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序章三 遥という女

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/4/14 📚 シリーズ: 地方創世総理大臣 📝 1,336文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

静かに、しかし確実に崩壊へと向かう日本――。 人口減少、高齢化、地方の消滅。誰もが「このままではまずい」と分かっていながら、誰も本気で変えようとはしなかった。 その構造に、たった一人で刃を向けた男がいる。 地方出身の総理大臣・神代誠。 「地方が死ねば、日本は終わる」 彼が打ち出したのは、常識を覆す国家改造だった。 首都機能の分散、税制の逆転、そして選挙制度の根本改革。 それは地方を救うための政策であると同時に、東京という“中心”を削る決断でもあった。 だが、その前に立ちはだかる存在がいる。 東京を守るために頂点へ上り詰めた女――東京都知事・黒崎玲子。 「東京を弱くすれば、日本は終わる」 地方を再生するために壊すべきか。 東京を守るために維持すべきか。 どちらも正しいからこそ、決着は残酷になる。 一方、地方の小さな町では、ひとりの女性・遥が現実と向き合っていた。 希望が生まれては消えていく日常の中で、「それでもここで生きる」と選ぶ人々。 政策の最前線ではなく、その“結果”の中で揺れる人生がある。 やがて改革は成功と失敗を同時に生み、国を分断していく。 生き残る町と、消えていく町。 救われる者と、切り捨てられる者。 それでも問われる。 ――すべてを守ることはできないとしたら、何を選ぶのか。 これは理想の物語ではない。 現実と正面から向き合い、未来を選び直そうとする人間たちの物語だ。 国家の構造を巡る壮絶な対立と、地方に生きる人々の静かな戦いを描く、社会派エンターテインメント。

本文

東京で、遥は十年を過ごした。

大学進学のために上京したのが十八歳。そのまま就職し、広告代理店でコピーライターをやっていた。仕事は面白かった。給料もそれなりにあった。渋谷の小さなマンションに一人で住み、週末は友人と飲み、年に一度くらい奥羽市に帰る。そういう生活だった。

不満はなかった。あるいは、不満に気づかないようにしていた。

■ 帰省するたびに

年に一度の帰省のたびに、町が小さくなっていた。

正確には町が縮んだのではなく、人が減り、店が消え、空白が増えた。中学の同級生のうち、地元に残っているのはもう数人しかいない。実家の近くにあったパン屋は閉まり、その跡地には雑草が生えている。

「遥はいつ帰ってくるの」

母は毎年同じことを聞いた。遥は毎年同じように答えた。「もう少ししたら」。しかし「もう少し」はいつまで経っても来なかった。

帰省の最終日、駅のホームで特急を待ちながら、遥はいつも同じことを思った。この町は、自分がいなくても存在する。しかし自分がいなければ、この町との糸は少しずつ細くなる。そしていつか、切れる。

それが怖いのか、それとも安心なのか、遥には分からなかった。

■ 転機

二十八歳の夏、祖母が倒れた。

大腿骨骨折。手術は成功したが、退院後の生活が問題だった。祖母は一人暮らしで、近所に頼れる人間がいない。母は持病があって遠出ができない。

遥は一ヶ月の休暇を取って、奥羽市に戻った。

その一ヶ月が、すべてを変えた。

祖母の世話をしながら、遥は町を歩いた。かつて賑やかだった商店街を、朝と夕方に通り抜けた。シャッターの前を歩くたびに、かつてそこに何があったかを思い出した。魚屋、文房具屋、小さな本屋、学校帰りに寄ったゲームセンター。すべてなくなっていた。

ある夕方、商店街の端にある古い建物の前で足が止まった。もとは喫茶店だったらしく、窓ガラスに薄く「コーヒー」という文字の跡が残っていた。貼り紙には「テナント募集」と書いてある。

遥は、その貼り紙をしばらく見ていた。

自分でも気づかないうちに、スマートフォンを取り出して、連絡先の番号を撮影していた。

■ 帰ってきた理由

東京に戻った遥は、三ヶ月後に会社を辞めた。

友人には「信じられない」と言われた。上司には「もったいない」と言われた。母には「無茶しないで」と言われた。

全員の言うことが正しかった。それでも、遥は戻った。

なぜかと聞かれれば、うまく答えられなかった。この町を救いたいとか、地域活性化のためとか、そういう大きな言葉は嘘くさくて使えなかった。ただ、あの「コーヒー」という文字の跡が、頭から離れなかった。かつてそこに誰かが淹れた珈琲の匂いが、あったはずだった。それが消えてしまうことへの、静かな抵抗。

カフェ《灯》は、そうして生まれた。

■ 三年後

開店から三年。潰れなかった。それだけが、遥の誇りだった。

大成功ではない。毎月の家賃を払い、自分の生活費を賄い、少しだけ貯金できる。そのくらいだ。しかし町の人間が珈琲を飲みに来る。時折よそから来た人間が立ち寄る。誰かの話し場所になっている。

それで十分だ、と思おうとしていた。

しかし「十分だ」と自分に言い聞かせなければならない時点で、何かが足りていないことも知っていた。

町は、まだ縮み続けていた。

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作者について

sola

sola

地方を題材とした社会派ストーリーテラー

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