第14話 変化の兆し
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
王女の一言から始まる、異世界野球リーグ設立奮闘記 - 第14話 変化の兆し
本文
王都の街角
掲示板に貼られた一枚の通達。
〈王国野球リーグにおける総年俸上限制度について〉
読み終えた瞬間、人々の顔が凍った。
「……上限?」
「なんで稼いでる王都が損をするんだ?」
「勝ちたいなら強い奴を集めるのが当然だろ!」
怒声が広がる。
王都のファンは“誇りを削られた”と感じていた。
⸻
酒場
「ふざけるな!」
杯が叩きつけられる。
「レガリアが負ける可能性を、国が作るってのか!」
「しかも魔族やハーフの処分は無しだと?」
別の客が苦々しく言う。
「……だが、国の金だぞ? 文句言えるか?」
「言えるさ!」
「俺たちは税を払ってる!」
議論はすぐに喧嘩に変わった。
⸻
新聞
大きな見出し。
「国策リーグ、無理矢理な均衡化」
「王都弱体化か?」
「誰のための平等か」
扇情的な言葉が街を駆ける。
⸻
球団事務所への圧力
レガリア、ビセット。
窓口には抗議文が山のように積まれた。
「GMを出せ!」
「イオリに会わせろ!」
護衛が必死に抑える。
脅迫文も混じり始めた。
「魔族を優遇するなら、何が起きるか分からないぞ」
変装して、街を歩き回って反応を見た。
そして事務所に戻って送られてきた脅迫状を読んで……ゴミ箱に捨てる。
「分かりやすいねぇ」
「うん。“力や誇り”を失うのが一番怖い人たちだからね」
⸻
貴族の使者が来た。
「王都の支持層が不満を抱いています。制度の再考を――」
「しません」
「……強硬ですね」
「最初から折るつもりはありません」
使者は苦い顔で帰っていった。
⸻
――ここで、本当に厄介な存在が動く。
ヴァルドハイム最大手、ブレーガム商会。
商会長……ブラッカー氏は静かに私のもとを訪れた。
「イオリ殿。この騒ぎ、我々にも影響が出ております」
「承知しています」
「スポンサー、流通、グッズ製造……王都が荒れれば全体が止まる」
ブラッカー氏はは指を組む。
ゴブリン故に小柄で、その上老人なのに……威圧感が凄い。
「エステル様には恩があります。我々も理念にも賛同しています。
ですが……商売は空気で死んでしまうのです」
重い、言葉。
「……ブレーガム商会の考えを聞かせて頂けませんか?」
私が問うと。
「全面撤退は、しません」
ブラッカー氏ははっきり言った。
「ただし、王都向けの投資は一部凍結します。地方都市、特にスファードやルメルーナへ比重を移す」
「圧力ですか?」
「はい」
けど、微笑んだ。
「同時に……全都市共通グッズを強化しましょう。“リーグ全体”を応援する空気を作る」
「……ありがとうございます」
「これは譲歩です」
ブラッカー氏はそう言って立ち上がって部屋を出た。
廊下でエステル様がはしゃぐ声が聞こえる。お菓子でも貰ったのだろうか。
⸻
王宮・夜
エステル様は諸々の報告を聞いて――
「うむ!」
と、頷いた。
「荒れておるな!」
「はい」
「それだけ本気という事じゃな!」
その幼い自信満々な姿に、少しだけ救われる。
「ねぇイオリちゃん。これ、どこまで行くと思う?」
「分からない。ただ……逃げるつもりは無いよ。
それよりナオは早く帰ってよ。もう今日の仕事は終わったんだから」
「ちぇー! どうせイオリちゃんとエステルちゃんはこの後イチャイチャするんでしょー? アタシも混ぜてよー!」
イチャイチャだなんて……ただお風呂に入れて歯を磨いて一緒に寝るだけなのに。
「ふぅ……」
街は割れている。
球団も、ファンも、政治も、商会も。
だけど……
誰もリーグを”止めろ”とは言っていない。
それが唯一の救いだ。
⸻
最初に表面化したのは静かな形だった。
ロッカーの前に落ちている紙屑。
汚されたスパイク。観客席からの聞こえるか聞こえないかの野次。
「……」
ラピッドファングの代打、ハーフのマクセルダ選手はそれを黙って拾った。
「気にするな」
獣人の主軸、カイル選手が肩を叩く。
「俺たちは一緒に勝った。お前が良いやつだってのは分かってる」
「誰が打とうが、点は点だ。文句は言わせん」
監督がハッキリと告げて。
選手達は一列に並んで頷いた。
⸻
ルメルーナ。
魔族の投手、バルト選手は次の登板でも淡々と投げた。
だけど、観客席から石が投げ込まれた。
護衛が即座に動く。
「……大丈夫です。慣れていますから」
その言葉に、捕手のヴィクター選手が苦い顔で歯を食いしばる。
「慣れるな。お前は何も悪くない」
スタンドでは。
「文句あるなら打ってみろ!」
「バルトは俺たちの投手だ!」
そんな声も確かに上がっていた。
半分の歓声。半分の沈黙。
でも、ゼロではなかった。
⸻
王都の片隅。
選手募集の掲示をじっと見つめる影。
魔族。ハーフ。
彼らは噂を知っていた。
「……打っても恨まれる」
「投げても石を投げられる」
一人が掲示板から目を逸らす。
「やめよう」
「期待した俺が馬鹿だった」
でも、別の一人が言った。
「……それでも。ラピッドファングのあの試合。
選手達、抱き合ってた……俺は、あれを信じたい」
迷いはまだ消えない。
だけど、完全には折れていない。
⸻
私の机にそれは置かれていた。
封の無い紙。
「平等を履き違えるな」
「血は変わらない」
「次は、お前だ」
ナオがそれを一瞥して笑う。
「ボーナスタイム来た?」
「これを口実に暴れようとしないの」
「……護衛を増やしますか?」
「いいえ。エステル様の近くに人を回してください。
私はいつも通りで大丈夫です」
それでも不安そうな部下。
だけど、ナオが暴れたら護衛の人まで守らないといけなくなるしなぁ……
⸻
どの球団でも……監督、コーチ、首脳陣は一貫していた。
「種族で評価は変えない」
「叩かれるなら結果で黙らせろ」
「仲間は俺たちが守る」
サラリーキャップには不満がある。
でも選手個人を差別する理由には誰も使わなかった。
⸻
酒場。
「……正直さ」
一人が杯を置く。
「打たれたのは悔しい。でも……アイツ、良いバッティングだったよな」
別の客が頷く。
「魔族の奴は石を投げられても投げ続けた」
完全な支持ではない。
でも……
「嫌いだけど、ウチのチームに居たら戦力にはなるよなぁ……」
そんな言葉が、少しずつ増えていく。
⸻
王宮
エステル様は報告を聞いて眉を下げた。
「……つらいのぅ」
「はい」
「じゃが」
小さな拳をぎゅっと握る。
「それでも、逃げてはならぬな」
「はい。彼らはグラウンドに立っています」
「……妾も」
エステル様は胸を張る。
「逃げぬ!」
その姿は幼くて。
でも。
確かに、旗だった。
⸻
刃は人に向き始めた。
でも。
- チームは、守っている
- 首脳陣は、折れていない
- ファンの一部は、既に変わり始めている
世界はまだ割れている。
完全には、崩れていない。
作品統計
📚 本を探すなら「よみどき」(あいぺんが運営する本の発見サイト)
130万冊を超えるコミック・小説・書籍の順位と値段を毎日みて、いま読むものを決められます。