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配信5回目 行方不明配信者と呪われたアーカイブ【前編】

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/1 📚 シリーズ: 影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます 📝 4,286文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます - 配信5回目 行方不明配信者と呪われたアーカイブ【前編】

本文

蘇生の次の日は、だいたい最悪だ。

 頭の奥に鈍い鈴でも仕込まれてるみたいに重いし、喉は焼けたあとみたいにひりつくし、全身がうっすら他人の体みたいに遠い。

 私は夜見よろず相談事務所のソファに沈み込んだまま、スマホを顔の上にかざしていた。

「……これでよくない?」

「よくない」

 即答。

 机の向こうでコーヒーを啜っていた夜見よみ朔夜さくやは、私の画面すら見ずに言った。

 この男、顔だけは今日も無駄にいい。

「だって見てよ。“霊障対策スターターセット”。塩、護符、浄化済みUSB、怪異避けスマホシールつき」

「レビューを読め」

「読んでるよ。“効きました。夫の浮気も止まりました”」

「知らん」

「“高波動ノイズカット・リングライト”」

「閉じろ」

「“除霊済みマイクカバー”」

「閉じろ」

「“呪いに映えないサムネ補正フィルム”」

「今すぐ閉じろ」

 私の膝の上で、ぬいがぽてっと転がった。

「それ、本当に買う気じゃったんか」

「買う気っていうか、藁わらにもすがりたいっていうか」

「藁のほうがまだ効く場合もある」

 言い返そうとしたところで、事務所の共有端末が鳴った。

 画面に映ったのは、眠そうなのに目つきだけ妙に鋭い女だった。

「それ全部だめです」

 出た。

 毒島ぶすじま 真琴まこと。

 配信編集、切り抜き、炎上管理担当。怪異より炎上を怖がるタイプの現代人。たぶんこの街で一番、コメント欄に絶望している人だ。

「今、安いので済ませようとしてました?」

「努力はした」

「努力の方向が終わってます」

 真琴さんは淡々と端末を操作しながら続けた。

「行方不明になった配信者、最後に触ってたの、前回と同系列の削除済み動画です」

「削除済みなんでしょ?」

「だから危ないんです」

 その言い方で、ソファの温度が少し下がった気がした。

「元データは消えてるのに、派生だけ残ってる。切り抜き、画面録画、匿名掲示板の再掲、ローカル保存、海外ミラー。全部で微妙に中身が違うんです」

「……きっしょ」

「はい。かなり」

「それ、動画じゃなくない?」

「もう動画じゃありません。増殖条件を獲得した記録です」

 嫌な言葉だ。

 でも、すごく分かる。

 前回燃やしたはずの“切り抜き怪異”が、まだどこかで口を開けたまま残っている気がして、背中が冷えた。

 その時、朔夜のスマホが震えた。

 画面を見た瞬間、あからさまに嫌そうな顔になる。

「誰」

「槙野まきの」

 その名前だけで、空気が少し現実寄りになる。

 槙野 恒一。警察側の窓口。怪異という言葉を使いたがらないくせに、説明不能案件だけはこっちに流してくる苦労人。

 朔夜が通話を取った。

「……ああ。聞いてる。部屋は?」

 数秒の沈黙。

「争った形跡なし。本人だけ消失。モニターはついたまま。再生履歴は空。なのにバーだけ進む……は、最悪だな」

 私は半分だけ起き上がった。

「もう嫌な予感しかしないんだけど」

「失踪者が出た」

「それをサラッと言うな」

「サラッと言わないと重すぎる」

 そう言って、朔夜は私のスマホを奪い取り、通販ページを閉じた。

「安物で済むなら、とっくに済ませてる」

「いや、さっきちょっと探してたじゃん」

「確認だ。期待はしてない」

 それから、ものすごく嫌そうに言った。

「こういう時だけ、本物しか効かない。……銭原のとこ行くぞ」

「出た」

「名前からして嫌」

「安心しろ。中身は名前よりひどい」

 ――嫌な安心をするな。

 ◆

 銭原ぜにはら 呪助じゅすけの店は、裏路地のさらに奥、雑居ビルの三階にあった。

 昼なのに薄暗い。

 階段は湿っている。

 壁には剥がれた護符と、何に使うのか分からない古い広告。

 途中の踊り場には片方だけの革靴。

 帰りたい。

 扉を開けた瞬間、線香とも薬品とも鉄錆ともつかない匂いがした。

「おお、夜見はん。えらい貧乏くさい顔しとるやん」

 出た。

 派手な柄シャツにくたびれたジャケット、金歯、片耳ピアス、笑ってるのに目だけ全然笑ってない男。

 胡散臭さを人型にして、そこへ関西と九州を雑に流し込んだみたいなやつ。

「金を使わせに来る相手に会えば、誰でもこうなる」

「冷たいのう。お嬢ちゃんもおるやん。今日も死にかけとる顔しとる」

「死にかけじゃなくて、だいぶ死んだあとです」

「ええ買い手や」

「最低」

 ぬいが私の肩の上で小さく唸る。

 銭原はそっちを見てにやっとした。

「ほう。寄生霊獣つき。欲張りセットやな」

「売るなよ」と朔夜。

「まだ言うとらんやろ」

 言う気だったんだ。

 朔夜が用件だけを切り出す。

「アーカイブ怪異だ。削除済み媒体から派生してる。失踪者一名。拡散済み」

 その瞬間だけ、銭原の笑いが少し薄れた。

「……あー。そら安もんじゃ無理や」

「だから来た」

「ならこれやな」

 銭原はガラスケースの奥から、黒い釘と、銀色の細いテープ、それから墨文字の札を取り出した。

「《原版追跡釘オリジン・スパイク》》。複写呪いの最初の傷ば辿る」

「高いんでしょ」

「高い」

「うわ素直」

「《逆再生封止リバース・ロック》》。再生、逆再生、巻き戻しを止める。これも高い」

「でしょうね」

「《複写返コピー・リジェクト》し》。増殖拒否。二枚は要る。ちょい高い」

「“ちょい”の基準を言え」

「命より安い」

「毎回その言い方なんなの?」

 銭原は肩をすくめた。

「消した、は通らんよ。見られた時点で、もう持ち帰られとる。ネット怪異はそこが質悪い」

「……終わるの?」

「終わらせる道具はない」

 さらっと言われて、店の奥が一段冷えた気がした。

「止める道具ならある。追う道具もある。でも終わらせるんは別や」

「言い方が最悪」

「商売人やけん」

 結局、今回の持ち込みはこうなった。

 《原版追跡釘オリジン・スパイク》》

 《逆再生封止リバース・ロック》》

 《複写返コピー・リジェクト》し》×二

 《既視遮断膜デジャ・フィルム》》

 《還呪杭リターン・ステイク》》×二

 《黙祓布サイレント・クロス》》

 値段を見た瞬間、私はほんのり死にたくなった。

 いや、もう何回か死んでるけどそういう意味じゃない。

「高っっっ!?」

「学割つけたる」

「何その地獄みたいな響き」

「呪い増しで」

「帰れ!!」

 ◆

 行方不明配信者の部屋は、繁華街から少し外れたワンルームだった。

 昼なのに薄曇り。

 廊下の窓は白く濁っていて、安い賃貸の扉だけが妙に軽い。

 なのに、その前に立っただけで空気が重い。

 槙野さんが腕を組んだまま言った。

「これはまだ事件じゃない。……そういうことにしてある」

「失踪者がいるのに?」

「証拠が足りない。説明もつかない。だが、二人目が出たら隠しきれん」

 中に入ると、部屋は妙に整っていた。

 配信ライト。

 マイク。

 ノートPC。

 外付けモニター二枚。

 飲みかけのペットボトル。

 椅子だけが少し引かれている。

 そして――再生していないのに、モニターの再生バーだけがじわじわ進んでいた。

「うわ」

 画面は黒い。

 でもコメント欄だけが流れている。

【まだいる?】

【見えてる見えてる】

【そこ違う】

【もっと右】

【笑った?】

【今の顔やば】

 私は首元に《黙祓布サイレント・クロス》》を引き寄せた。

 耳の奥で、小さな拍手みたいな反響がする。嫌だ。

 朔夜が低く言う。

「《権限接続アクセス・ライン》》」

 空気が少しだけ張り詰めた。

 朔夜が部屋全体に干渉権限を通す。こいつの技は、毎回いちいち名前が格好いいのが腹立つ。

「ゆら。画面は直視するな」

「言うの遅」

「今言った」

「最悪」

 その時、廊下の向こうから、聞き覚えのある高いヒールの音がした。

「……あー、やっぱり来てた」

 真っ先に嫌そうな声を出したのは真琴さんだった。

 振り向かなくても分かる。

 来た。案件荒らし。

「夜見、まだそんな地味な現場やってるの?」

 赤と黒がよく似合う女が、スマホを片手に立っていた。

 長い髪、強い目元、アクセまで“見せる”ために作られてるみたいな派手さ。

 紅坂べにさかミリア。

 同業の怪異配信者。朔夜を好きすぎて、ついでに私を敵視して、案件すら映えで荒らす最悪の女。

「封鎖前に入るな」と槙野さん。

「公務執行ってやつ? でもまだ事件じゃないんでしょ?」

「お前な……」

「数字は待ってくれないの」

 ミリアは私を見て、口元だけで笑った。

「へえ。その子が例の“よく死ぬ子”?」

「紹介の仕方どうなってんの」

「趣味変わった? 夜見」

「黙れ」と朔夜。

「嫉妬?」

「違う。邪魔だ」

 真琴さんがイヤホン越しに、心底うんざりした声を出す。

『あの人の配信、コメント欄がもう燃えてます。やめさせてください』

「無理。やめるタイプに見える?」と私。

『見えません』

「でしょ」

 ミリアは部屋の暗がりを見回しながら、すっと表情を変えた。

 こいつは嫌な女だ。

 でも、本物を前にした時だけ、ちゃんと目が仕事になる。

「……いるわね」

「いるから来てる」と朔夜。

「で、どこから食べてる?」

「まだ絞ってる」

「遅いじゃない」

 その瞬間だった。

 黒い画面に、ふっと女の顔が浮いた。

 いや、顔じゃない。

 顔の断片だ。

 泣きそうな目。

 笑っている口元。

 驚いて振り向く横顔。

 怖がっている喉の筋。

 全部が別々のタイミング、別々の角度で、無理やり一枚に縫い合わされている。

「っ……」

 息が止まる。

 そして、その顔の奥にもう一つ、別の顔が混ざっていた。

 行方不明の配信者だ。

 でも“本人”じゃない。

 もっと都合よく切り抜かれた、怖がる瞬間だけを集めた素材だ。

「……これ、動画を見てたんじゃない」

 思わず声が出る。

「動画の中に、編成されてる」

 朔夜の目が細くなる。

 真琴さんの声が端末越しに低くなった。

『正解です。コメント欄が今、同じワードで偏ってます』

「何」

『“もっと見たい”“その顔固定”“泣いてるところだけほしい”』

「最悪」

『はい。視聴者側の欲望で再構成されてます』

 つまり、今回の怪異は前回の続きでありながら、もう別物だった。

 最初の霊がどうとかじゃない。

 見たい顔だけを抜き、怖い瞬間だけを保存し、伸びるサムネだけを残した結果、輪郭そのものが壊れて増殖した怪異。

【その子もかわいい】

【泣き顔ほしい】

【今の黒髪の子アップで】

【サムネ向き】

【右の子もいい】

「……は?」

 コメント欄に、私への反応が混ざる。

 嫌な寒気が走った次の瞬間、右の頬の感覚がふっと消えた。

「え」

 壁際のモニターに、私の口元だけが映っていた。

 笑っていないのに、勝手に笑ってる形に固定されている。

「っ、やば……」

「ゆら!」と朔夜。

「《位相固定フェイズ・ロック》》」

 けれど、その前に、足元の床が一段ぶれた。

 世界がずれる。

 耳鳴り。

 ノイズ。

 拍手。

 再生バー。

 サムネ。

 黒いフレーム。

 完全に死んではいない。

 でも、生きてる側から半歩だけ滑った。

 落ちる、と思った瞬間、私は反射的に《還呪杭リターン・ステイク》を握りしめた。

 冷たい感触が掌に食い込み、現実と向こう側のあいだに、細い一本の帰り道みたいなものがかろうじて残る。

「ゆら!」

 朔夜の声が遠い。

 ミリアの舌打ちも、真琴さんの焦った声も、槙野さんの怒鳴り声も、全部まとめて水の底みたいに鈍くなる。

 黒いフレームが、私の足元から開いた。

 その奥で、誰かがまた笑った気がした。

――――――

後書き

ゆら

「……今さらだけど、これ何回目の配信なんだろ。」

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作者について

勇者ヨシ君

勇者ヨシ君

愛知県安城市で「ギルド酒場るすと」というゲームバーをやりながら、小説を書いています。 レトロゲーム、ボードゲーム、シーシャ、酒場の空気感が好きです。 異世界×ゲーム×酒場の作品や、 ホラー×...

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