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第15話 閑話 西村千夏は観客席から見る

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/3 📚 シリーズ: 「隅っこのこと、教えてよ」——クラスの有名人に観察係を任された僕の青春記録 📝 5,542文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

「隅っこのこと、教えてよ」——クラスの有名人に観察係を任された僕の青春記録 - 第15話 閑話 西村千夏は観客席から見る

本文

放課後の教室って、ちょっと好きだ。

 授業が終わってるのに、まだ一日の続きが残ってる感じ。

 けど、いつもと違って、黒板には「一時間目 数学」とかじゃなくて、「装飾」「厨房」「運営」とか、謎の単語が並んでいる。

 今のわたしのクラスは、絶賛文化祭準備中。

 机は真ん中寄せにされて、島みたいなゾーンがいくつかできている。

 一つの島では、装飾班が「この布の色はどう」とか「メニュー表のフォントどうする」とかやっていて。

 別の島では、厨房組が「うちのコンロ持ってくるよ」とか「ホットプレート何台いる」とか相談している。

 黒板の前のほうでは、運営組がシフト表のたたき台を囲んでいた。

 それを、後ろの窓際の席から眺めているのが、わたしだ。

 わたしは、西村千夏。

 役割で言うと、「ツッコミ担当」とか「ノリ要員」とか、そのへん。

 真ん中で「はいじゃあ次これやろー」と仕切るタイプでもないし、端っこでずっと黙ってるタイプでもない。

 真ん中よりちょい外側の、ちょうど客席みたいな場所。

 見ようと思えば全部見れるし、ちょっと手を挙げればノっていける場所。

 今は文化祭の準備中で、そのステージに立たされているのが、うちのクラスだ。

 装飾テーブルの真ん中には、うちのエース・桜井すみれ。

 黒板の近く、シフト表とメモ帳とにらめっこしているのが、いつの間にかすみれに『観察係』とか呼ばれ定着している、安藤湊。

 主役っぽい人と、モブ志望の人。

 その二人が、いつの間にか同じイベントの中心に巻き込まれているのを、観客席から眺めるのが、最近のわたしの密かな楽しみだったりする。

◇

 まずは、うちのエースの話からしようか。

 桜井すみれ。

 わたしの中学時代からの親友。

 気づくとだいたい真ん中にいるタイプ。

 入学してすぐの自己紹介のときも、そうだった。

 立ち方も声の出し方も、妙にこなれてるわけじゃないのに、「あ、たぶんこの子、クラスの真ん中側の人だな」って分かる空気を持ってる。

 顔は、いわゆる「分かりやすい美人」って感じじゃない。

 雑誌のモデルみたいに整いすぎてるわけでもない。

 でも、よく見ると目が大きくて、笑ったときに目尻にできるしわがきれい。

 横から見たときのラインが、鼻から顎にかけてすっとしてて、ちょっと大人っぽい。

 制服の上からでも分かるくらい、スタイルもいい。

 体育の着替えのときなんか、女子ロッカーで何人かがため息ついてる。

 「同じ制服着てるはずなのに、シルエットの情報量が違う」ってやつ。

 そのたびにすみれ本人は「いやいや、そんなことないって」と笑ってるけど、わりと誰も信じてない。

 でも、そういう表面的なところ以上に、「話の拾い方」がうまい。

 誰かがちょっとしたことを言ったときに、「へー」で終わらせないで、「それってさ、こういうとこあるよね」とか「前もそんなこと言ってなかった?」って、ちょっとだけ深く拾ってくる。

 それでいて、だれにでも大体同じテンションで接する。

 あと、「お願いごとを断るのが下手」。

 「すみれ、これ頼んでいい?」って言われると、だいたい「いいよ〜」って返してる。

 「いや、それ今の流れで引き受けると、明らかに仕事増えるやつじゃん」って場面でも、わりとあっさり引き取る。

 結果として、どうなるか。

 「とりあえず桜井行っとけ」男子が一定数、発生する。

 最近いちばん分かりやすいのが、山本だ。

 山本は、サッカー部所属の、いかにも男子グループの真ん中にいそうなタイプ。

 ひょうきんで、ノリ良くて、でもテスト前になるとちゃんと勉強する、あの感じ。

 昼休みになると、山本がだいたい一回は、すみれの近くに寄ってくる。

「今日の購買パン、当たりだった?」

 とか、

「文化祭の準備、進んでる?」

 とか、内容自体はほんとどうでもいい。

 でも、たぶんあれは内容じゃなくて、「話しかけること」そのものが目的なんだと思う。

 で、帰るときにさりげなく、

「じゃ、またあとでな〜」

 って手を振ってく。

(クラスメイト相手に“またあとで”って別れ方、だいぶ意識してると思うんだけど)

 と、観客席からは思う。

 すみれのモテ事情は、こういう「分かりやすい男子」の行動を見てるとだいたい把握できる。

 中学のときだけじゃなく、今でも、廊下の端とか、屋上の階段の踊り場とかで「ちょっといい?」って呼び出されるの、何回かあったみたい。

「いや〜、ああいうの苦手なんだよね」

 って、本人は笑ってたけど。

 こっちからしたら「そりゃそうなるよな案件」だ。

 で、最近の山本を見てると、

(はいはい、うちのクラスから“階段踊り場組”がまた一人出そうだな)

 くらいの予感は、わりと真面目にしている。

 問題は、そのタイミングと、そのときの空気だ。

 受けるにしても断るにしても、ああいうのってけっこう体力持ってかれる。

 「呼び出される側」のしんどさは、一応わたしも知ってる。

◇

 で、その「階段踊り場候補」の裏側で、じわじわ存在感を上げているのが、安藤湊。

 最初の印象は、いい意味でも悪い意味でも「目立たない人」だった。

 自己紹介も普通。

 好きな教科も、嫌いな教科も、部活も、全部「へえ、まあそんな感じだよね」っていう無難ライン。

 体育も普通、成績もそこそこ。空気を乱さない、無難オブ無難。

 教室の中にいる「その他大勢」の一人、って感じ。

 でも、四月、五月、六月って時間が進むにつれて、ちょっとずつ「あれ?」ってなってきた。

 正確には五月くらいからかな?

 そこから、「観察係」とか「エッセイ書き」とか、二人の間だけで通じる変なワードが増えた……と思う。

 前まで接点ほぼゼロだったのに、時々、二人で話してるのを見かけるようになった。

 といっても、教室の真ん中でベラベラしゃべってるわけじゃない。

 ホームルーム前のちょっとした時間とか、放課後にプリントを片づけてるときとか。

 そのときのすみれは、いつもの男子としゃべってるときとは、ちょっと違う。

 山本たちと話しているときのすみれは、「クラスのセンター」の顔だ。

 笑いを取りにいくわけじゃないけど、場を楽しくする側にいる感じ。

 安藤と話しているときのすみれは、もう少し肩の力が抜けてる。

 声のトーンも半歩低いし、「ねえねえ聞いて」じゃなくて、「これどう思う?」が増える。

 安藤本人は、気づいてなさそうに見える。

 少なくとも、横から見ている分にはそんな気配はない。

 主張しないというより、「様子見しすぎて前に出るタイミングを逃すタイプ」なんじゃないかって、最近わたしは思い始めている。

 でも、一回「これやる?」ってこっちから振ってみると、仕事量に見合わないくらいきっちりやってくる。

 文化祭の係決めも、そう。

 本人は完全に「指名され事故」で記録係になったはずなのに、気づけば黒板の前で一番真面目にシフトを組んでいるのは安藤だ。

 しかも、「じゃあそれ安藤よろしくー」とか「安藤リーダーに任せよう」っていう、雑な丸投げをされても、なんだかんだで形にしてくる。

(こいつ、一回ちゃんと頼られると、期待値以上に返してくるタイプだな)

 って、観客席から見ていると、わりと分かる。

 そのせいで、他のやつらが「安藤に任せとけば何とかなるっしょ」という空気を生み始めているのが、ちょっと怖くもあるけど。

◇

 今も、黒板の前では、そんな「任されすぎ運営係」が、チョーク片手にシフト表と格闘している。

「厨房、午前中だけの人と、午後だけの人で一回整理したほうがいいかな」

 安藤が、メモ帳を見ながらつぶやいた。

「ホールもそうしないと、前半と後半でテンション差が出そうだよね」

 隣で、運営サブの子が相槌を打つ。

「買い出しは……当日の朝組と、前日の備品組で分けるとして」

 こっちから見ていると、ほぼ「小さな店長」だ。

 本人は「モブでいたい」とか言ってるらしいけど、シフト表の上では、完全に名前が真ん中にいる。

(いやそれ、もうモブじゃないんだよな……)

 そう思いながら、わたしは視線を斜め前のテーブルに移す。

 装飾班の島では、話が一段落したのか、すみれが一人でノートを広げていた。

「……何書いてんの」

 椅子ごと、すっと隣に滑り込む。

「あ、千夏」

 すみれが顔を上げる。

「文化祭特集のネタ出し」

「出た、職業病」

「だってさ、準備のぐだぐだも当日のバタバタも、ぜったいネタになるじゃん」

 ペン先でノートの端をちょんちょんと叩きながら、すみれが言う。

「見せて」

「え〜、まだ下書きっていうか、ただのメモだけど」

「メモがいちばん性格出るんだよ」

「それはそうかも」

 ちょっとだけ渋りながらも、すみれはノートをこっちに傾けてくれた。

 そこには、箇条書きでいろんな言葉が並んでいた。

 『文化祭特集 メモ』

 上のほうには「準備期間の裏側」とか「当日の役割」とか、まあ分かりやすい見出しがいくつか。

 その少し下に、ちょっとだけ字が小さくなった行がある。

 『・観察係くんについて』

 その下には、矢印付きの一文が何個か並んでいて、「主役」とか「楽」とか「距離感」とか、そんな単語が目に入る。

 最後の一行だけは、他より明らかに筆圧が強い。

「はい」

 思わず、指でそのあたりをとん、と叩いた。

「ん?」

「ここの表現ってなにかな〜?」

 すみれは「あっ」と言って、ちょっとだけノートを引き戻そうとした。

「そこまで読ませる予定じゃなかったのに」

「そんなの書いといたら、そりゃ読むでしょ」

「メモだからさ。書いてから『やっぱ恥ずい』ってなるパターンのやつだよ」

 耳たぶが、うっすら赤い。

「すみれ、やっぱりかなり気になってんじゃん、観察係くんのこと」

「え、そうかな?」

「ここさ。『楽』とか『距離感』とか、そういう単語ばっか並んでるじゃん」

 指先で、そのあたりを軽くとん、と叩く。

「人のこと、ここまで分析してメモるの、だいぶ信用してる相手じゃないとやらないよ?」

「いや、なんかさ。言語化しとくと安心するタイプで……」

 ペンをくるくる回しながら、すみれが言う。

「観察係くんといるときって、“はい、桜井すみれさんのターンです!”みたいな顔しなくていいからさ」

「いつもの“ステージ真ん中モード”じゃなくていいってこと?」

「そうそう。普通に、ちょっと愚痴ったり、ちょっと相談したりしても、“はいはい、じゃあこうしよっか”って、ほどよい温度で返してくる感じ」

「それ、だいぶ買ってるよね、安藤のこと」

「買ってるっていうか、楽は楽だよね〜って話」

 すみれは、あくまで軽い調子で言う。

 本人はまだ、軽い話にしておきたい感じがする。

(“観察係”って便利ワードでごまかしてるつもりなんだろうけど)

 観客席から見ると、そのへんの温度差がなかなか面白い。

 ノートの端には、小さくこんな文字もあった。

『・“誰も黒子で終わらない文化祭”ってフレーズ  → 観察係談。どっかでパクる』

 昨日、ホームセンター帰りに安藤が言ったやつだ。

 わたしはその場にいなかったけど、今日のホームルーム前に、二人でその話をしているのを聞いていた。

(はい、完全に“響いちゃってるワード”扱いされてる)

 ペンでぐるぐる囲んでるのが、その証拠。

「それさ」

「ん?」

「観察係くんに見られたら、死ぬほど照れるやつだよね」

「だから見せないよ?」

「うん、絶対見せないほうがいいと思う」

 わたしは笑いながら、ノートから目を離した。

 エースはエースで、安藤のそばだと肩の力が抜けてるように見えて。

 観察係は観察係で、「自分はモブだから」って顔をしながら、気づくとすみれのツボに刺さる仕事をしている。

 このバランスが、今のところ、けっこう絶妙だ。

 だからこそ、ちょっと目を離すと、盛大にすれ違いそうでもある。

◇

 その日の夜。

 自分の部屋で、ベッドに寝転びながら、スマホをいじる。

 トークアプリを開くと、「田中陸」とのトーク画面が上のほうにあった。

 この前河川敷で遊んだときに連絡先を交換した、観察係くんの幼なじみ。あれからちょこちょこ連絡を取り合っている。

『最近さ、うちのクラスの観察係くんがね』

 とりあえず、そう打ち始める。

『文化祭のシフトと冊子の裏方、ほぼ一人で回してる疑惑』

 送信。

 少しして、既読がついた。

『観察係くんって、湊のこと?』

 すぐ返ってくる。

『そう。モブ志望なのに、完全に運営の要になりつつあるやつ』

『あ~湊っぽい』

『で、その観察係くんの近くで、うちのエースがだいぶ楽そうなんだよね』

 “エース=すみれ”っていうのは、前にも何回か話したことがある。

『それ完全にフラグじゃん』

 返ってきた一文は、わたしも同じように感じてた。

『湊、そういうの一番気づかなそうだからな〜』

 続けてくる。

『放っといたら、桜井さんのほうが先に限界来そう』

『限界?』

『好きがあふれて自爆するほうの限界』

『分かる』

 思わず即レスする。

『だからこっちの観客席チームで、ちょっとだけ様子見るわ』

『観客席チーム』

『真ん中の人たちにバレないように、空気感守る係』

『なにその新しい係名』

『文化祭ってさ。表の係と裏方の係だけじゃなくて、観客席から見てる係もけっこう大事なのよ』

 自分で打ってて、「何言ってんだろ」と思わなくもないけど。

 でも、教室の真ん中を見ていると、本気でそう思う。

 既読がついて、ちょっと間があいてから、スタンプが一つ飛んできた。

 ゆるいキャラクターが「よろしく」と手を振っているやつ。

『まぁ二人ともゆっくり派に見えるし、空気感守る感じかな〜』

 そう送りながら、わたしはスマホを枕元に置いた。

(すみれはすみれで、安藤のそばだと肩の力が抜けてるように見えて)

(安藤は安藤で、“自分はモブだから”って顔しながら、気づくとすみれのツボに刺さることをやってて)

(このままだと、どっかで変なタイミングでこけそうな気もするから──)

 まあ、何かあったら、ちょっとくらいはフォローしてやるか。

 観客席から、拍手のタイミングを間違えないように見ておくのも、悪くない仕事だ。

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もりぞー

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