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第20話

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/22 📚 シリーズ: 風の剣士と夜景の魔女 📝 3,977文字 ✅ 全年齢

あらすじ

父親と喧嘩して武者修行の旅に出た少女剣士のレイリは、海を渡った大陸の街でチンピラに絡まれた女魔術師・ロミを助けだす。何者かに盗まれてしまった家宝の刀を取り返すため、レイリは冒険者になってロミとパーティを組むことになるが――。 全30パートです。

本文

「その言葉を待ってたわ!!」

 ロミの合図を受け、あたしはメイド服を勢いよく脱ぎ捨てた。

 屋敷からの脱出に備え、下にはいつもの胴衣を身に着けていたのだ。おかげで着ぶくれしてしまい、動きにくいったらなかった。

 一方のロミはというと、身に着けていた衣装が闇へ溶け落ちるように消え失せ、瞬時にいつものローブと尖り帽へ様変わりする。ていうか、何それ。そんな真似ができるなら、あたしにもやってほしかったぞ。

「得物もなしで、俺たちに敵うとでも……ぐおぁっ!?」

「残念。一応は用意してきたのよね、これが」

 突きかかってくる槍の穂先を切り落としつつ、返す刀で相手の顎先をかち上げた。

 あたしの手に握られているのは、厨房からちょっぱってきた大振りの牛刀だ。ないよりマシといった代物だが、このぐらいの相手ならどうってことはない。

「な、舐めやがってぇっ!!」

「クソッ!! たかが女二人に、何を手間取っているんだ!!」

 怒号をあげて襲いかかる連中の攻撃を難なく躱し、ちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返す。こんな輩が束になってかかってきたところで、負ける気などまったくない。

 振りかぶった刃を弾き返して、すれ違いざまに峰で打ち据える。背後を狙ってきた敵を回し蹴りで昏倒させ、飛びかかってきたもう一人の眉間に肘鉄をお見舞いしてやる。

 ロミはロミで持ち前の魔術を駆使し、次々に兵士たちを地面に沈めていた。あたし達が動くたびに、伯爵の手勢がみるみる数を減らしていく。

「そこまでにしてもらおうか、お嬢さんがた」

「……へえ。奇遇じゃない、こんなところでまた会うなんて」

 あたし達の前に立ちはだかったのは、竜の瞳の意匠が施された騎士甲冑に身を包んだ男――街の詰め所で顔を合わせた衛兵たちの隊長、エイブラハムだった。

「我が部下ながら、情けない限りだ。まさか、君がここまでの手練れとは思わなかった。無理やり難癖を付けてでも、あそこで捕縛しておくべきだったと後悔しているよ」

「そっちこそ、まさか伯爵の護衛をやってるなんてね。あの時はまんまと食わされたわ」

「好奇心が寿命を縮めたな。冒険者というのは、つくづく命知らずな連中が多いらしい。……ああ、あのガラントとかいう男も、元冒険者だったか」

「もしかして、あいつを殺したのは……」

「奴は不遜にも、脅迫まがいの交渉まで持ちかけてきたからな。当然の報いだよ。さて、無駄話はここまでだ。君たちにもご退場願うとしよう」

 長剣を抜き放ち構えた瞬間、エイブラハムの帯びる空気が一変する。この男、あたしが想像しているより遥かにできる……!?

「剣を取りたまえ。そんなもので、私の相手が務まるとは思わないことだ」

「そう? んじゃ、お言葉に甘え……てッ!!」

「む……ッ!?」

 刃こぼれした牛刀を投げつけ、その隙に床に落ちていた衛兵の剣を拾いあげる。

 エイブラハムは飛んできた牛刀を事もなげに払いのけ、あたしの打ち下ろしを正面から受け止めた。

「なるほど、いい踏み込みだ。こんな状況でもなければ、うちに勧誘したいところだよ」

「冗談、冒険者以上に願い下げよっ!!」

 二撃、三撃。慣れない長剣での立ち回りとはいえ、あたしの連撃をこうも完璧に捌いてみせるとは。やっぱりこいつ、ただの衛兵なんかとは一線を画している。

 咬合する剣を巻き込むような動きで、巧みにこちらの体勢を崩そうとしてきた。咄嗟に身を引いたところへ、すかさず鋭い追撃が飛んでくる。

 フェイントを交えた斬り上げ、そこからの息もつかせぬ刺突を身を捻って回避するも、痛みと共に頬を生温かい感触が伝っていく。

「今ので仕留めるつもりだったのだがな。若いのに、大した腕をしている」

「……そりゃどうも」

「レイリっ!!」

「平気よ!! ロミは周りの雑魚どもの対処をお願い!!」

 そうは言ったものの、実際は楽観できるような状況ではなかった。

 この男の剣の腕は本物だ。今まで様々な相手と剣を交えてきたが、その中で間違いなく強敵と呼んで差し支えないだろう。

 これが騎士王国として名高い、この国の騎士の実力か。切望して止まなかった強敵との立ち合いが、こんな形で実現するとは。まったくもって、皮肉が効いている。

「戦いの最中に考えごととは、余裕だな!!」

「ぐッ……!?」

 繰り出された前蹴りを、辛うじて剣の腹で受け止めた。甲冑の重量までも上乗せされた衝撃力で、あたしの身体が後ろに弾き飛ばされる。

 あろうことか、エイブラハムはそのまま床を蹴ってあたしに追いすがってきた。

 迫る猛攻への迎撃を、自由が利かない空中で余儀なくされる。横薙ぎで放たれた剣閃を弾き返したまではいいが、次撃の叩きつけるような袈裟切りに反応が追いつかない。

 直撃こそどうにか免れたものの、胸当てが切り裂かれ、留め金もろともに宙を舞った。相殺しきれない勢いのまま床に叩きつけられ、肺の空気が絞りだされる。

「かは……ッ!! げほッ、ごほッ……!!」

「ここで殺すには、いささか惜しい逸材だな。状況が許すなら、本気で勧誘したいが……これも仕事だ、悪く思うなよ」

「はぁ……はぁ……ッ。何度も、言わせんじゃないわよ。誰が、あんたらの仲間になんてなるかっての……」

「そうか。では、心置きなく始末できるというものだ」

 剣を支えに立ち上がるも、エイブラハムの優位は覆らない。対するあたしはというと、深手はなくともあちこちに傷を負って満身創痍だ。

 これ以上戦いが長引けば、先に力尽きるのはあたしの方だろう。

「意地を張るのはよしなさい、レイリ!! このままでは、本当に死んでしまうわよ!?」

「手出しは、無用って言ってんでしょ……。これは、あたしの戦いよ……ッ!!」

「いい気迫だ。だが、それもいつまで保つかな?」

 悲痛なロミの声を突っぱね、あたしはエイブラハムへと向き直る。

 この男は間違いなく強い。洗練された立ち回りと、それを裏打ちする優れた身体能力。海を渡ってやって来てからというもの、ここまで苦戦した人間は初めてだ。

 ……だが、こいつはまだまだ最強にはほど遠い。

 あたしの脳裏には、ある一人の少女の姿が浮かんでいた。

 ――リーシャ。あの地下遺跡で剣を並べて戦った、光王教会に所属するという修道女シスター。身の丈を超える大剣を自在に振るい、並み居る妖魔や悪魔を容赦なく斬り伏せていた。

 彼女の持つ規格外の力と比べたら、エイブラハムの剣術など児戯にも等しい。あたしはまだ、リーシャと剣を交えてすらいない。

 あいつとの決着を付けるよりも前にくたばるなんて、そんなもったいないことがあってたまるものか。

「いくわよ、エイブラハム!!」

「む……っ!?」

 エイブラハムが驚愕の声をあげる。何故ならば、あたしが自ら手にする長剣をその場に投げ捨てたからだ。

 徒手空拳となったあたしに向かって、躊躇なく雷速の突きが放たれる。

「勝負を捨てたか、小娘!!」

「まだまだぁッッ!!」

 突き出された切っ先を、とんぼを切って後ろに躱す。転がった先に落ちているのは――あいつにあえなく弾き飛ばされてしまった牛刀だ。

「仕切り直しといこうじゃない。ここからが本番よ!!」

「何ぃッ……!?」

 牛刀を掴み取るや否や、あたしは床を蹴ってエイブラハムに肉薄する。

 まさか、再び突っ込んでくるなんて思わなかったのだろう。虚を突かれ、体勢を崩したままのエイブラハムを、一気呵成に責めたてる。

「うおぉぉぉおおおッッッ!!」

「く……ッ!!」

 矢継ぎ早に繰り出される斬撃の嵐。ことごとくを捌かれているものの、エイブラハムの顔に少しずつ焦りが浮かんでいく。

(これならば……いけるッッ!!)

 最初に奴の誘いに乗って、長剣で打ち合ったのがそもそもの間違いだったのだ。元よりあたしの剣術は、一撃の威力より速さと手数に重きを置いている。

 そこであえて剣を捨て、自分の土俵へと相手を引きずり込む作戦に切り替えたのだ。

 長剣から牛刀に持ち替えた結果、あたしの剣速は倍以上にまで加速している。リーチや威力において大きく劣るが、その不利を補って余りあるアドバンテージでエイブラハムを着実に圧倒していく。

 それに加えて、得物を変えたことによって生じた間合いの変化が、奴のリズムを大幅に崩していた。ひとたび懐に潜り込んでしまえば、長剣での立ち回りは逆に窮屈になる。

「馬鹿な……そんな、鈍らナマクラ一本で……ッ!?」

「逃がすかぁッッ!!」

「う、おおぉ……ッッ!?」

 必死で距離を取ろうとするが、そうはさせない。牽制に放たれた斬撃や蹴りを紙一重で躱しながら、後ずさるエイブラハムに迫る。

 とはいえ、所詮は調理用の刃物。ひとたび奴の剣をまともに受ければ、あっという間に使い物にならなくなってしまう。この勢いのまま、一気に畳みかけるしかない。

「な、何という剣さばきだ……この私が、ここまで圧倒される、とは……ッ!!」

「これで、とどめぇッッ!!」

「ぐぅっ……!!」

 エイブラハムを追い詰めるべく、あたしはさらに前へと踏み込んだ。

 無数の斬撃を縦横無尽に叩きつける乱舞技、嵐刹ランセツ。限界を遥かに超える負荷に、牛刀がぎしりと悲鳴をあげ始める。

 彼が長剣を手放すと同時に、牛刀の刀身が粉々に砕け散った。残った柄の部分を、奴の顔面に思いっきり叩きつける。

「がッ……!!」

 眉間に炸裂した強烈な一撃で、さしものエイブラハムもその場に崩れ落ちた。肩で息をしながら周囲を見回すと、立っている衛兵の姿は一人もいない。

「ど、どうにか、勝負あったみたいね……」

「駄目よレイリ、まだ終わってないわ!!」

「……え?」

 声をあげるのと、ほぼ同時に。熱くて冷たい、鉄の感触があたしを貫く。

 自分の胸元から生える片刃の切っ先――羅刹刀の刃を見て、ようやくあたしは後ろから刺されたのだと理解した。

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作者について

古代かなた

古代かなた

ネットの片隅でひっそり生きるへっぽこ物書き。生息地はPixiv。

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