配信27回目  蒐集の影①――後ろの正解の表紙画像

配信27回目 蒐集の影①――後ろの正解

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/1 📚 シリーズ: 影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます 📝 3,750文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます - 配信27回目 蒐集の影①――後ろの正解

本文

「影森」

 朔夜さくやが言う。

 それだけで、だいたい分かる。

「……向こう側、核コアがまだ生きてるんでしょ」

「そうだ」

「今、死にかけから蘇生したとこなんだけど」

「知ってる」

「知ってて言ってるの」

「向こう側の入口が、まだ開いてる。お前が一度死んだぶん、境界が薄い。今が一番深部しんぶまで入りやすい」

 ……最悪の論理だ。

 最悪だけど、反論できない。

「その“今が一番〇〇”って、毎回フラグじゃん!」

「フラグの意味が分からない」

「今どきフラグを知らないの、それはそれでやばくない?」

 朔夜が無言でこちらを見る。

 返答する気がないやつの顔だ。

 溜息ためいきをついた。肺がまだ少し痛い。首のあたりの感覚も、さっきより戻ってきてはいるけど、まだ他人の首みたいな気がしてしょうがない。

 でも、もう一度入る。――それは死ぬということだ。

「るなと幽々、頼んでいい?」

 るなが「えぇー……」と言う。

 いつもの「えぇー」と、ちょっと違う声だった。泣きそうな声。

 幽々が静かにるなの腕を引いた。

 それで十分だった。

「行ってくる」

 朔夜の手で、再びあちらの世界へ――。

―――――

 死後側しごがわは、コメント欄そのものだった。

 もう少し正確に言うと、コメント欄でできた部屋だ。

 四方の壁も、天井も、床も、全部が文字という文字で埋め尽くされている。

「後ろ見て」「見えてる」「開けて」「ほんとにいるじゃん」「こわっ」「え後ろ」「後ろ後ろ」「開けろって言ってる」「見て」「後ろ」「後ろ」「後ろ」――

 延々と。

 うねって。

 折り重なって。

 でも今更いまさら怖いとは思わない。

 今更怖くなってどうする、という気持ちのほうが先に来る。

「玻璃はり」

「ここだよ」

 いつのまにか隣にいる。

 白しろい少女しょうじょが。向こう側で何度も会った、向こう側の住人じゅうにんが。

「今回、核は?」

「小さいよ」

 予想外の答えだった。

「小さい? あんだけ大きくなってたのに?」

「大きくなってたのは、表面だけ。視線を集めるほど増幅するタイプだったから、人間がたくさん見て、そのぶん育ってた。でも中身は最初からずっと小さいまま」

「……それって」

「うん。最初に一人が書いた。あとは他の人間が乗っかっただけ」

 玻璃が壁のある一点を指差す。

 一番古いコメント。

 壁の端、色が褪あせて今にも消えそうな文字。

「今あなたの後ろにいるよ」

 一文だけ。

 それが全部の始まりだった。

「……これが本体?」

「うん。最初に書いた人間は、もう忘れてると思う」

「最悪……」

 玻璃が少しだけ目を細めた。

 同意なのか、同情なのか、よく分からない。

「触さわれる?」

「……触る」

 核に手を伸ばした瞬間、気配けはいがした。

 怪異の気配じゃない。

 もっと、意志のある、冷たい何かだ。

 ほんの一瞬。

 指先が核に触れる、その手前で。別の何かが同じものに触れようとした――そんな感触。

 怪異が食うとき特有の「引っ張る」感じとも違う。

 もっと丁寧ていねいな、確認するような、軽い接触。

「っ、」

「大丈夫?」

「……なんか、いた」

「うん」

 玻璃の返事が早かった。

 知ってた、という声だ。

「気づいてた?」

「さっきから傍そばにいる。でも怪異じゃない。……確認してるだけだと思う」

「確認って、何を」

「あなたが、何をするか」

 しばし、沈黙ちんもく。

 壁のコメントが、ざわりと揺れた気がした。

 でも、止まらない。私は再度、核に触れた。

 古いコメントの残滓ざんしが、砂すなみたいにぽろぽろと崩れていく。

 あっけないほど簡単に。

 それにつられて、壁の文字が一斉に薄うすくなっていく。

「後ろ見て」が消えていく。

「見えてる」が消えていく。

「開けて」が消えていく。

 拍子抜けするくらい、静しずかに。

 私の情報が現実側の朔夜に届いたのだろう。刹那――、体が帰路に引っ張られる感覚がした。

 その直前に、あの「別の手」の気配が――消えた。

 もう確認が終わった、とでも言わんかのように。

―――――

「……終わった?」

 幽々の声が聞こえた。

 天井が見える。

 事務所じゃなくて、さっきまで配信してた部屋の天井だ。安堵あんどと脱力が、同時にきた。

「終わった。たぶん」

「たぶん、はいらない」

 朔夜の声は、いつも通りだった。

 術式が通ったときの、いつも通り。

 でも微妙に、ほんの少しだけ、何か違う気がした。

 気のせいかもしれない。

 気のせいということにする。

「……今回、蘇生二回目だけど、やっぱ請求書出る?」

「出る。当たり前だ」

「理由は?」

「案件しごとが終わった」

「それ毎回同じこと言ってるよね」

「毎回案件を終わらせている」

 もう言い返す気力がない。

 るなが突然、泣きながら怒り始めた。

「ゆらちゃんが死にすぎぃ! もう! もう! びっくりしすぎてしんどい!」

「こっちがしんどいょ……」

「ゆらちゃんは軽く言わないで! るなはぜんぶ見てたんだよ!」

 ぐうの音も出なかった。

 幽々がるなの背中を静かに優しく叩たたく。

 るなの泣き方が、だんだん食べ泣きみたいに変わった。

 テーブルの上のスイーツを手に取りながら泣いてる。

「……食べながら泣ける?」

「泣きながら食べてんだよ!」

 でも、その言い方に少しだけ救われた。

 幽々が静かに言う。

「終わった?」

 泣いてもいないし、喚いてもいない。

 だから余計に、じわっとくるものがある。

「うん、終わった」

「そっか」

 その一言だけで、十分だった。

―――――

 しばらくして、ぬいが私の肩に戻ってきた。

 どこか行ってたらしい。気づかなかった。

「様子でも見てたの?」

「おぬしが死ぬとこを高みの見物じゃ」

「死ねよお前」

「大丈夫そうじゃったから安心した」

「今の順番、おかしくない?」

 ぬいが「ふふ」みたいな声を出す。

 でもそのあと、少し間まを置いた。

「……今回の怪異。中身はしょぼかったのう」

「そう。最初に一人が書いて、あとは人間が乗っかっただけなんだって」

「そのわりに、増幅ぞうふくが早かった」

 さらりと言う。

 でも「さらり」にしては、少しだけ重い。

「視線が集まりすぎた?」

「それだけなら早くない。……もう少し、別の理由があると思うとる」

「別の理由」

「まあ、今夜はよかろう。終わったことじゃ」

 断ち切るように言った。

 そんな中、朔夜が請求書を差さし出す。

「今夜の分だ」

 受け取った。

 見た。

 瞬まばたきした。

「……また増えてる」

「蘇生が二回あった。死後側への潜入が一回。加えて今回は――」

「もういい、分かった」

 分かりたくなかったけど、分かった。

 るなが「あたしが払う!」と言う。

「なんで」

「だってゆらちゃんのせいじゃないし!」

「バイトとこのクズのせいだよ」

「バイト代もらってないじゃん!」

「――そうだね、なおさら払えない」

「だから、わたしが払う!」

「それはダメ」

 すごい堂々巡どうどうめぐりをしている。

 幽々が静かに言う。

「二人とも少し黙って」

 そういわれて、二人ともすぐ黙った。

 幽々の「少し黙って」は、なぜか聞いてしまう。彼女の言葉には、圧がある。

 スマホを見ると、コメント欄が動いていた。

 配信はとうに切れているのに、アーカイブのほうに流れ込んでいる。

《え、これで終わり?》

《思ってたより普通に終わったな》

《いや怖かったよ》

《ゆらちゃん死にすぎ》

《所長、こういう時だけ普通に動くな》

「こういう時だけ、は余計だよね」

「いつもだろ」

 朔夜が言う。

 自分から言った。珍しい。

「うるさい」

―――――

 その後、るなが少しお金を払うと駄々をこねたものの、幽々に説得されて、

 荷物をまとめて、四人で外に出た。

 夜の駅前。

 普通ふつうの人の流れ。

 信号しんごう。

 コンビニ。

 チェーンの居酒屋から漏れてくる声。

 るなが「やっぱり外はいいねぇ」と言った。

 その「外」に何の含みもないのが、今日だけは妙みょうに沁しみた。

 余っていたプリンを一口食べてから気づいたら、

 なんか抜ぬけた気がして、私は急に泣きそうになった。

 泣かないけど。

 なんで泣きそうなんだよ、と自分で思う。泣かないけど。

 るなが気づかないふりをしながらロールケーキを寄越よこした。

 幽々が「味がするなら大丈夫」と言った。

 意味が分からないけど、味はしたので、やっぱり大丈夫な気がした。

 そこで、幽々が足を止めた。

「ゆら」

 低い声だった。

 いつもより少しだけ。

 視線の先、駅前のベンチ。

 若い男が一人、スマホを見ながら座っている。

 何の変哲もない人間だ。二十代前半くらい。

 でも顔色が悪い。焦点が、少しズレている。

「……なに」

「あの人、三日前にも同じ場所にいた」

「え」

「同じ時間帯に。同じ場所で。同じ格好で」

 ぬいぬいが私の肩の上で鼻をひくつかせた。

「…………」

「なに、ぬい」

「きゃつら、匂いが薄うすい」

「匂いが薄い、って」

「生きとる人間の匂いが。薄うすい。でも消えてるわけやない」

 四人で静かに見た。

 男は何もしない。ただスマホを見ている。こちらに気づいている様子もない。

「あれ、怪異?」

「分からん。でも、普通ではない」

 朔夜が短く言う。

「見るな。すぐ帰れ」

「でも――」

「今夜は終わりだ。それ以上は引っ張るな」

 いつも以上に、きっぱりしていた。

 帰り道。

 私の頭に、あの男の顔が残った。

 怪異か、人間か、その境目さかいめにいるような。

 匂いが薄い、という言い方が、どこかに引っかかっている。

 そして――どこかで見た気がする、という感覚。

 あの「別の手」の気配と、何か似ていた気がした。

 でも、気のせいかもしれない。

 でも、気のせいじゃない気がする。

「……なんか、今日多くない?」

「うん」

 ぬいが静しずかに答えた。

 肯定だった。

「うん、じゃなくて」

「終わらんのう」

「それが聞きたかったわけじゃないんだけど」

 この日もさんざんだったのに、これがすべてのはじまりだった――。

 続く――

ジャンル・タグ

, , , , , , ,

作品統計

👁️ 閲覧数: 0 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

勇者ヨシ君

勇者ヨシ君

愛知県安城市で「ギルド酒場るすと」というゲームバーをやりながら、小説を書いています。 レトロゲーム、ボードゲーム、シーシャ、酒場の空気感が好きです。 異世界×ゲーム×酒場の作品や、 ホラー×...

👥 フォロワー: 2人

作者ページを見る