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第16話 三者面談 2

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/21 📚 シリーズ: 終焉の探偵 📝 2,658文字 ✅ 全年齢

あらすじ

終焉の探偵 - 第16話 三者面談 2

本文

「そんな……! それじゃ千晶ちゃんは……あなたが……」

 喉の奥が、きゅっと詰まる。

 そんな私を見た梓さんは、少しだけ眉を顰めた。

「そう……あれを見ていた? 視覚を同調させていた? 虚木の縁者ならあり得る……」

 独り言のように呟く梓さん。

 だがその言葉は殆ど耳には入っていなかった。

 千晶ちゃん。

 あの笑顔。

 いつも元気に「真弓先輩!」って声をかけてくれた、あの子。

 探偵さんが、わずかに眉をひそめる。

「恐らく、だけれど影に取り込まれた人間は……」

 言葉を濁す探偵さん。

 梓さんが、静かに答えた。

「戻れない」

 その声に、感情はなかった。

「影に触れた者は、分解されて――記憶として取り込まれる。個としての人格は、消える」

「じゃあ、千晶ちゃんは……!」

「あなたが見ていた通り」

 梓さんは、わずかに視線を伏せる。

「影を倒せば、取り込まれた人も――此岸からは消える」

 その声は、静かだった。

 感情を殺しているような、そんな響きだった。

「千晶さんは、もう……」

 言葉が途切れる。

 梓さんの瞳の奥に、ほんの一瞬だけ――何かが揺れた気がした。

 でもすぐに、また冷たい静けさに戻った。

 探偵さんは腕を組み、ふむ、と唸る。

「その影が、この世界の終焉に直結してる……のかな?」

「……」

「で、さっき君がいってた清音って人がそれに関係している?」

「……そうかも知れない。でもあなたには関係ない」

 梓さんと探偵さんの視線がぶつかり合う。

 二人とも表情は静かだったけど――

 その空気は、肌がひりつくほど張り詰めていた。

 真夏の熱が、一気に冷え込んだような気配に、私は呼吸をすることも忘れる。

(なんで……なんでこんな二人が、私の知ってるこの街にいるの……?)

「……虚木真弓さん」

 梓さんが私に向き直る。

「この件には、関わらない方がいい。その名字を持つ人は特に」

 それは忠告ではなく――命令に近かった。

「……いやです」

 私は、自分でも驚くほどはっきりと答えていた。

 梓さんの目が、わずかに揺れる。

「千晶ちゃんは……後輩なんです……知りたいんです、あの子に何があったのか」

 声が震えても、涙は出なかった。

 ただ、胸の奥が熱くて、苦しかった。

「……そう」

 梓さんは、それだけ言った。

 優しさも、同情も、何もない。

 ただ、冷たく事実を受け取っただけ。

「なら、覚悟して。あなたの現実は、もう確かなものじゃない」

 そう言い残して、梓さんは踵を返した。

「ちょっと、君――」

 探偵さんが呼び止める前に、

 梓さんの姿は公園の外へ、夕闇の中に溶けるように消えていった。

 最後に、梓さんの声が、風に乗って聞こえた気がした。

「……次に会ったとき、敵だったら――殺すわ」

 それが、警告なのか、宣言なのか、

 私には分からなかった。

 残されたのは、私と探偵さん。

 そして、少しだけ冷たくなった風。

「……探偵さん」

「うん?」

「梓さんが……犯人なんですか?」

 探偵さんは、しばらく夕闇を見つめていた。

 やがて、小さく息を吐いた。

「――まだ分からない」

「わからないんですか、探偵さんなのに」

「探偵さんだからさ。情報がないと推理はできない。憶測や想像だけで犯人を決めることはできないよね?」

「……はい」

「しかし、もし、彼女が終焉存在に連なる者なら、彼女は僕の敵なのかも知れないね」

「終焉存在……」

「世界に滅びをもたらす者。僕はそれを探して旅をしているんだ」

「……探偵さんは……どこから来たんですか?」

 私の言葉に探偵さんは、目を細め空を見上げた。

「ここよりずっと遠いところ。もうどこにもない場所から僕は来たんだよ」

 ため息をつくように、言葉を紡ぐ探偵さんは少しだけ寂しそうに見えた。

「――さて、真弓くん、情報を共有しよう。さっきあの梓さんって子がいってた清音って名前についてだけど」

 探偵さんの質問に、私はわかることは答えた。

 虚木清音さん。

 私と同じ名字を持つ、同い年の女の子。

 虚木村の村長の娘さんで、村に祀られている神様の巫女。

 名前のない神様だそうで、ちょっと不思議だった。

 腰まで伸ばした長いさらさらのストレートヘア。

 少しきつめだけど、綺麗な瞳。

 今でも思い出せる。

 まだ中学生だったけど、将来はモデルさんになれる位綺麗な子だった。

 ――そういえば、面差しが梓さんに少し似てるな。

 神秘的な美人で、村人たちは彼女のことを崇拝しているみたいだった。

 けど、私が療養で、村に滞在していたときには、色々優しくしてくれた思い出がある。

 夏祭りの神楽舞は本当に綺麗だった。

 健太くんや美穗ちゃん、あゆみちゃんたちと一緒に見に行ったんだよね。

 そうそう、吉川先生や、奥さんの伊織さんもいて楽しかったなぁ。

 そして村の名物だという、よく冷えた赤い飲み物。

 美味しかった!!

「――みたいな感じですね」

「なるほどね。

 色々と見えてきた感はあるけど、さて」

 そういうと探偵さんは、まっすぐに私を見た。

 きりりと目を見開いたその表情は、なんというかちょっとイケメン。

 いや、そんなことを考えている場合じゃないんだけど、しょうがないよね?

「君の依頼は確かに承った。ワトソン役を願い出てくれたけど、この先はもっと危険になるかも知れない」

 そういうと探偵さんは言葉を切った。

「だから、君はこのことは忘れて、普通の生活に戻ってもいいんだよ? いや、むしろその方が良いかも知れな――」

「いいえっ! ノー! イヤですっ!」

 かぶせ気味に即答していた。

 気持ちを強調するために三回同じ意味の言葉を叫ぶ。

「そ、そっか。なんというか即断即決だね?」

 探偵さんは、驚いたように笑顔を浮かべ、まっすぐに私を見た。

 ここまで首を突っ込んで、何もしないで、何もわからないでいるなんて出来ない!

 それは私の主義に反する!!

「はい、生きるからには全力で、が私のモットーなのでっ!」

「――そいつは、素敵だね」

 一呼吸置いた応え。

 いきり立っている私に、探偵さんは微笑ましいものでも見るように、視線を和らげた。なんだろ、吠えかかるチワワを見てる人のような目線だ。納得いかない。

「むー……」

 文句をつけようと口を開いた私を遮るように手を前に出し、探偵さんは言葉を口にした。

「それじゃ、後輩さんが消えた場所、案内してくれるかな」

「え……今から?」

「ああ。日が落ちる前に」

 探偵さんは立ち上がり、黒いコートを翻した。

「痕跡は、時間が経てば消える。今なら、まだ何か残ってるかもしれない」

 私は頷いた。

「はいっ!」

 夕暮れの空が、どこまでも赤く染まっていた。

 その赤は――どこか、不吉な色をしているように見えた。

 でも、探偵さんと一緒だ!

 だからきっと、大丈夫!

 私は自分に言い聞かせ、夕闇の街に足を踏み出した。

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作者について

カクナ・ノゾム

カクナ・ノゾム

カクナノゾムと申します。 趣味の小説を細々と書いてます。 面白いことは間違いないので是非是非ご一読くださいませ。

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