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配信64回目 冥と転校生と、最悪の昼休み

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/5 📚 シリーズ: 影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます 📝 3,534文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます - 配信64回目 冥と転校生と、最悪の昼休み

本文

昼休みは、普通なら少しくらい安心していい時間のはずだ。

 でも最近の学校は、昼でも平気で息が詰まる。

 今日の私は、昨日また死んだばかりなのに、なぜか転校生と監視者と同じ教室で昼飯を食うらしい。

――――――

 昼休み前の授業ほど、眠気とだるさと人生への諦めが均等に混ざる時間はないと思う。だってもうすぐランチの時間。至福のひととき。

 いや、訂正。

 前日の学校死亡から蘇生した翌日の四時間目は、そこへ頭痛が足されるので、もっと終わっている。

 私は机へ突っ伏しそうになる頭をどうにか支えながら、黒板の字を睨にらんでいた。内容は入ってこない。昨日、非常階段前で管理線に触れて死んだせいで、まだ身体の奥が少しだけ噛み合っていない感じがある。

 朝、朔夜さくやに言われたことを思い出す。

『今日は昼休みも含めて余計なものに近づくな』

 無茶を言うな。

 最近の学校、余計なもののほうから近づいてくるんだよ。どうしろと。

 チャイムが鳴った瞬間、るながくるっと振り向いた。

「ゆらちゃ〜ん、おひるぅ〜」

「その一言だけで生き返る日もあるんだけど、今日はそうでもない」

「しんどそうだねぇ〜……」

「それ昨日から聞き飽きた」

 そこへ、もう当然みたいな顔で透羽とわが椅子を半分ずらしてきた。

「今日も顔やばいね、影森かげもり」

「お前、会うたびにそれ、刺してくるのやめろ」

「だって事実だしぃ」

 悪気がない顔で言う。そこが腹立つ。

 るなは机の上へ何種類ものパンとおにぎり数個とゼリー飲料、デザートのプリンまで並べていた。相変わらず量がおかしい。

「るなそれ一人ぶん?」

「そうだよぉ〜?」

「毎度の事だけど、うそだろ」

「じゃあ、こっち半分いる?」

 透羽とわが食いついた。

「いいの? やった」

「成立するの早っ」

 私が突っ込むと、るなはえへへぇ〜と笑う。

 幽々ゆゆはその少し外で、いつもの静かな顔でサンドイッチの袋を開けていた。

「……透羽、昨日からるなに遠慮なさすぎ」

「るなが優しいからでしょ」

「そこを当然みたいに言うのがすごいんだよ....(ボソ)私には無理...」

 教室の後ろの窓際で四人。形だけ見れば、ただの昼休みだ。

 そこへ、さらに“ただの昼休みじゃなくする要素”がひとつ混ざっていた。

 廊下の向こう。

 教室の外から、冥めいが見ている。

 入ってこない。話しかけてもこない。なのに、いるだけで空気がまずくなる。事務所でも何度か見ているはずなのに、学校にまでいると、怖さの質が違った。

 るなが小声で言う。

「きれいなひとだねぇ〜……」

「今そこだけ拾う?」

「だってきれいだよぉ〜?」

 透羽とわはパンをかじったまま、一瞬だけ動きを止めた。昨日ほど露骨じゃない。でも、ちゃんと止まった。冥めいを見る時だけ、あいつは本気で呼吸が浅くなる。

 幽々ゆゆは見ない。見ないようにしている。

「……あの人、また来てるんだ」

「知ってる人なのぉ?」

 るなの問いに、私は少しだけ唸った。

「知ってるっていうか、事務所で見る人」

「なにそれぇ」

 透羽とわが笑う。

 笑う。その笑顔はやっぱり普通にかわいい。人懐っこくて、明るくて、こっちが警戒してるのが馬鹿みたいに見えるくらいには。

 でも、笑ったあとの無表情が、やっぱりほんの一拍だけ遅い。

 その時、透羽とわが窓の外を見ながら、ぽつりと言った。

「そいえばさ。この学校、音が古い場所多くない?」

 私は箸を止めた。

 るなは首をかしげる。

「おと?...古い?」

「うん。なんか、ここ。たとえば――教室は普通なのに、廊下の角とか保健室の前とか、たまに響き方が古い」

 幽々ゆゆが初めて透羽とわを正面から見た。

「……それ、どういう意味」

「えー、説明しづらい。新しい校舎の音じゃないっていうか」

「普通そういう言い方しないから」

「する人もいるでしょ」

「いないよ、変わってるね」と幽々が言う。

 私もいないと思う。

 るなだけがまったく分からない顔でゼリーを吸っていた。

「でもねぇ、保健室の前だけちょっとへんな感じするのは、わかるかもぉ〜」

「るなは分からなくていいところだけ分かるな」

「えへへぇ〜」

 笑っている場合じゃない。いや、こういう時間に笑っていてほしいのがるななんだけど、だからこそ怖い。

 ふと、教室の後ろの一角が気になった。

 窓側、いちばん後ろの席。誰も座っていないのに、そこだけ空気がゆらっとして見える。クーラーは効いているはずなのに、あの一角だけ、夏の午後の残りみたいな熱が溜まっていた。

「……ねえ、あそこ暑くない?」

 幽々ゆゆが小さく頷く。

「前から少し」

「なんで言わないの」

「説明しにくいから」

 透羽とわが興味を持った顔で立ち上がる。

「どれどれ」

「待て」

 私が止めるより早く、透羽とわはその席の横へ行った。手をかざす。すぐに眉を上げた。

「ほんとだ。ここだけ変にあったかい」

 るなまで寄ってくる。

「ほんとだぁ〜。なんか、寝たあとのおふとんみたい〜」

「その例え、ちょっとキモくね」

 私は席の近くまで行って、ぞわっとした。

 ただ暑いんじゃない。そこに一人ぶんだけ、体温の名残なごりが残っている。長く座っていた人間の熱だけが抜けずに、席の形に沈殿してるみたいな。

 透羽とわが何気なく椅子へ腰を下ろしかけた。

「座るな!」

 思わず強く言ってしまって、透羽とわが目を丸くする。

「……影森?」

「そこ、だめ。なんか、だめ」

 説明になってないのは分かっている。でも、説明できる感じじゃなかった。

 その瞬間、廊下側から冥めいの声が落ちてきた。

「戻された個体は、戻りきったふりを覚える」

 教室の空気が、ひやりとした。

 るなは意味が分からない顔をしている。

 透羽とわだけが、今度はちゃんと冥めいを見た。明るい顔のまま、目だけが笑わない。

「……誰に言ってるの、それ」

 冥めいは答えない。

 でも、あの一言は透羽とわだけじゃなかった。

 私にも刺さった。

 死んで、戻って、また学校に来て、普通のふりをする。昨日までと同じ顔で友達と昼を食べて、同じ教室に座って、同じ日常の続きみたいに振る舞う。

 それが、ほんとうに“戻れている”ってことなのか。

 考えた瞬間、足元がふらついた。

「ゆらちゃん?」

 るなの声。遠い。

 私は無意識に、例の席へ手をついた。熱が、一気に流れ込んできた。

 熱い、じゃない。

 熱・だけが、誰かの時間ごと残っている。

 息が詰まる。視界が白く滲む。

 耳の奥で、知らない椅子を引く音がした。

「あ……」

 まずい、と思った時には遅かった。

 膝から力が抜けて、そのまま机へ上半身をぶつける。視界の端で、るなが立ち上がるのが見えた。

「ゆらちゃん、寝ちゃったぁ……?」

「違う!違うよこれ!!」

 幽々ゆゆの声が鋭かった。

 透羽とわが初めて、本気で顔色を変える。

 でも、その顔を見る前に、私はもう落ちていた。

 昼休みのざわめきが遠ざかる。

 教室の光が沈む。

 熱の残る席だけが、最後まで妙に近かった。

――――――

■今回の登場人物

・影森かげもりゆら

 前日に学校で死んだばかりなのに、今日も昼休みで死にかけ、最後はちゃんと死んだ女子高生。最近、学校での死亡率が高すぎる。今更だけど、この学校やばくね?

・夏目なつめ 透羽とわ

 明るくて距離が近い転校生。るなと秒で仲良くなりつつ、今日は「音が古い」という妙な感覚と、熱の溜まる席への反応で違和感をさらに積みました。

・白澤しらさわ 幽々ゆゆ

 静かに見ている側。今回も最初に席の異常へ気づいていた人。声を荒げる回数が少ないぶん、たまに鋭く入ると強い。

・るな

 昼休みの平和担当。パンを半分あげて、ゼリーを吸って、状況が分からないまま場のかわいさを保っていた。こういう子がいるから学校がまだ学校に見える。

・白縫しらぬい 冥めい

 教室へ入ってこないのに、いるだけで全部まずくする女。今回の一言は、透羽だけでなく、ゆらにも刺さる類のやつです。

■今回の話の解説

 64話は、保存済みの第三章設計どおり、**るな・透羽・幽々・ゆらの4人昼休み**を使って、新しい学校側の会話テンポを固める回です。同時に、**冥が廊下から見ているだけで空気が悪くなること、透羽のズレが“普通の転校生”では済まなくなってきたこと、小粒怪異として「熱の溜まる席」が発生していること**を前へ出しています。

 また、冥の

 「戻された個体は、戻りきったふりを覚える」

 は、透羽だけでなく、死んで戻って学校へ通い続けているゆらにも向けられた言葉です。ここが、昼休みコメディ回に見えてわりと苦い芯になっています。

【今回の帳尻】

・金銭帳尻:蘇生一回ぶん、たぶんまた請求です。

・死の帳尻:昼休みで一件追加。平和な時間が平和で終わらない。

・学校側の帳尻:教室の席に、一人ぶんの熱だけが残っていました。

・ゆら側の帳尻:普通のふり、たぶん思っているより上手くない。

 次回は、昼休みの軽さの反動で、学校側の息苦しさがもう少し強く出てきます。

 にぎやかなのに、どこにも逃げ場がない感じのやつです。

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作者について

勇者ヨシ君

勇者ヨシ君

愛知県安城市で「ギルド酒場るすと」というゲームバーをやりながら、小説を書いています。 レトロゲーム、ボードゲーム、シーシャ、酒場の空気感が好きです。 異世界×ゲーム×酒場の作品や、 ホラー×...

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