第3章 来る人
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
突如発表された「首都機能の出雲移転」。 日本中が混乱する中、それは遠いニュースのはずだった——地方の小さな町に暮らす遥にとっては。 しかし、カフェで働く日常の中に、少しずつ“変化”が入り込む。 移転関係者が現れ、人が動き出し、町の空気が変わっていく。 「選べる」という言葉に揺さぶられながらも、遥はまだ決断できずにいた。 やがて、周囲の人々が次々と出雲へ向かい、ついには店の店主・真琴までもが何も告げず去る。 残された遥は、初めて自分の意思で「行く」ことを選ぶ。 出雲で待っていたのは、“何もない場所”と、過酷な現実。 未完成の国家プロジェクトの最前線で、遥は肉体を削りながら現場に立つことになる。 そこで出会ったのは、過去の災害によってすべてを失い、「形に残すこと」に執着する現場責任者・真白。 彼女の背中に導かれるように、遥は“作る側”へと変わっていく。 しかしある日、現場事故が発生。 真白は他人を救い、その代わりに命を落とす。 悲劇の直後、それでも現場は止まらない。 「止めればすべてが止まる」という現実の中で、遥は問いを突きつけられる——逃げるのか、続けるのか。 そして遥は、再び立ち上がる。 真白の意志を引き継ぎ、自らが現場を回す側へと変わっていく。 一方その頃、東京でも静かに人材流出が進み、国家の重心そのものが移り始めていた。 これは、国家の転換点の物語であると同時に、 「選ばなかった人生」から「自分で選ぶ人生」へと踏み出す、一人の人間の物語である。
本文
※本作はAI生成を含みます。
昼過ぎだった。カフェ《灯》。静かな時間。客は一人もいない。外も静かだ。いつもの奥羽市。何も変わらない——そう思っていた。
——チリン
扉の音。遥が顔を上げる。見慣れない男が立っている。スーツ。少し疲れた様子だ。都会の匂いがする。この町には、あまりいないタイプ。
「いらっしゃいませ」
男は少しだけ周りを見る。店内を確認するように。そして席に座る。「コーヒー、お願いします」落ち着いた声。どこか急いでいる。
遥は頷く。準備をする。その間も、男はスマートフォンを見ている。画面には地図。見慣れない表示。
「……遠いな」無意識に漏れた声。
遥は少しだけ気になる。コーヒーを淹れる。湯を注ぐ。静かな音。男は一瞬だけ見て、また画面に戻る。
「どうぞ」カップを出す。男は受け取る。一口飲む。少しだけ、間がある。
「……いいですね」その言葉は、本音だった。
「ありがとうございます」遥は軽く頷く。一拍。男が言う。「この辺、詳しいですか」
突然の質問に遥は少し驚く。「まあ……地元なんで」
男は少しだけ身を乗り出す。「出雲まで、どれくらいかかります?」
空気が変わる。遥は一瞬止まる。昨日までの話が、急に繋がる。「……車で、結構かかりますよ」正確な時間は出てこない。近くはない。
男は小さく頷く。「ですよね」一拍。「やっぱり現地見ないと分からないか」
その言葉は——完全に〝関係者〟のものだった。「仕事ですか」遥は聞く。
男は少しだけ迷う。それから答える。「ええ。移転の関係で」隠す気はない。
遥は言葉を失う。現実が、ここに来た。ニュースの中の話が、目の前にいる。
「大変そうですね」やっと出た言葉。男は苦笑する。「正直、めちゃくちゃです。何も決まってないのに、全部動いてる」
それは想像通りで、想像以上だった。「行くんですか」遥が聞く。
「行くことになると思います」——〝選ぶ〟ではない。〝なる〟。仕事だから。必要だから。その違いが、はっきり出ていた。
「……嫌じゃないんですか」
「嫌ですよ」即答。それから、続ける。「でも、面白そうでもある」
その言葉に、遥は反応する。面白い。その発想は、なかった。
「何もない場所に、作るんですよ。普通、関われないでしょ、そういうの」
遥は何も言えない。真琴の言葉と重なる——見てみたい。その感覚。
「まあ、現実は地獄でしょうけど」男は笑う。現実的だ。それでも。完全には否定していない。
コーヒーを飲み終える。男は立ち上がる。「ごちそうさまでした」
会計を済ませる。扉に向かう。少しだけ振り返る。「いい店ですね」
その一言だけ残して、出ていく。——チリン
音が鳴る。静けさが戻る。
遥は、しばらく動けなかった。現実が、ここに来た。ただのニュースじゃない。人が動いている。すでに。
「……来てるんだな」声に出た言葉は、昨日よりも重かった。