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第2話 馴れ初め(前)~「よ」は2回でOK~

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/20 📚 シリーズ: 魔界公務員と代行者 📝 2,889文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

魔界公務員と代行者 - 第2話 馴れ初め(前)~「よ」は2回でOK~

本文

 通話が終わり。

 男が端末をパチン、と折り畳むや否や。

「あのっ……――待ってました!」

 嬉しくて踊り回ろうとする心を抑えて。

「来てくれて、ありがとうございます……!」

 善夜は彼に向かって、精一杯の気持ちを込め頭を下げた。

 ***

 一昨日。

 罵詈雑言の彫られた善夜の机の上にあったのは、カラフルにラッピングされた小さな箱。

 中には『取引契約書』と『招聘理由書』、説明書が入っていた。

 説明書に従って、名前と願い事を書いた。

 そうして箱の中に入れておけば、翌々日に願いが叶えられるらしい。

 ***

 半信半疑だった。

 いや、3割ぐらいしか信じていなかった。

 それがまさかのまさか。

 『契約』が、本当だったとは。

 しかも、人が来た。

 なぜ世界が止まっているのか、彼は何者なのか――気になることは多々あるが、長年の夢が叶うことがそれ以上に嬉しい。

「……どんなふうにお願いを叶えてくれるのか、想像もできないけど……その……」

 期待と緊張と興奮でしどろもどろになりながら、

「よろしくおねがっ……」

 さらに頭を深く下げたところ、尻がフェンスにぶつかった。

 その反動で前のめりに――男の腹に頭突きをかましてしまった。

 硬い。そして痛い。

 いや、それどころではない。

「ごごごごめんなさい……!!」

 恐れおののき謝る善夜を、彼は無表情に見下ろしている。

 足元を歩いているアリを見るような――何の感情もない目つきで。

(あれ……なんか、ヘンな人……?)

 内心で戸惑いながらも、善夜は愛想笑いでやり過ごすことにした。

 ややあって、

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 善夜の『失態』などなかったように。

 彼は淡々と返した。

 ***

 「――こちらをご確認ください」

 続いて彼が差し出したのは、黒地に白い文字の印刷されたカードだった。

 善夜は受け取り、その黒いカードをじっと見つめる。

(名刺、かな……?)

 そう思いつつ、善夜はカードを読み上げていく。

「まかい、がい……ざい……」

「――魔界外在留管理局の者です」

 苦戦する様子を見かねてか、男・オフィサーは簡潔に名乗った。

「簡潔に申し上げますと、『魔界の公務員』です」

「ま、魔界の……公務員……」

魔界という世界があって、そこには『願いを叶えてくれる役所』がある、ということだろうか。

 それよりも、

(公務員だから、『オフィサー』さん……?)

 それは彼の本名なのか、仕事上の名前なのか。

 気になりつつ、善夜は目の前の男を怖々ながらも改めて見上げた。

 かなり背が高い。

 自分の身長が160センチぐらいだから、彼は180センチを優に超えていることになる。

 見上げすぎて首の後ろが痛い。

「内容はご確認いただけたでしょうか?」

「あっ……」

 オフィサーの声で我に返った善夜は、すぐにカードに視線を戻す。

 細かい文字にもカードの裏にもまだ目を通していない。

 ――が、雰囲気に飲まれコクンと頷いてしまった。

「では、確認します」

 言いながらオフィサーは、彼女の手からカードをさっと取り上げた。

(名刺じゃなかったの……!?)

 眉をひそめる善夜をよそに、彼はカードの裏表に目を通している。

 何のためのやり取りだったのだろうか。

 奇妙といえば、オフィサーの装備もそうだ。

 軍服のような黒い制服に、黒い皮手袋。

 腰の剣帯には同じく、真っ黒な剣と折りたたみ式の端末と――何に使うのかわからない扉型のキーホルダーのようなものが吊ってある。

 彼自身の纏う空気も、この世界とは違う匂いが感じられた。

「――あなたのお名前を聞いています」

「あっ……!」

 気が付くと、カードを上着の内側にしまいながらオフィサーがこちらを見ていた。

「よ、善夜……です」

「ヨヨヨさん」

「善夜、です!」

「善夜さん」

 彼はようやく正解してくれた。

「――あなたには私の公務を代行していただきます」

 続けて伝えられたのは、わけのわからない依頼だった。

「こうむを、だいこう……?」

 善夜はきょとんとした顔で彼を見上げる。

(公務を代行ってなに? っていうか、『願いごと』は……!?)

 聞き返す間もなく、オフィサーがこちらに向かって手を差し伸べてきた。

 初対面でいきなり叩くことなんか、あるはずないのに。

 反射的に、善夜は自分を庇うように両手を上げて目をぎゅっと閉じた。

 直後に感じたのは、右手を掴まれたような強めの圧迫感と温かさだった。

 その熱が腕を伝い、肩を通り、全身に広がっていく感覚。

 まるで、何かと接続されるような……

 自分の中の奥深くで――歯車が噛み合う音が聞こえた気がした。

「……」

 それだけだった。

 沈黙に耐えられず怖々と目を開ける。

「あれ? えっ……!?」

 オフィサーの姿がない。

 慌てて周囲を見回すと、目に入ったのは――

 いつの間に発生したのか、そこかしこに発生した謎のモヤだった。

 善夜が立っている屋上だけではない。

 園庭にも、周囲の建物や道路にも――自分の周りにも。

 雨雲を薄く引き伸ばしたような鈍色が、音もなく漂っている。

 温度や匂いは特にない。

 しいて挙げるとすれば、僅かにピリッとした感覚が鼻をつき――心に少し陰が差す。

 不意に、かすかな金属臭が運ばれてきた。

 全部止まっているはずなのに。

「……な、なに……?」

『――どちらについてのご質問でしょうか?』

「わあっ!?」

 突然すぐ近く――というか自分の中からオフィサーの声が聞こえた。

「えっ……お……」

 ――「オフィサーさん、どこにいるの!?」

 そう尋ねようとした矢先。

 右手がグン、と大きく上がった。

 驚くよりも先に響いた金属音に、善夜は思わず目を閉じて、

(今度は何なの……!?)

 そっと目を開けて――音のした方向をうかがい見て、目を剥いて絶句した。

 上がったままの自分の右手に、剣が握られている。

 オフィサーの剣帯に吊ってあったものだ。

「なに……これ……!?」

『この剣は無彩剣アーテルといいます』

(そういう意味じゃなくてっ……)

 またしても心の中でツッコミを入れて、口では「はあ……」と相づちを打ちつつ。

 オフィサーの声が『無彩剣』と呼んだものを、善夜はまじまじと眺めた。

 柄から剣先まで黒一色。

 光すら反射しないそれは、剣の輪郭をした底なしの暗闇を思わせた。

 重さは感じないが、不思議と手に馴染む感触がある。

 腰には――今気づいたが、彼が装備していた剣帯が巻かれていた。

 折り畳み式の黒い端末と、小さな扉を模したキーホルダーのようなものも吊ってある。

 ――と、

『動かないでください』

 不意にオフィサーの声がした直後。

 屋上の向こう――20メートルぐらい先から、一筋の銀色が飛んできた。

 鎖だった。

 風切り音とともに真っ直ぐ飛んでくる。

 同時に善夜の右腕がひとりでに動き――

「えぇえっ!?」

 振るわれた剣が、ぎんっ! と弾き飛ばした。

 もちろん彼女にそんな技術はない。

 肩も肘も手首も関節も――自分の腕なのに、自分の知らない滑らかな動きをする。

(なんで……!?)

『集中してください。大群が来ます』

 オフィサーの声が、淡々と怖いことを告げた。

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まかろん まよね

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