三大勢力
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
<p>台湾戦域 ― 欧州連合軍占領区</p><p>空は、灰色だった。</p><p>雨ではない。</p>
本文
台湾戦域 ― 欧州連合軍占領区
空は、灰色だった。
雨ではない。
雪でもない。
――灰だ。
焼けた都市の残滓が、空から静かに降り続けている。
かつての台湾西部。
今は、欧州連合軍の前進拠点と化していた。
崩れた高層ビルの残骸を利用して築かれた仮設要塞。
その内部は、まるで中世の城砦のような構造をしている。
無骨な鋼鉄と、再利用された装甲板。
そして――
人の気配。
「……ヒノモトは、まだ動かないか」
低く、重い声。
司令室の中央。
巨大な戦略卓の前に立つ男。
白髪。口ひげ。
年齢を感じさせながらも、その姿勢は微動だにしない。
オーディン。
欧州連合軍 少将。
この戦域すべてを統括する男。
「沖縄本島にて交戦を確認。
相手は……アメリカ連邦政府軍」
副官が報告する。
「ほう」
オーディンの口元が、わずかに歪む。
「ようやく“狩り場”に集まり始めたか」
彼の視線の先。
戦略卓には、東アジア一帯のホログラムが展開されている。
海南島。
台湾。
沖縄本島。
「だが我々は急がん」
静かに言い切る。
「海南島の安定化が最優先だ」
「補給線を確保し、階層都市の基盤を再構築する」
その言葉は、軍事ではなく――
“国家再建”に近い響きを持っていた。
「ヒノモトは必ず来る」
オーディンは断言する。
「彼らは、資源と秩序を放置できるほど甘くはない」
一瞬の沈黙。
「……ならば」
「ここで待つ」
別室 ― 格納区画
薄暗い空間。
整然と並ぶ機体群の中で、
一機だけが異質な存在感を放っていた。
青白い装甲。
流れるようなフォルム。
関節部に浮かぶ、緑の光。
バルドル。
その足元に、一人の男が立っている。
金髪。碧眼。
整いすぎた顔立ち。
だがその瞳には――何もない。
アーロン。
「出撃命令はまだだ」
背後から声。
オーディンだった。
「分かっています」
アーロンは振り返らない。
「敵は?」
「ヒノモト。外縁独立機動部隊」
「……」
わずかな沈黙。
「強いですか」
その問いに、感情はない。
ただの確認。
オーディンは少しだけ考え――
答えた。
「強い」
「だが」
「お前ほどではない」
アーロンは何も言わなかった。
ただ、ゆっくりとバルドルの装甲に手を置く。
「では」
「問題ありません」
ーーー
戦場 ― 前線衝突
その頃。
台湾東部。
中国軍木偶部隊と、
欧州連合軍が衝突していた。
地を揺らす重機動音。
だが次の瞬間。
――消えた。
音が。
「なっ――」
中国軍の前列が、何かに“貫かれた”。
遅れて、爆発。
音速を超えた突進。
四脚。
巨大。
ケンタウロスのようなシルエット。
ホースガード。
「前列壊滅!?何が――」
再び。
閃光。
エネルギーランスが、
木偶を串刺しにしながら貫通する。
「止めろ!迎撃――」
間に合わない。
突き抜ける。
そのまま後方部隊へ。
「本陣を狙っているだと!?」
だが、それだけでは終わらない。
空。
「……来る」
誰かが呟いた。
次の瞬間。
光が、落ちた。
いや。
“人型”だった。
バルドル。
着地と同時に、加速。
ブースターが閃く。
「速――」
言葉が終わる前に。
エネルギーランスが、一機の木偶を貫いた。
そのまま引き抜き、横薙ぎ。
二機、三機。
「敵機、確認!人型高速機――」
報告は、途中で途切れた。
アーロンは止まらない。
最小の動き。
無駄のない軌道。
まるで“最適解”だけをなぞるように。
「……」
その瞳に、感情はない。
ただ――
「遅い」
それだけだった。
再び司令室
映像を見ながら、オーディンは呟く。
「よく斬れる剣だ」
だが、その目は冷たい。
「だが剣は……折れる」
指が動く。
戦略図が変化する。
「ヒノモト」
「アメリカ」
「中国」
三つの勢力が、交差する。
「すべてを消耗させる」
「そして最後に――」
わずかに、笑った。
「我々が“世界”を取り戻す」
灰が降り続ける。
台湾は――
すでに戦場ではなく、“舞台”になりつつあった。
ーーー
紅龍、再び動く
濁った海を割り裂くように、巨大な影が進んでいた。
それは艦隊だった。
かつて「戦略揚陸艦」と呼ばれていたそれは、もはや単なる輸送艦ではない。
鋼鉄の大地そのもののような巨体に、無数の機体が蟻の群れのように貼り付いている。
空は灰色。
海は黒。
その中で、ただ一つ――赤だけが際立っていた。
艦橋の最上部。
そこに立つ男は、腕を組んだまま微動だにしない。
「……台湾か」
低く、濁った声。
紅龍残党最高司令官――紅帝。
彼の視線の先には、かつての文明の残骸となった島があった。
「欧州連合軍が先に食い荒らしているな」
副官が静かに言う。
「構わん」
紅帝は一言で切り捨てた。
「奴らは“整える”。我々は“奪う”」
その言葉には、一切の迷いがなかった。
「資源は流れている。血と同じだ。
止めれば腐る。奪えば巡る」
紅帝の赤い瞳が、わずかに細まる。
「台湾は、まだ“生きている”」
その瞬間――
艦内の巨大ハンガーに、警告灯が灯った。
群れの王
重低音と共に、格納ゲートが開く。
そこには――
赤黒い巨体が立っていた。
炎のような装甲。
龍の翼を思わせる背部ブースター。
そして、獣の爪のように歪んだ巨大なマニピュレータ。
炎龍王。
その足元には、無数の小型機が整列している。
W30“小木偶”。
同じ顔。
同じ動き。
同じ“消耗品”。
まるで群れだった。
「……遅い」
機体の中から、低い声が漏れる。
朱雀。
コックピット内で、彼は無造作に首を鳴らした。
「飢えてるんだよ、俺は」
モニターに映るのは、戦場の記録。
――焼ける機体
――爆発する群れ
――そして、一機だけ生き残る影
禍津。
朱雀の口元が歪む。
「あの化け物……まだ壊れてねぇのか」
だが、その次に映った映像は違った。
軽量機。
細い。速い。
影のように消え、現れ、敵を裂く機体。
「……なんだ、これは」
解析データが重なる。
――高機動
――電子戦併用
――異常な応答速度
朱雀の瞳が、わずかに光る。
「いいな」
短く笑った。
「数じゃねぇやつもいるってことか」
命令
通信が開く。
紅帝の声だった。
「朱雀」
「聞こえてる」
「先行しろ」
それだけだった。
だが、それで十分だった。
「……了解」
朱雀は即座に応じる。
「群れは全部連れてく」
「好きに使え」
紅帝は続けた。
「だが覚えておけ」
わずかな間。
「勝つ必要はない」
朱雀の眉がわずかに動く。
「――“減らせ”」
静かに、だが確実に告げられた命令。
敵を倒すのではない。
削る。
摩耗させる。
枯らす。
それが紅龍の戦争だった。
出撃
炎龍王の眼が、赤く灯る。
周囲のW30が一斉に起動した。
「行くぞ」
朱雀は笑う。
「焼き払ってやる」
爆音。
無数の機体が、一斉に空へと躍り出た。
その数――
もはや“編隊”ではない。
“災害”だった。
影の予兆
その頃、沖縄本島北部。
解析室のモニターに、新たなシグナルが映る。
ムスビが顔を上げる。
「……これ」
アマツも同時に反応した。
「数が……異常」
タカミムスヒが静かに歩み寄る。
「どこから?」
ムスビは即座に拡大する。
「南西――台湾方面」
ヤマトが短く言った。
「来るな」
誰も否定しなかった。
モニターには、ただ一つの傾向が映っていた。
――数
――過密
――一直線の進軍
アマツが小さく呟く。
「これは……戦術じゃない」
ムスビが答える。
「うん」
そして、はっきりと言い切った。
「これは“侵略”だよ」
次の局面へ
三つの勢力が、動き出した。
技術のアメリカ。
策略の欧州。
そして――暴力の中国。
そして、その中心にいるのは。
タカミムスヒは、静かに目を閉じる。
咲耶の感覚が、身体に流れ込む。
(来る)
遠く、まだ見えない敵。
だが確実に近づいてくる“圧”。
彼女は目を開いた。
「迎え撃つ」
その一言で、すべてが決まった。
ーーー
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