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第14話 ホームセンターと、主役じゃない仕事

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📅 公開日: 2026/3/3 📚 シリーズ: 「隅っこのこと、教えてよ」——クラスの有名人に観察係を任された僕の青春記録 📝 6,503文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

「隅っこのこと、教えてよ」——クラスの有名人に観察係を任された僕の青春記録 - 第14話 ホームセンターと、主役じゃない仕事

本文

文化祭準備期間の放課後は、カレンダー上は「授業」じゃないのに、体感は普通に五時間目か六時間目だった。

 黒板の端には、簡単なタスク表がチョークで書かれている。

 厨房:メニュー試作

 装飾:店内レイアウト案

 運営:シフトたたき台

 その一番下に、ちょこんと「買い出し班」の欄。

「はい、そろそろチャイム鳴るので今日はここまでねー」

 担任が手をパンと叩くと、教室の空気が少しゆるんだ。

「買い出し班は、このあとそのままホームセンター行ってきてください。今日買うのは食材じゃなくて備品だけだから、学校には戻らなくていいぞ。現地解散でーす」

 そう言って、黒板の「買い出し班」の欄をトントンと指で叩く。

「昨日みんなで出した“買い出し案リスト”、長谷川、プリント持ってるよな?」

「はい、これです」

 返事をしたのは、前の列のほうに座っている委員長の長谷川だった。真面目で、字がきれいで、学級委員長が似合いすぎるタイプ。

 その長谷川がファイルからA4の紙を取り出して、前の机の上に広げた。

 昨日のホームルームで出た案を、運営係チームがとりまとめた「購入予定リスト」だ。

「じゃあそれ、そのまま買い出し班で持ってって。現場で“これもあったほうがよくない?”って思ったら、予算の範囲内で足していいからな」

「はーい」

 買い出し班のメンバーは、四人。

 委員長・長谷川。

 装飾・メニュー名担当の桜井。

 ノリ担当兼装飾サブの西村。

 そして、記録・庶務係の僕。

(記録係って、だいたい「ついでに記録もやっといて」がくっついてくるんだよな)

 心の中でだけ、ちょっとだけぼやく。

「じゃ、買い出し班の人、行くか」

 長谷川が立ち上がって言う。

 その長谷川から、「購入予定リスト」と書かれた紙を受け取る。

 A4の紙に、ぎっしりと品名が並んでいた。

 テーブルクロス用のロール紙

 画用紙(白・ベージュ・くすみグリーン)

 ポスター用ボード

 紙コップ、紙皿、ストロー、紙ナプキン

 黒板用マーカー

 フェイクグリーン

 小さいLEDライト ……などなど。

 食材じゃない分、まだ気が楽だ。

◇

 電車を一本乗り継いで、駅からさらに十分ほど歩いたところに、そのホームセンターはあった。

 巨大な看板と、ずらっと並んだ園芸コーナー。

 店の前には、特売の洗剤とかティッシュとか、よく分からないバケツとかが山積みになっている。

 自動ドアが開くと、ひんやりした空気と一緒に、木材と段ボールとプラスチックが混ざったような匂いが流れてきた。

(テンションは上がるのに、目の前にあるのはガムテと紙コップと木材。

 文化祭のキラキラした一日って、だいたいこういう地味な場所から生えてくるんだろうな……)

「おお、来た来た。なんでもあるところ」

 西村が、カートにカゴをのせながら言う。

「なんでもあるのはいいけど、なんでもありすぎて迷うんだよね、こういうとこ」

 桜井はそう言いながら、購入リストを覗き込んだ。

「とりあえず、紙コップと紙皿から行く?」

「賛成。分かりやすいやつから片づけよ」

 長谷川が、慣れた足取りで「日用品・紙製品」のほうへカートを押していく。

 買い出しプロ経験者っぽさがすごい。

 紙コップ売り場には、サイズ違い・柄違いの紙コップのパックが、これでもかというくらい並んでいた。

「うわ、めちゃくちゃある……」

「ね。こういうとき、変にテンション上がらない?」

 桜井が、星柄の紙コップのパックを手に取りながら言う。

「文化祭前に紙コップ見てテンション上がってる高校生って、だいぶニッチだと思うけど」

「でも、“無地+スリーブでそれっぽくする”のもありなんだよね」

 隣で、西村が別の棚をのぞき込む。

「このストローとかさ。こういう縞々のやつ、インスタでよく見る“それっぽいやつ”じゃない?」

「たしかに“それっぽい”」

 西村は、白とグレーのストローを一本抜いて、指でくるくる回して見せる。

「可愛いけど、色増やしすぎるとゴチャりそうなんだよね」

 桜井は、少し離れたところにあった、シンプルな白い紙コップの棚に視線を移した。

「ベースは白と、このベージュくらいで統一してさ。

 さっきのストローとか、紙ナプキンでちょっとだけ色を足す感じにしたほうが、たぶん“カフェっぽく”なる」

「さすが世界観担当」

「やめて、そんな役職名」

 そう言いながらも、桜井は白とベージュの紙コップパックを、それぞれ一つずつカゴに入れた。

(西村は“単体で映えるもの”を見つけてきて、桜井は“全体としてまとまる色”を選んでいる)

(こういうところに、性格ってわりと出るよな)

 紙皿と紙ナプキンも、一通り選び終わるころには、カートの半分くらいが白とベージュと薄いグリーンで埋まっていた。

「次、装飾系いこっか」

 移動した先の売り場は、布やロール紙、リボン、フェイクグリーンが並ぶゾーンだった。

「このフェイクグリーンさ、インスタでよく見る“映えアイテム”じゃない?」

 西村が、つる状のフェイクグリーンを持ち上げる。

「それ、天井から垂らしたら絶対映える」

「でも、やりすぎるとジャングルカフェになるよ?」

 桜井が、笑いながらたしなめた。

「窓際に一箇所だけ、とかね。

 あとはテーブルの端にちょっと置くくらいにして、メインはロール紙とポスターで雰囲気作る感じで」

「はいはい、世界観調整入りました」

 西村が、フェイクグリーンをカゴに戻しつつ、一本だけ選んで入れる。

「ライト系どうする? ほら、このちっちゃいやつ」

 棚の端には、小さな電池式LEDライトがいくつか並んでいた。

 星型とか、丸い球が連なっているタイプとか。

「この丸いの一個だけ買おうか。

 色は……暖色のやつ。カラフルなのはやめとこ」

 桜井が、パッケージの説明を確認しながら選ぶ。

「うちで一回点くかどうか確認しとくね。

 変なチカチカ具合だったら、別の用途に回せばいいし」

「ライトの“別の用途”って何」

「部屋の気分転換とか?」

「それ、普通に私物化では」

 そんなくだらない会話を横目に見ながら、僕はスマホのメモアプリを開いた。

『文化祭備品リスト』

・紙コップ(白・ベージュ)

・紙皿

・ストロー(縞々・グレー系)

・紙ナプキン(無地)

・フェイクグリーン(つるタイプ 1)

・LEDライト(丸/暖色)

・ロール紙(テーブルクロス用)

・画用紙(白・ベージュ・くすみグリーン)

・ポスター用ボード

・黒板用マーカー

 打ち込んでから、それぞれの横に、誰が持ち帰るかを書き足していく。

(誰が何を持って帰るか決めとかないと、明日の朝“あれ、紙皿どこ行った?”ってなる未来が見える)

(観察係のノート、だんだんクラスの在庫管理表みたいになってきたな)

 カゴの中身がそれなりに重くなってきたところで、長谷川が腕時計をちらっと見た。

「そろそろレジ行こっか。オレ、このあと塾あるからさ」

「うわ、真面目スケジュール」

「委員長は忙しいのですよ」

 西村が、適当な敬礼ポーズをしてみせる。

 レジで会計を済ませると、長谷川がレシートをまとめて受け取った。

「レシートは俺が預かっとく。明日、担任に渡すから」

「お願いします、会計担当」

「やめて、その役職どんどん増やしてくの」

 紙袋とビニール袋を人数分に分けて、それぞれの荷物量を調整する。

「紙コップとストロー、うちから学校のほうが近いから預かっとくよ」

 西村が、軽いほうの袋をひょいと持ち上げた。

「LEDライトとフェイクグリーンは、さっき言ったとおりうちでチェックしてくるね」

 桜井は、自分のトートバッグと、紙袋を一つ肩にかける。

「じゃあロール紙と画用紙とポスターは……安藤でいい?」

「いいって言う前に渡すのやめて?」

 だけど結局、ロール紙の長い袋と、画用紙の入った紙袋、そして自分のリュック。

 両手は、きっちり埋まった。

◇

 ホームセンターから駅までは、四人でわちゃわちゃしゃべりながら歩いた。

「文化祭ってさ、準備がいちばん楽しい説あるよね」

「当日ぐだったらどうすんの、それ」

「それはそれでネタ」

(書き手の発想だな……)

 そんな感じのどうでもいい会話をしているうちに、駅前のロータリーが見えてきた。

「じゃ、オレこっちだから」

 長谷川が、反対側のホームへ向かう階段のほうを顎で示した。

「一本早いやつ乗っとかないと、塾遅刻する」

「文化祭前でも、受験生は大変だな……」

「いや、まだ高一だからね?」

 苦笑いしながら、長谷川は手を振って階段を駆け上がっていった。

「うちはあっち方面だから、ここでバイバーイ」

 西村は、改札の前でスマホを掲げた。

「ストローと紙ナプキン、任せたからね」

「任されましたー」

 西村が手を振りながら言った。

「すみれ、安藤、よろしくね。荷物多そうだし」

「よろしく、の中身が雑なんだよな……」

 文句を言う前に、西村はさっさとICカードをタッチして、別方向のホームへ消えていった。

 残されたのは、紙袋二つとロール紙を抱えた僕と、トートバッグ+紙袋一つの桜井。

 駅のホームに上がると、ちょうど各駅停車の電車が入ってきた。

「これ乗る?」

「うん」

 乗り込んだ車内は、通勤ラッシュほどではないけど、それなりに混んでいた。

 しゃべろうと思えばしゃべれるけど、大声で話すのはちょっとためらわれるくらいの密度。

 電車の揺れに合わせて、隣に立つ桜井の肩が、僕の腕にこつんと当たる。

 そのたびに、少しだけインクとシャンプーが混ざったような匂いがした。

「忘れそうだな、これ」

 手元のロール紙を見ながら、意識して僕が小声で言う。

「明日出るとき、絶対玄関で一回つまずくやつじゃん」

「忘れたら、担任にめっちゃ言われそう」

「“備品忘れた記録係”って、肩書きとしてなかなかダメージでかい」

「それを自分で言うの、ほんと器用だよね」

 桜井が、口元だけで笑う。

 そんな、細切れの会話を何回か挟んだあと、電車は僕たちの降りる駅に着いた。

◇

 駅を出ると、夕方の風が少しだけ涼しくなっていた。

 空はまだ明るいけど、日差しはだいぶ柔らかい。

「今日さ」

 駅前の信号を渡ったところで、桜井がぽつりと言った。

「ホームセンターで紙コップ見てテンション上がってる自分に気づいて、ちょっと笑っちゃった」

「高校生活、だいぶ文化祭に侵食されてきたね」

「“紙コップの柄でテンション上下する日が来るとは”って感じ」

「文化祭前ってさ、テンションだいたいホームセンターに吸われるよね」

 僕は、ロール紙を持ち直しながら言う。

「キラキラの本番の裏側、だいたい“ガムテと紙コップの山”でできてるし」

「名言ぽいこと言ってるけど、見た目が完全に運搬係」

「運搬係は運搬しながらしゃべるものだから」

 くだらないやりとりで一回笑ってから、少しだけ会話が途切れた。

 アスファルトの上に、電柱の影が長く伸びている。

 その影を踏まないように歩きながら、桜井が口を開いた。

「今回の文化祭特集さ」

「ああ、あの“匿名コメント集つきのやつ”ね」

「そう、それ」

 桜井は、トートバッグの持ち手を握り直した。

「できれば、クラスのみんなが“ちょっと主役っぽく見える瞬間”を集めたいんだよね」

「抽象度が一気に上がった」

「でもさ、実際の文化祭って、“前でわーって盛り上がってる人”と、“裏でひたすら皿洗ってる人”とかいるじゃん」

「いるね」

「どっちの気持ちもちゃんと書きたいな、って思うんだよね」

 その言葉に、僕の頭の中で、黒板のシフト表と、さっきのホームセンターの棚が重なった。

 厨房組、ホール組、記録・運営組、買い出し組。

 当日の表側と裏側。

「みんなが主役っぽく見える文化祭ってさ」

 桜井が、少しだけ歩くスピードを落とす。

「現実的に可能だと思うかな?」

「……“全員が同時に主役”は、たぶん無理だと思う」

 少し考えてから、口を開いた。

「厨房もホールも買い出しもあって、スポットライトの数には限界あるからさ」

「うん、それは分かる」

「でも、“誰も完全な黒子で終わらない”くらいなら、段取り次第でいけるかも」

「黒子で終わらない?」

「シフト組むときにさ、“一回は表側ポジションに出る時間”を、全員分どこかに入れておくとか」

 ロール紙を持っていないほうの手で、空中に簡単な表を描く。

「裏方が向いてる人でも、一瞬だけ“自分のターン”を作ってあげるのは、多分できる。

 逆に、ずっと表に立つ人には、その人なりの“裏で休む枠”をちゃんと入れておくとか」

 観察係として教室を眺めていた視点と、記録係としてシフト表を考える視点が、頭の中で同じ場所に重なる。

「それぞれの“主役っぽい瞬間”ってさ」

 自分でも、ちょっとだけ言葉を選びながら続けた。

「ライト当たってるかどうかより、その人の中で“今日いちばん楽しかった瞬間”とか“いちばんしんどかった瞬間”になってるかどうか、って感じな気がする」

「……」

「そういうのを集めて並べたら、十分“みんな主役の文化祭でした”って言えると思うけどな」

 言ってから、「何を真面目に語ってるんだ、運搬係」と自分で少し照れた。

 桜井は、しばらく黙って歩いていた。

 アスファルトを踏むスニーカーの音だけが、しばらく続く。

「……そういうとこだよなぁ、安藤くん」

「どのへん」

「“全員を同時にヒロイン、ヒーローにします!”じゃなくてさ」

 桜井は、愛おしいものを見るみたいに、目を細めて笑った。

「現実ラインの中で、“でも黒子にはさせない”って言ってくれる感じ」

「いや、そんな大それたこと言ったつもりは……」

「わたしさ」

 その言葉に、僕は無意識に歩みを少しだけ緩めた。

「ずっと“ステージの真ん中に立たされがち側”だったからさ」

「……ああ」

 河川敷の夜の会話が、頭の中でよみがえる。

『教室にいるときって、勝手に“桜井すみれならこうでしょ”みたいなテンプレ貼られること多いのよ』

『主役っぽく扱われないの、けっこう貴重なんだよ』

「たまに、“今日は誰かの横で、ちょっと脇から見てたい日”もあるんだよね」

「それは、なんとなく分かる気がする」

「だから、“主役っぽく扱わないけど、ちゃんと見ててくれる人”って、多分文化祭のときもけっこう重要なんだよね」

 そう言って、ちらっとこっちを見る。

 視線がぶつかって、僕はあわてて前を向き直った。

(またなんか、観察係のハードルを一段上げられた気がするんだけど)

 胸のあたりが、少しだけむずがゆくなる。

◇

 やがて、家の方向が分かれる十字路が見えてきた。

 ここから先、僕はまっすぐ。

 桜井は左の道だ。

「じゃ、ここで分かれ道だね」

「そうだね」

「明日、ロール紙と画用紙、忘れないでよ。ないとテーブル丸裸だから」

「分かってるよ。さすがにテーブル丸裸でカフェはやばい」

「“素朴な木目を活かしたミニマルカフェ”って言い張る手もあるけど」

「それ、だいぶポジティブ変換頑張ってるやつ」

 そんな軽い確認をしてから、「じゃあね」と言おうとしたところで、桜井がふっと振り返った。

「さっきのさ」

「さっき?」

「“誰も黒子で終わらない文化祭”ってやつ」

「ああ」

「文化祭特集のどっかで、パクっていい?」

「パクるって言っちゃったよ、この人」

「もちろん、“観察係談”って小さく脚注つけとくから」

「脚注つけるくらいなら、もうちょっと言い換えてよ」

「考えとく」

 桜井は、そう言って笑った。

「じゃ、また明日。ロール紙と一緒に登校してきてね」

「了解。運搬係、兼……観察係として」

 軽く手を振って、桜井は左の道へと歩いていく。

 その背中が角を曲がって見えなくなるまで、白い紙袋が小さく揺れていた。

(また一つ、“仕事の話”なのか“それ以外”なのかよく分からない種を、ホームセンター帰りの道端に撒かれた気がする)

 文化祭記録係としての「段取り」。

 観察係としての「クラス全員の一言コメント」への興味。

 桜井が書こうとしている「文化祭特集」の芯。

(“全員主役”は無理でも、“誰も黒子で終わらない文化祭”くらいなら……)

(観察係として、本気で狙ってみてもいいのかもしれない)

 ロール紙の重みを、少しだけ持ち直しながら、僕はまっすぐ自分の家のほうへ歩き出した。

 ポケットの中で、スマホが震えた。

『今日は大量の荷物、ありがとね! 明日、筋肉痛にならないように』

 短い文面と、筋肉ムキムキの猫のスタンプ。

(……そんなにやわじゃないっての)

 苦笑いしながらも、ロール紙を抱え直す腕に、少しだけ力が入った気がした。

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もりぞー

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