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第十二話:絆の限界

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

あらすじ

《次世代群像劇》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン:共鳴の協奏曲〜双花の通信録。十年後、離れた空で心を重ねる二人の姉妹が、境界を越える新たな絆の和音で明日を奏でる〜外伝⑤ - 第十二話:絆の限界

本文

夜明け前に、ライオスから魔力通信が届いた。

 内容は短かった。辺境東部の鎮圧を終えて帰還中。ただし——吸引器を持つ暴徒の別部隊と交戦中。精鋭部隊と共にいるが、竜化が阻害されている。

 シズクは通信を読み終えた瞬間に立ち上がっていた。

 場所は分かった。帰還ルートの中間地点だ。馬で急げば、2時間かからない。

 執務室を出る前にシリウスを呼んだ。

 シリウスの顔が、少しだけ引きつった。

「……押し付けるんですか?」

「せめて、お願いされた、と言ってください」とシズクは言った。「貴方しかいない。全体の指揮は頼みますわ」

「私は辺境から帰ってきたばかりで——」

「ユリウスはまだ本調子じゃない。ライオスは現場にいる。私は行く。あ、な、た、しかいないの! ね、シリウス兄さま!」

 シリウスは少し黙った。それから天井を見て、静かに息をついた。

「分かりました。行ってください」

「フェンリアとソルニアを連れていくわね!」

「2人でいいんですか?」

「ふふ、3人で十分よ」

 シズクはすでに外套を手にしていた。

 シリウスは、なんだかんだ言っても、この人はあのアクア様の娘なんだ、と再認識したのだった。

 ◇◆◇◆◇

 辺境東部の街道に近づいた時、空気が変わった。

 馬を走らせながら、シズクはその変化を皮膚で感じた。大気中のマナが薄い。いつもより薄いのではなく、意図的に薄くされている感覚だった。まるで空気から何かが抜き取られているように、魔力の通り道が詰まっている。

「吸引器の効果です」とフェンリアが言った。馬上で、すでに戦闘態勢に入っていた。「昨日の現場より密度が高い。数が増えてます」

「竜化は無理ね」とシズクは言った。「でも氷は使える」

 シズクは手綱を引いた。馬が止まった。

 眼下に、戦場が見えた。

 ライオスの精鋭部隊が、暴徒の包囲の中で戦っていた。数は昨日の報告より多い。ライオスは炎の剣を生成しようとして、できていない。何度も試みている。そのたびに炎が小さくなって消える。それでも大剣を素手で振るって、前に出ている。ノアは弓を使っていた。炎の弾丸ではなく、ただの矢だった。

 2人とも、戦えている。でも削られている。

 シズクは深く息を吸った。

 マナが薄くても、水は空気中にある。気温を下げれば、水分は凍る。それだけあれば十分だ。

「下がって」とシズクはフェンリアとソルニアに言った。

 2人が左右に開いた。

 シズクは両手を地面に向けた。

 一瞬、静寂があった。

 それから——戦場の地面が、端から順番に白くなっていった。音もなく、静かに、でも確実に。霜が走り、土が凍り、暴徒たちの足元が滑り始めた。包囲の外側から内側へ、氷の壁が縮まっていく。暴徒たちが声を上げ、足を滑らせ、隊列が崩れた。

 ライオスが顔を上げた。

 氷の向こうに、シズクがいた。

 ◇◆◇◆◇

「来たのか!?」とライオスは言った。

「来たわよ!」とシズクは言った。

 フェンリアとソルニアが崩れた包囲に入り込み、ライオスの精鋭部隊と連携して残った暴徒を素早く制圧していく。10分もかからなかった。

 戦場が静まった。

 ライオスは剣を下げた。手が少し震えていた。竜化を何度も試みた後の消耗だった。

「吸引器、今日は11個確認した」とライオスは言った。「全部壊した。でも形が昨日より整っている。量産が始まってる」

「シズク」

「なに?」

「通信より早く来たよな?」

「そうね」

「なんでだよ?」

 シズクは少し間を置いた。

「魔道通信より早く会いに来たかったから」

 ライオスが固まった。

 戦場の真ん中で、汗と埃にまみれた顔のまま、固まった。

 ノアが少し離れた場所から、にやにやしていた。

 フェンリアが制圧を終えた手を腰に当てながら、遠慮なく言った。

「王妃様、相変わらずですね」

「フェンリア!?」

「子供の頃から変わってない。ライオス様が転んで泣いてる時も、誰より先に駆けてきてたじゃないですか」

「そ、それは今、関係ないでしょ!!」

「大いに関係あります」とソルニアが穏やかに言った。目が笑っていた。「でも、ライオス様も、昔から王妃様の前では素直になりますよね」

「俺は素直なわけじゃ——」

「なってますよ」とフェンリアはあっさり言った。「リリア長官もそう言ってます」

「リリアが?」

「言ってません。聞いたことありません!」とシズクは言った。

「言ってますよ」とフェンリアは言った。「『ライオス様はシズク様の前では素直になる、それだけで十分』って」

 ライオスが何か言おうとして、やめた。シズクも何か言おうとして、やめた。

 ノアが笑いをかみ殺しながら歩み寄ってきた。

「で、シリウスは?」とノアは言った。「私の旦那のシリウスは?」

「王都で全体指揮をお願いしてきたの」

「辺境から帰ってきたばかりなのに?」とノアは言った。「ご機嫌とり、ちゃんとしてあげてくださいね。あの人、不満を口に出さないから余計こたえるんです」

「秘訣を教えてもらえる?」

「好物の菓子を差し入れて、『貴方しかいない』と言えば大体機嫌が直ります」ノアはさらりと言った。「あとは、任せた仕事は最後まで任せること。途中で口出しするのが一番嫌いなので」

「……それはシズクへの嫌みか」とライオスが言った。

「事実を言っただけです」とノアは言った。「兄様こそ、シズク姉が来てくれてよかったですね。ちゃんと夫婦してるじゃないですか」

「当たり前だ」

「私だってシリウスのこと愛してますからね」とノアは言った。「兄様ほどじゃないかもだけど」

 ライオスが固まった。今度は別の意味で固まった。

「……それは、どういう意味だ?」

「さぁ、どういう意味でしょう?」

「ノア!!」

「さあ」とノアはにこにこしながら言った。「帰りましょう、兄様。きっと、絶対に、シリウスが疲れた顔で待ってます」

 フェンリアとソルニアが顔を見合わせた。何も言わなかった。何も言わないのが、2人なりの気遣いだった。

「怪我は?」とシズクはライオスに聞いた。気持ちを切り替えるように。

「ない」

「本当に?」

「本当だって」

 シズクはライオスの手を取った。震えが残っていた。竜化を何度も試みて、そのたびに遮断された後の消耗だ。

「竜化できなかった」とライオスは静かに言った。「何度やっても、途中で消えた。力が出ない感覚が——俺は、父上みたいにはなれないのか」

 シズクは少し考えた。

「そもそも父上は竜化なんてできないわよ」

 ライオスが顔を上げた。

「人間だから。でも知略と仲間の力で、誰よりも強く戦ってきた」シズクは続けた。「今日、竜化できなくても戦えた。それがライオスの今日の答えよ。父上と同じやり方じゃなくていい。貴方のやり方を見つければいい」

 ライオスは黙った。

「次が来るわ」とノアが空を見上げながら言った。「今日より多い吸引器を持って、今日より多い人数で」

「分かってる」とシズクは言った。

 シズクは壊れた吸引器の残骸を見た。量産されている。配布されている。次の戦場では、もっと密度が高くなる。竜化が完全に封じられた状態で、どう戦うか。

 答えはまだ、出ていなかった。

 でも——何かある気がした。個人の力ではなく、もっと別の何かが。

 3人で、馬に向かって歩き出した。フェンリアとソルニア、そして精鋭部隊がその後ろについた。

 空は夕暮れに差し掛かっていた。

 ライオスがシズクの隣を歩きながら、小声で言った。

「……本当に、通信より早く来たんだな?」

「来たわよ、悪い?」

「なぜ?」

「言ったでしょう」

「……もう1回言え」

 シズクは少し間を置いた。

「早く会いたかったから」

 ライオスは何も言わなかった。でも、震えていた手が、シズクの手を握り返した。

 ノアが前を歩きながら、しっかり聞こえているのに聞こえないふりをしていた。

 夕暮れの辺境を、足音が並んで響いた。

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ざつ

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