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配信61回目 ここにいろの翌朝――近いうちに転校生が来るらしい

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/2 📚 シリーズ: 影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます 📝 6,281文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます - 配信61回目 ここにいろの翌朝――近いうちに転校生が来るらしい

本文

昨日の言葉が、朝になっても頭から離れない。

 なのに学校は普通に始まって、転校生の噂まで流れていた。

 たぶん今回は軽い回……のはずだった。

――――――

 朝、目が覚めた瞬間の気分は、いつも以上に悲惨だった。

 別に寝ているとき金縛りにあったとか、天井に知らない顔が貼りついていたとか、そういうホラー的な意味ではない。もっと普通に、でもたぶん私にとってはいちばん面倒な気持ちだ。

 昨夜の言葉が、頭から離れなかったのである。

 ――『ここにいろ。』

 短いし、雑だし、説明不足。なのに、妙に耳に残る言葉――。

「……やだなぁ……」

 布団の中で小さく呻うめいてから、私は枕へ顔を埋うずめた。

 イヤだいやだ嫌だ。何が嫌って、自分でもちょっと心ハートが揺れたのが嫌だ。

 あの男が真面目な顔でそういうことを言う時、こっちは反応に困る。いつもみたいに「うるさい」「死ぬな」「配信の邪魔だ」くらいで済ませてくれた方が、よっぽど対処しやすい。なのになのに。

 なのに昨夜は、あの顔で、あの声で、あれを言った。

 ずるいだろ、普通に。そんなの。

 スマホを確認する。通知は何件か来ていたけど、朔夜さくやから来ていたのは業務連絡だけだった。

【今日は学校優先。寄るなら夕方でいい】

「対応、普通なんだ……」

 いや、普通じゃない。

 あいつが「学校優先」なんて書いて寄越すの、かなり珍しい部類。珍しいから余計に腹が立ってきた。昨日あんなことを言っておいて、翌朝にはしれっと実務モードに戻るな。こっちはそういう切り替え、そんなに上手くないんだよ。わかれよ。

 私はフゥ~~っと深いため息をつきながら、ようやく起き上がった。

 顔を洗って、制服に着替えて、髪をセットして、母から届いていた「パンあるから食べていきなさい」のレインを見て、適当に返す。そういう、いつも通りの朝の手順をなぞっているうちに、少しだけ呼吸が落ち着いた。

 学校へ行けば、普通がある。

 るながいて、幽々ゆゆがいて、先生がいて、眠いホームルームがあって、たまに嫌な気配は混ざるけど、それでもまだ、あそこは“まともな”顔で出迎えてくれる。

 だから今日は、それでいい。

 そう思って家を出た。――考えごとをしすぎて、学校に少し遅れそうになったけど。

―――――

 教室へ入るなり、るなが私を見つけて手を振った。

「ゆらちゃ〜ん、おはよぉ〜……」

「おはよ」

「顔しんでるぅ〜……」

「朝一番の親友の感想がそれ?」

「だってぇ〜……ほんとに、いつもよりぺしゃってしてるぅ……」

 失礼だな、と思ったけど、否定しきれないのが悔しい。

 鞄を机へ置くと、斜め前の席で白澤しらさわ 幽々ゆゆが静かにこっちを見た。

「寝てないの?」

「ちょっとだけね」

「ちょっと、の顔じゃないよ?」

「二人して朝から容赦ないな~」

 私がぼやくと、るなが机に頬杖ほおづえをついたまま、ふわっと笑う。

「でもぉ〜、今日ちょっとだけたのしい話があるよぉ〜」

「なに」

「うちのクラス、近いうちに転校生が来るらしいよぉ〜」

 よりによって今その話題か、と思った。

「今その情報いる?」

「いるよぉ〜。夏前に転校生って、ちょっとイベントっぽいじゃん〜」

「人生を学園ラブコメみたいに言うな」

「えへへぇ〜」

 るなはいつも通りだ。

 そのいつも通りが、ちょっとだけ救いになる。

 でも、幽々だけは首をかしげていた。

「……この時期に?」

「ねぇ〜。へんだよねぇ〜」

「まあ、家庭の事情とかあるんじゃない?」

 そう言いながら、私は自分でもちょっとだけ引っかかっていた。

 理由は説明しづらい。ただ、最近のこの街は、“タイミングが変なもの”ほどろくでもない場合が多い。そこへ「夏前の転校生」なんてものが差し込まれると、普通の情報のはずなのに、妙にその輪郭だけが浮いて見える。

 ホームルームが始まって、担任が眠そうな声で連絡事項を読み上げる。小テストがどうとか、提出物がどうとか、エアコンの設定温度がどうとか。教室には朝のだるさと紙の匂い、それから窓の外の少しだけ強くなった日差しが混ざっていた。

 こういう時間は好きだ。

 誰も死なないし。

 変な声も聞こえないし。

 床下から手が生えてくることもない。

 最っ高である。

 ……と思ったのに、二時間目の休み時間で、あっさり崩れた。

 前の方の席で、女子が二人、スマホを見比べながら首をかしげていたのだ。

「ねえ、昨日のボイス、最後だけ入ってなくない?」

「え、ほんとだ。そこで“じゃあまたね”って言ってたじゃん」

「言ったよ? 送った時はあったもん」

 私は顔を上げた。

 嫌なところだけが、ぴん、と反応した。

 その女子たちのうち一人が、こっちへ気づいて苦笑いする。

「影森さん、聞いてよ。なんか昨日送ったボイスメモの最後だけ消えてるんだよね」

「最後だけ?」

「うん。“じゃあまた”のところだけ無音で、そのあと雑音だけ残ってるの」

 私は手を出した。

「ちょっと聞かせて」

「え、うん」

 スマホを受け取る。再生。

 最初は普通の雑談だ。宿題がだるいとか、先生が怖いとか、購買パンが売り切れてたとか、そういう、どこにでもある高校生の会話。

 でも最後に近づいた瞬間、背筋が薄く冷えた。

『――じゃ、また……』

 そこだけ、すっと抜ける。

 消えている、というより、持っていかれている感じだった。

 音の切れ方が変だ。ただ無音になるんじゃなくて、言葉の輪郭だけを誰かが摘まんで引き抜いたみたいに、そこだけ綺麗に空いている。

「……これ、他にもある?」

「あるある。朝から三人くらい同じこと言ってる」

「しかも消えてる言葉、ちょっとずつ違うんだよね」

 別の子が横から言った。

「“またね”の子もいるし、“ごめん”の子もいたし、“助かった”が抜けてる子もいた」

 ごめん。

 またね。

 助かった。

 どれも、軽い言葉だ。日常の中にいくらでも転がってる。でも、転がってるからこそ、そこだけ抜かれると妙に気持ちが悪い。

 私はスマホを返した。

「……一応、それ、消さない方がいいかも」

「え、なんで?」

「なんとなく。ほら、データ系の不具合って、下手に触ると悪化する時あるし」

 苦しいごまかしだったけど、相手は「そっかぁ」と頷いた。

 助かった。学校で毎回まともに怪異案件の説明なんかしていたら、こっちの高校生活が先に終わる。それどころか多分、死ぬ。

 昼休みになって、私は屋上へ上がる階段の踊り場で、朔夜へレインを送った。

【学校で軽いの怪異拾った。音声メモの最後の一言だけ抜ける】

 既読は早かった。

【放課後来い】

 それだけ。

「文章みじかっ……」

 私はスマホをしまった。

 よし、と少し気を引き締める。怪異は、軽いと思って油断すれば、たまに死ぬ。いや、たまにじゃないな。わりと死ぬ。

―――――

 放課後。

 るなと幽々には用事があるとだけ言って別れ、私は夜見よみよろず相談事務所へ向かった。

 古い雑居ビルの外階段を上る。夕方の空気はまだ明るいのに、事務所の前だけはいつも少し時間が遅い。安っぽいプレート、薄暗い廊下、ドアの向こうから漏れてくる配信機材の熱と、紙と、コーヒーと、たまにタバコのくささ、呪符の焦げた匂い。

 扉を開ける。

「ただいま」

「おかえり」

 返ってきた声が自然すぎて、私はその場で止まった。

「……いやそこ、“おかえり”なんだ」

 ソファに沈んでいた朔夜が、ほんの少しだけ眉を寄せる。

「何だ」

「何だ、じゃないのよ。急に家庭的な単語を使うな」

「面倒くさいやつだな」

「そっちだよ!」

 言い返しながら、私は机の上にスマホを置いた。

 朔夜はそれを受け取り、イヤホンで何件か聞き比べる。ぬいは窓枠の上から、やる気のない顔でこちらを見下ろしていた。

「……浅いな」

「信用できない評価きた」

「学校規模の拡大はまだしてない。境界に引っかかった“言い残し”だけを拾ってる」

「言い残し?」

「声の最後に乗る本音だ。軽い別れ、軽い謝罪、軽い安堵。そういう、ちゃんと相手へ届いて終わるはずの一言だけが、薄いところに引っかかって残ってる」

「それ、誰かが困るタイプの残り方?」

「少しずつな」

 朔夜は端末を置いた。

「影森、今日は前に出るな」

「は?」

「聞き込みだけでいい。回収は俺がやる」

 私は思わず、顔をしかめた。

「……なんで」

「なんでもいいだろ」

「よくない。昨日まで平気で前に出してたくせに」

「今日はいいと言ってる」

「それ、逆に腹立つんだけど」

 自分でも言い方が尖ったと思った。

 でも止まらなかった。昨日の言葉を引きずってるのは私だけじゃないくせに、こういう時だけ誤魔化したみたいな顔をするのは、ずるい。

 朔夜が少しだけ黙る。

「……深くない案件で、わざわざお前を削る意味がない」

「何それ」

「そのままだ」

「昨日の続きみたいな顔で言うな」

「してない」

「してる」

 ぬいが、面倒そうに尻尾を揺らした。

「若いのう」

「黙れ毛玉野郎」

「昨日の今日じゃから仕方あるまい」

「お前まで言うな!」

 私は机の端を軽く叩いた。

 朔夜は視線を逸らし、結局それ以上は何も言わなかった。

 その沈黙のほうが、よっぽど厄介だ。

―――――

 結局、件の音声メモは、事務所へ持ち込まれた追加二件と合わせて処理することになった。

 抜けていたのは、

 「ごめん」

 「またね」

 「助かった」

 その三つだった。

 朔夜によれば、どれも“ちゃんと届いて終わるべき言葉”で、だからこそ、届かず薄い場所へ溜まると、小さくても妙な残り方をするらしい。

「じゃあ、戻せるの?」

「完全には無理だ。引っかかった分を剥がして、余計な残響エコーを散らす」

「言葉の後始末まで仕事なの、ほんと業務範囲が終わってるな」

「お前の雇用環境よりはましだ」

「張り合うな」

 回収自体は速かった。

 朔夜が机の上へスマホを三台並べ、短く術を通す。札は一枚だけ。火も大きくない。派手さのない、地味な処理だった。

 でも最後の一台を閉じる直前、私は聞いてしまった。

 ノイズの奥に、誰のものでもない呼吸がひとつだけ混じったのだ。

 短い。

 浅い。

 それなのに、さっきまでの案件の匂いじゃない。

「……朔夜」

「何だ」

「今の、聞こえた?」

 朔夜の目が少しだけ細くなる。

「何を」

「息。知らないやつ」

 答えるより先に、事務所の空気がほんの少しだけ静かになった。

 窓の外では車の音が流れている。冷蔵庫も鳴っている。ぬいもいる。いつもの事務所だ。なのに、その一瞬だけ、全部の音の奥に薄く“待ってる感じ”が混じった。

 誰か、まだ来ていないものの気配。

 私は振り向いた。

 誰もいない。古い棚、積まれた書類、配信機材、薄い廊下の向こう。見慣れたはずの景色が、少しだけ焦点をずらしてこちらを見返している。

「……これ、今日の案件じゃないよね」

「ああ」

 朔夜が短く答える。

「じゃあ何」

「まだ分からん」

「その言い方、分かってる時のやつじゃん」

「分かってるのは、次が来るってことだけだ」

 私は言い返しかけて、やめた。

 次が来る。

 その言い方が、妙にしっくり来てしまったからだ。

 学校で聞いた、転校生の噂。

 幽々が何となく引っかかった顔。

 るなの、何でもないみたいな声。

 それから今、音声メモの奥に混じった、案件と別の呼吸。

 まだ何も始まっていないはずなのに、次の気配だけが先にこっちを見ていた。

「……やだなぁ」

 小さくこぼした私に、朔夜はいつもより少しだけ近い声で言った。

「今日はもう帰れ」

「え」

「学校優先って送っただろ」

「……ほんとに気持ち悪いくらい気を遣うじゃん」

「うるさい」

「それはそれで腹立つ」

 でも、その“うるさい”が、いつもより少しだけ弱かった。

 私は鞄を持ち直して、事務所の扉へ向かう。

 出る直前、なんとなく振り返った。

 朔夜はもう端末へ視線を落としていた。ぬいは窓枠で丸くなっている。いつも通りの、終わってる事務所の風景だ。

 なのに胸の奥だけが、妙に落ち着かなかった。

―――――

 廊下へ出る。

 古い蛍光灯の白さ。湿った壁。階段の下から上がってくる、夏前のぬるい空気。

 その途中で、スマホが震えた。

 るなからだ。

【転校生、女の子らしいよぉ〜】

「今それ送ってくる?」

 思わずひとりで突っ込んだ。

 でも、その画面が一度暗く落ちた瞬間、黒いガラスの端に、ほんの一瞬だけ、自分の後ろへ知らない影が立った気がした。

 振り返る。

 誰もいない。

 廊下は静かで、事務所の扉も閉まっている。階段の手すりは古びていて、踊り場の電灯がじんわりと白いだけだ。

「……やだな」

 小さく呟いて、私は階段へ足をかけた。

 一段。

 二段。

 三段。

 その四段目で、足裏の感触が、すっと消えた。

「……え」

 階段が、なかった。

 正確には違う。そこにあるはずの段差だけが、薄く抜けていた。目には見えていたのに、踏んだ瞬間だけ、足場としての意味が消えたみたいに。

 身体が傾く。

 手すりを掴もうとした指が空を切った。

 スマホが手から滑る。

 画面の中で、るなのメッセージが白く跳ねる。

 転校生、女の子らしいよぉ〜。

「ちょ――」

 言い切る前に、視界が回った。

 踊り場の白。

 壁の灰色。

 錆びた手すり。

 自分の足。

 落ちていくスマホ。

 全部がぐるっとひっくり返って、次の瞬間、後頭部に鈍い衝撃が来た。

 ごん、じゃない。

 もっと嫌な音だった。

 骨の奥へ直接響く、硬くて重い音。

 痛い、と思ったのは一瞬だけだ。

 その次にはもう、痛みの輪郭が遠くなる。

 冷たい床。

 頬の横へ流れてくる、ぬるい何か。

 視界の端で、割れたスマホの画面が点いている。

 その黒いガラスの中で、知らない影だけが、今度ははっきり私を覗き込んでいた。

「……あ」

 声にならない。

 息も、うまく入らない。

 頭のどこかで、変に冷静な自分が思った。

 ――あ、これ。

 ――私、今日まだ死んでなかったんだ。

 そう気づいたところで、視界がすうっと暗く閉じた。

 つづく

――――――

ゆら「今日で、六十一回も配信して、まだ終わってないの、普通に嫌。」

――――――

 ここまで読んでくださってありがとうございます。

 今回は、60話の直後の熱を少しだけ引きずったまま、学校側の“普通”へ戻ろうとする回でした。

 ただ、この作品はそういう回ほど、最後できっちり帳尻を取りにきます。

 今回の小怪異は、**「ちゃんと届いて終わるはずだった最後の一言」**が薄い場所へ引っかかるタイプ。

 軽い違和感のようでいて、放置するとじわじわ人の側を削る、地味に嫌な類でした。

■今回の登場人物

・影森かげもりゆら

 昨日の「ここにいろ」を朝まで引きずったまま登校し、学校で小粒怪異を拾い、事務所で朔夜と気まずく喧嘩し、その帰りに階段から落ちて死んだ。今回は完全に油断死。ひどい。でも、影森由良は今日も死にます。

・夜見よみ朔夜さくや

 昨日の余熱を引きずっているくせに、翌朝には業務連絡だけ寄越した最低男。今回はゆらを前に出さない方針だったが、最後の転落までは読めなかったはず。読めていたらそれはそれで嫌。

・るな

 朝からいつも通りで、転校生の噂を運び、最後はレイン一本で不穏の引き金を引いた。本人に悪気はない。たぶんこの先も一生ない。帰り道で、ドーナツとあんパンを3個ずつ食べました。本人曰く「夕前飯だよぉ~」とのこと。

・白澤しらさわ 幽々ゆゆ

 転校生の噂に最初に引っかかっていた側。こういう“まだ形になっていない不穏”に先に気づくのは、だいたい幽々。

・ぬい

 若いのう、で済ませていた毛玉。今回は完全に野次馬枠。役に立っていないのに、たぶん次回は最初に「また死んだんかおぬし」と言う。

■今回の帳尻

【今回の帳尻】

・金銭帳尻:事務所までの交通費、回収用の札一枚、蘇生一回予定。借金はたぶん、いつも通り微増です。

・死の帳尻:今回は一件追加。帳面の線がまた一本増えるやつです。

・構造帳尻:今回の案件とは別の“次の気配”が、もう先にこちらを見ていました。嫌な前倒しです。

・鬼灯ほおずきなゆの胃痛:たぶん増えます。確実に。

 次回は、たぶん蘇生から始まります。

 そして、まだ来ていないはずの転校生が、少しずつこちら側へ入ってきます。

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作者について

勇者ヨシ君

勇者ヨシ君

愛知県安城市で「ギルド酒場るすと」というゲームバーをやりながら、小説を書いています。 レトロゲーム、ボードゲーム、シーシャ、酒場の空気感が好きです。 異世界×ゲーム×酒場の作品や、 ホラー×...

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