全方位作戦3
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あらすじ
<p>――南大東島攻略作戦:ブリーフィング</p><p>格納庫に、低い駆動音が満ちていた。</p><p>天井の照明に照らされ、整列する十二機の機体。</p>
本文
――南大東島攻略作戦:ブリーフィング
格納庫に、低い駆動音が満ちていた。
天井の照明に照らされ、整列する十二機の機体。
外縁独立機動部隊の主力――新型雷撃。
その最前列に、一機だけ異質な機体がある。
木花咲耶。
細く、長く、鋭い。
まるで刃のようなシルエットを持つそれは、
量産機の中で明らかに浮いていた。
簡易ブリーフィングルーム。
ホログラムに南大東島の地形が投影される。
川崎鈴華――タカミムスヒは、静かに前に立っていた。
「作戦概要を説明する」
声は淡々としている。
だが、その一言で空気が締まる。
「敵はアメリカ連邦政府軍。南大東島を前進基地化している」
ホログラムが拡大される。
滑走路、格納庫、指揮施設。
「作戦は単純」
彼女の指が、島の中央を示す。
「磁気嵐に乗じて侵入。
格納庫を強襲し、機動部隊を無力化。
そのまま司令部を制圧する」
一切の無駄がない。
「短時間で終わらせる。長引けば不利になる」
一人のパイロットが手を上げる。
「磁気嵐の影響は?」
「大きい」
即答。
「レーダー、通信、照準補正――全て不安定になる」
ざわめきが走る。
「つまり」
タカミムスヒが続ける。
「“見て撃つ”しかない」
沈黙。
それはつまり、純粋な操縦技術の勝負だった。
「隊形は四小隊、各三機」
ホログラムに編隊が表示される。
「第一小隊は私が指揮する。
第二、第三は左右から突入。
第四は後方支援および撤退経路の確保」
「交戦規定は?」
別の声。
「自由」
短い一言。
「だが――」
そこで初めて、わずかに声が低くなる。
「“迷うな”」
その言葉には、重みがあった。
「以上だ」
説明は終わる。
誰も無駄な質問はしない。
する必要がない。
全員が理解している。
これは“やるかやられるか”の作戦だ。
――出撃準備
格納庫に戻ると、空気が変わっていた。
整備員たちが走り回り、工具の音が響く。
「ジェネレーター出力、安定!」
「スラスター調整完了!」
「冷却フィン、展開テストクリア!」
声が飛び交う。
油と金属の匂い。
熱を帯びた空気。
それら全てが、戦いの前触れだった。
タカミムスヒは咲耶の前に立つ。
機体表面に手を触れる。
熱が、伝わる。
「……問題なし」
誰に言うでもなく、呟く。
「隊長」
整備員が声をかける。
「磁気嵐、接近中です。予定通り発生します」
「そう」
頷く。
「都合がいい」
コックピットに乗り込む。
ハッチが閉じる。
外の音が、遠くなる。
静寂。
そして――
機体が“繋がる”。
神経ネットワークが起動。
触覚が拡張される。
空気の流れ。
機体の重さ。
全てが“自分”になる。
「……良好」
外を見る。
雷撃部隊が順に起動していく。
単眼センサーが次々と点灯する。
青白い光が、闇の中に浮かび上がる。
まるで、獣の群れのようだった。
通信が開く。
「各機、最終チェック完了」
「こちら第二小隊、問題なし」
「第三小隊、出撃準備完了」
「第四小隊、後方支援準備完了」
短く、確実な声。
誰も緊張を口にしない。
だが、全員が理解している。
この作戦の重さを。
タカミムスヒが最後に口を開く。
「――行く」
それだけだった。
だが、その一言で十分だった。
――発進
格納庫のゲートが開く。
外は、嵐。
空が歪んでいる。
雷が走り、磁気嵐が大気をかき乱している。
「……来ているな」
むしろ好都合だった。
「第一小隊、発進」
咲耶が前に出る。
ホバーユニットが唸りを上げる。
次の瞬間。
機体が滑るように外へ出る。
続いて、雷撃が飛び出す。
一機、また一機と。
嵐の中へ。
消えていく。
空は荒れ狂っている。
だがその中を、
十二の影が進んでいく。
音もなく。
確実に。
――指揮官
その中心にいるのは、タカミムスヒ。
ヤマトはいない。
ムスビも、アマツもいない。
この作戦において――
彼女が、全てだった。
「……開始」
小さく呟く。
嵐の中へ、機体を沈めながら。
ーーー
南大東島攻略戦
――嵐の中の奇襲
黒い雲が、空を覆い尽くしていた。
雷鳴が低く唸り、大気そのものが歪んでいるかのように揺らぐ。
磁気嵐――それは視界だけでなく、電子機器すら狂わせる「見えない敵」だった。
その中を、十二機の影が滑り込む。
タカミムスヒの駆る《木花咲耶》を先頭に、四小隊は低高度を維持したまま島へ侵入していた。
HUDはノイズにまみれ、敵味方識別も不安定。
だが、それでも彼女は迷わない。
「各機、センサーは捨てろ。視覚と慣性で動け」
短い指示。
だが、それだけで十分だった。
雷撃のパイロット達は応じる。
「了解」
「目視戦闘に移行」
電子戦が封じられた戦場は、原始的な“感覚の戦い”へと変わる。
そしてそれは――
タカミムスヒにとって、むしろ得意領域だった。
稲光が、大地を照らす。
その一瞬の光の中に、敵基地の輪郭が浮かび上がった。
巨大な格納庫群。
その内部に、静かに眠る影。
「……見えた」
タカミムスヒの声が、僅かに低くなる。
「突入する」
返答は不要。
次の瞬間、咲耶が加速した。
格納庫突入
爆音はなかった。
咲耶は静かに、しかし異常な速度で格納庫の壁面に接近し――
そのまま、貫いた。
衝撃。
コンクリートと鋼材が紙のように裂け、内部へ侵入する。
遅れて雷撃部隊が続く。
「突入成功!」
「各機、分散!目標は起動前破壊!」
格納庫の内部は、戦場ではなかった。
整然と並ぶ機体。
整備途中のフレーム。
電源未投入のグレイハウンド部隊。
それは――“無防備”そのものだった。
だが。
「敵、起動反応あり!」
遅かった。
一方的な破壊
咲耶の両腕が展開する。
エネルギーコントローラが唸り、光が収束する。
次の瞬間。
「――斬る」
光の刃が、横薙ぎに走った。
未起動のグレイハウンド三機が、まとめて両断される。
内部フレームが露出し、爆発。
燃料が誘爆し、格納庫の一角が火の海に変わる。
「うおおおおッ!」
雷撃部隊も続く。
マシンガン掃射。
ブレードによる刺突。
起動しかけた機体のコックピットを、容赦なく潰す。
「電源入る前に潰せ!」
「脚部破壊!転倒させろ!」
合理的な殺し方だった。
戦う必要すらない。
敵が“戦える状態になる前”に、すべてを終わらせる。
だが。
静寂の中に、異質な気配が混じる。
「……来る」
タカミムスヒの意識が、僅かに研ぎ澄まされる。
ラプター3、起動
格納庫の奥。
一機の細身の影が、ゆっくりと立ち上がった。
HF23――ラプター3。
電源投入と同時に、機体表面が周囲の光を歪める。
視認性が、消える。
「ステルス機!」
「捕捉できない!」
雷撃部隊が一瞬、動きを止める。
その隙を突くように――
閃光。
一機の雷撃が、頭部から断ち切られた。
「ッ!」
無音の死。
だが今回は違う。
咲耶 vs ステルス
「……そこだ」
タカミムスヒの視線が、何もない空間を捉える。
彼女には“見えていた”。
鹵獲したラプター3のデータ。
ムスビの解析。
そして、自身の感覚。
わずかな空気の歪み。
熱の流れ。
磁気嵐によるノイズの“乱れ”。
それらすべてが、敵の位置を示していた。
咲耶が踏み込む。
ホバーが地面を滑り、瞬時に間合いを詰める。
ラプター3が反応し、後退。
だが遅い。
「逃がさない」
エネルギーブレードが、突き出された。
ステルス機の胸部を――
正確に貫く。
一瞬の静止。
次の瞬間、内部から爆発。
ラプター3は炎に包まれ、崩れ落ちた。
「ステルス機、撃破!」
「やれる……!」
雷撃部隊の士気が、一気に跳ね上がる。
制圧
戦闘は、もはや戦闘ではなかった。
起動前のグレイハウンドは次々と破壊され、
わずかに起動した機体も、集中攻撃で沈む。
拡散グレネードの誘爆。
VLSミサイルの暴発。
格納庫は、連鎖的な爆発に包まれていく。
「第一格納庫、制圧完了!」
「第二格納庫もクリア!」
「敵機動部隊、壊滅!」
タカミムスヒは、その中心で静かに立っていた。
炎と雷に照らされる咲耶。
その姿は、まるで“嵐の化身”だった。
「……司令部に進む」
彼女は振り返らない。
既に次を見ている。
「ここは終わりだ」
外では、嵐がさらに激しさを増していた。
だがそれは――
外縁独立機動部隊にとって、最高の隠れ蓑だった。
ーーー
南大東島基地
――記録:第3格納庫 管制ログ
最初は、ただの嵐だった。
いや――違う。
“ただの嵐だと思っていた”。
「磁気ノイズ、許容範囲を超えています」
管制室の空気は重かった。
計器は乱れ、レーダーは役に立たない。
それでも、基地は動いていた。
「こんな嵐で敵が来るわけが――」
言いかけた整備主任の言葉は、最後まで続かなかった。
――ドンッ
鈍い衝撃。
爆発ではない。
だが、床が揺れた。
「……今の、何だ?」
誰も答えない。
答えられない。
次の瞬間――
警報が鳴り響いた。
「外壁破損!第3格納庫に侵入反応!」
「は!?侵入!?この嵐の中で!?」
混乱が広がる。
あり得ない。
この天候、この磁気環境で――
正確に侵入してくるなど。
その時だった。
監視モニターが、一瞬だけ正常に戻る。
そして映った。
“それ”が。
細い。
異様なほどに細く、長いシルエット。
背部に無数のフィンを展開し、
光を歪めながら滑るように進む機体。
「……なんだ、あれは」
誰かが呟いた。
その声は、震えていた。
次の瞬間。
映像が白飛びした。
光。
斬撃。
そして――
画面の端に映っていたグレイハウンドが、消えた。
いや、違う。
“消えたように見えた”。
実際は。
一瞬で、上下に分断されていた。
「敵機侵入!!全機起動急げ!!」
怒号が飛ぶ。
だが遅い。
致命的に遅い。
格納庫の中は、戦場ではなかった。
そこは――
“整備中の機体置き場”だ。
「電源投入急げ!!」
「まだジェネレーターが――!」
「構わん、起動だけでも――」
そのやり取りの最中。
再び、光。
起動途中のグレイハウンドが、正面から貫かれた。
コックピットごと。
パイロットの悲鳴すら、最後まで届かない。
「何だあいつは!?」
「センサーが追えない!熱源も不安定だ!」
「ステルスじゃない、何かがおかしい!!」
混乱。
恐怖。
理解不能。
「ラプター3を出せ!!あれなら対処できる!」
管制官が叫ぶ。
唯一の対抗手段。
ステルス同士なら――
だが。
その“希望”も。
次の瞬間、砕けた。
ラプター3が起動する。
完璧なステルス。
完璧な奇襲機。
誰もが、それに“勝てるはずがない”と信じていた。
だが。
モニターの中で。
そのラプター3が――
迷っていた。
「……え?」
あり得ない挙動。
ステルス状態のまま、わずかに軌道を変える。
何かを“避ける”ように。
次の瞬間。
“何もない空間”に向かって、
敵機が踏み込んだ。
「嘘だろ……」
誰かが呟く。
そして。
突き出された光。
ラプター3の胸部に、正確に突き刺さる。
ステルスなど、意味がないと言わんばかりに。
爆発。
炎。
崩壊。
「……ふざけるな」
管制官の声が、かすれる。
「見えてるのか……?」
誰も答えない。
だが、全員が理解していた。
“あれは、見えている”
次々と機体が破壊されていく。
起動前。
起動中。
反撃の余地すらない。
それは戦闘ではなかった。
処刑だった。
「撤退を――」
誰かが言いかける。
だが、ここは基地だ。
逃げ場などない。
モニターの最後に映ったのは。
炎の中に立つ、その機体。
細く、鋭く。
嵐の中で微動だにしない影。
「……あれは、兵器じゃない」
整備主任が、震えた声で言う。
「――災害だ」
その直後。
管制室は爆発に飲み込まれた。
ーーー
南大東島基地
――占領後
煙の匂いが、まだ残っていた。
破壊された格納庫の残骸の向こうで、即席の指揮所が設けられている。
外縁独立機動部隊はすでに制圧を完了し、沖縄本島南部から到着した第一戦隊が占領任務を引き継ぎつつあった。
拘束された捕虜たちが列をなして座らされ、その前に数人の士官が立っている。
その中心にいたのは――
タカミムスヒ。
いや。
川崎鈴華、十五歳。
「……貴女が、この部隊の指揮官か」
アメリカ連邦政府軍の基地司令官は、信じられないものを見る目で彼女を見ていた。
泥と血にまみれた戦場の中で、あまりにも“若すぎる存在”。
「そうですが」
淡々とした返答。
隣に立つ第一戦隊長が口を開く。
「こちらが現場指揮を執ったタスクフォース隊長だ。以後、この基地の管理は我々が――」
司令官は、なおもタカミムスヒから目を離せない。
「……子供だぞ……」
その呟きは、ほとんど無意識だった。
その瞬間。
タカミムスヒの視線が、僅かに動いた。
捕虜の列。
その中の一人が――
立ち上がっていた。
遅い。
いや。
“普通なら”遅い。
タカミムスヒは、既に動いていた。
戦隊長の腕を掴み、強引に引き寄せる。
同時に、腰のホルスターからハンドガンを抜き取る。
完全に一体化した動き。
思考ではない。
反射でもない。
予測の延長。
「――ッ!」
捕虜が拳銃を構える。
距離、約七メートル。
発砲。
乾いた音が、空気を裂く。
一発目。
基地司令官の胸を撃ち抜いた。
「ぐっ……!」
崩れ落ちる巨体。
その瞬間、周囲の時間が止まったように見えた。
誰も反応できない。
銃声の意味を理解するまで、ほんの僅かな遅延があった。
二発目。
銃口が、タカミムスヒへ向く。
だが。
その間に、彼女は完全に姿勢を整えていた。
戦隊長の身体を前に出し、盾とする。
銃声。
弾丸は、戦隊長の胸部に直撃。
鈍い衝撃音。
だが、防弾スーツがそれを受け止める。
「ッ!」
戦隊長が息を詰まらせる。
三発目。
今度は、頭部を狙う。
正確なエイミング。
訓練された射撃。
だが。
その“わずかな間”で――
タカミムスヒは、撃っていた。
二発。
ほぼ同時。
銃声が重なる。
捕虜の弾丸が、タカミムスヒの頬を掠める。
髪が揺れる。
そして。
彼女の弾丸が――
正確に、相手の頭部を貫いた。
静寂。
捕虜の身体が、その場に崩れ落ちる。
遅れて、周囲の兵士たちが一斉に銃を構えた。
「動くな!!」
「全員伏せろ!!」
怒号。
混乱。
だが――
すでに終わっていた。
タカミムスヒは、ゆっくりと銃を下ろした。
呼吸は乱れていない。
視線も、揺れていない。
「……スパイです」
短く言う。
戦隊長が、胸を押さえながら立ち上がる。
「今の……」
「内部に紛れ込んでいました。恐らく捕虜に偽装した工作員です」
倒れた基地司令官が、かすかに呻く。
「……医療班!!」
誰かが叫び、兵士が駆け寄る。
その様子を一瞥し、タカミムスヒは戦隊長へ視線を向けた。
「引き継ぎます」
淡々とした声。
まるで、何も起きなかったかのように。
「捕虜管理の再確認を。
識別プロトコルの見直し。
――内部に、まだいる可能性があります」
戦隊長は、しばらく言葉を失っていた。
目の前の少女。
その判断。
その動き。
そして――
迷いのなさ。
「……ああ、了解した」
ようやく、そう答える。
タカミムスヒは小さく頷き、背を向けた。
血の匂いの中を、静かに歩き出す。
その背中を見ながら、戦隊長は思う。
(あれが……十五歳か)
そして、もう一つ。
(……戦場は、年齢を選ばない)
その事実だけが、重く残った。
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