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第13話 圧力の形

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/4/13 📚 シリーズ: 王女の一言から始まる、異世界野球リーグ設立奮闘記 📝 3,226文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

王女の一言から始まる、異世界野球リーグ設立奮闘記 - 第13話 圧力の形

本文

王都は静かだった。

でもそれは、嵐の前の静けさだ。

⸻

最初に現れたのは張り紙だった。

球場の門。

駅の掲示板。

酒場の壁。

粗い字で書かれた文句。

「魔族を追い出せ」

「混ざり者に王都の芝を踏ませるな」

「野球は人間の競技だ」

誰が書いたのかは分からない。

だから、誰も責任を取らない。

剥がしても翌日には増える。

数が増えれば、

「声」は「民意」を名乗り始める。

⸻

次は、直接だった。

球団事務所の窓から石が投げ込まれた。

割れた窓。

床に散る硝子。

封筒が一つ、滑り込む。

「次は人が怪我をする」

「GMが責任を取れ」

名前は無い。

ナオがそれを見て鼻で笑った。

「回りくどいね。アタシだったら、もっと分かりやすくやるのに」

「それって皆殺しにするって事でしょ?」

「アタシの事なんだと思ってんのー?」

「イカレタ殺人鬼」

「ひどーい!」

そう言ってナオはケラケラ笑う。

否定はしてない。

まったくもう……

⸻

そして、最も厄介なもの。

正当な顔をした圧力。

王都議会から要請が届く。

「リーグ運営に関する臨時協議の場を設けたい」

文面は丁寧。

だけど同席者の名を見て、察した。

・馬車組合の代表

・ビセットの有力貴族

・前王派と噂される議員

「来たねぇ」

ナオが椅子にもたれる。

「“野球”じゃなくて、 “野球を口実にした主導権争い”」

⸻

会議室

広い部屋。

丸い机。

視線が、私に集まる。

「まず、GM殿に問いたい」

年配の議員が口を開く。

「なぜ、あのような選手起用を許可した?」

「野球リーグは国の融和を目的とした事業のはずだ」

「結果として、国民感情を逆撫でしているのではないか?」

私は立ち上がらなかった。

座ったまま、全員を見渡してから答える。

「起用は各球団の判断です。GMとしての私は、種族を理由に制限しません」

ざわめき。

「それが問題だと言っている!」

馬車組合の男が声を荒げる。

「今、王都の駅では揉め事が増えている! その責任は、どこにある!」

「……責任は」

私は、一拍置いた。

「勝敗を種族のせいにしようとする側にあります」

一瞬、静まる。

そして、怒り。

「理想論だ!」

「若造が!」

「野球ごときで国を乱すな!」

その時。

椅子がきしんだ。

「――野球“ごとき”、とは何じゃ?」

小さな声。

けれどよく通る。

エステル様が立ち上がっていた。

紅と紺碧の瞳が真っ直ぐ前を射抜く。

怒っているからか、背中の翼が忙しなく動く。

「野球は“ごっこ遊び”ではない。差別され、仕事を失い、行き場の無かった者達が、同じ土に立つ場じゃ!」

コン、と机を叩く。

思いの外軽い音で……そして思いの外痛かったのか涙目になっていた。

「負けて悔しいのは分かる。

 じゃが、それを他者の血で誤魔化すな」

沈黙。

議員達はエステル様をただの“可愛い象徴”だと想定していた。

けれど、その象徴が真正面から睨み返している。

議員達は黙るしか無かった。

廊下。

「助かりました。エステル様が居なかったらどうなっていたか……」

「そうじゃろうそうじゃろう!」

エステル様はふんす!と胸を張る。可愛い。

「しかし、まだ終わらぬのじゃろ?」

「はい、この休憩が終わったら年俸査定会議です」

「荒れそー」

「それでも納得してもらうしかない」

気が重いなぁ……

休憩を終えて。

机に積み上げられた書類。

数字。数字。数字。

それらは、剣よりも鋭い。

⸻

「――では、各球団の第一次年俸案を提出してください」

事務官の声は淡々としている。

私は中央の席に座ったまま動かない。

「今回は“妥当性の確認”が目的です。正式決定ではありません」

嘘ではない。

だが、この場で空気は決まる。

⸻

最初に口を開いたのは、王都側の代表だった。

「観客動員、グッズ売上、全てトップです。当然、主力選手にはそれに見合う評価を――」

彼が読み上げる数字に、周囲がざわつく。

「……高いですね」

「当然です」

即答。

「王都の看板ですから」

⸻

次にビセット・アイアンウォール

「守備指標、失点率、全て上位です。人気は……劣るが、だからこそ“実力”を評価していただきたい」

打撃の数字は控えめ。

けれど誇りが滲んでいる。

「……理解しています」

⸻

コナ・ラピッドファング

空気が、変わった。

「……この選手について」

書類を指で叩く。

「開幕戦の……代打のハーフ選手です」

一瞬、静寂。

「一打で試合を決めた」

王都側の代表が冷ややかに言う。

「だが、出場機会は少ない」

「たまたま当たっただけでは?」

コナ側の代表、グラーツさんが低く唸る。

「一緒に練習してきた。偶然で打てる球ではない」

「ここは“感情”ではなく “評価”の場です」

視線が私に集まる。

⸻

ルメルーナ・ブリッジズ

「魔族の投手、バルト」

その名が出た瞬間、誰かが小さく息を呑んだ。

「先発、完投、失点2。数字だけ見れば文句はありません」

「だが――」

王都代表が言葉を切る。

「彼が投げる度に観客が減る可能性は?」

「それは評価とは関係ありません。観客が減る、というのも単なる予測です」

「……では、GM殿はそれを無視する?」

「はい。種族によって評価は変えません」

「綺麗事だ!」

誰かが声を荒げた。

「人気が無ければリーグは成り立たない!」

「“人気だけ”でリーグが成り立つと?」

「なっ……」

「野球は試合です。評価はプレーに対して行います」

私は立ち上がった。

「本日の結論です。第一次査定は成績重視で仮決定します。

異論は正式決定前に文書で提出してください。ただし」

「?」

「“種族”を理由とした修正案は一切受け付けません」

会議室が静まり返る。

誰も拍手しない。

誰も納得していない。

でも、それで決まり。

空気が一段落したところで。

私は用意していたもう一枚の資料を机に置いた。

紙の音がやけに大きく響く。

「……もう一件、議題があります」

「ふむ……?」

事務官が視線を上げる。

「サラリーキャップ制度についてです」

「サラリーキャップ、ですか?」

「簡単に言えば、全てのチームに共通の年俸の上限を設けて戦力均衡を図る制度です」

「……待て」

王都側の高官が即座に口を挟む。

「聞いていない。本日の議題はあくまで“年俸査定”のはずだ」

「その前提を守るための制度です」

「……説明を」

「はい。まず本リーグは国家主導のプロジェクトです。予算は国が出しています」

誰も否定しない。

否定できない。

「そうである以上、一部の球団、

 一部の都市

 一部の種族に

 資金が集中する事は理念に反します」

「だがな!」

誰かが声を荒げる。

「稼いだ球団が潤うのは当然だ!」

「そうだ! それを抑え込めば全体の熱が下がる!」

「短期的にはそうかもしれません。

 ですが、戦力差が広がりすぎれば、試合は“作業”になります。

 結果の見えた勝負を何年も見続けてはくれません」

別の高官が、低い声で言う。

「……国が金を出しているから、制限を掛ける、と?」

「はい」

「それは――政治介入だ」

「そうです。ですがこのリーグ自体が、政治の延長です。

 他種族融和という、明確な国策の。

 強い都市だけが勝ち続けるなら、弱い都市は “協力する意味”を失います。

 差別されてきた種族は“参加する意味”を失います。それは――」

私は、真っ直ぐ前を見る。

「このリーグの死です」

決定的な一言

「……では」

王都代表が、苦々しく言う。

「選手は納得すると思うか?」

「しない人も。いるでしょう。

ですが、最初から全員を満足させる事は不可能です」

押し通す。何がなんでも。

「サラリーキャップは導入します。

 総年俸の上限を設定し、超過は不可。

 詳細は後日通達します。異論は?」

誰も、手を挙げない。

反対はある。

怒りもある。

でも、否決はできない。

⸻

会議後

廊下に出た瞬間、ナオが肩をすくめた。

「やっちゃったねぇ。これ、絶対荒れるよ?」

「分かってるよ」

息を吐く。

その時。

後ろから、ちょこちょこと足音。

「イオリ」

エステル様だった。

「妾は……」

一瞬、言葉を探してから。

「その、よく分からぬが……かっこよかったぞ!」

胸を張って、ふんすふんす。

思わず頬が緩む。

「ありがとうございます、エステル様」

私は知っている。

本当の嵐はこれからだと。

だけど……今はこのエステル様に癒されよう。

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作者について

生獣(ナマ・ケモノ)

生獣(ナマ・ケモノ)

ほのぼのな百合も過激な百合も好き。

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