第1章 地方創生総理
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
静かに、しかし確実に崩壊へと向かう日本――。 人口減少、高齢化、地方の消滅。誰もが「このままではまずい」と分かっていながら、誰も本気で変えようとはしなかった。 その構造に、たった一人で刃を向けた男がいる。 地方出身の総理大臣・神代誠。 「地方が死ねば、日本は終わる」 彼が打ち出したのは、常識を覆す国家改造だった。 首都機能の分散、税制の逆転、そして選挙制度の根本改革。 それは地方を救うための政策であると同時に、東京という“中心”を削る決断でもあった。 だが、その前に立ちはだかる存在がいる。 東京を守るために頂点へ上り詰めた女――東京都知事・黒崎玲子。 「東京を弱くすれば、日本は終わる」 地方を再生するために壊すべきか。 東京を守るために維持すべきか。 どちらも正しいからこそ、決着は残酷になる。 一方、地方の小さな町では、ひとりの女性・遥が現実と向き合っていた。 希望が生まれては消えていく日常の中で、「それでもここで生きる」と選ぶ人々。 政策の最前線ではなく、その“結果”の中で揺れる人生がある。 やがて改革は成功と失敗を同時に生み、国を分断していく。 生き残る町と、消えていく町。 救われる者と、切り捨てられる者。 それでも問われる。 ――すべてを守ることはできないとしたら、何を選ぶのか。 これは理想の物語ではない。 現実と正面から向き合い、未来を選び直そうとする人間たちの物語だ。 国家の構造を巡る壮絶な対立と、地方に生きる人々の静かな戦いを描く、社会派エンターテインメント。
本文
官邸の会議室には、重苦しい空気が漂っていた。
冬の夜明け前、まだ外は暗い。整然と並んだ椅子に座る官僚たちの顔には、疲労と緊張が刻まれている。資料の束が配られ、プロジェクターが白い壁を照らす。
「現状維持では、十年以内に複数の自治体が破綻します」
官僚の声は淡々としていた。感情を廃したその声は、むしろ状況の深刻さを際立たせた。
神代は黙っていた。腕を組み、目を細めて資料を見つめている。
「インフラ維持費は増加し続け、税収は減少。特に地方では――」
「分かっている」
神代が遮った。短い言葉が、静寂を切り裂いた。
「だから、全部変える」
その一言で、空気が凍った。「全部変える」――それがどれほどの意味を持つか、この場にいる全員が理解していた。
■ 神代の基本戦略
首都機能の分散・移転。税制の逆転による地方優遇。選挙制度の根本改正。三つの柱が、資料の上に並んでいた。
「順番にやる時間はない。同時にやる」
「無茶です」誰かが言った。口に出したのは一人だったが、その言葉は全員の思いを代弁していた。
「無茶じゃない。必要だ」
神代は立ち上がった。
「この国は、"地方を切り捨てる前提"で設計されている。だから逆にする」
税制改革の骨子は明快だった。地方では自動車税を減税する。生活必需品だからだ。都市では逆に増税する。嗜好の問題だからだ。ガソリン税は地方で軽減し、都市で増税する。法人税は地方に移転した企業に大幅な減税を適用する。「住みやすさを"逆転"させる」――それが狙いだった。
そして、最大の改革が待っていた。
「選挙制度を変える」
ざわめきが広がる。
「議席数は、投票率で決める」
「……は?」一人の官僚が、思わず声を漏らした。
「投票した人間の意思を重くする。白票でもいい。行動した者を評価する」
さらに続く。立候補者は三年以上の住所登録を必須とする。選挙区の鞍替えを禁止する。現職議員も例外なし。未達であれば出馬できない。
完全な沈黙が降りた。
「……それは」官僚の一人が震える声で言う。「既存の政治家の、半分以上が出られなくなります」
神代は即答した。
「それでいい。"地域代表"を作るんだ。住んでいない人間が、地方を語るな」
その言葉は、あまりにも鋭かった。刃のように、静寂を裂いた。
■ その頃――東京
東京都庁の一室。
黒崎玲子は、手にしていた資料をゆっくりと閉じた。ブラインド越しに差し込む朝の光が、彼女の横顔を照らしている。
「……本気ね」
彼女は理解していた。これは改革ではない。これは戦争だ。
「東京を削りに来ている」
細い指で机の縁を叩く。その目は、冷たく、静かに光っていた。
「なら、受けて立つ」
地方vs東京。国家の構造そのものを巡る戦いが、今、始まろうとしていた。
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