立ち去る人たち
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ほのぼのとした、ちょっと幻想的なファンタジー掌編集です
本文
引っ越しの荷物を積んだ荷馬車が、門へ向かっていた。
セノは通りの端でそれを見ていた。偶然だった。市場へ行く途中で、足が止まった。
荷馬車の後ろを、夫婦らしき二人が歩いていた。たぶん、どちらも三十代くらい。ヴェルナの人らしく、クラゲを特に気にする様子もない。
近所の人が声をかけた。「寂しくなるね」「元気でね」。夫婦は笑って答えていた。泣いてはいなかった。
門のところで、一匹のクラゲが立ち去ろうとする女性の肩のあたりをふわりと漂った。夫婦は立ち止まって、少しだけ顔を上げた。クラゲに触れることはなかった。でも、見ていた。
それから前を向いて、二人は門を抜けた。
荷馬車が遠ざかっていく。クラゲは門の内側で止まったまま、外へは出なかった。まるで見えない壁でもあるみたいに。
セノは自分の家の鍵を、ポケットの中で握った。まだ借りたばかりの、小さな家の鍵。
あの夫婦と入れ替わるように、自分はここに来た。
それだけのことなのに、なぜか目が離せなかった。
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