
「ふぃー、お待たせ」
「いえ……」
セラちゃんの入浴を待って寝室に案内される。
そこには大きなダブルベッドがでんと鎮座していた。私の部屋だとベッドだけで埋まってしまいそうだ。
「ほら、ベッドに入りなさい」
「は、はいぃ……」
セラちゃんと同じベッドで寝る……というのは予め聞かされていたし覚悟はしていた。
それでもすんなりとは行かず、恐る恐るベッドに入るとセラちゃんもすぐ隣に滑り込んできた。
「せ、セラちゃん……?」
「何?」
至近距離で見つめられて、心臓が跳ねる。
銀髪で綺麗な顔で。
なのに人懐っこくて、私に行為を向けてくれる女の子……
「い、いえ……」
「何もないなら良いわ。ほら、ここ数日走りっぱなしで疲れたでしょ? ゆっくり休みなさい」
セラちゃんの手が、優しく私の髪を撫でた。その温もりに、私は少しだけ緊張が解けていくのを感じた。
「……ありがとうございます、セラちゃん」
「どういたしまして。澪の事は頼りにしてるのよ? 明日また大一番なんだからもう寝なさい」
「はいぃ……」
柔らかな笑みを浮かべるセラちゃんの横顔を見ながら、私は静かに目を閉じた。
確かに、明日になればまた潜入……場合によっては戦いが始まる。
ああ、でも……今は、この温もりに身を委ねていたい……
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