ヴェルナの街の昔話
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ほのぼのとした、ちょっと幻想的なファンタジー掌編集です
本文
むかし、ヴェルナの海の底に、龍が住んでいた。
大きな龍だった。街ひとつを尾で囲えるほどの。嵐が来れば波を鎮め、岩礁を砕き、船を導いた。ヴェルナはその龍のおかげで、今日まで海に飲まれずにいる。
龍は街が好きだった。人が好きだった。
龍は人の声を聞いていた。笑い声や、怒鳴り声や、子供の泣き声。市場の喧騒や、夜の静けさ。海の底からそれを聞いていた。もっとそばに行きたかった。海の外がどんな景色か、見たかった。
でも龍は海を離れられなかった。
龍は気持ちだけを、海面から空へ放った。その気持ちがクラゲになって、ヴェルナの空を漂っている。龍の目になって、街を見ている。それが、ヴェルナの街の、言い伝え。
だからクラゲを粗末にしてはいけない。龍の気持ちを踏みにじることになるから。
だからクラゲを大切にするといい。龍はいつまでも、この街を守ってくれるから。
ヴェルナの子供たちは、そう聞かされて育つ。
本当かどうかは、誰も知らない。ただ、海はいつも穏やかで、空には今もクラゲが泳いでいる。
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